もう一度会いたいと望んでいる。
気づけば11弾。連載にしたほうがいいのだろうかと思うこのごろ。一番最初のお話だけだったはずが、書いてたら思いついてしまい長くなっております。
ずっと、後悔していることがある。
十数年前、俺は親友だったはずの男にひどいことをしてしまった。あの頃、当時の俺はおかしかった。酷いことをした自覚なんてまったくなくて、だけど、あの男ルイスから離れたら--客観的に見てみたら俺は酷いことをした。
それに気づいたのが、あいつがいなくなって何年もたった後で、俺は呆然としたものだ。
あいつ、ディーク・アブルストは、俺にとって昔からの親友だった。ずっと、親友でいれると思ってたのに。あの日、あの男が、ルイスがやってきて狂ってしまった。
俺はルイスを親友と思って騎士学校を過ごした。
ディークがいなくなった時も、俺はなんとも思わなかった。ただルイスを悲しませる、そんな存在に憤慨していた。
おかしかったのだ。俺も、そしてまわりも。
だって、ディークは少なくともルイスがやってくるまで人気者だった。
公爵家の次男っていう優良物件で、努力家で、やさしくて、それでいてどんな女の子にアプローチかけられても断ってて。一途で、やさしい、まじめな親友。
学校でも人気で、周りからの評判も良くて。
そう、そんな親友が、いなくなったのに誰も悲しまなかったのはおかしかった。
何か強制的な力が働いていたかのように、俺はあいつがいなくなったのを気にしなかった。
そもそも、あいつの誕生日の日、いくらルイスと誕生日が同じであってもあいつの誕生を誰も祝わなかったのだ。なんて、ありえない話だ。
あいつは家族仲が良かった。アルノだって、あいつを好きで、あいつらは両思いだった。
なのに、誰も、あいつを見なくなっていた。俺も含めて、誰も--。
気づいた時、ぞっとした。違和感を感じてしばらくして、そのことに気づいて俺は、怖くなった。俺はそのことに気づけたけれど、まわりは気づけてなかった。
違和感を感じている人たちはいた。でも、母さんも、ディークをかわいがっていたはずなのに、俺の親友は”昔からルイスだった”といった。
子爵家の俺と仲良くしてくれて、「呼び捨てでいいよ」って笑ってくれたのはディークなのに。
親友はディークだった。
ディークとの想い出がある。
なのに、一番の親友はルイスだと、まるで上書きされたようにそれが事実になっていたのだ。
ディークが親友だったなんて告げればおかしいといわれた。ルイスを悲しませた男だと。皆が罵倒した。いえなかった。俺は臆病だった。
怖かった。
苦しかった。
だから、逃げた。
考えないように、あいつの痕跡の残っている場所にいかないように。でも時折考えてしまう。どうして、俺はあいつの、親友のままでいられなかったんだろうって。あいつはどれだけ苦しかったんだろうって。
そんな日々をすごす中で、俺はあいつの甥に出会った。
「貴方が、シュン・ベレッドか?」
その少年を見たとき、驚いた。赤い髪。見覚えのある顔立ち。それは、幼い頃のディークにそっくりだった。
「……貴方、は」
「俺はリュシュエル・アブルスト。ディーク叔父さんの、甥だな。ちょっと話をしたい」
その少年は、ディークの甥だと名乗った。ディークの甥が、俺に何の用だと驚いた。
そして俺たちは個室のレストランに入った。
「俺に何の用ですか」
「貴方は、ルイス・アブルストのそばにはいない。むしろ、他の同級生たちと違い、彼らを避けている」
リュシュエル様の、ルイスのことを呼ぶ声が冷たくて驚いた。だってルイスに優しい存在以外居ない世界だと思っていたから。特に、アブルスト公爵家の家では。
「貴方は、気づいたのだろう。ルイス・アブルストの異常性に。ディーク叔父さんが、親友であったことにも気づいているのだろう?」
その言葉に、俺が動揺したのは当然だろう。
まだ十六歳であるらしい、リュシュエル様が、家のおかしさに気づいていることに驚いた。だってディークの両親も、兄も、そして幼馴染のアルノでさえもディークを一切気にしないことを当たり前のように受け止めていたのに。
「やっぱりか。俺と貴方は同じだな」
「同じ?」
「ああ、信じられないかもしれないが」
そして、リュシュエル様の話された話は現実味のないものだった。リュシュエル様が転生者であること。前世で同じ過ちを起こしたこと。ルイスに魅了と侵食という恐るべき能力が存在していること。
信じられない話だ。でも、嘘だとも思えない。
その現実味のない話を俺は実際に経験しているのだから。実際に、親友だったディークよりもルイスを親友としてしまっていたのだから。
「俺はディーク叔父さんに会いたい。俺が前世で傷つけてしまった由菜なのかもしれないって思っている。会いたいんだ。もし、違ったとしても俺は由菜のときのように間違えたくない。弟を救ってくれたディーク叔父さんにはお礼を言いたい」
「……俺も、ディークに会いたい。あや、まりたい」
もう一度親友になんて都合の良い話は無理かもしれない。でも、謝りたい。それが、本音だった。今更あいつに会うことなんて出来ないって、逃げて。周りの現状が怖くて仕方がなくて、逃げて。逃げてばかりだった俺。でも、「ごめん、ディーク」って一言でいい謝りたい。
どこにいるかもわからない親友。
俺がおかしくなって、傷つけてしまった親友。
「……俺だって、由菜に謝りたい」
泣き出しそうな顔をするリュシュエル様。先ほどの話の中で、ディークは前世女だったのだという。もし、ディークがリュシュエル様の裏切ってしまった由菜という女性ならばだが。
リュシュエル様は由菜という女性を好きだったのかもしれない。愛していたのかもしれない。
もし、自分が愛している女性を、その恐ろしい能力ゆえに自殺まで追い込んでしまったらと思うと恐ろしい。その苦しみは計り知れない。
どれほどの絶望を感じただろう。どれほど苦しかったのだろう。
俺の半分も生きていないだろうに、前世の記憶があり、そんなものをリュシュエル様は背負っているのだ。
「ディークを、探しに行きますか」
「……行きたいけど、俺はやることがある」
「やることとは?」
「アブルスト公爵家の実権をまだ握れていない。ルイス・アブルストの思いをかなえようとするあいつらをどうにかしなければならない。ルイス・アブルストのためならなんだってしてしまうんだ。あの人たちは。このままじゃだめだ。ディーク叔父さんが、少しでも帰ってこれる環境を作りたい。……出来れば、あんなはた迷惑な能力を授けた神様をぶん殴ってやりたい気分だ」
リュシュエル様は、色々なものを背負っている。ルイスを優先し続ける家の中で、どうにかがんばろうとしている。そんな姿を見て、昔のディークを思った。
一生懸命剣術を学んでいたディーク。
人に優しくして、俺が親友だといったら嬉しそうに笑っていたディーク。
もし、ディークにその由菜という女性の記憶があったのならば、奪われ続けた記憶があったからこそ俺の言葉に嬉しそうに笑っていたのかもしれない。
「俺の変わりに、弟を連れて行ってほしい」
「弟様を?」
「ああ。ディーク叔父さんにあこがれて、冒険者になりたいっていっている。もう少ししたらあいつも十五歳になる。父上も、母上も許さないだろう。でも、俺はあいつに自由に生きてほしい。やりたいこと、やらせてやりたい」
「弟様と一緒に、ディークを探せばいいのですか」
「ああ。頼む」
俺はその頼みを了承した。
---もう一度会いたいと望んでいる。
(変な力が作用しようとも酷い態度をしてしまった。そんな親友に、俺はもう一度謝りたい)
シュン・ベレッド
ディークの親友だった人。
ルイスがディークの従兄弟だからと優しくしていたら侵食能力に引っかかってしまい、ルイスを優先してしまった。
違和感を感じて気づいた時、周りが全員ルイスを優先していて怖くて逃げてしまった。
でもディークにあえたら謝りたいと思っている。
このシリーズ思いついて、書きたいなって時に書いているので色々間が開いています。
最初、『願うのは、ただ一つ』を書いたときはミーナも頭にいませんでしたし、神のことも考えていなかったのですが、どうしてルイスを優先するかということを考えていたら頭の中で話が広がってしまったのですよね。