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良所 外人(きど とうと)の独白

問答の最中、少年はディオールドへと深く感謝を示し頭を垂れる。


『たすかったぜジジィ。いや、ディオールド・ラドルア上皇。貴方のおかげで世界を救う鍵を手にすることが出来るだろう。心から感謝する』


「儂にはさっぱりわからぬが……とにかく儂の役目は終わりかの? 世界を救うのが目的なら生きとし生けるもの全ては助かるのかのぅ? 」


『安心せよ、この世界エレーファに生まれし者達の無事は保障する』


エレーファに生まれし者達の無事は保障する。少年のその言葉を受けたディオールドは一転表情を曇らせる。だが、少年に対し自身の憂いを口にすることは出来なかった。彼は聞きたくなかったのだ、己の不安が的中してしまう返答を。


だが、ディオールドが問いかけを自重する最中、最悪の返答が返ってくる。


えにし深き故、救えぬ者も居る』


「……」


『とにかくだ、ディオールドよ。これから偽神を消滅させる準備をする。貴方にも手伝って欲しいのだ』


「……無論協力しましょう。ですが、なにとぞ我が友ナイト殿──」


『貴方も分かっているはず。あの人形は……この世界のモノでは無い事を』


「!? な、ナイト殿は人形などではないはずじゃ! 心通う一人の人間じゃ! 」


ディオールドは薄々わかっていた。良所 内人がこの世界の人では無い事を。邪神達──現世に堕とされたとはいえ神々を屠り続けたその力は、この世界の人間には到底かなわない所業だと言う事を。



それでも


それでも、彼は叫んだ


祖国を救われ


逢瀬を重ね、心を開き


地位や立場、歳など自身を縛っていた全てを意に返さない


心優しき友人の為に



「ナイト殿は、いや、この儂の身──」


老い先短い自身など対価にもならない事もわかっている。それでも我が身と引き換えに良所を救って欲しい。そう口にしかけた時、それを遮るように少年は話し始める。


『心優しき老君よ。よかろう、あの人形──ナイトについて貴殿にのみ教えよう』



                  ◇



『あの人形──ナイト、いや、良所 内人は異界における俺の抜け殻なのだよ』


少年が口にした言葉に理解が及ばないディオールドは唖然とするばかりであった。


そんな彼を置き去りにして、少年は語り始める。


『あぁそうだな、この話をする前にしっかりした自己紹介とここに至るまでの説明が必要だ。俺の名は【良所 外人】(きどとうと)、この世界ではトート・ディアールという。この世界エレーファの神々が一柱、因果を司る神だ。まぁ今は時空魔導を極めているしがない邪神だがな』



トート・ディアールは語る。


そもそもの発端は、彼の務めである因果の監視をしていた時であった。


因果の監視は過去・現在・未来と、時空を超越して行われる。


天上神ルシフェルをも凌ぐ神力を持つ故可能な務めだった。


『別次元の神、所謂偽神が我々の世界に干渉し、滅ぼす未来を俺は見たんだ』


それは無だった。エレーファも親しき神々も何もかも消滅させられた未来だった。


それを見た因果神トート・ディアールは、最悪の未来を回避すべく対応策を練り始める。


相手は異世界にも干渉できるほどの偽神。その力は膨大で、正攻法では万に一つも勝ち目はなかった。


『だから俺は無数の罠をしかけ、決戦までに偽神の力を削ぎ、消滅させる準備をしてきたんだ』


策を練り上げたトート・ディアールは天上神ルシフェルにだけ全てを伝え、女神の保護を最優先にと願いあげる。


一番重要な事は偽神に悟られ無い事だった。


『喪失の呪いはとある条件、女神の因子に触れ、再び神へ転生しなければ解かれないものなんだ』


故に親愛なる友というべき神々に喪失の呪いをかけた。


『俺自身には【相反魂】という呪いをかけたんだ』


「【相反魂】とな? 神々の呪いは想像を絶するものじゃて、儂にはわからぬよ」


『単純な呪いだよ。だが単純であるがゆえに効果は恐ろしいものなんだ。愛した者が、心通わせた友が、幸せと思う日々が、大きければ大きい程、いわゆる悪に染まる。対象が神ならば尚の事……わかるだろう? 』


「……心が凍てついたわい」


天上神より神力が強く、全てを守ろうとして行動したトート・ディアールである。その心は無限に近い愛と慈悲を持ち合わせていたのだろう。そんな神が【相反魂】という呪いを自らかけた。一歩間違えれば世界の終焉である。


多大な危険をふまえても、その過程を利用し、偽神へ近づく。それが彼の一手目だった。


そして偽神はエレーファや神々を喰らうべく【女神を殺せ】と彼へ命じる。


『俺と偽神はエレーファの神々と女神相手に大戦争を吹っ掛けたんだ』


「……因果神よ、どう考えてもその時点で世界は終わるはずじゃが……? 」


『そうはならないさ。考えてみてよ、終わってたら貴方と俺は今ここに居ない』


「……それはそうじゃったな」


『そしてルシフェルと女神以外の神々を現世に叩き堕とし、俺は女神シェリーアによって無明の闇へと堕とされ、偽神は一時的に別次元へと追いやられた』


「無明の闇とは? それに女神様も天上神様も無事ではすまぬとおもうのじゃが……」


『あぁ。女神は二つに引き裂かれ、天上神も神力を半分に減らされた。それ以外の現世に堕とされた神々もひどいもんでさ、女神に対する憎悪の記憶を偽神に植え付けられたんだよ。事前にかけた喪失の呪いが無ければ再び神へ転生しても女神に対する憎悪の記憶は消えなかっただろうね。ちなみに無明の闇とは、永遠の地獄みたいなものさ』


「なんと……」


『それから俺は無明の闇を突破した。気が狂いそうな年月が経過していたと思う。でも俺にとって経過した時間なんて関係ないからね、時空の移動は容易い事なのさ。さて本題だ──』


『──女神に無明の闇へと堕とされた過程で、良所 内人は作られたんだ』


『俺と女神の手によって』



                  ◇


『女神シェリーアが開きし【無明奈落の門】それによって俺は無明の闇へと堕とされた。元々慈悲の神ゆえか、無明に堕とされる前にここではない世界の凡夫としての生涯を与えられたのだ。八十年の人生、それが潰える時に無明の闇へ堕とされた。その凡夫こそ【良所 内人】だったのだ』


「……」


『ここまで話せばさっしの良い貴方ならわかるはずだ』


トート・ディアールの言葉を受け、ディオールドは静かに喋り出す。


「因果神は無明の闇を突破なされた。つまり、堕とされる前の……【良所 内人】としての人生を送ってはいない。いや、正確には【良所 内人】の人生を無かったことにした、そうですな? 」


その言葉を聞いたトート・ディアールは、穏やかな笑みを浮かべて返答した。


『正解だ。俺は闇をぬけ【良所 内人】としてやり直した。そして生まれてから三年が過ぎようとした時、殻としてのヤツ、つまり【良所 内人】を創り出し、本体である俺は他世界へと旅立った。無論そのまま殻を放置していては無明の闇へと再び堕とされる。当然本体の俺も含めてな。だから俺は仕掛けを施したのだよ、女神にも悟られないよう、偽神にも悟られないように。【良所 内人】に関わる人間達の記憶を操作し、孤児になるように手配した。そして殻の【良所 内人】が自立し、周囲の関係を全て断たれた時に、ここエレーファへ転移する様仕組んだのだ』


『今思えば……そうなる様に俺が自らに仕込んでいたのだろう。結果ただの殻だと思っていたモノが全てを守る【鍵】になっているのだから』


ここまで話しを聞いたディオールドは一つの違和感を感じ、それを指摘する。


「因果神よ、一つよいかのぅ? 自己紹介の時に因果神様は【良所 外人】(きどとうと)と名乗りなさった。【良所 内人】(きどないと)ではないのかのぅ? 」


指摘を受けたトート・ディアールは苦笑しながら返答した。


『くっくっく、【良所 外人】(きどとうと)って名前はただの冗談でつけた名前だよ。内の反対は外って感じでね。でもまぁこれも俺の策の一つだな……こちらでの名前が【トート】・ディアールだから、あぁ、切っ掛け、トリガーの一つか。我ながら用意周到なことだまったく……』


『話を戻そう、ディオールド上皇。貴方は【良所 内人】の生存を願っているが、それは叶えられない』


改めて宣言を受けたディオールドは間髪入れず声を上げた。


「なぜですじゃ──」


『この作戦で俺は死ぬんだよ。しかもただ死ぬわけじゃない、ギルディアス……唯一無二の神聖剣によってだ。つまり──』


『──因果を越えて一度完全に消滅する。本体も消滅するのだ、殻も消えてしまうのだよ』


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