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懐かしき森の家 最期の神判

丘の上に犇めく亡者の軍団を前に、ソフィアは決断を迫られていた。


つまり、退くか押すかである。


だが、その選択さえも失われつつあった。後方より、衝突を回避した死人達がゆっくりだが確実にソフィア達へ迫っていたのだ。


「シェルちゃん──」


『あい! やってやるなの! 』


もはや強行突破しかない。そう判断したソフィアはシェルと同化し、使い慣れた宝剣を手にする。


『フェルちゃん……ナイトの所へ帰るには、やるしかない様だ。──いくぞぉ! 』


──グォオオオオオオオオオオオン!


意を決したソフィアの言葉に答える様、フェルは開戦の雄たけびを上げ亡者の軍団へと突入していった。


──


───


────


亡者の軍団を切り裂き、喰い破りながら森の家へと血路を開くソフィア達。


圧倒的に不利な状況の中、亡者達の鈍い動きが唯一の救いだった。


フェルが正面の敵を切り裂き駆け抜ける。その度に両側面から亡者達の剣戟が襲い掛かるが、フェルの背に乗るソフィアが彼らの剣を弾き押し返す。だが、ソフィア達が切り開いた血路は無数の亡者達によってあっと言う間に塞がれ、さらに後方から迫りくる為一息つく余裕もなかった。


つまり一度突入してしまった今、後退する事は出来ないのだ。その事がソフィア達へ極度の緊張と共に、疲労感を蓄積させていく。


『最短の道を駆けるぞフェル! 』


──グルァアアアアアアアアア!


遠回りであるドラグーン山脈の麓を目指さず、森へと向かう。それが最上の策と判断したソフィア達は南西に広がる森を目指し始めた。


その時である。



──グガァアアアアアアアアアアアアアアアアア


──グガァアアアアアアアアアアアアアアアアア



同時に二つの咆哮が一帯に轟き、火の塊が亡者達へと降り注がれる。


「ソフィアお姉様! ご無事ですか! 」


ライラの叫びと共に、赤と黒の巨大な竜がソフィア達周辺の軍団を屠り舞い降りた。


『ライラ! それにジーク! 二人共助かった! 』


だが大量の亡者達は屠られた端から復活しはじめ、ソフィア達へ迫り始めていた。


「お姉様、話は後です。フェルちゃん、赤竜へ飛び乗って! 」


「ヴォン! 」


ライラの指示により、フェルはベリアへと飛び乗る。


この状況を見てジクフリードは素早く判断を下しライラ達へ叫んだ。


「ライラ、シャルロット。撤退するぞ! 黒竜、ヤツラを燃やし尽くせ! 」


──ゴガァアアアアアアアアアアア


黒竜が足止めの炎を周囲にまき散らすと、二匹の竜は急いでその場を飛び去った。


──


───


────


『やっと……やっと帰ってこれたのだな……』


今ソフィア達の眼下には懐かしき森の家がある。日数的には十日も経ってはいないのだが、困難な道程はソフィアに感慨の言葉を吐かせるには十分であった。


だがその余韻に浸る状況ではない。亡者の軍団が空駆ける二匹の竜を追って森の家へと迫っている。


『ライラおねーちゃん、アタシと黒竜は庭で警戒してるよ! 』


「ヴォン! (ソフィアわたしも外で見張ってるわ! )」


ベリアはフェルの言葉に驚き、赤い瞳で彼女をジッと見つめた。そして気づく。


『あら、あなた良く見ると只のオオカミじゃなくて、フェンリルの末裔なのね? アタシはベリア、よろしくね! 』


「ヴォン! ヴォン! (わたしはフェル! よろしくね! )」


「ベリアちゃんにフェルちゃん、それに黒竜。悪いけど警戒よろしくね」


『わかった! 』


「ヴォン! 」


──グルルルルル


ベリア達に警戒を任せた後、ソフィア達は急いで家の庭に降下し急ぎ家へと向かった。


──


───


『只今戻った! ナイトはどこだ!? 』


森の家にソフィアの声が響き、その場に居た全員が笑顔で出迎えた。


その中で、グリードが短めの挨拶をして良所の居場所を叫ぶ。


「お帰りお嬢! ナイトのにーちゃんは二階の寝室だ! 」


『わかった。ライラ、私はナイトの元へ行く。しばしまかせたぞ』


「賜りましたお姉様」


逸る気持ちを抑えきれなかったのか、数段ある二階への階段を一足飛びに越えて行くソフィア達。


その顔は愛する人へ会える喜びを隠しきれないでいた。



                   ◇



『ナイト! 今戻ったぞ! 』


ソフィアは寝室に入った瞬間、以前の様な禍々しさが無い良所の姿を見て、喜びと安堵の混じった感情を募らせる。気づけば自然と涙がこぼれていた。


『あぁ……あぁ……皆が、皆が助けてくれたのだな……』


同時にソフィアは出発前に見せた己の稚拙さを恥じていた。


(皆の助けが無ければナイトは無事では無かった。皆の助けが無ければここへ戻る事も危ぶまれた。今私がここに居られる事、そして大切な人が無事に居る事。全ては皆の助けによるものだ、決して私だけの力ではない。それなのに私は一人で解決しようとしていた。皆に罵声を浴びせてしまった──)


自責の念にかられるソフィアに優しい声が心中にこだました。



──ソフィアお姉様、自分を責めないでください。お姉様は罵声を浴びせたのではありません。皆の目を覚ましてくださったのです。


(シェルちゃん……)


──さぁ、ナイト様を救いましょう。皆もお姉様もそれを望んでいるはずですよ?


シェルの励ましを受けたソフィアは同化を解き、シェルと共に良所の寝るベッドへと近づいた。


「有難うシェルちゃん。全て片付いたら皆にも感謝を述べようと思う」


『あい! 』


二人のやり取りを見てか、良所の手に戻っていたアコヤが姿を現す。


『オカエリナサイ』


『あこやただいまなの! あとこれ! あい! 』


シェルの小さな手から黄金の羽が差し出される。それを見たソフィアはいきなり現れたアコヤに驚きつつ、自身がルシフェルに託された神聖剣ギルディアスを同じく差し出した。


アコヤはまず羽を吸収すると、ソフィアの差し出したギルディアスを受け取り語り始めた。


『コレデ神々ノ因子ガ全テ揃イマシタ。残ルハ最期ノ神判ダケデス」


アコヤの言葉に、ソフィアは不安を募らせ詰め寄る。


「神判!? ナイトは、ナイトは助かるのでしょうか!? 私達はまだ何かしなければいけない事があるのでしょうか!? 」


『貴方方ニ出来ル事ハコノ地ヲ守リ、主ノ目覚メを待ツダケデス。ソレト──』


「それと? 」


『我ガ主ハ綺麗ナ嫁ヲ残シテ、容易ク消滅スルホド往生際ガ良クアリマセンカラ』


「……」


アコヤの言葉に赤面するソフィア。その言葉は不思議と納得させる程の説得力を持っていた。


それからアコヤは良所の手にギルディアスを握らせると、霧の様に四散し良所へと戻る。


──シェル、今暫ク任セマシタヨ


『あい! そふぃあおねーさま、ないとがおきるまでおうちをまもるなの! 』


「そ、そうだな。皆と共に家を守ろう! 」


『どうしておかおがまっかなの? 』


シェルは冷やかす様に赤面した理由を尋ねる。それをわかってか、ソフィアは冷静になり無表情のままシェルへ呟いた。


「……シェルちゃん、お仕置き──」


『!? しぇるはさきにみんなのところへいくなのー! 』


「シェルちゃん待ちなさい! 」


小さな体をフル活動させ、一階へと避難するシェル。それを追いかけるソフィアだが、その心は穏やかなものであった。


もうすぐ平穏な生活に戻れるとの確信を秘めて。



                  ◇



突如意識を戻した俺は困惑していた。一面、白い壁と天井の部屋で目覚めたからだ。


どうも、きどないとです。随分と長い間意識を飛ばしてたみたいなのですが、ここはどこですか?


どうも状況的には現世ではなく、神様の居る場所みたいなのはなんとなくわかるのですが。


フリージュアでタコと戦っていた記憶はあるのですが、思い出せません。



良所が思案しはじめた時だった。良所の頭に声が響く。



──◇ 目覚めたか、女神の創りし人形よ



なに? 人形、だと?


人形と宣う存在に苛立ちを募らせながら、俺は静かに次の言葉を待っていた。


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