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親友との再会 ドーファ領主アルフレードの絶叫

地平線の彼方に海が見え始め、眼下には夕日に照らされた麦畑がどこまでも広がっている。


ドーファに初めて来た時とは段違いに開拓されていて、すでに王国有数の穀倉地帯と化していた。


「ナイト……ここは本当にドーファ領なのか!? 」


「あぁソフィア。俺も驚いていた所だ。だが間違いなくあのドーファだ」


ソフィアと共にドーファの変わり様を驚きつつ会話をしていた時、懐かしい友の顔が思い浮かんだ。


(アルフのヤツ元気にしてるかな? 久しぶりに驚く顔がみたいなぁ……そうだ! )


「ベリア、あそこに大小二つの建物が見えるだろ? 」


『うん』


「その中の小さい方の建物に降り立ってほしいんだ。しかも誰にも悟られない程静かに降りて欲しいんだ。出来る? 」


『えー? へんなのー。ないと父上、出来るけどどうしてそんな事するの? 』


「あそこには俺の親友が居るんだ。それでね、彼の驚く顔が見たいなぁって考えてたんだよ」


『!? 驚かすの!? 面白そう! まかせて、アタシ誰にもばれないように降りるから! 』


こうしてベリアの協力の元、アルフどっきり作戦が開始された。


どっきり作戦の内容は次の通りである。


ベリア静かに領主の館裏に着地。ベリアの頭に乗った俺がアルフレードの執務室にある窓をノックする。


アルフ近づく。赤竜ベリアのご尊顔がドーンっ! アルフ絶叫! 大成功!


ふっふっふ、まってろぉアルフぅ。腰ぬかしてやるぞぉ。


──


───


────


──フサァ フサァ フサァ


通常バッサバッサと音を立てて降りるベリアなのだが、余程ドッキリ作戦が気に入ったのか、ほとんど音を立てず館の裏庭へ着地した。


すかさず俺はベリアの頭に乗り、二階にある執務室の窓へと向かう。


居た。以前と変わらず頭を抱えながら書類仕事に精を出しているぞ。


「だーっ、数字が合わん! 毎日毎日帳簿とにらめっこなんて俺には無理なのだ! 」


執務室からはアルフの愚痴が響いて聞こえる。


安心しろアルフ。今すぐそのストレスから解放してあげるから。


──コン コン コン コン


俺が窓をノックし、アルフへと手を振る。室内に居たアルフは驚きながら窓へと駆け寄ると窓をバンッと開けた。


「ベリア今だっ! 」


俺の掛け声に合わせベリアが頭を振り上げ、アルフの目の前に竜の顔を現した。


──ギャァアアアアアアアアアアアアアアア


『キャァアアアアアアアアアアアア』


──アァアアアアアアアアアアアアアアアア



ドッキリ作戦は成功し、見事アルフを絶叫させることが出来た。出来たのだが、同時に俺の叫び声も轟いていた。


アルフの絶叫が予想以上に大きかったのか、ベリアが驚いてしまったのだ。


驚いたベリアがひっくり返ってしまった為に、頭部に乗っていた俺が吹き飛ばされる。


どうして、どうしてこうなった。


──


───


『そふぃあおねーさま、ないととんでっちゃったよ? 』


「シェルちゃん、ほっときなさい。あれは自業自得と言うものだ」


『あいっ! 』


作戦実行前に裏庭へ降りていた面々が呆れながら話始める。俺はというと十数メートル吹き飛ばされ、畑に頭から突き刺さっていた。


「時々妙に子供っぽい所があるんですよねナイト様は」


「あぁ。ライラの言う通りだ。まぁ、そんな所も含めて好いてしまったのだがな」


「うふふ、私もです」


「ヴォン! ヴォン! (ベリア、いつまでひっくり返っているの! 人化して起きなさい! )」


『うぅ……頭打った。痛いよぉ』


「ベリアちゃん見せてみなさい。あらあら、たんこぶ作っちゃって。後でお父さんにみてもらいましょうね」


『うん、らいら母上。そうするなの』


「さぁ皆、館へ入ってアルフを介抱しにいこう」


──はーい


「ちょ、まってぇええええええええええええ」


ソフィアに先導され、我が家族たちは領主の館へと歩き始めた。俺は慌てて塗れた土を振り払うと、子供の様な情けない声を上げて後を追って行ったのだった。

                  

             


                  ◇




「とんだ醜態をお見せしました。申し訳ありません、ソフィア殿下……」


「謝罪するのはこちらの方だ、アルフ。夫の悪戯を止められず申し訳ない……ほらっ、ナイトも謝罪しなさい! 」


「……ゴメンナサイ」


どうも、きどないとです。今嫁さん達と一緒にアルフへ謝罪しております。


齢三十過ぎの良い大人が何をしているのでしょうか。反省しきりです。


「おいナイト。さすがにドラゴンはやり過ぎだ。俺だったから気絶で済んだけど、レティシアだったら心臓が止まっていたぞ」


「あい……すいません」


アルフは反省する俺を見て、苦笑しながらソフィアへ話し始めた。


「ソフィア殿下、ナイトも十分反省している様ですし今回の事は水に流しましょう。ですので、お小言は控えめにしてあげてください」


「ふむ、アルフがそう言うなら考えよう」


渋々といった感じだが、ソフィアはアルフの言葉に従う素振りをみせる。これで夜の反省会は荒れずに済みそうだ。


「アルフ……お前ってヤツは……ありがとう、親友よ! 」


「ナイト、話があるから風呂に付き合え」


俺が調子に乗った瞬間、アルフが口を開いた。コイツ、やっぱただでは済まさない様だな。


「ソフィア、悪いけど話の通りだ。ソフィア達も風呂に入ってくつろいでてくれ。旅館には十分な設備が整ってるから問題ないはずだ」


「わかった。ライラと共に十分英気を養って夜戦に備えておく」


嘘だろ嫁さん……今日ドーファに着いたばかりなのに初日から夜戦!? 


ソフィアは驚く俺の顔をみて満足すると、ライラ達を伴ってドーファの旅館へと向かって行った。


「おいナイトっ、夜戦ってなんだ!? まさかドーファ近郊で戦争でも始まったっていうのか!? くそっ、何もかもが順調過ぎて気が抜けていたか……我ながらなんたる醜態! ナイト、済まないがドーファ領全軍をもってしても百に満たない。だが士気は十分に高い故、それなりに戦えるはずだ──」


「……相変わらずだなアルフ、それについては風呂に入りながら話すよ。だから落ち着いてくれ」


「落ち着いてられるかっ! 英雄姫が夜戦の準備をするといったのだぞ!? まさか、またお前が解決しようとしているのか!? だめだっ! 」


「そうじゃないよアルフ……まぁいいや、お風呂行こう」


「お前風呂って! え? もしかして戦争じゃないとか? 」


「いこうアルフ……」


「……」


あからさまに落ち込む俺の姿を見て何かを察したのか、アルフは無言のまま頷き、共に風呂へと歩き始めた。




                   ◇


──カッコーン


旅館の温泉場にて桶の音が響く。アルフ達はしっかりと掃除してたみたいで、風呂場はピカピカのままだった。


俺達は以前の様に洗い場に並び、体を洗いながら言葉を交わしている。


「んでアルフ。話ってなんだ? 」


「まてナイト。その前にさっきの夜戦について説明しろ」


「あー……あれだよ、あれ。男と女が夜に戦うってヤツだよ」


「……無粋な質問だったな、許せナイト。だが、それなら何故あの様に落ち込んだのだ? 」


「気にすんなよアルフ。あー、あれだよ。旅ってさ、なんだかんだ疲れるでしょ? 」


「うむ」


「初日ぐらいゆっくりしたいでしょ? 」


「……なるほどな」


「しかもだよ? 相手はあの英雄姫だよ? さらに、だ。もう一人強者がいるんだよ……」


「もう一人? あぁ、殿下の側にいたあの美人さんか? あの人どこかで見た覚えがあるんだけど、思い出せないんだよな」


「ライラ・フリージュア。帝国ヘルダー元帥直属部隊の部隊長の一人だ」


ライラの名前を出した瞬間、アルフが俺に向かって絶叫した。


「ヘルダー元帥直属のライラってまさか!? あの、首狩りライラかっ!? 」


え、なにそのあだ名。はじめて聞いたんですけど。


「アルフ、その首狩りってあだ名、初めて聞いたんだけど」


それからアルフは首狩りの由来を教えてくれた。


黒色の鎧を身に纏い、戦場を縦横無尽に駆け、相対した部隊の長の首を狩る、ヘルダー元帥の懐刀。


その剣技は、ラドルアの英雄ドレーク・フリージュアの再来と恐れられた。


「まさかナイトの第二婦人が首狩りとは……」


「たしかにライラは強いぞ。それと、だ。夜戦の方もすこぶるやばい。良いかアルフ、俺は英雄姫と首狩りの両方を相手に戦わなければならないのだ……」


「勝てる……のか? 」


「ふっ……」


零れた涙がばれないように、俺は頭からお湯をかけ流す。やさしいアルフは無言のまま頷いていた。

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