第1話 幻想入り、能力の片鱗
ここは幻想郷。現実から忘れ去られた者たちが集まる場所。
そこには様々な人物がいた――
巫女、魔法使い、妖怪、神々―――
幻想郷にいる人物たちは皆、1つは能力を持っている。
空を飛ぶ、魔法を使う、時を止める、心を読む。
それぞれが幻想郷から授かりし、運命。
そんな、非現実的なものたちが集まる中で、1人。
他の者たちを圧倒する力を持った人物がいた。
彼の能力は仲間を導く光となるのか、それとも…
幻想郷を破壊するだけの悪魔となるのか。
幻想郷の運命を決める天秤はまだ、どちらにも傾いていない…
運命の時が少しずつ刻まれ、審判の時が近づく――
目が覚めると、なぜか、知らない世界にいた。
ここは、現実世界じゃない…直感でそう理解した。
俺の知らない世界?一体なぜこんなところに?
様々な疑問が浮かんだ。でも。
「うぐっ!」
思い出せない、たとえ思い出そうとしても脳裏に激痛が走る。
なんだ、この痛みは…まるで、体が…
「大丈夫ですか!?」
そこで俺は我に返る。目の前にはピンク色の髪の少女。
球体のようなものが体の近くにある。
なんだ、この少女は…俺もついに頭がおかしくなったか?
もしくは、こいつが―――
「コスプレって何ですか?聞いたことないんですが…」
なんだ、こいつ。ってちょっと待て。こいつ
俺の思っていることがわかるのか?
まさか。ただの偶然d―――
「偶然じゃないですよ~。私は心が読めるんですから♪」
は?こいつ本当に?
「本当ですよ~。」
…本当のようだ。で、なん―――
「あなたがここにいる理由ですか。それは私にもわかりません。」
「…心が読めるのはわかった。だから、喋らせろ。」
「…あなたは怖がらないんですか?この能力を」
「能力って…、ああ心が読めることか。」
「別に、そんなこと気にしてたら話が進まないし。」
「んなことより、ここはどこなんだ?」
「ここは地霊殿です。私たち妖怪の暮らす{地底の館}とでも言いましょうか。」
「へー。」
見たところ明らかに現実世界の建造物ではないな…やはりここは現実世界ではないか…
まあ、妖怪とか言ってる時点で現実じゃないんだが。
…じゃあ、この世界の説明頼むか。
「わかりました♪」
…頼むから心で会話するな。
「…心はあんまり読むもんじゃねーぞ?」
「…そうですよね。やっぱりこの能力なんか…」
そう言って俯く少女。…まさかとは思うが。
「…うぐっ、ひっぐ。うわあああん!」
え。え!?ちょっと待ってこれじゃあ俺が泣かせたみたいじゃん。
っていうか、俺、少女の涙ほど弱いものはないんですけど!?
「えっ、ちょっと待って、俺が悪いのなら謝るから。だから、1回落ち着いて?」
「だって、だって!うわあああん!」
ちょっとこれは…そこで俺はさっきの話を思い出す。
―――私たち妖怪の暮らす{地底の館}とでも言いましょうか。―――
―――――私、たち。
つまり、ここは。
タッ、タッ、タッ。 ガチャ。
「お姉ちゃん!?、大丈夫!?」「さとり様!大丈夫ですか!?」
現れたのは、さとりによく似た薄緑色の髪の少女と…猫?
えーと、これは……
「…まさか、あなたですか!?」
「お兄ちゃん、そんなことしたの!?」
…これはまさか、俺のせいにされるんじゃ…
「許さん!!」 「許さないよ!!!」
「「スペルカード発動!!!!」」
「抑制{スーパーエゴ}!!」 「呪精{ゾンビフェアリー}!!」
――刹那、すざまじい数の光が俺に向かって飛んでくる。これは、
―――当たったら怪我じゃ済まないぞ…
と、とりあえず避けるしかない!と思ったとき、さとりの姿が目に入った。
こいつ、気づいていない!?いくら妖怪だからってこんなの食らったら…
「くっ、仕方ない!」
とっさに俺はさとりをかばった。―――その後のことはよく覚えていない…
―――SOUJI兄。
名前を呼ばれたような気がして、後ろを振り向く。
そこには、まだ幼い少年と少女。
「…これ、は。」
―――自分の記憶だ。
でもなぜ?俺の過去ということはわかる。でも、なぜ。
―――死んだはずの妹が死んだ時より大きいんだ?
俺の妹は4歳の時に死んだ。でも、あそこにいるのは明らかに小学生位の妹だ。
俺の妹は交通事故で亡くなった。
俺はその瞬間をただ、ただ見ていることしかできなかった。
あんなに元気だった妹が、一瞬にして命を奪われるなんて…
信じたくなかった。いや、
―――信じれなかったと言うべきか。
この時、俺は6歳。このことを受け入れるにはあまりにも幼く、悲しむことしかできなかった。
「ほら、こっちへおいでよ。SOUJI兄。」
もう1度、今度ははっきりと聞こえた。
ありえない妹の姿に驚愕し、思わず駆け寄ろうとすると、
――汝が望むのはなんだ?
そう声が聞こえた気がして、背中にゾクリという寒気が走った。
気が付けば妹の姿はなく、黒い空間の中にいた。
―――俺が望むもの?、そんなもの…
「……俺は思い通りになる力が欲しい。」
――汝の願いは真か?
――大きな力には、大きな代償が伴う。それでも、汝はその力を望むのか?
俺は少し迷った。たしかに、メリットがあって、デメリットがないというのはおかしい。
その時、メリットが大きいほど、デメリットも大きいのだ。
―――でも、
「…ああ、望むよ。どれだけ代償があったとしても、周りのやつを。妹を助けてやれるのなら、
俺は自分の命を代償にしても、その力を手に入れる!」
――汝の願い、確と聞き受けた。ならば、この力を授けよう。
――1つ、忘れるでないぞ。
この力は、世界を変える力を持っておる。もし、能力に飲まれたならば…
全てを滅ぼすじゃろう。決して、悪用したり、暴走してはいけぬぞ…
―――目が覚めると、また、地霊殿の中にいた。
結局、今の夢はなんだったのだろうか。力を授ける?中二病かっての。
でも、何かが引っかかる。いくつもの疑問が浮かび、思考を加速させようとすると…
「まったく!あなたたちは何をしてるの!?」
「あの人は怪我してるのよ?いきなりスペカなんか使ったら死んじゃうかもしれないのよ!?」
さとりの声が聞こえる。…説教か。
怖、マジ怖い。当たったら死ぬかもしれないってマジかよ…
どんだけ危険なんだ、あの技は。
っていうか、さとりの怒り方全然怖くないな~。
先生になったらなめられるタイプだな。
「…!………?」
何か言ってるが聞こえないな~。
しばらくすると声が聞こえなくなった。説教が終了したようだ。
ドアノブのガチャッという音が聞こえる。
入ってきたのはさとりと、
「あ!大丈夫でしたか?私の妹とペットがすみませんでした。」
「あの2人にはきっつく叱っておきましたので。ほら、謝りなさい。」
「えー、でも…」
さとりがひきつった笑顔で少女を見る。怒っているのがバレバレだ。
「まあまあ、けがも大してなかったし、さとりもそんなに怒んなって。
こいしが怖がってるぞ?」
2人はポカンとした顔で俺を見る。…何か
「おかしいところでもあったか?」
と尋ねると、2人が息をそろえて。
「「なんで…」」
「こいしの名前知ってるんですか!?」 「私の名前知ってるの!?」
この時俺はまだ気づいていなかった。この力こそが、
この世界を変える能力の片鱗であることを。