一時の猶予
「お初にお目にかかりますぅ~でしょうねッ!! わたくしめぇえええの名は――」
あからさまにねっとりと付き纏うような声のトーンでそいつは自己紹介をしようとしている。
「撃てぇ!!!!」
そんな自己紹介をしてる瞬間こそがチャンス!! 有無も言わさず、鉛弾が次々に放たれる。
「あらぁ!! あぁあああああ!!あらららあらぁ!?」
瞬きをした次の瞬間だった。僕の後衛で同じ様に鉛弾をぶち撒けていた部隊の人間が、僕の視界に映し出される。
代わりに、背後で不気味な声が響いている。
「なッ――!?」
そのまま、無数の弾丸は制御できるはずもなく……2名の命が自分たちの放った弾丸によって、血飛沫を撒き散らしながら絶命していった。
「愛しきぃいいい!! 鉛弾の雨にぃいい!!! 恋焦がれて儚くちってゆぅううううくぅううう!!」
全員が素早く背後を確認しようとするが――。
「ざぁんねんだぁ!! 何処をみているお前たち」
押し殺した低い声は凄まじい速さで、ナイフを引き抜きターゲットの首筋を引き裂く。
「さがれ!! 隊列を崩すな!!」
状況を素早く理解し、敵との距離を取る様に隊長が命令を下す。
「あふーーーん!! 素晴らしいぃぃい!!やはり対応力が一般の輩とはちがいますねぇ~」
ニタニタと笑いながら関心した様子で適合者は語る。
「そりゃあ~どうも!! 生憎とこちらも荒事に対しては専門家なものでね」
「では、あらためまぁああして!! 私めは二神宗一って言いますですですのよぉ」
「ああ、そうかい!! 俺達は名乗る程のモンでもねぇ!!テメェが死んでくれりゃ構わないからな」
遠距離での戦闘は不利と判断し、二神を囲むような形で半円形の陣形を取り、真っ青な刀身を鞘から引き抜く。
「ほーーーうほうほうほう!! 近接戦闘ならば勝てると踏んできましたかぁああ!!アッっハッ!!」
不意に、二神の視線が僕に注がれた。
次の瞬間には僕の立ち位置は二神が立っていた場所に移し替えられ、隊長目掛けて二神がナイフを振りかざしていた。
「え?一体!?」
唾液を飲み込むことすら許さない一瞬の変化でさえも隊長は見事に反応し、敵の一撃を防ぐ。
軽く、火花が巻き起こる程の一撃を受け流し、再び奴を取り囲む。
「むむむむぅううううう!! ヤリオルマンですねぇ!!!!人間離れした反射神経ですねぇ~えぇ!?」
「オタクこそ、妙なイリュージョンを見せてくれますね」
二神は僕に背後を見せている……今ならば奴を殺せる。
銀色の髪の毛を抜き取り、やつに向けて思いっきり振り抜く。
細い一閃は素直な弾道で二神の頭部ではなく、2人ほどの頭部が胴体と分離して地面に転がり落ちた。
「よぉおおくできました。ご褒美です」
ドスリッ!!
鈍い音が脇腹辺りから響く、肉を引き裂くことに特化した鋭利なナイフが突き刺さる。
「グッアァアアああああああああああ!!!!!!!」
「おおおおおおおおおおおおおん!!!!! 最高なぁあああああ叫び声を上げるじゃあああああん!」
反撃をするために刀を振り抜く――。
そして、その刃の先には仲間の体が突き刺さり、いつの間にか目の前で赤い血を吹き出している。
「懲りない奴らだ。私はなーーーーんにもしてないのに、勝手に仲間を殺すなんてあぁ!! 嘘ついちゃいましたねぇ!! アッヒョ!!」
「総員!! ヤツから距離を保て!!無闇に近づく――」
「はぁーい残念!!」
離れた先で孤立気味になった2人が脳天にナイフを生やして絶命する。
「ふふ!! ふあははははははふふふ!!」
「くっそ、こんなところで!! 殺られる訳には行かない!!」
果敢に二神へと向けて凄まじい速さで隊長が接近する。
そして、刃を向けた隊長の目の前に僕が突き出される。
「はッ!! かかったな!!奴を捕らえろ!!新人!!」
髪を抜き取り、ヤツの足をすかさず捕らえて締め上げる。
「なぁあああ!! ぎざまぁあああああああ!!!!」
相手が油断した瞬間を逃さない、後方確認せずに回避したのが敗因だ。お前が後退りした先は壁がすぐに行く手を阻んでいる。どうしたって後ろに避けることに全振りしたステップの勢いは殺せない!!
となれば、自然と足はもたつく……。
片足を縛り上げたまま左右に振り回し、地面や壁に叩きつける。
顔の形がぐちゃぐちゃになるまで永遠と繰り返す。
何度も何度も何度も
何度も
何度も
何度も
何度も
なんども
何度も
何度も 何度も なんども
3分ほど叩きつけ回った頃には、ピクリとも動かなくなった。ありとあらゆる骨は砕けたか、複雑に骨折していることだろう。おまけに頭も潰れているとなれば、死んでいることは間違いない。
「ハァ、ハァ……時間を取られましたが、先に進みましょう」
「生存者は6名か……時間がない!! 急ぐぞ!!」
元々犠牲者が出ることは想定していたが、予想よりも被害が大きくなってしまった。
二神によってマザー自体が十分に逃走できる程の猶予を作られてしまっている。
「走れるか? 新人クン」
「ここでへばって走れないなんて抜かしません!! イケます!!」
次第に修復されるであろう傷の回復待っている暇はない、一刻も早くマザーの抹殺をしなければならない。
「走れえぇえええ!!!」
二神と対峙した広い空間の先にあった自動ドアをくぐり、長い廊下が続く部屋をひたすらに走り続ける。
「ドアだ!!」
長い廊下の先には、これまた一際重厚な扉が存在していた!! となれば僕の一閃で無理やりこじ開けるまでだ。
「一発ここでもカマしてやれ!! 新人!!」
「言われなくても!!!! 準備万端です!!」
既に準備した髪の毛で、分厚いドアを破壊する。強引に破壊した扉の先で白衣を着た女性が佇んでいた。
「おい!! そこのボサボサ頭!!!アンタがマザーか?」
怒りを露わにした隊長が叫ぶ。
「如何にも!! このプリチーでピチピチな女神である私こそがマザーだよん♪」
「は?」
「え?」
目の下には逞しいほどに立派な隈を作り、盆栽の様に爆発した長髪は白衣を着ていることもあり、より一層その存在感を際立たせている。
「ふぅうーーーーはははは!!! 如何にも、この私こそが亡者を支配し後に世界の頂点に立つ者だ」
「冗談じゃねぇ、寝言は寝るときに言うもんだ」
「面白くない冗談ですし、ここで撃ち殺しましょう隊長」
「ここまでやってきて、まーーーだそんな玩具に頼るのかい? 鉛弾で死ぬほど私は脆くないよん♪」
ここまでくれば必ずこいつを始末する。その思いだけを胸に秘め、チャンスを伺う。
「なるほど、ね。君が噂の彼氏になれずに一度脱落しかけた男の子か?」
「両手を上げろ!! おとなしく投降したらどうだ」
「チェックメイトだぜ、女王サン」
「ハハ!! こりゃあ愉快だ。おとなしく君たちの要求を飲もう、なんたって私は丸腰だかんねぇ」
素直に僕たちの要求に従って、マザーは両手を上げる。
「さて、ゲームに敗北した私へ少しだけ時間をくれないか?」
観念したらしく、弱々しい声でマザーはそんなことを言った。
「いいだろう、己の犯した罪を思い返してあの世で悔いるんだな」
「君たちの勇姿には感服したよ……全く――」
ボサボサの髪の毛をダラリと前に落として俯く、苟且の理想郷はここで潰える。
ドスリッ!!
そんなマザーの姿を眺めている最中で、異変が訪れる。唐突にして、背中から激しい痛みが脳に伝わり『痛み』が全てを支配した。
「アッ!! グッ!!!」
同時に6名が同じ様に苦しんでいる。奥歯を噛み締めて痛みを堪えるが――
銃を構えることすら叶わない、全身がいうことを効かない!!
「愚かな連中だ、ラスボスを前にしてあろうことか猶予を与えるなど馬鹿ですねぇ~♪」
「あぁぁあああ!! ざぁんねぇんでしたぁ!!!ねぇ~~~~~」
背後からついさっきまで聞いていたねっとりとした声が聞こえている。
「お時間取らせてしまい、申し訳ありませんでしたマザー」
「構わん、詰めの甘い連中だ殺すまでもない。ここは破棄して次に行くぞ」
「仰せのままに」
動かない体を無理矢理動かそうとするが、指先の1本すら動かない。
「では、諸君!! お別れの挨拶だぁ!!最後に白髪で1番目立っていた君のお顔を見せとくれ~」
無防備に倒れた状態の僕には抵抗の手段がない。満面の笑みでマザーは近寄り、ひょっとこのお面を外す。そして、更に笑い転げる。
「かーーーーーッハハハハハ!!! こりゃあたまげたねぇ!!!まさかとは思っていたが、生きていたとはねぇーーーーー!! あはーーーん!!ずばらしい!!」
「どうかされたのですかぁ?我が師よ!!」
二神がそんな質問を投げかけていた。
「アンタも知ってるはずさぁ、鈴羅くんがお熱になったお・あ・い・てだもの」
「ほーーーーーーーーん」
そんな、くだらない会話をしながらエレベーターに乗り込んで行く二人を眺めることしかできない。
「しばらく、ながーいなが~~~~~い間、眠っていてくれたまえ~。また、いずれ会うかもしれないな――」
勝ち誇った表情でマザーはそんなことを吐き捨てる。
「今度会うときはもっと精進した姿を見せてくれよ~ミニチュアダックスフントの少年ク・ン♪」
エレベーターの扉は締り、同時に得体の知れない煙が充満する。身動きの取れない体は煙に包まれ、次第に意識が遠のいてゆく……。
深く、深く――零ちていく。
~一時の猶予~ END To be continued




