試される者達
グァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
怪獣映画さがながらの雄叫びをあげるオークと呼ばれていた化け物は一発でも食らえば即死コース間違いなしの骨まで砕いてしまいそうな程に大きな棍棒らしき物を握っている。
「威勢よく言ったまではいいが...これ、どうすんだ」
内心では不安まみれの自分は自然とそんなことを口にしていた。
残り拳銃の使用可能数は3丁、今にして思ったことだが拳銃なんて物は同じ物なら1丁所持してさえいれば弾を抜くだけで良かったのだ。
つくづく自分自身が要領の悪い不器用で馬鹿な奴だと再認識する。
「はぁ...まぁ、今更感満載だよな~」
だが、奴と対峙する最中で俺は拳銃2丁をポケットに忍ばせているので取り出しには問題ない。だが、実際問題で自分は銃の扱いなんてものは分からない。何かの間違いで自分の足を撃っていたなんてことにならないで欲しいものだと考えていたりしたが...。
依然として敵は動きを見せず此方も簡単には動けない状況となっている。しかし、いつまでも時間を浪費するわけにもいかない。
このままでは拉致があかない。そう思った俺は敵に前方から突っ込む様なフェイントをかけることにした。
「てめぇが動かないならこっちから行くぜ!!」
勢い良く走る振りをしてすかさず後ろに下がる。
オークはそれに騙され此方に一直線に向かってくる。
ドスッドスッドスッドスッドスッ!!!!
踏みしめる足音は加速し、オークの持つ獲物が頭上高く振り上げられるがいかにもみえみえな攻撃だ。寸前の所で回避行動をとり、ズドンという重い一撃は地面に放たれる。
その瞬間を逃すまいとオークの頭にバスンバスンバスンバスン!!!!と連続的に弾丸を命中させる。
ウガァ!!!!っと叫び多少よろめきはしたものオークのデカイ体は未だに健在している。
「あははは~...やっぱりすんなりと死んだりはしないですよね~...」
と、そんな余裕を見せたのがいけなかった。
不意に横腹辺りに何かを視認した。それまでは死角だったのか...油断していたのか分からなかったが感知する事ができなかった。
その刹那...猛烈な勢いは止まらずに此方に向かってくる。
慌てて俺は回避行動をとるが、頭の中はパニック状態をとっくに通り過ぎてしまい。真っ白になっていた。
足は縺れてバランスを瞬く間に崩してしまいその場に、ド派手に尻餅を着いて倒れてしまう。
その僅かな瞬間に頭上、数センチ足らずの距離でブォン!!と鈍く風を切る音が鳴る。よくよく視認してみるとそれは、オークの握りしめていた獲物であった。運良く回避は出来たものの、次の瞬間に俺は今の状態では次はないと確信する。
すぐさまに生きたいと願う本能は拳銃を自然と引き抜かせ、オークの頭部に目掛けて祈り、願いを込める様にして弾丸を撃ち込む。
「うあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!頼む!!頼みますから死んでください!!!!!!!!!!!!!!なんでも...いや、なんでもはしないけど死んでください!!!!!!!!」
バン!!バン!!バン!!バン!!バン!!
連続的に至近距離から頭部を撃つ。闇雲に、ひたすらに弾丸に願いを込めて!!終わってくれと願う。
しかし...一呼吸置いた後に...
「ぐぎぁぁぁぁぁぁう!!!!!!!!!!ぐるぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」
訳の分からん叫びと同時に大きく威嚇にも見える行動をとるオークに俺は完全にビビる。
「あああああああああああああ!!ああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
咄嗟というよりも反射的にもう一方から更に拳銃を引き抜き、焦りまくったままで弾丸を撃ち込む。こうなればヤケクソもいいとこだ。
バン!!バン!!バン!!バン!!バン!!
全弾頭部に命中、流石に強靭な肉体を持っているにせよただではすまない筈だ、あくまで予想の息を出ないが...。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ...う...う...うぐぁ...」
オークの声は次第に途切れ途切れとなっていき、ドスン!!と握りしめていた棍棒を落とし...大胆に膝からくずおれていく。紙一重で下敷きにならずにも済み、途端に体から緊張の糸がプツリと切れていた。
「っはぁぁぁぁ!!!!!!やってやったぞ!!!!うらぁぁぁぁ!!」
そのまま、大の字になり大地と言う広大な母に体を預けた。
「すまない...後は終わったら起こしてくれ、鈴羅さん...多々良...っち...もう、無理だわ限界」
独り言をつぶやいて勝手に俺はバトンタッチした気分でそのまま意識を零としていった。
~時は少し遡り15分前~
目の前には小柄な少女が立ちふさがる。華奢な癖に圧倒的かつ存在感、余裕めいたその表情。これほどにまで圧を与えてくる人物もそうそういないだろう。厄介なことこの上ない相手だ。
「やはり、名前をお聞かせ下さいませんか?」
二人の少女を前にして流暢な日本語で問いかける。
「...そこまで知りたいなら教えてあげるわ。私は、鈴羅楪」
「いいねぇ...先輩が名乗ったなら私も名前を教えてあげないとなぁ!!良く聞きな?私の名前は多々良緒だ!!よーく頭に叩き込んでおきな!!」
「...ッ!!お前が多々良...か」
多々良さんが名前を言った直後、ニーナの表情に変化が生じた。
そして、同時に彼女は此方に聞き取れないトーンで何かを呟いてたが一々気にしてなどいられなかった。
「では、始めましょうか。多々良さん貴方の力を試させて貰うわ」
私と多々良さんは武器を構え直し、一点にニーナを睨み付ける。
すると彼女の懐からは小型のナイフ...それを視認した瞬間に頭の中でリンクするものがあった。
「アンタ、そのナイフ奪ったわね!!だからあのときアイツにぶつかったのね!!手癖まで悪いのね」
「Oh!ハラショー!!まさか、これだけで気付くなんて!!ヤリマスネー」
「悪趣味ね」
「でも、こんな物を盗られる方が悪いんですよ?ウスノロで頭が常々お花畑だからこんなことにも気付かない」
ニヤリと笑い...
「アンタ達の頼りないしょぼいクソ男は...あはははは!!あははははは」
その瞬間!!私の横から風を切るような、まるで残像を出す勢いで多々良さんがニーナ目掛けて低姿勢を保ち、果敢に攻めていく。そのままの勢いと姿勢から鋭い一閃をニーナに向けて解き放つがその一閃は何もない空間を切り裂き、ヒュン!!っと大きく空振りをしていた。
すかさず体勢を立て直し、多々良さんは視線を自分自身の頭上へと向ける。奴は、戦闘訓練を受けているのだろうか。
その視線に導かれる様にして私はニーナに向けて目を走らせる。すると多々良さんの頭上を軽々とバク転をして優雅に、軽やかに多々良さんの小柄な背丈を同じ背丈くらいのニーナが飛び越える姿が見えた。
身体能力の異常なまでの高さに翻弄されていた私とはうってかわり、多々良さんは軽く舌打ちをすると体を半回転させてその勢いを利用して凪ぎ払いと同時にバックステップで後退する。
その一瞬の出来事の最中で硬い金属製の物がぶつかり合う音が響く。
カキィィン!!!!ぶつかった瞬間に軽く火花が散り、お互いに本気で殺そうとしてることが分かった。
「チッ!!やるじゃ...」
多々良さんが何かを言いかけていたがすぐに口を閉じてしまった。
ニーナが多々良さんの右横腹から低姿勢で潜り込んでいたのだ。
そして、ニーナはナイフを思いきり多々良さんの顔面に目掛けて縦方向に振り上げられる!!
サッ!!っと短く閃光が走る。
「ぐあ!!!!お前!!何なんだ!!ただ者じゃないな!!」
ナイフが頬を掠めたのだろうそこからは赤い鮮血が噴き出していた。
そのまま、ニーナは多々良さんが刀を扱えない距離にまで接近して多々良さんの耳元で微かに口を動かした。
「なっ...!!」
短い声と共にドスッ!!っと言う重い音が響く。
「カッ!!ハッ!!」
普段の可愛らしい多々良さんの表情は歪み、口から唾液の飛沫を飛ばしてその場に崩れていく。ニーナの膝蹴りが多々良さんの溝を居抜いていた。手加減丸出しで、肩で呼吸すらしていない。
「はぁ...面白くないです。口ほどにもない...詰まらない」
彼女は両掌を空に向けてひっくり返してやれやれと言った感じでオーバーアクションを起こす。
そして、ニーナは誰かと連絡を取り始める。
「あー...此方ニーナ、此方ニーナ、ターゲット捕捉。えぇ...えぇ...はい。分かりました、では暫くは観察対象ということですね?えぇ...はい、分かりました」
ふぅ...っと短く息を吐き捨ててニーナは私に目を向けた。
「キョウがさめました...この程度ではハリアイもクソもありません...殺す意味もない」
「あ...ッ!!あ...!!」
私は必死に声を出そうとしたが全く言葉とならずに消えて行った。
「次の目的地は決まってイマス。そこの偽りだらけの偽者から聞けばいい本物ですらないアナタに価値はない」
呆れた様子でニーナはそう告げると瞬く間に深い深い闇の中にまるで溶けたかの様に姿を消した。
そして、私は思い知ったのだ...上には上がいること...更に...今の私達では手も足も出せずに圧倒されてしまう程の者がいることを...。
「なによ...あれ...」
鎮まりかえった闇の中で私は一人しばらく、佇んでいた。
~試される者達~ END To be continued
次回新作投稿はリアルがちょっぴり多忙ですので未定...(´・ω・`)感想等もお待ちしております。
それでは次回作にてまた、お会い致しましょう。