小説ver.
何を求めたか、疲れた重い頭をもたげ、僕は夜空を見上げた。
晴れているはずなのに、星はない。
月もない、けれど変に赤い空。
一昔前までは見えていたオリオン座も、飲み込まれてしまった。
意地汚く光り輝く電球と、意地汚く欲に溺れる人間に、全部全部。
「星」という言葉さえ、死語になりつつある。
分かってたのに、何故空を見上げたのだろう。
行き過ぎた希望は、必要以上の絶望をもたらすというのに。
家に辿りつき、夕食を摂って風呂に浸かって、着替えてベッドに潜る。
疲れの取れぬまま、また朝を迎えるのだろう。
明日への失望の中、星の小さな光の美しさを、目蓋の裏に思い出す。
人の顔を照らすことのない、地球には僅かしか届かないその光。けれどそれは確実に、誰かを癒していたはず。その美しさに心満たされた人がいるはず。
小さい頃、親の目を盗んで、夜中の星を見たことがある。
満天とまでは行かずとも、いつも見るより多くの星があるように見えた。
実はほんの冒険心が、いつもの夜空をより綺麗に見せていたのだが。
けれど、こんななんでもないことを、何故かまだ覚えている。
失われし、光。
あるのに見えぬ、星。
もう、見られない。
人は古代から、目に見えぬものを求める。
有り得ない物を想像し、その想像の中で楽しむ。
亡くした近しい人の、声や姿や仕種を思い出し、懐かしさや悲しみに浸る。
そんな本能のようなものが、人間には存在するのだろうか。
ならば人間とは、なんと儚く空虚しい生き物なのだろう。
うだうだ考えているうち、いつの間にか眠っていた。
星のない夜。
僕はその下、どう生きれば良いのだろうか――。




