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ドーファ領主アルフレードの相談 闇に舞う理の書

「それで、話ってのはなんだ? すっかり脱線して聞きそびれたんだけど」


アルフの勘違いで、風呂にはいってから夜戦の事しか話してない事に気づいた俺は、湯に浸かりながら尋ねてみた。


まぁ、十中八九、領地経営の悩みだと思うのだが。


「あー、ナイトの話に夢中になっちまってすっかり忘れてた。まぁ領地経営と、私用で少々、な」


やっぱりな。アルフは根っからの現場主義で、書類仕事や企画は滅法苦手なんだよね。とりあえず聞いてみるか。


「んで、領地経営に何か問題が発生したのか? 」


「あぁ……問題が発生した。ちなみにナイト、お前にも責任の一端がある」


「は? なんで俺に責任が。荒廃した開拓地は一気に改善しただろ? それに周辺の魔物だって駆除したし、何の問題もないはずだが? 」


「取れすぎるんだ……」


「はい? 」


何だ? 取れ過ぎる? 穀物がって事か? それなら良い事じゃないか。


「ナイト……お前、良い事じゃないかって思っただろ? 」


「うん? あぁ、まぁ」


「王国内の穀物価格が暴落するぐらいだとしたら? 」


そいつは不味い。穀物類の価格が暴落ってなると、当然出荷制限をかけなければならない。他の領地にまで影響を及ぼすぐらいの収穫が見込まれてるのか。


「それでな、限界まで備蓄にまわすとして、その後の計画がまったく立ってないんだよ。たのむよナイトー。溢れる小麦の備蓄量の数字とにらめっこするのもうやなんだよー、助けてくれよー」


そいつは困ったな。へたに収穫量を調節するのも難しい。せっかく開墾した田畑を閉鎖すると、開拓民の士気がダダ下がりになるし、かといって収穫した小麦を破棄なんてしたら暴動が起きかねん。


今出来る事といえば、備蓄しても品質劣化を抑える様にすることか。いや、アルフの事だ。そんな事はとっくにしているだろう。


人口を増やすのが最良なのだが、いきなり人ってのは増えるものではない。それに長く続いた戦乱で王国の人口が大幅に減少した今、他の領地から人を集めて領地の整備を進める事も出来ない。


人口増加を念頭に置いて、一回ドーファ領の経営を見直すか。


「わかった。とりあえず風呂あがって飯くったらドーファ領の経営を見直すか」


俺の言葉を受けて、アルフが風呂場で喜び叫んだ。


「本当かぁあああああ! 助かる、助かるぞナイトぉ! 」


「まぁここドーファは嫁さんの直轄領だからな。旦那の俺が力を貸すのも道理ってもんだろ」


「何言ってんだ? お前、まだ全権代理の職を辞退してないだろ? 」


「あ、あれ? 」


すっかり忘れてた。王都で報告やらなんやらしてたけど、国王ウィリスから全権代理の職を解かれてなかった。


「つまり、今お前がここにいるって事は……お前がここドーファの最高責任者なんだよっ! 色々と大変だと思うが頑張ってくれよ、全権代理様! 」


「ちょっとまてアルフ、なんでそんなに嬉しそうなんだよ! 大体ソフィアがいるじゃねーかっ! ここはソフィアの直轄地だろ? アイツが最高責任者じゃねーか! 」


「ほう……ナイトよ、今の言葉そのまま殿下に報告しても良いんだぞ? それにお前が各所でハメをはずした情報を私は掴んでいるっ」


「なっ」


「報告を兼ねて俺自ら王都へ向かう道中、各所で仕入れた確度の高いモノだ。例えばお隣の──」


「ちょっとまったああああああああああああ」


俺は叫びながら慌ててアルフの口を手で塞ぐ。ソフィア達の監視を危惧しての行動である。


(おい、苦しい! わかった、わかったからその手を離せナイト! )


「……悲しいなアルフ。詮索屋は嫌われるものだぞ」


(冗談! 冗談だって! )


「……アルフ、君は何も見てないし、聞いてもいない。何も知らなかった、そうだね? 」


さすがに息が限界に達したのか、アルフはものすごい勢いで上下に頭を振る。


やさしい俺はそっと塞いだ手を離してやった。


「ゲホっゲホ。おいナイト、やり過ぎだっての! 意識が飛びそうになっちまったじゃねーか! 」


「んにゃ、今のはアルフが悪い。良いかアルフ、お前にとっては冗談でも、俺にとっては生きるか死ぬかの大事なんだぞ? お前、さっき話した嫁さん達の事忘れてねーか? 」


「あーそう言われると……確かに危険だな。浮気者の旦那に対して二人共容赦なさそうだし、斬殺だな」


「違う、違うんだアルフ。あのな、嫁さん達以外の女性と関係持つのは問題ないんだよ」


俺の言葉が相当意外だったのか、アルフは怪訝な表情を浮かべ喋り出した。


「おいおい、殿下公認なのか? それって王室的にも問題あるんじゃねーのかよ」


「嫁さん達公認なのは間違いない。それに王室は関係ないんだ。一応ソフィアは俺の報酬として頂いたって事になっているし。それよりもだ、さっきも言ったよな? 命が掛かってると」


「お、おう」


それから俺は、アルフへ事情を説明した。


浮気は構わない。だが、他所で抱いた回数の倍、嫁さん達を抱かなければならない事。


それは絶対であり、条件を達成するまで監禁される事。


種が尽きてもお構いなしな事。


説明しながら俺は色々と思い出し、顔から血の気が引きだす。それを見たアルフも同様に顔から血の気が失せていた。


「お、おい。しかも相手が殿下と首狩りって考えると……確かに命がけだな」


「な? もうわかっただろ? アルフ、確かに俺は浮気性かもしれぬ。嫁達もそれを理解している。だが、行為の代償は計り知れないんだ」


アルフは悲哀に満ちた俺の肩をポンと叩き、真剣な表情で口を開いた。


「親友よ、今後一切余計な事は言わないと誓おう。結婚がこんなにも危険なものだとは思ってなかった。私も色々と考え直す事にするよ」


「誓いはありがたいが、結婚は良いものだぞ? 家族が増えるのはうれしいものだ。それにしてもアルフ、今の言い様は結婚する予定でも出来たのか? 」


「あぁ。私用ってのがそれだ。ついこないだ実家から見合いの話がきてな」


「ほう、それで見合いを受けるのか? 」


「いや。それは断ったんだ」


「ならなんだってんだ? 」


「いやそれが……レティシアにその件を報告したら、彼女いきなり俺に求婚してきたんだよ」


レティシアさんてアルフの同居人兼メイドであり、親友の忘れ形見だよね? 歳だって結構離れている様な感じがするし、色々と厄介なのかな?


「レティシアさんて今いくつなんだ? 」


「今年で十六歳になる」

 

ライラの二歳年下か。でも年相応って言う感じなんだよね、レティシアさんて。まだ幼さが残ってる感じが。歳が近いのに、なんでライラって大人の色気が凄いんだ? あぁ、母親似だったな……


「とりあえず一番大事なのはお互いの気持ちだ。アルフ、お前レティシアさんの事好きなのか? 」


「あぁ。いつ頃からかわからんが、献身的な彼女の事を好きになっていた」


おぉ。すっぱり言い切るなんて男前じゃないかアルフ。なら問題は無いな。


「なら結婚をすれば良いよ。おめでとう! 」


「いや、そんな単純な話じゃないんだよ。さっきもいっただろ? 実家からのお見合い話を蹴ってるからな、実家が反対するのは目に見えている」


「わかった、レティシアさん連れて実家へ行こう。俺達も同行する」


「おい、いきなり何いいだすんだよ! 実家って王都近郊だぞ? こっから馬で何日もかかるってのに、おいそれといけないぞ」


「アルフお前、今日何みて絶叫したか思い出せ」


「あっ」


「竜なら飛ばせばその日の午後には着く」


本来ならシェルの門を使って移動するのが手っ取り早いのだが、現状門の使用が出来なくなっている。


邪神達との戦いによって世界の力場がずれた事によるものらしい。


とにかくそう決めた俺は、戸惑うアルフを無理やり納得させて風呂を後にした。




                  ◇




人や魔物が寄り付きもしない大洞窟の最深部。


真なる闇が広がる世界で、男の嘆きが木霊していた。


「なぜだ……なぜ偽神降臨が発動しないっ。理の書が示す未来ではオーディニアスが屠られた後、すぐに偽神は降臨しているんだ! もう邪神は居ない……依り代として残っているのはこの俺だけだっ! なのに……それなのに何故ヤツは現れないのだっ! クソっ、クソっ、クソがぁああああああ! ヤツが俺を依り代として現世に降臨した瞬間に……この……黄昏トワイライトロッドで……。ここまで綿密な計画を立ててきた意味が無くなってしまう……考えろ、考えるんだ。そして思い出せ。ヤツに対する怒りを、殺意を、無明の獄へ堕とされた無念を」


そう嘆いた後、男は四十二もの魔法陣を展開させ、巨大な書物を現出させる。


「もう一度だ……もう一度、第一編から転生し、時の接合点を調べ直す。俺は絶対に諦めない……偽神を消滅させ、女神の首を手に入れるまでは! 」


──パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ


一冊一冊が勢いよく捲られ、一枚残らず闇の空間へ散らばり始めた。


闇の世界は、光る書の文字に埋め尽くされ幻想的な光景と化す。まるで漆黒の空に輝く星々の様だった。


埋め尽くされた文字の中、男は霧となって消えた。いつまでも散らばり続ける書を残したまま。

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