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亡者の行軍

──ねぇねぇ! オーディニアスのヤツが世界エレーファに降臨しちゃったよ!


『なんですって!? 』


──おいフィリーア、ただ事ならぬぞ! 早急に対応せねば世界が崩れる!


──ヒジョウジタイダ。メガミノナヲモッテ……ワレラニゲンメイセヨ


──キッヒッヒ。これでは世界エレーファが冥界に墜ちるわ。ねぇフィリーア、どうするの?


『……力場を動かして門を現出させます。そして──』


女神フィリーアが対策を示していた時、彼らの頭上より懐かしき友の声が響いた。



──◇ まて。少しは落ち着かぬか貴様ら



『その声は、ルシフェル様なの!? 』



フィリーアは驚きつつもルシフェルの声に反応する。他の神々は沈黙する事によってルシフェルの言葉を待った。



──◇ この天上神ルシフェル、因果神との誓約を果し、天上へと舞い戻った。



思いがけないルシフェルの帰還に喜びつつも、フィリーアは慌てて現状を報告しようとする。


『ルシフェル様、このままでは世界エレーファが──』


──◇ 落ち着けと言っている! まったくお前は昔からなんら変わらんなお転婆娘め!


『申し訳ありません……なの』


(ふぅ……まったくディアールよ、お守りにも程があるぞ! )


──◇ よいか貴様ら。すでに承知の通り、因果神の予言通りに事は運んでいる。この私が天上の園に帰還したのがその証だ。すなわち、約束の時が来るまで現世に干渉する事能わず。


『ですが──』


──◇ そう不安になるな。ディアールの言葉をもってしてもお前は不安を抱えるのか?


その言葉にフィリーアは沈黙を答えとした。返答するまでもなく、彼女のディアールに対する信頼は絶対だったからだ。


──◇ 貴様らはどうだ? 異議ある神は存分に唱えるべし。


他の神々も沈黙を守り続ける。フィリーアを始め、皆等しく信頼の眼差しをルシフェルへ向けていた。


その状況にルシフェルは満足したのか、優しい声で語り始める。


(まったくこやつらは……姿や力が完全に戻っていないと言うのに、心だけは取り戻していたのか……)


──◇ 有難うお前達。貴様らも、そして私もディアールを敬愛し、信頼するが故に今と言う希望を手にすることが出来たのだ。


──◇ だからこそ今は伏して約束の時を待ち、下界を見守ろうではないか


ルシフェルの言葉に神々は静かに頷き、現世を見守り始めたのであった。



                  ◇



氷結の大地を出航して三日目、森の家を出発して六日目の朝である。


ソフィア達はソローの港町へ帰還した。


この頃にはソフィアの傷も完全に癒え、辺境伯の城塞にて大量の朝食を取る程に回復していた。


「おかわり! 」


『おかわり! あい! 』


「ヴォン! (おかわり! )」


「まったく一時はどうなるかと心配したのじゃが……おいレティーシア。済まぬがありったけの食事を持ってきてくれぬか? 」


「か、かしこまりました旦那様! 」


レティーシアを中心に数名のメイド達がせわしなく食事を運び、空になった皿を下げる。


その光景に呆れつつ、バルバロスはソフィアへ尋ねた。


「ソフィよ、朝食を取り終えたらすぐに出発するのであったな」


「モグモグ……ゴクン。はい小父様。モグモグ……」


「……わかった。して同行者は何名必要なのじゃ? 」


「……ゴクン。一人も要りませんわ小父様。モグモグ……」


ソロー大平原を横ぎるにあたって、野盗や魔物の心配をしたバルバロスの提案はソフィアにあっさり断られる。


バルバロスは、それでも何名か共を付けさせようと口を開きかけるが、フェルの一声によって遮られた。


「ヴォン!? ヴォン! (わたしがいるのよ!? じゅうぶんだわ! )」


「……ゴクン。ふふふ、フェルちゃんありがとう」


「ヴォン! (かぞくだもんね! )


『しぇるもいるなの! あい! 』


「ふふふ。そうであったな、シェルちゃんありがとうね」


『あい! 』


(たしかに伝説のフェンリルや女神の御使い殿がいれば大抵の事はふせげるじゃろう……)


「わかった。お前達、くれぐれも気を付けるのじゃぞ? 」



「はい! 」


『あい! 』


「ヴォン! 」



それから暫くソフィア達は朝食を楽しむと、バルバロス達に見送られながら港町ソローを離れた。



                  ◇



ソフィア達が港町ソローを出発した時、森の家に異変が訪れようとしていた。


まず、ドラゴニュートのベリアと黒竜が異様な気配を感知し騒ぎ始めたのだ。


『ライラおねーちゃん! ここの周辺から変な感じがしはじめたの! すごく変だよ! 』


「ベリアちゃん落ち着いて。どんな気配を感じたの? 」


『んとね……生きてない人間が地面から沢山這い出てる感じがするの。今までこんな事なかったからアタシとっても驚いちゃって』


ライラとベリアの会話に、ディオールドが興味ありげに言葉を挟んだ。


「生きていない人間じゃと? 死霊系の魔導を展開した者が現れたということかのぅ。じゃがそんな者が今の世界にいるとも考えられぬが……まさか!? 」


ディオールドは焦りの声を上げる。この時、彼はある可能性を考えてしまったのだ。そう、邪神の可能性を。


ディオールドの声に回復し布の取れたヘルダーが即座に反応する。


「陛下、ここは周辺を哨戒した方がよろしいかと」


「うむ、そうじゃな。万が一の事も考えられる」


同意を得て、ヘルダーはジークフリードとライラへ命を下す。


「賜りました。ジーク、ライラ」


「「はっ」」


「手数だが、この家を中心に森周辺の哨戒を頼む。異変が確認でき次第迅速に撤退、報告せよ」


「「了解しました」」


こうしてジークフリードとライラが黒竜と竜化したベリアにそれぞれ騎乗し、周辺哨戒を始めた。


──


───


────


眼下にある魔の森は特に異変は起こっておらず、哨戒範囲は必然的に広がって行った。


「ベリアちゃん、異変を感じる方向ってわかる? 」


『うん! ベリアのお家の反対側! 』


ベリアが言う異変の所在がソロー大草原だと解ったライラは、表情を曇らせる。


(不味いわね。この方向はソフィアお姉様達の帰路と重なってしまう)


「ジーク、少し急ぎましょう。ソフィアお姉様達が巻き込まれる可能性があるみたいなの! 」


「了解した」


「ベリアちゃん、お姉様達が面倒に巻き込まれるのを防ぎたいの。速度を上げられるかしら? 」


『お安い御用だよ! お姉ちゃん、しっかりつかまっててね! 』


「黒竜、シャルロットに続け! 」


──グルァアアアアアアアア


二匹の竜は速度を上げ、ソロー大草原へ向け翼を力強くはばたかせた。



                  ◇



フェルに乗り、大急ぎで森の家に向かうソフィア達。港町ソローを出て、ソロー大草原までの道のりは特に異変は無かった。


だが大草原に着いた時、異様な集団が彼女達の行く手を遮ったのだ。その数およそ数十万。



──我ラ冥界ノ戦士


──主命ニ従イ


──コノ地ヲ冥界ヘト変エン



異様な集団は隊列を組み、剣や盾を手にする様は軍隊そのものである。だが、彼らは決定的に通常の軍隊と異なる点があった。


肉体が朽ち、骨をむき出しにしてゆっくりと行軍している彼らは人では無かったのだ。


(これは……ソロー大草原で没した歴戦の戦士達か!? 一体どうなっているのだ)



──ココハ冥界、死者ノ世界。ナゼ生キル者ガ我ラノ前ニ居ルノダ


──世界ヲ正シキ姿ニ


──命ヲ捧ゲヨ


──命ヲ捧ゲヨ



ソフィア達に気付いた亡者の軍団は、彼女達へ向かい行軍し始めた。これにはソフィア達も退かざるを得ず後退する。


「フェルちゃん! なるべく町や村に近づかないよう遠周りして森へ向かおう! 」


「ヴォン! (わかったわ! )」


ソフィア達を乗せたフェルは、亡者の軍団を避ける様に反時計回りに駆ける。だが、圧倒的な数の軍団はどこまでも大草原を占拠していて森への道を塞いでいた。


「ヴォオン! ヴォン! (ちょっとソフィア! コイツ等どこまでも沸いているよ! )」


(どうする……シェルちゃんと同化して血路を開くか……いや、あまりにも危険だ)


「とにかく衝突を避けよう! フェルちゃん、このまま南へ進んで! 」


「ヴォン! 」


左側面に群がる亡者の軍団を無視し、ソフィア達はひたすら南方へ駆ける。すると眼前には緩やかな丘が見え始め、その奥にはドラグーン山脈の末端が姿を現した。


ソフィアは丘を越え、ドラグーン山脈の麓を沿って森の家へ向かおうと試みたのだが。


「馬鹿な……」


丘の上に広がる光景にソフィアは絶句した。丘の上には平原と同じく亡者が所狭しと蠢き、行く手を完全に遮断していたのだった。

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