好機は唐突に舞い降りる
さて、取引の内容を考えなければならないらしいが、それよりも俺はこれまでのニーナの行動や言動を信じて大丈夫なのか分からないままでいた。
確かに俺は死んでいないし、亡者にもなっていない。
ただ、死にかけたことは何度もあったし流石に演出なんて言葉では済まされない程に人々が犠牲になっている。
「残り3分」
「わ、分かってるよ!! 焦らせんな!」
取り敢えずは、何も知らない自分を装って取引の条件を出さねばなるまい。他人を交渉の道具にするようでやり方としては最悪も最悪な所だが、致し方あるまい。
「オーケーだ!! まとまった」
「よろしい、ではお話を始めましょうか」
ニーナは懐からスマホを取り出し、しばらくしてスピーカーモードにされたスマホは誰かに電話を繋げようとしている。
「電話つながるのかよ!?」
「ただの電話は繋がらないわ、特別なスマホなら繋がるけど」
数回でコールが止む。
『はいはーい!! やーっと、取引タイムだねぇ~待ちくたびれたよ~ん!!なーんてね』
キャピキャピ過ぎる声の主に俺は開いた口が塞がらずだった。
「申し訳ありません。マザー、予定が狂い遅れてしまいました」
「ま、マザー!? この声の主が!?」
野太い声のおっさんをイメージしていた為、ギャップに驚いたが冷静に考えてみれば女性が親玉でも何ら不思議はないと感じた。マザーと呼ばれているのだし、女性の可能性も大いにあったからだ。
『私の作った新作は誤作動起こして眠ってるみたいだねぇー、あーん!! ざぁーんねん』
「では、マザーの仰られました内容をそのまま彼に提示し取引と致します」
「用意がいいじゃねーかよ」
『いいよ~ん、すすめチャイナよ~う』
なるほど、これはなかなかに緊張が走る。目の前にラスボスがいるような圧迫感、話し方は俺と大差ないバカっぽいのだが……謎な雰囲気のせいもあり圧力が自然とのしかかる。
交渉しにくいタイプであるのは間違いない。
「では、こちらの要求は他ならぬ特異点である、多々良緒をこちらに引き渡して頂きたいと言うものです」
「なら、こちらの要求は身の安全保証と安全な場所の提供だ」
『ほーう、なるほどにゃるほど~』
「更に、守って頂きたい事項を3つ設けるぜ」
明らかに不利な取引ではあるが、言うのはタダだし言って損はないはずだ。
『グイグイ来るなー、まぁいっかなー。言ってみなよ』
「まず、他ならぬ多々良さんの身の安全保証、次に両親の安全保証、最後は最初に言った亡者の危機におかされない安心できる場所です」
『面白い条件だ。君は相当、特異点が好きなんだねぇ~』
「その!! 特異点って呼び方やめろよ!!!!」
気に入らない呼び方、多々良さんは多々良さんだ!!多々良緒なのだ!! 道具じゃないんだよ!!
『コホン、ではいくつか聞きたいことがある。仮に君が提示した条件を私が受けるとしよう。だが……』
妙に溜める語りをするマザーにイライラが募る。
『君はこの世界に生き残るとして、なにがしたい?』
「なにがしたい? 皆を救うんだよ!!」
無駄な質問責めなら早めに終わらせたい。
『あのさぁ~……小学生か? 浮かれてヒーロー気取るなよ!! 皆を救うだぁ!?笑わせんなよ~』
マザーからは怒りの声が電話越しに聞こえる。
「お前の言いなりで死んでたまるか!!!!」
『ガキの言ってるみんなってのはなぁ!? ちぃせぇちぃせぇ箱だけの世界なんだよ!!どいつもこいつもあれもこれも同じなんてありえねーよ!!みんなってなんだ!? みんなって誰だよ?隣の家の村上さんか?あぁ!?誰だよ!!』
「救うことができる奴!! 俺の目に見える奴全部だ!!」
『友人1人、まともに救わずにチンタラ生きてる排便みたいなテメーに救える物は者もねぇ!!!!!!!!よ!!!!!!!!ざぁーーーんねんだけどね』
お前も言うのか……なら、教えてやる!!!!
「救わず? だと!?なら、逆に教えてやる!誰も如月が死んだ姿を見ていないし!!ましてや、亡者になった姿も見ていない!!決めつけんな!!!! 賢いアイツが簡単に果てるかってんだ!」
生きている保証はない、たが!! それと同じ様に死んだ保証もない。
「アンタは間違ってる!! 中身を確認せずに決めているだけだ!!可能性や奇跡はいつだって見捨てたりしない!!」
『ハハッ!!!! なら試してやるよ!!』
「逆転は唐突に始まるもんなんだよ!!」
『お前は私が最後までいたぶっちゃうよ~あ――』
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!
突如として、電話越しからアラームの様な音が鳴り響く。
ブツリッ――。
スマホの画面には通話終了の文字が表示されている。
「えっ?」
「えっ?」
ニーナと俺は互いに目をパチクリさせていた。なんとも中途半端な感じでマザーとのやり取りは終了した。と、いうか強制的に終わった感じだ。
「おい、どうなってんだ?」
「分からない、通信も途絶しているみたいね」
地獄の様な日々を過ごしてきた中で1番の爽快感だ。どうやら敵の本拠地で、なにかが起こった様だ。
ピーピー!!!!
不意にニーナの懐からもアラームの様な音が鳴る。
「はい、こちらはニーナ・アリシュレイン」
『緊……発生!!!!……に!!……れたし!!!!
本部……かの……襲撃……い――』
何かがマザーとやらがいる本拠地に乗り込み、襲撃をした。人間か、はたまた人外かは不明だが――。
「なら、ここしかチャンスはない!!!!」
盗聴器を引き剥がし、ニーナが徐に手を伸ばす。俺はその手に恐る恐る触れる――。
ズババババババババッ!!!!
ニーナの手を取ると同時に豪快な連射音が鳴り響く、機内でも変化が訪れているようだ。
「今、本拠地に乗り込めば!! 潰せるチャンスってことだよな」
「間違いないわ!! ここで終わらせてやる!!」
ニーナが扉のロックを解除し、俺もそれに続いて小部屋を後にする。
「峰島、ニーナ!! これはチャンスよ進路を変更するわ」
この数日間の中で1番キラキラと輝いた表情で鈴羅さんが俺達の名前を呼ぶ。
「当然よネ!! 反撃するときがきたわ!」
「ってことは、本拠地に殴り込むのか!?」
機内は活気に溢れ、乗組員達のテンションも高い。母親が引き連れていた部隊の連中も高らかに銃を掲げ、やる気十分と言ったところだ。
「当然!!」
「それしかないわ!」
1日がとても長いと感じていた……地獄の様な日々が始まって数日、どうやら長い長い戦いにはならないみたいだ。俺達が今日、マザーをぶったおす!!
ポーンッ!!
『あーあー!! 聞こえる?あ!? いけるねー。まもなく、本拠地が近づいています。えーっと、ダラダラ生活を勝ち取りに殴り込みますので、パラシュートで目的地まで一気に降ります』
気の抜けた機内アナウンスが流れ、加賀美さんがたどたどしく着陸方法を告げる。
「おらぁ!! バカ息子!一緒に降りる準備だ!!手伝え」
「え? あぁ、分かった今行く!」
グイグイと母親に引きずられるがままに、準備が進められる。
『降下作戦目標地点はスカイツリー!! 到着まで、残り15分』
マザーが監視役として配備させていた片目瞑りの人々は無惨な姿で赤黒い血を撒き散らし、絶命している。もはや、俺達を邪魔できる存在はいない。
これがもし、ニーナや鈴羅さんが俺をハメる為に用意した罠だとしても……関係ない!!
初めてのチャンスが訪れる――。
なら、どんな形であれ掴むしかない。
「人類の反逆を開始する!!!! テメーら情け容赦なくぶち殺せ!!!! こっからが正念場だ!!」
「うおあぁああああああああああ!!!!」
誰もが高らかに叫び、武器を振り上げる。
「ニーナ、鈴羅、バカ息子、多々良、加賀美は一気にスカイツリーの地下に向かえ!!」
俺の背中でパラシュートで降下する準備をしながら母親がそう告げる。
「スカイツリーの地下に行けばいいんだな?」
「あぁ、奴らの根城はそこにある!!」
急遽訪れた、好機――。我ながら【運】と言うやつはつくづく俺に味方するらしい。
『まもなく~、降下地点に突入致!! え~っと検討を祈ります!!』
「降下開始!!!!!」
母親の合図と共に一斉に飛び降りる。
高く聳えるスカイツリーを眺めながら物凄い速さで落ちていく。
~好機は唐突に舞い降りる~ END To be continued




