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問答

良所とベリーが死闘を演じている頃、ようやくシェル達が公国城内に居るソフィア達と合流する。


「とにかくナイトの指示通りにしよう。それと万が一の為に領民達を他所の場所へ避難させたほうが良い」


「それならば一旦帝都へ転移させたほうが早いじゃろ。転移の魔法陣も構築済みじゃからな」


「上皇陛下感謝いたします。では早急に領民達の避難誘導を開始する──」


シェルからの報告を受けたソフィアが主要メンバーを集めつつ領民達の避難誘導をしようとした時であった。


厄災は突然おとずれる。


──パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ


「こ、これはあの時の──」


そうディオールドが口にした瞬間、目の前に一人の少年が現れた。と同時にヘルダーが腰の剣を抜き躊躇なく切りかかる。しかしその刃は少年に届かず空を切った。


「ばかなっ」


『ばかはお前だおっさん。挨拶も無しにいきなりきりかかるんじゃねぇよ』


ヘルダーの一撃を躱した少年は、何事も無かったかのように返事をする。


「ふぉっ、いきなり現れたと思ったら随分と若返ったようじゃのう」


『ようジジィ、久しぶりだな。部下の躾はしっかりしとけよ。つかジジィ以外面倒だから時間を支配させてもらうぜ』


──パチン


時間を支配すると言った少年は指を鳴らすと、ディオールドに対しニヤっと笑う。


『どうだジジィ。理の外、それも禁呪中の禁呪にふれた感想は? 』


「……信じられん。お主、この城の時間を……いや違うな。この世界を止めたのかのぅ……」


『はっはっは。さすがジジィ、話が分かる。正解だ、この世界で時を進めているのは俺とお前、それとだ。外で戦っている人形……ナイトってヤツと俺の配下ベリーだけだ』


「人形? ……して、何が目的じゃ」


ディオールドは言葉少なく少年に問いかける。もはやこの少年に対し対抗するものは無く、事実上の敗北宣言の様なものだった。


『本当にジジィはせっかちだな。落ち着けよ、時間はいくらでもある。知ってるか?那由他の果てに見える景色を……ちっ、くそが。余計な事を思い出しちまった。まぁいいや、今の俺はとても気分が良いからクソみたいな記憶なんざへでもねーや。とにかくだ、ジジィ。全てを知りたいのなら俺に協力しろ』


「……儂のようなもうろくジジィに何が出来るのかのぅ。しかしじゃ、お主も存外悪趣味じゃて。全てを握られている儂に選択する余地なぞなにも無いのはわかっておるじゃろう」


『まぁな。それでも大切な事なんだよ。人生は選択の連続だろ? 重要なのは意思だ……意思……だれの……ちっ、あーまだもやもやするぜ。ほぼ全てを思い出したのに最期の欠片がみつからねぇ……』


問答のさなか不安定な様子をみせる少年にディオールドは目を閉じ考える。


──ふむ、こやつの力をもってすれば森羅万象を支配できるのは確かじゃ。そんな力をもったものですら制御できない何かを抱えておるのか? それはもはや神の領域。だがそんな者に干渉することが出来るのは同じ神であり、他所の──


『それだっジジィ! 』


「!? 」


いきなり叫んだ少年に驚き、目を勢いよく開いたディオールド。


「お主まさか思考まで読めるのか!? 」


『あぁ、悪い。いきなり叫んじまった。その通りだ、俺は全てを知ることが出来る。まぁそんなもんは重要じゃない、とにかくジジィのおかげで少し見えて来た。というより思い出してきた』


「まったくもってわからないが……とにかく役にたっておる様じゃな」


『おう。んじゃ色々と教えなくちゃな。目的は女神と偽神を殺す事だ』


「……やはりそういう領域の話じゃったか」


『お? さすがジジィ。案外納得してるみてーじゃんかよ。もっと驚くと思ったんだが』


「いやいや……すでにお主が神みたいな存在じゃろうて」


『そうか? んでよ、まずはこの目的に対してジジィの思う所を言って欲しいわけよ』


「……人生なにがおこるかわからんものだな。時間をくれ」


「おう! 時間は無限にあるぞ』


──ふぅまったくもっておかしな人生じゃ。ナイト殿の存在といい、こやつの存在といい、この世界にはなにが起きてるのじゃ。古文書に曰く、この世界……エレーファは太古の昔女神様ともう一柱の神様が大地を創り、海を創り……世界樹の種を植えた。それから空が創られ風が生まれた。


『あぁその通りだ……』


思考を続けるディオールドに対し、少年は涙を流して返事をした。


「なぜ泣くのじゃ? 」


『わからない。そう、これだ。俺の中で未だにわからない事がある。それを解き明かさなければならない。悪いが思考を続けてくれんか? 』


「……わかった」


少年に頼まれ、再び思考しはじめるディオールド。その内容は原初に始まり歴史を経て今に至る。あくまでも古文書の内容や歴史書の内容のみであったが。


──ふむ……今まで考えてもみなかったのじゃが、この世界エレーファはある意味果実じゃな。大地の魔素を世界樹が吸い上げ、海や空が運ぶ。そして再び大地へと帰り、世界樹が広げた木々や植物、そして人、魔物、が世界を満たしていく。

今は満たされた果実じゃ。熟れた果実とは魅力的な物……その果実を欲しがる者が必ず居る。それはこの世界の神か……他所の神!?


「そうか、お主。お主はこの世界の守護神なのか!? 」


思考の中で一つの答えを導きだしたディオールドは、力強く少年に問いかける。


『守護神……守るもの……』


意外にも少年から回答は得られず、少々納得がいかないディオールド。そこで別の話題をふってみた。


「女神はともかく、偽神について少し教えて欲しいのじゃが」


『……あぁ、いいぞ。ジジィは俺の期待以上のモノをくれてるからな。偽神、それはこの世界の神じゃない。いうなれば侵略者だ。あぁ、そうだ。この世界の神を堕とし、喰らおうとする邪神だ』


「その偽神を殺すと言う事は、すなわちこの世界を守りたいという事じゃないのか? お主の言葉からはそうとしか考えられぬ。この世界を滅ぼすというのがお主の望みなら、とうの昔にほろぼしておるじゃろて」


『……たしかに……あぁ、たしかにそうだな! おいジジィ! 本当にでかしたぞ! そうだ、まずは偽神を殺さなければならない。だがアイツはそう簡単にこの世界へはこれぬのだった! 依代……そうだ、依代だ。空の器が無ければヤツはこの世界に干渉できない! あぁ、すげーすっきりした! 空の器を手にする為に俺は……俺は……グゥウウウウ。くそがっ! わかっていた、わかっている。深き業は……ふぅ……』


「お、おいお主大丈夫か!? 」


『……わるいなジジィ。大丈夫だ』


「ならよいのじゃが……ところで空の器とはなんじゃ? 人か魔物かを生贄にささげてそこに神を下すのか? 」


『いいや……アイツが依代となるには人や魔物じゃ器が小さすぎる。現世に墜ちた神が器として必要なのだ』


ディオールドは少年の返答に今までの戦い、すなわち邪神達の姿が過る。


「墜ちた神とは……邪神達の事か? 」


『そうだ。お前達が言う邪神とは、この世界の神々が偽神によって現世に堕とされたものだ』


──なんとっ……儂らは世界の神々と戦っておったのか。


「その神々は何柱おるのだ。もしかするとその全てを倒してしまったかもしれぬ。そうなるとお主の計画は水泡に帰すとおもうのじゃが」


『じじぃの心配はまぁ的確だな。だが安心しろ。器はまだある』


「……!? も、もしやお主、女神を器に!? 」


『ふっ、察しがいいなジジィ。俺を無明に堕としやがったあのクソ女神を殺して偽神を降臨させる。そして殺す、どうだ? 一石二鳥ならぬ一石二柱ってやつだ。愉快でたまらねぇ』


この少年の言葉を受けて、ディオールドはひとつの矛盾を感じた。


「じゃがわかっておるのか? この世界を創ったのは女神じゃ。その女神を殺すというのはこの世界の終わりを意味している。お主はこの世界を偽神から守ろうとしている事は明白になったわけじゃが、その為にこの世界を消滅させても良いのか? 」


『……なに? 世界が消滅だと? いや、まて。まてよ、確かに……ジジィの言う通りだ。女神を殺せば世界が……ちょっとまてよ、おいジジィ、俺は何故、なぜこんな簡単な事がわからなかったのか!? 女神に対して過剰な殺意は……呪い? いや違う、これは……あぁ、これは願いだった──』



                  ◇



まるでつきものが落ちたような佇まいの少年。その様子を見守るしかできないディオールド。数分の沈黙が続き、やがて少年は口を開く。


『じじぃ、一つ聞くが、人形……ナイトは黄金の剣を持っていたか? 』


「あぁ、持っておったぞ。たしか北の大地にて天空神ルシフェルとソフィア殿がまみえた時に預かったものらしいのじゃが……」


『ルシフェルか……そうだ、ルシフェルだった! ならばギルディアスはナイトがもっているのだな? 』


「その通りじゃ。間違いなくギルディアスという黄金の剣。それをナイト殿は持っておる。お主、まさかその剣で女神様を殺すのか!? 」


『違う。その剣で殺すのは──』


俺自身だ。

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