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託される命の輝き

「アコヤッ! 」


俺の叫びに呼応し、具現化したアコヤが3名の回復をし始める。


子供たちの姿を見た俺は、叫びながらアコヤに命じていた。ベリアもフェルもそしてシェルでさえ満身創痍なほどボロボロになっていたのだ。


「シェル、手をだせ! 」


『あ……ぃ』


無理やり手を繋ぎ、子供たちに何があったのか記憶を共有していく。邪神が現れた形跡は無いはずだ。

邪神の居ないこの世界で、ましてやこの3人がここまでボロボロになるのは異常すぎる事態。

得体のしれない不安が俺に募る。異世界に来てから間違いなく最大の危機だ。


募る不安を押し殺しつつ、冷静に子供たちの記憶をたどった。


「──っ、なんだ、コイツ、は」


映し出された景色は異常だった。

どうやらシェルたちは冒険者としての旅の途中、ドラグーン山脈の竜王の所へ赴いていたようだ。久しぶりの再会に和やかな雰囲気で食事をしている風景だった。だが、ソレはいきなり現れた。


どす黒い鎧を纏い、いや、これは鎧なんてものじゃない。なんだこれは……怨念? とにかく鎧に似た何かを身に纏い、ドラゴン達の前にいきなり現れた。

そして一言三言呟くと、小さな手から黒刀を現出させる。それからおぞましい光景が広がった。


一方的な虐殺。


数百のドラゴン達が何も出来ないまま次々と首を刎ねられ屠られていく。

その光景に怒り狂った竜王とベリア達が一斉に飛び掛かるが、その少女は難なくはじき返す。


最期の時には……竜王が捨て身の波状攻撃で時間を作り、その間にボロボロになったベリア達がその場から退避していく。


──まずい。このままだと竜王が


「おいシェル、お前ら今すぐソフィア達の所へいって全員あつめろ。対邪神並の警戒態勢を取れ」


「ないと父上っ! アタシも一緒に行──」


「馬鹿野郎。ベリア、いいからシェル達と一緒に城へ行け!時間がねーんだよ! 」


「でも──」


「うるさい」


余裕が無かった俺は無理やりベリアの意識を狩ると、フェルに乗せ叫びながらその場を離れる。


「フェル、全速で駆けろっ! シェル、いいか? ソフィア達を一か所に集めて居ろ。あのバケモノは俺が何とかする、急げ! 」


「グルォオオオオオオオンン! 」


『ぁ”い! 』


不味いぞこれは。シェル達三人が、いや、竜王すら含めて勝負にならない程あのバケモノは強い。それに俺が感知できなかった事がやばい。あれだけの戦闘をすれば嫌でも気配を感じるはずだった。それが無いって事は隠しきる何か、もっと力を持っているって事だ。フリージュアの蛸以上のバケモノかよ……


「くそっ──」


全速で竜王の元へ走りながら、両手に戻ったアコヤへ語り掛ける。


──アコヤ、お前達はどう思う? フリージュアの蛸野郎以上のバケモノってのは分かるが……


──主ヨ。敵ハドウヤラコノ世界デハナイ別ノ世界カラ来タヨウデスネ


──やっぱそうだよな。正直力量の計れない相手に対して勝算なんて無いんだが


──牽制シツツ、様子ヲ見ルシカ無イデショウ


とにかく今は竜王がやばい。急がなければ!



                  ◇



「あぁぁああぁ! なんて退屈しない世界なのでしょう! 魔素が! 大地が! 全てが! まるで一輪の美しい花ですわ! 貴方もそう思いませんか? とかげの王様? 」


──グルルルル……(なんてやつだ……)


白く美しかった竜王の体は無数の傷を負い、鮮血に染まっていた。もはや抵抗どころか脱出も適わない。


「あら、せっかくお話をしていたのにお返事も出来ないのですか? 美しいこの世界には似合わないですわぁ。そんな悪いとかげはお家に返してあげなければいけませんね? それでは、サヨウナラ──」


──ベリア、済まない


禍々しい黒刀が竜王の首へと振られた時だった。


──天翼の一閃


竜王の首を裂くはずの黒刀が消滅、いやその黒刀を振った腕ごと消失した。


「べりあの親父、まだ生きてるかっ! 」


青年の声がドラグーン山脈に響く。どうやら良所は寸前でまにあったようだ。竜王に駆け寄る良所とは反対に距離を取った少女は二つの事に驚く。


一つは愛刀デッドエンドの、そして振るった右腕の消失。


二つ目はそれをしたであろう青年の容姿についてだった。


「な、なななななななななななな」


驚きのあまり言葉が続かない少女。今はただ言葉の続きを精一杯口から出そうとしているしかなかった。



                   ◇



どうやらまにあったみたいだ。それにこの剣、ギルディアスが通用してるって事はでかい。しかも少女は混乱してるみたいだ。とにかく竜王を回復させるっ!


「アコヤっ、竜王を回復──」


──出来マセン


は!? なにいってんだよアコヤ。竜王の命はもう風前の灯火じゃねーか! 冗談いってる暇なんてないぞ!?


──主ヨ、申シ訳無イノデスガ……出来マセン。ソレヲシテシマウト、全滅スル可能性ガアリマス


あぁ!? 全滅!? 


──アレハ強イ。今ノ魔力量ナラギリギリ勝負デキルカモシレマセン。デスガ、コレ以上戦闘以外ニ消費スルト主ガ負ケマス


アコヤからの警告。フリージュアの蛸戦以来二度目。蛸の時と違っているのは「負ける」と断言した事だった。


正直蛸の時もやばかった。だがアコヤは決して負けるなどとはいわなかった。体がどうなるにしても負けるなどとは言わなかったんだ。俺にはっぱをかける余裕すらあった。


だが、それでも──


俺は家族が大事なんだ。ベリアは家族だ。だからベリアの親父も俺の家族なんだ。家族が傷つき倒れて苦しんでいる。それを見捨てる事など出来るはずがない。


──主ヨ、ナリマセン!


事態を察したアコヤが叫ぶ。ごめんなアコヤ。これは、こればかりは譲れないんだ。俺は意識を集中して「貝王の号令」を下そうとしていた。その時だった。


『貝王ヨ……モウ私ノ命ハ尽キル。私ノ命ヲ……使ッテ……家族ヲ……ベリアヲ……守ッテクレ』


瀕死の竜王が今だせる精一杯の声で嘆願してきた。


「馬鹿野郎! んな事させるわけねーだろがぁ! 諦めんな、お前は誇り高き竜の王だろうがっ! ベリアの親父だろうがっ! 」


竜王は俺の叫びを聞いた時、微かに表情を和らげ目を閉じた。


──我は悠久の時を生きて来た。繰り返される生と死を見て来た。死に対して何の恐怖も無い。ただ贅沢にも憂いを言わせてもらえばやはり家族、ベリアの事だけだ。まして眼前に佇むバケモノに屠られ共倒れにすら出来ない事が無念でならない。それはある種の絶望だ。だがな人の子よ、貝王よ、キドナイトよ。お前が居る事、存在した事がどれだけ我の希望になっている事か。ベリアを、家族を愛してくれてありがとう。神々よ、そしてこの世界に……感謝を


竜王の閉じた瞳から光輝く一滴の涙がこぼれる。その涙は竜王ジルドーラの命、魔力全てが凝縮された物だった。


涙は結晶と成り、大地へ落ちる。その衝撃が起こった時ジルドーラの体に異変が起きた。


パキッ、パキパキパキ──


「うそだろ、おい、竜王っ、じるどーらっ! あ、あ、あぁああああああああああああああああ! 」


横たわっていた竜王の体が、最期の力を振り絞ったのかパキパキと音を立てて崩れていく。


俺は叫び続けるしかなかった。



                  ◇


「な──ふぅ。ありえませんわ」


ジルドーラの死に絶叫する良所を見て、我に返った少女が呟く。


「たかがとかげ一匹の死。そんなモノに心みだされ絶叫するなどあの方であるはずもないですわ」


家族を侮蔑され、死をけなされた言葉に漸く良所の意識が向かう。


そこには消失した右手を難なく元にもどした少女が笑っていた。


「……お前、今何て言った? 」


「あらあら、お怒りのご様子ですわねぇ。あ、失礼。あまりにも滑稽だったのでついつい下品な言葉遣いになってしまいましたわぁ。あ、自己紹介がまだでしたわね。私は良所外人様……トート様に仕える者、名をベリー・デッドブラッドと申しますわ。只今主命に従ってとかげを退治してましたの」


──アコヤッ


良所はペラペラと得意げに語るバケモノには耳を貸さず、アコヤに命じてジルドーラの結晶を取り込ませる。


だがその心には結晶の力を使うつもりは無かった。ただこの結晶を守りたかったのだ。


「覚悟しろバケモノ」


そう告げた良所は何の迷いも無くギルディアスをベリーの体へと叩きつけた。それはフリージュアの蛸に浴びせた死鎌の斬撃よりも強く、早かった。


「ぐはっ……くすっ、あははははは。随分とお手がお早いのですわね。楽しくなってきましたわ! 」


けさ切りにされ、体が二つになったベリーは心の底から楽し気に笑う。怒りと狂気が交わう戦いが始まった。


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