聖域の攻防
転生した翌日、俺は最悪な目覚めを体験した──
◇
──ガンガンガン
うるさいなぁ……
「グギャグギャ! 」
──ガンガンガンガンガン
眠いんだよ……なんなんだよ……
──ズバッ
うぉ、なんだ!? 目の前に槍の先らしき物体が鼻をかすめたぞ!
あまりのことに驚いた俺はとっさに槍らしき物体を掴み、その根元へ目線を向けた。
槍の出所はこの空間にある隙間だった。微かに光が指している。
おいおいおい、この状況はまずい。一歩間違えたら串刺しなんですが。
俺は貝のサザエですか。炙られながら醤油たらされて、つまようじでくり抜かれるサザエですか!?
冗談じゃない。とりあえずこの槍をどうにかしなきゃ。
とりあえず槍の角度を斜めにして、引っこ抜く──
抜けない、刺してきたヤツの力が強い。
だけど向こうさんも槍を引き戻せないみたいだ。つまり互角か。それにしても一体誰なんだ? 人間なのか?
「ギャギャギャ! ギャギャ! 」
──ガンガンガンガン
なるほど、人間じゃなさそうだ。
いきなり怪物遭遇とかマジかよ。異世界辛い、辛すぎなんですが。
身動きが制限されてる狭い空間で、怪物に槍で刺されそうになってるこの状況。プライスレスすぎるってば!
と、とにかく槍をどうにかしなきゃ。そうだ、ひっこ抜けないなら折ってしまえばいい!
俺を包んでいるこの空間は相当固いらしいからな。ソレを利用して折ろう。
このまま掴んでる槍をダンベル使った筋トレ感覚で!
アップ! ダウン! うぉおおおおおおおおお! ひたすら上下に動かすんだ!
命の危機に一心不乱な俺。はたから見られたら間違いなく気がふれていると思われただろう。
──バキッ
やった!根元が折れて1mぐらいの槍を手に入れたぞ! ひとまずは安心──
──ズバッ
うぉおおおおお、ゆ、油断した。まさかの2本目!?
くっそ、こうなったら向こうがあきらめるまで折り続けてやる!つでに相手の心も折ってやるぞ。
──
───
────
ハァハァハァ、あれからどれぐらい時間がたったのだろう。20本は折った。おかげで狭い空間がさらに狭く感じる。
もう槍の攻撃は来ない。ただ外ではギャギャギャ、グギャグギャと騒音このうえない。
お得意様の家族にお呼ばれしていった別荘のバーベキュー、その日の夜に体験した山や河原にいる虫やカエルの大合唱を1000倍にしたうっとおしさだ。
これを夜通しやられたらいよいよ気がふれる。
──排除しなければ
折った槍を握りしめ、隙間の方をうかがう俺。
数センチの隙間から赤い光が指している、もう夕方かよ……
その赤い光が時折遮られる瞬間があった。どうやらグギャグギャ騒ぎながらこっちの様子を覗いているらしい。
よし、ならばタイミングを合わせて槍を突き出してやる。
生き物を殺傷する機会など地球にいた頃には皆無だった──
だが今は状況が違う。殺されかけて、今も尚相手は諦めていない。しかも人外だ。
やらなければ、こっちがやられる。
やられたくない。死んでしまえば神様イベントがまた発生してしまう可能性がある。それは無理だ。貝に成りたいだけを脳内で再生する機械になりたくない。
──生き残りたい
そう決意した俺は、赤い光が妨げられた瞬間無心でその隙間に槍を刺す。
「グギャァアアアアアアアアアアアア」
一声大きい断末魔が周囲を包み、その後一瞬だけ静寂になった。
俺は慌てて槍を引っこ抜く。何の抵抗も無かったので、どうやら刺殺したみたいだ。
くっさい、なんだこれ。うわぁ血か、血の匂いか。
って、それどころじゃない。静寂は一瞬だけで、外では大騒ぎになっている。
「ギャァアアア! グギャアアア! 」
──ガンガンガンガンガン
──ドンドンドンドンドン
相手は仲間がやられた事に激怒していて狂乱しているようだ。
そんな状況でも生き残る為にやるしかない。俺は赤い光が遮られる度に何度も何度も刺突した。
◇
呼吸が乱れ、血の匂いで脳が痺れる感覚だけが有る。
あれだけの喧騒が嘘のように静かになった。どうやら全滅したらしい。
狭い空間に充満する血の匂いもすでに鼻がいかれてよくわからなくなってるな。
とにかく寝よう。つか、腹へった……
辛い、へとへとの体にお腹がグゥグゥと食料を要求してくる……
まいったな
思案してると体中に激痛が走った
「いってぇえええええええええええええええええ」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
なんだこれ、インフルエンザで節々が痛くなったってレベルじゃないんですけど。
思わず叫んじゃったよっていたたたたたたああああああああああい──
おかげで空腹なんて吹っ飛んだ。だがあまりの痛さに意識が遠のいていく。
俺、もうだめなのかな?
そんなことを考えながら意識が途切れた。