アコヤの秘密
神々と創造神の戦いがはじまろうとしている刹那の時間。
時空の狭間と呼ばれる空間で、二柱の男女と因果神トート・ディアールは対面していた。
『因果神ヨ、何故我等ト対面ヲ望ンダ? 』
『因果神ヨ、何故我等ト対面ヲ望ンダ? 』
──◆……いきなり面談を希望したのは謝ります。ですがその口調といいキャラ設定といいますか、マイブームってやつですかね? アコとコヤ……いや ”エレーファの”創造神様。
『……何ノ事デショウ。我等ガ主ハ良所──』
『……何ノ事デショウ。我等ガ主ハ良所──』
──◆あえてこう呼びましょう、父さん、母さん。いいかげんにしてください。
『……いつ気づいた因果神』
『……何故我等を求めた因果神』
──◆母さんの質問から答えます。きっかけは良所内人の意識と繋がった──といいますか、一なる者に戻れなかった事ですね。元々俺達は一つだったのですが、空の器に自我が芽生えていた。これ、母さんが生んだんでしょ?
『はぁ……本当に聡い子ですねぇディアール』
──◆次に父さんへ答えます。確認をしたかったのですよ。
『確認……? 息子よ、何の事か? 』
──◆欲する未来……いえ、それに続く道を示した事についてです。具体的に言えば、この”理の書四十二編”と黄昏の杖を生み出した理由。そしてそれを俺に預けた事。
『幼児がいきなり自転車に乗れば怪我をするのは道理。補助機が必要であろう。ただそれだけだ』
──◆かわいい子には旅をさせろですか。現状もそうでしょうか? 言い換えればお隣さんの家から蛸や創造神が敷地に入り込んで寄こせと言ってきている。それすらも”子供達だけ”で対処しろというのですか?
『つまり救いをもとめている、と言う事か? 』
──◆いえいえ、そうではありません。現状私達だけでも解決できます、方法さえ選ばなければという注釈付きですが。
『ならば我等は必要ないではないか。態々面談などせずとも──』
『……貴方、少し黙ってて。ディアール、聞かせて頂戴』
──◆犠牲が必要になる、ということです。具体的には俺と元俺……面倒ですねこの表現。つまり因果神ディアールと良所内人の犠牲が。
『ディアール、貴方、また嘘をついてルシフェル達を騙したのね? あの子達は余裕で勝てると信じ切ってますよ』
──◆余裕なんてあるわけないじゃないですか。曲がりなりにも相手は創造神ですよ? 悠久の時を使い、魔力や神力を削り、こちらは完全な状態にして、罠に落としても勝率は半分くらいが精一杯です。そこで俺達二人の犠牲があってはじめて完勝、ということですよ。
『……ディアール少し時間を頂戴。貴方、お話があります』
『……なんだ? 』
『子供等に全てを委ね私達はそれを見守る。私と貴方の唯一のルールでしたわね? 』
『お前、まさか──』
『シェリーアが泣きますよ? 』
『……』
『内人の子、孫の”笑顔”をみたくありませんの?』
『……!? 』
『はぁ……そもそもディアールも内人も犠牲になんてさせる気はないのでしょう? 貴方の事です、いざとなったら全てをひっくり返して大団円。そんな安直な考えをもってるのはわかっていますよ? 』
『……』
──◆あの、一つ宜しいでしょうか?
『なぁにディアール? 母さんは今父さんと会話で忙しいの』
──◆もしかして、もしかしてなんですけど。内人を生み出した理由って孫の顔がみたいだけって事はないですよ、ね?
『ディアール、貴方、随分と軽く見てるけれどもわかってるのですか? 』
『息子よ。其方らを生み出してどれだけ時が過ぎたと思っている? 』
──◆え!? あ、ハイ。なんか、スミマセン……
『そもそもディアールとシェリーアがくっついて孫の顔をさっさとみせないから! 』
『そうだぞ。何故シェリーアがお前達、いや首座ルシフェルと同等以上の神力を持ってるのか考えた事はないのか? 』
──◆長女だから、なのでは? 随分と幼い長女だと俺はずっと思っていましたが……
『……貴方、説明してあげて』
『……シェリーアは我等の子ではない。別世界の女神だ。もっと直接的に言えば、あの子はお前の許嫁だ』
──◆……嘘ですよね? 息子をからかってはいけませんよ父さん。
『もうよい。ディアール、お前の望みを叶える代わりに条件が二つある』
──◆……はい。
『一つ。全てが丸く収まった後、早々にシェリーアと結ばれよ。そして子を成せ』
──◆……はい。
『一つ。我等創造神コヤルガナムと妻アコリアナに親孝行をせよ。期限は内人の子が生まれるまでだ』
『素敵ですわ貴方。ディアール、わかりましたね? これは正式な誓約をしてもらいます。逃げようと思っても無駄ですよ? 』
──◆いえすダッドあんどマム。
『──誓約は結ばれました。さてと、貴方。時間が”もったいない”わ』
『うむ。ではディアール、其方に命ずる。我等の誓約、その力をもって良所内人と一つになり扉を開けよ』
──◆賜りました
◇
神々の戦いははじまった。当初の計画に従い戦況を有利に運ぶエレーファの神々。アークが創造神の動きを封じ、インティアーナ、ダグザ・トゥアハ、バルード・カーヴェ等三柱による【四大元素の輝】を直撃させる。しかし創造神イアルダバオートもすぐさま反撃。創造神故の計り知れない魔力と神力で数万の邪神達を召喚。
『虫けら共が、調子に乗るなよ』
──◇調子に乗っているのは貴様だ偽神! いくぞオーディニアス、すべてを屠り尽くす!
──待ってたぞぉ、この時をよぉ! 駆けろスレイ! 勝利の槍を以って万軍の敵を灰燼にするぞぉ!
この空間に残されていたギルディアスを手に、ルシフェルが空を制し、地はオーディニアスが駆ける。
フリージュア海に現れた大蛸級の邪神達を苦も無く屠り続けるその姿は光と闇の競演であった。
この戦いにおける両軍の違い。それは供給を伴わない創造神イアルダバオートと女神シェリーアによる常時回復であった。
『皆様、敵は少しづつ疲弊してきています! 出し惜しみ無しで攻勢をつづけてください!』
──女神の祝福
『ちっ、小賢しい女神だ。やはりアレが最大の邪魔者であったか。ならば──』
──偽物の人形
──狂気の刃
他を犠牲にしてまでの創造神による究極の一撃。それは女神シェリーアに突き刺さるはずであった。
──◆お見通しだ、アホが。
『!? ディアール!? どうして、どうして私を庇って……』
シェリーアの前に立ち塞がり、イアルダバオートの一撃をその身に受けた因果神が居た。
──◆予定通りだシェリーア。悪いけど爺さん、ディオールドの体を癒してやってくれ。それとしばらく親孝行の旅にでるから。あぁ心配いらないよ? 良所 内人の子が生まれる時には帰ってくるから。
『いやよ! いやいやいやぁああああああああ! 』
──◆帰ったら、結婚しよう。それまでどうか良い子で
『あぁあああああああ、ディアールぅううううううううう』
本来ならば女神を吸い込む予定だった創造神だったが、思いもよらない大収穫に満足する。
『クックック。これはこれで重畳。さぁ反撃といこうか』




