ラドルア帝国の呪い
ヘルダーは語る
──今から200年程前の事
我がラドルア帝国に滅亡の危機が突然訪れた。
無論外敵の脅威ではない。当時から帝国は膨大な国力を持ち、諸外国に対し圧倒的有利な立場だったからだ。
滅亡の危機、それは病だ。
しかもただの病ではなかった。帝国民は貴族も平民も奴隷も例外なく「死の歌」を口ずさむ。
食事はおろか水すら飲まず、みるみる餓死者は増えていく。
人々の目からは光が失せ、膨大な死を望む歌しか口にしなかった。
我らはありとあらゆる行動にでた。
古の文献を漁り、秘術・禁呪等試すことに。
だが決定的な効果は出なかった。ジワジワと帝国が滅ぶ様を見続けなければならなかった。
帝国だけではない。このままではこの世界、「エレーファ」自体が滅ぶ危機だった。
その間、我らは神に問いかけ続けた。
「理不尽な滅びを受け入れなければならないのか」と。
病が蔓延しはじめて7日、変化が起こる。
皇帝に対し、天啓、いや、脅迫か。邪神を名乗る人外の者からの提案が下された。
いわく
──皇帝の分身たる者を生贄にささげ
女神の眷属たるエルフの魂を集めよ
戦乱を起こし、絶望をまき散らし
悲痛の涙で世界を満たせ
さすれば死の歌は止み、其方らは生き続ける──
はじめから選択の余地などなかった。
皇帝は最愛の妻・子を生贄に
そして当時所在のわからぬエルフを探す命を下し
全ての臣民に、そして世界に謝罪した後
自ら首を刎ねた。
その行為にひとまずの満足感を得た邪神は、呪いの言葉を口にし消える。
いわく
帝国から始まる世界の宴
死と絶望を
神々の武具を与える
この死鎌にて
永遠の絶望を刈続けろ
「以上だ」
スケールの大きさにソフィアが絶句する。
「なっ」
確かに絶句するわな、話がでかすぎる。
俺も言葉が出ないもん。
あ、どうも。きどないとです。
こりゃ思った以上に根の深い事態だった。正直キツイ。
死の歌ってなんだよ。病って。これほっとくと間違いなく俺にも被害がでますよね?
百歩譲って被害が出なくても、俺以外の人間その他種族が滅亡って。
ぼっちじゃないですか! それは困る。いくら対人恐怖症な俺でも究極のぼっちは困る。
それに
女神の眷属・シェルに危害が加わる可能性が高い
それはだめだ
絶対にだめだ
「つまり、邪神は敵って事だ。そうだろ? シェル」
『あい! 』
俺がシェルに確認を取るとヘルダー・ソフィア両名が各々喋る。
「貴殿は邪神と事を構える、と? 正気か? 」
「我々人間がどうこうできる話ではない! おい死神、他になにか方法はないのか! 」
「少しは声を下げろ小娘。我らが方法を探るに辺りなにもし続けなかったとでもいうのか? 」
「ぐっ」
ソフィアさんは直情的でわかりやすい性格だなぁ。そーいえば年齢も若そうだし。気になるから聞こうかな。
「あのー」
「「なんだ? 」」
「あ、鎌おじ……ヘルダーさんはいいです。あのソフィアさん」
「どうした? 」
「年齢はおいくつですか? 」
「はぁ!? 」
どうやらタイミングを間違えたらしい。激おこみたいだ。
「あ、いえ。少し気になったもので。で、おいくつで……」
「ふざけてるのかこの世界の危機に! 」
「いえ、あ、すいません」
話の続きは邪神をぶっ飛ばしてからかな。そうしよう。
「んじゃ、鎌おじ……ヘルダーさん」
「鎌おじさんでもよいぞ。呼ばれる名はさして気にせん」
「すいません……鎌おじさん。んじゃ邪神をぶっ飛ばしますので案内をお願いできますか? 」
「誠か」
「あ、はい。いいだろ?シェル? 」
『あい! あい! 』
「……」
ソフィアさん、顔面硬直してる。おもしろい顔だ。
「あいわかった、戦線を纏め、共に帝国へ赴こうぞ」
「よろしくお願いします」
とにかく帝国行が決まった。これからどうなるのかはわからないけど、家族は、シェルは必ず守ると決意を新たにした。




