表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時をかけて祖母孝行  作者: あられうす
2/3

プロローグ中編:夢枕

思いのほかプロローグが長くなってしまったので3分割します。

普通こんなにプロローグって長くないですよね?(;´д`)

ばあちゃんの状態確認を救急隊の人が淡々と告げる。

救急隊の人がいう言葉は全てよくない言葉ばっかりだ。

無し、停止、低下、散大・・・いや、一つくらい何かいい言葉あるだろ?

なあ、良い方の言葉言ってくれよ。

言えよ、なぁ?

救急隊の人がばあちゃんの心電図を見ている。

波形は・・・並行のままだった。


俺はばあちゃんに近寄った。

優しく、ゆっくり、壊れ物を扱うようにばあちゃんの体を揺すった。

いつもの朝のようにゆっくり瞼を開いてニコッと笑いながら俺に向かってこう言うのだ。


「なんだい孝行。もう朝かい?腹減ったろ?今日は何が食べたい?」


こう言うはずなのだ。

でもばあちゃんは何も言わない。

瞼も開かない。

そのことが頭で理解した瞬間、ばあちゃんの手を握り、泣いた。

涙が止まらなかった。

嗚咽が止まらなかった。

・・・そして目の前が真っ暗になった。

「目の前が真っ暗になる」なんて言葉があるが、本当に真っ暗になるとは思いもしなかった。

早い話、俺は気を失った。


ばあちゃんの死を目の当たりにしてぶっ倒れた後、気づけば病院のベッドに寝かされていた。

寝起きの状態で若干頭がぼーっとしていたが、ばあちゃんのことを思い出し、備え付けのナースコールを押した。

すぐに看護師さんや医者が駆けつけてくれたので、ばあちゃんのことや自身のことを尋ねた。

ばあちゃんはどうなったのか、俺はなぜベッドで寝ているのか。


しばし沈黙があったが医者が俺に配慮しながら言葉を選んで丁寧に説明してくれた。

まずは俺自身のこと。

俺はどうやら急性ストレス障害で気絶してしまったらしい。

ぶっ倒れた俺はその後、救急車で病院に搬送され翌日の朝、今に至るとのことだ。

急性ストレス障害のことを医者から説明を受けた。

恐らくPTSDにはならないだろうが、カウンセラーにも見てもらう必要があるらしい。


俺のことはこのくらいでいいだろう。


ばあちゃんのとこだ。

ばあちゃんは救急隊に状態確認されていたが、到着時すでに手遅れであったとのことだ。

救急隊は基本的に死亡確認はできないらしい。

しかしながら救急隊には7項目を確認した後心電図を見てある程度の判断はできるらしい。

意識、呼吸ともに確認できず、心拍の停止、体温低下、瞳孔散大、死後硬直、死斑の出現もみられたためである。

これにより死亡不搬送となり、警察が引き継いだそうだ。

警察の検証だとか医者の診断の結果、ばあちゃんの死因は脳梗塞。

ばあちゃんの状態を見るに、俺が仕事で家を出た後に発症したらしく、死後数時間が経過していたとのことだ。

そして俺は今こうして直接医者からばあちゃんの死亡がはっきりと告げられた。


俺は言葉も出なく黙って話を聞いていることしかできなかった。

この後のことをどうするか等医者に聞かれたが、俺自身どうしたらいいかなんてさっぱりわからない。

俺とばあちゃんが懇意になっている人って言えば、俺に電話をくれたマンションの大家さんか職場の店長くらいしかパッと思いつかない。

幸い俺のズボンのポケットにスマホが入っていたため、大家さんと店長に相談も含めて連絡を入れた。


二人に電話をかけてしばらくすると、大家さんが病院に駆けつけてくれた。

俺と大家さんと医者の三人で話し合い、ばあちゃんのことは大家さんが何とかしてくれる運びとなった。


店長には事情を説明した後、しばらく仕事を休むようにと伝えられた。

一先ずは10日間の休みを頂くこととなった。

祖父母の場合普通は三日間の忌引き休暇なのだそうだが、俺の場合ばあちゃんが親というような状態であることと、俺自身の現状を含めてのことだ。

仕事に復帰するのは落ち着いてからでいいとも言われた。

店長には感謝が絶えないし、職場の仲間にも面倒をかけるなぁとぼんやりと思った。


医者からの話も終わり、しばらく大家さんと今後のことを話していたが、知らない間に俺は寝てしまっていた。

俺が起きたとき、既に大家さんの姿は見られなかった。

備え付けの時計を見るに時刻は夕方に差し掛かる前といったところだった。


ちょうど巡回に来ていた看護師さんに診察を受けて、カウンセリングを受けることとなった。

俺はその日検査入院という形で病院に一泊することになった。


そのまた翌日の朝、大家さんが俺のもとに来てくれた。

ばあちゃんの葬儀のことであれやこれやと手を回してくれたことや、葬式の件を説明してくれた。

俺自身が本当は動かなきゃいけないのにと思ってはいるが、それ以上に頭が回らない。

「ああ、でもそうか。葬式しないといけないもんな」と漠然と理解した。


頭は真っ白ではあったが、「しなくてはいけないこと」は頭の片隅では理解していたのだろう。

大家さんに促されながらもあれやこれやと葬儀の手続きを済ませた。

流れとしては枕飾り・葬儀打合せ・納棺→通夜→葬儀・告別式~出棺→火葬・骨上げ→還骨法要といった具合である。

俺も含めてばあちゃんの身内は既にいなかったし、母親方にしてもそうだった。

身内は俺一人であったし、出席者も極僅かで葬儀は小さなものになった。

ここにきてふと「ああ、また一人になっちまった」とだけは思った。


葬儀のどこかで感情が爆発するのではないかと大家さんにえらく心配されていたが、葬儀は淡々と進んでいった。

俺があまりにも黙々とこなしていたからだ。

俺としては大家さんの言うとおりにしていただけだったのだが。


あれよあれよという間に告別式も終え、火葬場に来た。

今はばあちゃんの体を焼いている間の待ち時間なのだが、その待ち時間がひどく長いように感じる。


暫くすると火葬場の人が来て、ばあちゃんの棺が取り出された。

棺は影も形もなかった。

たった1~2時間のことだったと思う。

棺の置かれていた台には白い何かがポロポロと転がっているだけだった。

骨・・・ばあちゃんの骨だ。


焼く前のばあちゃんはちゃんとばあちゃんだった。

ばあちゃんの姿形をしていた。

でも今目の前にあるのはばあちゃんの形をなさない、白い塊がポロポロと転がっているだけだ。


参列者が順番にばあちゃんの骨を菜箸みたいな長い箸で竹の筒のようなものに入れていく。

俺の順番が来て、参列者と同じようにばあちゃんの骨を筒に収めた。


その後大家さんに付き添われながら葬儀場の係員に従って書類やばあちゃんの骨を受け取って火葬場を後にした。


その後のことは正直あんまり覚えていない。

葬儀場の係員から書類やばあちゃんの骨を受け取ってから墓場に行ったような気がするのはなんとなく覚えているが、そこで何をしたかまでは覚えていない。

そしてふと気づけば、ばあちゃんの葬儀がひと段落したのか家に帰ってきていた。

多分、ばあちゃんが死んでしまったことにまだ頭の理解が追いついていないんだろう。

先ほど職場の店長と後輩ちゃんが俺の様子を見に来てくれたのは覚えているが、どんな会話をしていたかまでは覚えていない。

こりゃあ重症だなぁ・・・と思いながらじいちゃんの仏壇の前にばあちゃんの骨の入った箱を置く。


なんとなくボケっと仏壇を眺めた。

じいちゃんは俺が生まれる前に亡くなったらしいから写真でしか見たことがない。

仏壇にはじいちゃんの写真が飾られている。

ばあちゃんと比べるとだいぶ若いなぁ。


ふとその時、ばあちゃんとの今までの生活が頭をよぎった。

すると目から涙がこぼれた。

一雫こぼれてしまった。

その一雫が俺の両目のダムを決壊させた。

涙が止まらなかった。

ただひたすら子供のように俺はわんわん泣いた。

そして泣き疲れたのか、俺はいつの間にか寝てしまっていたのだった。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




ふと目が覚めた。

辺りは暗い。

いつの間にやら眠ってしまったんだろうか。

不思議と瞼が持ち上がらないのはなぜかわからないが体は動きそうだ。

起き上がろうとする時にふと後頭部の下に柔らかい感触に気づいた。

それに気づくと次は頭の前側を撫でられる感触があった。

すごく安心して何故かものすごく懐かしい。

昔・・・そう、俺が小学生の時にこんなことがあったような・・・そう思ったとき、ふと頭上から声がした。



「孝行、起きたかい?」


その声にハッとした。

ばあちゃんの声だった。

瞼を開いて起き上がろうとしたが、今度は体も動かなかった。

でも口は開ける、声も出そうだ。

だから俺は瞼越しにいるであろうばあちゃんに答えた。



「ばあちゃん?」


「ああ、そうさね。あんたのばあちゃんだよ」


「なんでばあちゃんがいるの?ばあちゃん死んじゃったじゃんか」


「なんでって・・・あんなに目の前でわんわん泣かれたら出てこないわけにはいかないだろう?」


変わらずばあちゃんは優しい手つきで俺の頭を撫でている。

多分膝枕されているんだろうな。

なんとなくばあちゃんの声にしょうがないなっていう感情が篭っている気がする。



「孝行、すまないね。お別れはもうちょっと先だと思ってたけど、思いのほか早くじいちゃんが迎えに来ちまったよ」


「ホントにさ、約束したじゃんか・・・髪の毛切るって、もう約束の日過ぎてるよ?」


「ああ、こりゃしまったね・・・じいちゃんに会う前に髪整えて貰えばよかったね」


「じいちゃん何やってんだよ・・・空気読めよマジで」


「はっはっは、許してやってよ。あんたがそうやって怒ると思ってじいちゃん、あんたのとこに来なかったんだから。ごめんって言ってたよ」


「・・・わかった」


「よしよし」


ばあちゃんはより一層優しい手つきで俺の頭を撫でた。

ものすごくホッとする。

つい先ほど前までの澱んでいた自分が洗われるようなさっぱりとした気持ちになっていく。



「落ち着いたかい?」


「だいぶね」


「そうかい、そりゃよかった」


「なあ、ばあちゃん?」


「なんだい?」


正直言うかどうしようか迷った。

でもなんとなく今言っておかないともう二度と言える機会がないと思う。

自分の胸に入れていたことを全部話すことにした。



「ばあちゃん、あのさ」


「うん」


「俺、今年で25になってさ、こうして美容師になって結構な腕も付いたと思う」


「うん」


「ばあちゃんはさ・・・その・・・俺が一人前になったって思ってたりする?」


「うーん・・・そうさねぇ・・・」


「俺はさ、ばあちゃんに引き取ってもらってから早く一人前になってばあちゃんに親孝行したいってずっと思ってた」


「うん」


「だから勉強も運動も部活も全部頑張った。ばあちゃんに早く認めてもらいたかったから仕事もすんげぇ頑張った」


「・・・うん」


「おかげで一つの目標が叶った。一人前の社会人になるって目標。俺は結構やれてる自信あるけど・・・どうかな?」


「・・・まだまだだねと言いたいところだけど、あんたはよく頑張ったって言っておくよ」


「・・・ありがと」


「あんたは・・・ばあちゃんの・・・自慢の孫・・・だよ」


ばあちゃんの声が震えてる。

あぁでもそうか、自慢の孫か・・・嬉しいな。



「実は一人前の社会人になれたかなって自覚したらさ、今度は次の目標ができちゃったんだよね」


「ふぅん、それはなんだい?」


「ばあちゃんはすんごい苦虫を潰したような顔すると思うけど・・・この先誰かと結婚して子供作ってばあちゃんに俺の子供を見せるのが二つ目の目標になった」


「・・・」


「あー・・・なんか今見えないけど、今のばあちゃんの顔が想像できる不思議」


「うるさいね」


撫でられていた箇所を叩かれた。

痛くはないけど、苦笑がこぼれた。



「やっぱ俺の父さんと母さんのことがあったから?」


「まあ・・・ねぇ、それもあるけど・・・」


「あるけど?」


「私としてはね、あんたには良一以上に幸せになってもらいたいってのが大きかったからね」


「それで俺が連れてくる女の子全部ネチネチいびってたわけ?」


「いびっとらんわい!大体あんたが連れてくる女は全員チャラチャラしたもんばっかだったろうが」


「や・・・そんなことはないと思うんだけど・・・」


「そんなことある!えーっと誰だっけか・・・あんたが最近連れてきた娘」


「後輩ちゃんかな?んと、立花凛花たちばなりんかちゃん」


「そうそう!あの娘!あんたはね・・・見る目がなさすぎる!あれは絶対家のことがロクにできない顔してるね!」


「あー・・・まあ、ばあちゃんの言わんとしているのもわかる気がしないでもないけど、実際いい娘よ?付き合ってるわけではなかったけどさ」


「だとしても!仮にあの娘と結婚して家のこと頑張ったとしても私は認めない」


「エー・・・俺、この先結婚できなくね?」


「じゃあ、私に認められるような娘連れてくるんだね」


「難易度高すぎやしませんかね?・・・でも、もうばあちゃんに見せられないんだよね」


「・・・そうだね」


俺とばあちゃんとの会話にしばしの沈黙が訪れる。

せっかくいい感じに話が出来てたのにマズったかなぁ・・・。

するとばあちゃんはコホンと咳払いをしてやけに真面目くさった感じで語りかけてきた。



「まあ、なんにせよ。これから私はあんたの連れてくる娘に文句は付けられないけど、私の眼鏡に叶う娘を連れてきたらその時は盛大に祝福してやるさ」


「やっぱ文k「黙って聞きな」・・・はい」


「もし・・・そうだね。本当にそんな娘を連れてきたらあんたが驚くようなことしてあげるよ」


「え、なにそれ?気になる」


「それはその時のお楽しみってやつだよ」


瞼越しにばあちゃんがニカッと笑った気がした。

しばし取り留めのない会話をばあちゃんとした。

あんなことがあったねとかあの時なんであんなに怒っててんだとかそんなとりとめのない話。

楽しい時間であったが何事も終わりの時間が来る。



「さて、孝行・・・ばあちゃんそろそろ行かなきゃいけないわ」


「え、なんで?もう少し話ししたいんだけど」


「そうはいってもねぇ・・・あんまりこっちにいると良くないらしいし、何よりじいちゃんが拗ねちまうよ」


「拗ねさせときゃいいじゃん、そんなもん」


ハッハッハと心底おかしそうに笑うばあちゃん。

俺の頭を撫でていた手を俺のまぶたの上に乗せた。



「孝行、最後にもう一度言うけど、あんたは私の自慢の孫だよ」


「うん」


「だからこの先の人生、後悔のないように、誰よりも幸せに過ごしな」


「わかった」


「じゃあね、孝行。あんたの子供見てやれなくてごめんね」


俺の瞼から手が離れ、床に優しく頭が置かれた。

俺は無意識に閉じたままだった瞼を開いて体を起こした。



「ばあちゃん!」


俺から離れすぅっと姿が薄くなっていくばあちゃんの姿が見えた。

俺の声にばあちゃんは振り向き少し寂しそうに笑って手を振った。



「ばあちゃん、俺を育ててくれてありがとう!これからの人生ばあちゃんに自慢できるように頑張ってみる!」


俺の言葉にばあちゃんはうんと頷いて消えていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ