表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時をかけて祖母孝行  作者: あられうす
1/3

プロローグ前編:出来ずの親孝行

勢いだけで書きました。フリガナは後々追加します。

盆休みの息抜きに書いてます

祖母が経営するマンションの大家さんから何故か俺に電話が来た。

仕事終わりに職場の仲間と駅前の居酒屋で飲んでいた時だった。

普段家には祖母がいるため、普通なら自宅の方へと電話が行くはずなのだが、何故か俺の携帯にだった。

不思議に思いながら職場の仲間に断りを入れて居酒屋の外に出ながら携帯に出た。


「もしもし?」


「ああ、 孝行たかゆき君かい?今大丈夫かな?」


「ええ、大丈夫です。俺に電話なんてどうしたんですか?」


「ああ、それなんだがね・・・」


大家さんから話を聞くに祖母とマンションのことで相談をするため、電話したそうなのだ。

しかし、何度電話をかけても祖母が出ることがなく心配した大家さんが俺の携帯に連絡を寄越したとのこと。

ばあちゃんが電話に出ないなんて珍しい。

どこかに出かけているのだろうか。


そんなに遅い時間ではないが大家さんの件もあるので、飲みは抜けることにした。

職場の仲間や後輩からはブーイングを喰らうことになったが、俺の愛嬌で華麗に回避する。

めんどくさいというわけではないが、埋め合わせをキチッとしておかないと職場の仲間はともかく後輩ちゃんがめんどくさいことになる。

そんなこんなで少し多めに会計の金額を手渡し、車に乗り込み自宅への帰路につくことにした。

帰宅の道中、車内にてばあちゃんのことを思い浮かべる。


今年で79になったばあちゃんだが、すこぶる元気だ。

痴呆もなく未だにマンション経営をバリバリにこなしてるぐらいだ。

美容師なんて仕事をしていると帰りが遅くなったりするのは割と当たり前なのだが、「早く帰って来い」だの「飯はちゃんとウチで食え」とか口うるさく言ってくる。

俺自身今年で25になったが、未だに口喧嘩で勝てた試しがない。

もっとも俺がばあちゃんに頭が上がらないだけなのだが・・・。


というのも、俺こと「柊崎孝行(ふきざきたかゆき)」は柊崎という姓ではあるが、柊崎の人間ではない。

ばあちゃんの血縁関係にはないということだ。

俺の両親は既に亡くなっているが、父親はばあちゃんの息子だ。

父親はばあちゃんの血縁であるのに、なぜ俺は血縁ではないのか。

それは俺が母親の連れ子であったからだ。

つまり、俺の母親は柊崎家の父親と再婚したためである。


母親のことは詳しくはわからないのだが、元々天涯孤独の身であったらしく、どこかの男との間に俺を身籠もったらしい。

その後その男と別れ、父親である柊崎良一ふきざきりょういちと出会い、再婚したのだそうだ。

ばあちゃんは当時猛反対して、挙げ句の果てには母親とどうしても結婚したいのなら家を出ていけと言い、勘当同然で追い出したらしい。

父親も家を取るか母親を取るかで選択を迫られたがあっさり母親を取り、駆け落ちしたのだそうだ。


義理の父親となった良一と母親の静香(しずか)は晴れて結婚し、幸せであったのだろうと幼いながらに俺もおぼろげに覚えている。

俺自身義理の父親の良一に可愛がってもらっていたことも覚えている。


しかしあるとき、家族で車で旅行に行った時だった。

道中事故に遭い、あっさり両親は亡くなった。

俺は少しの怪我だけで無事に済んだが、天涯孤独の身になってしまった。

しかし息子の死を知ったばあちゃんが来て、不憫に思ったばあちゃんが俺を引き取ったのが始まりだ。


最初こそ血縁でない俺にばあちゃんはどう接していいかわからないようであったし、俺自身もばあちゃんとの距離を測りかねていた。

いきなり「私があなたのおばあちゃんだから」と言われても当時の俺には何が何やらわからなかった。

突然両親を失い、途方に暮れていたのも束の間ばあちゃんの出現である。


驚き戸惑うのも無理ないかなぁと今でも当時を思って苦笑する。

そんな当時であったが、それでもばあちゃんは試行錯誤しながら俺と接していくうちにお互いに歩み寄り家族となった。

ばあちゃんは俺をとても良く可愛がってくれた。

小学校に上がる前だった俺を学校に通わせてくれたし、中学に上がってから高校、専門学校にも入れてくれた。

中学からは毎日欠かさず弁当を作ってくれたし、誕生日も毎年祝ってくれた。

まるで自分の息子のように接してくれていたように思う。


だから俺もそんなばあちゃんにいつか恩返しがしたいなと思うようになった。

子供ながらにばあちゃんが胸を張って自慢できるような孫でいたいと心から思った。

小学校に上がって勉強や運動を頑張ったし、友達作りも励んだ。

結果各学年での成績は上位におり、友達もたくさんできた。

おまけに卒業生の言葉とか、中学入学の時も新入生の言葉なんかも壇上で言うハメになった。

中学も変わらず成績は上位にいたし、部活も結構頑張つもりだ。

もちろん友人関係も良好を維持。

そのおかげなのかどうかはわからないが、それなりにモテた。

しかしばあちゃんにいい顔をされなかったため長くは続かなかったが・・・。

そんな感じの中学時代を過ごし、高校も成績優秀者が行くところも合格できた。

高校でも相変わらずの成績を維持し続けれたし、部活も友人関係も良好。

ただ、中学よりも若干増した男女間についてはばあちゃんがry・・・。


そして更に受験という頃になってばあちゃんと軽く衝突することとなったのは今でも記憶が新しい。

「せっかく良い高校で良い成績を収めたのだから良い大学にいけ」というのがばあちゃんの意見。

反面俺は早く働きたかったが、ばあちゃんの手前「専門学校に行きたい」といったのだ。

俺としては高校卒業後すぐに就職でも良かった。

高校卒業して仕事を見つけて働けば大人の仲間入りができると当時の俺は思っていた。

早くばあちゃんに一人前だと認めてもらいたかったのだ。

しかしそうは問屋が下ろさないのがばあちゃんだ。

そんなこんなで軽い衝突はあったものの、渋々ばあちゃんは専門学校に入れてくれた。


当時の世間だけを見ていればばあちゃんの意見は当然のことだったのだろうが、今にして思えば俺の意見は正しかったように思う。

何せ、俺が専門学校を卒業した翌年にはリーマンショックで就職先がなかなか見つからず嘆いていたのが懐かしい。


俺が進んだのは美容専門学校だ。

他にも車関係や電気関係や医療関係等その他もろもろもあったが、いかんせんこれといって興味がなかった。

消去法で残ったのが美容関係だったのだ。

元々髪の毛をいじるのは嫌いではなかったし、ファッション雑誌を見る機会も結構あったのもある。

なにより高校が男女共学であったため、そういった話題には事欠かなかったのが主な要因だろう。


専門学校在学中は高校の時までとは違ってセンスや日々の努力が物を言う。

日々の努力は別段苦ではなかったが、センスはいかんともしがたいものがある。

それでも努力を続けた結果、奇跡的にセンスも努力に追いつき、国家試験も合格し無事卒業に至った。


その後地元駅前のサロンに無事就職し、修行を経て今に至るといった具合だ。

サロンの店長も結構業界の間では名が知れていて、そんな人の下で働けている俺は幸せだと思う。

それもこれもなんだかんだでここまで育ててくれたばあちゃんのおかげだろう。


「ほんと、ばあちゃんには頭があがらないなぁ・・・」


俺は苦笑しながらふとこぼれた言葉にまた苦笑した。

学校も卒業して国家試験も合格して手に職をつけた。

俺も今年で25になった。

そろそろ嫁さんを見つけて、子供をばあちゃんに見てもらいたいと思うようになった。

流石にばあちゃんもこの歳になったら誰を連れてきても文句は言わないだろう・・・と思う。

そして気づけば自宅の近くまで来ていた。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




自宅の車庫に車を止めて玄関に向かう。

ばあちゃんの家、もとい俺の自宅はそれなりにデカい。

ばあちゃんがマンション経営しているということからなんとなく想像してもらえるかもしれないが、ばあちゃんはここら一帯の地主である。

そんなばあちゃんの孫である俺は裕福なんだろうが、俺はばあちゃんの資産をどうこうするつもりは毛頭ない。

あくまでばあちゃんの所有物であるから俺のものではない。

俺は俺自身で稼いだお金で手に入れなくてなばあちゃんに認めてもらえないだろう。

何より俺自身が納得いかないというのもある。


それはさて置き、ふと気になったことだが玄関に明かりがついていないことに気づいた。

スマホの時間を確認すると21:00と表示されている。

この時間に玄関に明かりがついていないのがおかしい。


普段なら既に玄関の明かりがついており、家に入るとばあちゃんが「遅い!」と文句をつけてくるのだ。

おまけに今日は電話も入れずに飲みに行っていたから小言を言われるに違いない。







・・・そう、思っていた。

玄関を開けるまでは。

あの毎日すこぶる元気なばあちゃんが玄関先で倒れていることなんて。







ただいまと言いながら玄関の扉を開けて驚いた。

ばあちゃんが倒れていたのだ。

俺は慌てて荷物を放り出し、ばあちゃんに駆け寄った。

ばあちゃんを抱き起こそうとするもばあちゃんの体が嫌に冷たい。

そしてばあちゃんの体が恐ろしく固いのだ。

まるで関節のないマネキンのように・・・。


頭の中がぐちゃぐちゃになる。


なんで?


あさはめっちゃげんきだったじゃん?


どうして?


頭の中がぐちゃぐちゃになってはいるが救急車を呼ばなきゃという言葉が過ぎった。

俺はポケットからスマホを取り出し119番を押した。

緊急ダイヤルですぐに電話越しに女性の声が聞こえる。

正直電話越しの女性が何を言っているのかさっぱりわからなかった。

ただ俺は「ばあちゃんが倒れてる」「体が冷たくなってて固くなってる」「どうしたらいい?」「早く救急車をよこせ」を連呼していた。

電話越しの女性に落ち着くように言われてなんとか住所だけは伝えられたと思う。


救急車が来るまでのあいだの時間がひどくもどかしい。

自分に何ができるんだろうか。

冷たくなっているから温めなくては?

違う。

心臓マッサージ?人工呼吸?

頭はぐちゃぐちゃになりながらも回転しているが体が動かない。

救急車はまだか?

1分1秒が何時間にも思われた。

ただただ俺は救急車が車での間、ばあちゃんに呼びかけ続けることだけしかできなかった。


遠くの方で救急車のサイレン音が聞こえてきて近づくにつれてサイレン音が大きくなっていく。

やっと到着かと思っていると家の近くでサイレン音が止んだ。

家の近くに人の気配がする。

やけに感覚が鋭敏になっているような気がする。

慌ただしく数名の人が家に入ってきて、俺はこれでばあちゃんは何とかなると思う反面、レスキュー隊が来たところでどうにもならないとも思っていた。

不思議な・・・というより変な気分だった。


数人いるレスキュー隊の内の一人が俺に近づいてきて俺に大丈夫ですか?と声をかけてきた。

女性の声だった。

俺はいいからばあちゃんを見てくれよと思いながら。


レスキュー隊の人がばあちゃんを確認している。

玄関は嫌に静かだった。


そして・・・。


レスキュー隊の人はあれやこれや小難しいことを言っているが俺の頭にはさっぱり詳しい内容が入ってこない。

ただわかることはようするにあれだろ?



ばあちゃんは既に亡くなっているってことだろ?




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




ばあちゃんは俺に髪を整えてもらうのが大好きだった。

今朝、仕事に行く間際のばあちゃんとのやり取りが頭を過ぎった。


「孝行、あんた明日仕事休みかい?」


「ん?おぉ、特に予定も入れてないから空いてるけど?」


「そうかい、じゃあ、明日髪を切ってもらっていいかい?」


「いいよ、どんな感じにすんの?」


俺が尋ねるとばあちゃんは顎に手を当てうーんと考えを巡らせる。

考えるとき顎に手を当てるのはばあちゃんの癖だ。


「そうだねぇ・・・今風の女の子はどんなふうにしてんだい?」


「はぁ?ばあちゃん今風の髪型にしたいの?」


「なんだい、おかしいかい?」


「いや、おかしいってか歳考えなさいよ・・・いつもの全体ショートのサイド横流しの上品な感じが一番いいんじゃねぇの?」


ばあちゃんが今風の女性のような髪型にするのは何か違う。

やっぱばあちゃんはいつもの上品な感じが一番似合ってると思う。

するとばあちゃんはニカッと笑う。


「じゃあ、『いつもの』あんたのおまかせで頼むわ」


「まかしとけ。そんじゃ行ってくるわー」


「はいよ、気をつけていってらっしゃい」


ばあちゃんが俺に手を振って俺を送り出す姿が目に浮かぶ。

朝約束したじゃねぇかよ・・・。

明日髪切るって。

もうばあちゃんに今俺ができる親孝行できないじゃんか。

それどころかこれからってときじゃねぇか。

この先俺が誰かと結婚して子供作って、その子供をばあちゃんに見てもらうのが夢だったんだ。

ばあちゃんに「ばあちゃんのおかげで俺も父親になれた。ありがとう」って言えないじゃねぇか。


「ばあちゃん・・・」


ばあちゃんから帰ってくる言葉は何もない。

俺は冷たくなっているばあちゃんの手を握り、泣いた。





その日、俺は唯一の家族である祖母を失った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ