昔話と騒乱の予兆
昼食を終えた俺たちは、景色を堪能しながらのんびりと過ごしている。
「おいしかったな。シェルはどーだった? 」
『さんどいちすごいの! びっくりなの! 』
「気に入ったってことかな? 」
『あい! しぇるはんばーぐすきだけど、さんどいちもすき! 』
どうやらサンドイッチはシェルの好物リストに登録されたらしいな。ふふふ、計画通り! きどちゃんプレゼンツ、シェルの食育計画は順調である。
『ないとー』
「ん? どした」
『おはなししてー! 』
「お、お話!? 」
おおう、シェルが珍しく食事以外の事を所望してきたな。
「んー、お話っていってもなぁ。なんの話が聞きたいんだ? 」
『ないとと、ないとがいたせかい? のおはなしききたい! あい! 』
「俺と地球の事か……」
困ったな、俺の身の上話なんて面白みの欠片も無いんだが。とりあえず地球の歴史って言うか、日本の事をかいつまんで話すか。
「んじゃ、俺がこの世界に来る前にいた地球、そして俺が住んでいた日本て国のお話をしよう」
『あい! 』
地球には様々な国がある。
幾千もの戦いがあり
幾億もの涙が流れた
又
幾万もの喜びがあふれ
幾兆もの感涙が流れた
滅亡と繁栄を繰り返して、歴史は綴られてきた。
世界の国々の中でも歴史が長い国、それが日本だ
広い地球の中で
ちっぽけな島国の
自然災害は多いし
面倒事に巻き込まれやすい小さな国
けれど、長い歴史を持ち
幾多の困難を乗り越え
繁栄をし続けている誇り高き国──
「大好きだった国、それが日本て国だよシェル」
『ないとー』
「ん? なんだい? 」
『ないとのおうち、にほんておうち、かえりたい? 』
帰りたい、か。今思えば色々と未熟だったな俺。
孤独に怯えて、背を伸ばし続けて
自分を騙して
心を壊して
自分で世界の扉を閉めた
もっと自分を知って、背を伸ばさずゆっくり歩んでいたら
運命っていう神様の贈り物は
中身が違ってたかもしれない
ならば
「うんにゃ、帰りたいとは思わない」
『どしてー? 』
「自分の歩調で、ゆっくりでもいいから」
「俺は扉を開けて進む事にしたからさ」
『あい! 』
おいおい、シェル。なんだその眩しい笑顔は! かわいいな、おい。
そうだ
望むことなく扉を閉めた過去の自分を変えよう
渇望の火は
点火済みだ
そう決意した俺に変化は急に訪れる
◇
「あれ。なんだこの感覚!? 」
異世界にきてからどこか夢の世界的な、現実離れしてた感覚があったのだ。それが嘘のように消えた。
同時に無数の気配を鮮明に感じる、気配がする方向にビーコンランプが点灯している様だった。
気配の方向は大草原を中心にして左右両端からせまってくる
まるで軍隊が進行しているような……
軍隊?
これって戦争がはじまるのか? 騒乱に巻き込まれる前に撤退するのが最善だが、何も知らないまま後日トラブルに巻き込まれるより情報収集しておいたほうが良いよな。
なにせこの異世界について、何も知らないのだから。
「シェル、お話の続きは後だ。左右両方から軍隊らしき存在が進行してくる」
『あい』
「森のおうちに帰っても良いのだけど、何も知らないままってのはよろしくない」
『あいあい! 』
「つまり、隠れながら観察をするって事だ。良いかな? 」
『かんさつ! あいあい! 』
思わず苦笑してしまった。シェルよ、動物を観察するのとは訳が違うのだ
動物に例えるなら間違いなくトラかライオンの類だぞ。それも大量に
鹿って事はないんだぞ!
とにかくあれだ、観察小屋を作ろう。
見晴らしが良く、発見されにくいもの
ツリーハウスだな。それも木の中に部屋を作ろう。
右手をかざし、イメージだ
扉と大きな窓のついている一本の木が生えてくる。
俺はシェルを連れて室内に入ると、扉を閉め、内壁に右手を当てさらにイメージする
大草原一帯を見渡せる大樹と成れ
瞬間、木は勢いよくのび始める。
準備を済ませた俺は、肩にシェルを乗せ窓辺に向かう
眼下に広がる大草原
その両端には想像通り、数万ともいえる大軍が陣形を整え始めていた。
今、戦争が始まる。




