滅ぶもの・栄えるもの
ベリー・デッドブラッドと良所外人が出会ってから数年。彼等は世界の果てともいうべき不毛な大地に佇んでいた。
彼ら以外の生物はもはやこの世界には存在しない。ベリーが提案した皆殺し計画は実行されたのだ。数十の国が滅び、数百種の魔物が消滅する。
その過程で彼等は手に入れたのだ。
この星の全ての魔素を。
「ベリー、どうだい? 願いを叶えた感想を聞かせてくれないか? 」
不意をつかれたのか、彼女はやや驚きながら外人の方へ顔を向ける。その体は小刻みに震えていた。
「えぇ……えぇ、言葉に表せない程の充足感ですわ……あぁ、トート様、ベリーは幸せ者です」
歓喜に震えるベリーをみて、外人も満足気な表情を見せた。
「そっか。それは良かったね。さてと……もうこの世界には用は無い。改めて聞くけど、神殺しに付き合ってくれるかい? 」
「はい」
神殺し。
別次元の標的を定めている外人の言葉に、なんの迷いも無くベリーは返事をした。
◇
どうもお久しぶりです。きどないと、です。
家族旅行という名の強制労働から、はや一年。今俺は森の家でひとりぼーっと過ごしています。
え? なんで一人だって? まぁ、なんて言いますか。色々と事情がございまして。
色々と大変だったのですよ。
昨年冬を越す前に、王国、帝国の統治もようやくひと段落つきまして。ついでと言いますか、けじめと言いますか、ソフィアとライラ両名との結婚式を挙げたのです。
この結婚に両国が……馬鹿らしいのですが、張り合う構えを見せまして。
格ではラドルア帝国が上なのは間違いないのですが、ソフィアはヴィクトール王国第一王女で正室。この事に対抗心を燃やしたラドルア帝国の諸侯達は、これ幸いとライラを側室候補から外して格の釣り合う嫁候補をあげようと画策。主に陰湿なフリージュアの皆さんが力を入れてましたね。
無論ラドルア皇室は俺が一蹴すると分かり切っていたので、その案を却下。それでも何とかしようとした結果……皇帝ニューワルドは旧インティアーナ魔導国を帝国領とし、フリージュア公領として全世界に発表する荒業にでた。
そのやり方がもうメチャクチャで……あの爺さんと息子は……ラドルア皇室がライラの実母レイラを強制的に離縁させた後、養女として皇室入りを無理やり実行。まぁこれはレイラ・ライラ親子をフリージュア一家から保護する側面が大きいが。
そして公爵の位を授けると、間髪入れずライラへ公爵位を継承させてしまった。ラドルア皇室の力、恐ろしや……
でもすんなり事が収まるはずも無く……皇室は帝国諸侯なら力でねじ伏せられるのだが、ヴィクトール王国から待ったがかかる。
それはそうだ。王国にとっていきなりインティアーナ魔導国というお隣さんが帝国になる事。それは容認出来る問題ではないのだ。
元々王国と帝国は北はソロー大草原、南はインティアーナ魔導国と緩衝地帯があり、バランスを取ってきた。
それが崩れると言う事は、長期に渡る騒乱の原因にもなりかねない。
結局国王と皇帝を交えた会議を開き、紛糾すること三か月。
『ナイト・ドラグーン公国』が成立した。いや、してしまったのです……
◇
ナイト・ドラグーン公国の陣容は以下の通り。
主人たる者は二名。
一人は私きどないとです。そしてもう一人は光白竜。つまりベリアのとーちゃん事、竜王ジルドーラが公国を治める主として選ばれた。といいますか、俺が無理やりお願いして名前を貸してもらいました。ほんとすんません!
もうね、収拾がつかなかったんですよ。そこで竜王を呼び出してですね、国王と皇帝含む両国の重鎮達を黙らせたってのが真相です。
さすがの両国も竜王が出張ってきたら反論も出来ず、魔の森・ドラグーン山脈・旧インティアーナ魔導国を含めた領域を不可侵地域として認める事に。交易は開放してます。
一応帝国や王国の顔を立てると言う事で『公国』として成立させました。第三番目の国ってやつですね。
続きまして
公国相談役
ディオールド・ラドルア。ラドルア帝国上皇陛下
レイラ・フリージュア・ラドルア公爵夫人の二名。
レイラさんはともかく、爺さん絶対私欲だろ。決定した瞬間、「自由の翼をてにいれたのじゃー! 」
って叫んでたし。
そして公国宰相兼公国軍総帥
ヘルダー・ヴィンデム侯爵
彼曰く、「胃が……胃が痛い……」
がんばれ鎌おじさん!
公国軍の実践指揮をする大将は三名
ジークフリートを筆頭にクレイグ・グリードの三名だ。
彼等曰く
「あぁシャルロット! 一緒の国で生活できる事を神々に感謝を! 」
「なぁクレイグ。俺達も神々に感謝しようぜぇ」
「えぇ。アノ食事が毎日……神々よ感謝致します! 」
こいつ等も私欲だ……
指揮といっても三名は単体でも一騎当千なので、本格的な軍隊は後日考える事になってます。
内政に関してはヘルダー侯爵の指揮の元、俺とソフィア、ライラが行う事になっている。俺がアクセルで二人がブレーキ役ですね。色々とヘルダー侯爵を驚かせてやろう! びっくりさせてやるぜ! 責任はヘルダー侯爵と言う事で。
以上が公国の陣容です。
え? なんで一人で森の家にいるのか説明がまだだって? それなんですけど、いきなりソフィアとライラに「大事な相談を二人でするからナイトは森の家に居て! おとなしく、ね? 」と言われまして。
こうして一人ぼーっと家にこもってるわけであります。
子供たちはこれ幸いと、冒険に出てしまいました。
「ないと父上ー、シェルちゃんとフェルちゃんとアタシで冒険にでたいのー! 」
『でたいのー! 』
「ヴォン! 」
なにやらクレイグとグリードの冒険談を聞いてから冒険者に憧れたらしく、三人共冒険者ギルドに行って登録を済ませ、各国を冒険すると言い出しました。
当然ソフィアとライラは猛反発。絶対ダメ! と言ってましたが、子供たちに甘い俺は板挟みにあってました。
そして今回のタイミングですよ、はい。
こうなったら子供たちはとまりません。
「いいかい? 絶対に無茶はダメだぞ? 全員無事に戻ってくるって約束できるかい? 」
「うん! 」
『あい! 』
「ヴォン! 」
「うん、良い返事だ。まずはヴィクトール王国の冒険者ギルドに行って登録を済ませなさい。お母さん達と龍王様にはお父さんから言っておく。ベリア、二人を頼んだよ? フェルは食べ過ぎに注意してな。これはシェルのぽっけに入れておきなさい」
俺は十分過ぎるほどのお金をシェルへ渡した。
「ではないと父上ー、いってきます! 」
『いってくるなのー! あい! 』
「ヴォン! 」
──
───
とまぁ、これが数時間前の出来事でして。こうして俺は森の家に一人お留守番をしているのだ。
それにしても、ベリア達はともかく、なんで嫁さん達は俺をのけ者にして森の家に押し込めたんだ?
ゴクゴクと冷えたエールを飲みつつ、アコヤ達へ問いかける。
「なぁアコヤ。俺、なにかやっちまったのかな? 」
『エ? アァ、ソノ……ネェ、コヤ』
『ウウン……ヤッタトイイマスカ……ネェ、アコ』
はい?




