集いし仲間達は、要塞を目指す
「よし、とりあえず走りながら何処を最初に目指すか考えよう峰島」
「じゃあ、やっぱ同じクラスの楪は助けてやろうぜ!」
「そうだな――感染してなければ……な……」
「やめろよ! 今のは冗談でも許さねぇぞ如月! 大事な友人の1人だろうが! 縁起でもないこと言うんじゃねぇ!」
「分かってる、 だからここで言い合いをするより先に早く行こう」
これでもかと階段は時間ロスを生み出す。
焦りが勝る状況、時には一段も降りずに勢いに任せて全段を飛び降りたりして互いにロスを少しでも減らし、いち早く教室に向かうことを優先した。
息を切らしながらも刹那の如く教室に戻り、流れのままに教室の引き戸に手をかける。
緊迫の中、勢い良く教室の引戸をガラリ! と、開け放つが、教室内は余りにも平和的すぎたのだ。
誰もまだ、グラウンドでの出来事を知らないのだ……当然だろう、窓は一つも開いてない。
だから僕達は告げたのだ、馬鹿らしくも下らないような非日常の出来事の幕開けを。
「みんな! これから話すことを茶化さずに聞いてくれ」
当たり前だがこの一言で教室の雰囲気は一変した……だが、それを伝えるまでもなく真実は告げられたのだ。
『緊急事態が発生! 校舎正門にて女子生徒が暴行加え、大怪我を負いました、生徒は無闇に外へ出ないようにして指示をお待ち下さい! 被害は拡大しています』
無機質な放送はそう吐き捨てて、我ら生徒を学校という地獄に放置(避難)させられたのだ……行き場のない地獄絵図となるであろうこの場を放棄して――。
しかも、言っていることはまどろっこしくて意味が伝わりにくい……吐き気を覚えるほどにその説明は不安を煽るトリガーにしかならない。
当然、内容が上手く伝わるはずもなくどよめきが埋め尽くす……。
無論、校舎内の生徒はパニックに陥る、我先にと逃げ場のない学校という舞台で虚しく、無計画に奴らに成り下がった者共が有象無象にのたうち回る外に逃げようとするのだ。
「あっ良かった、やはり無事だったみたいだ」
「ったく! 当のご本人はえらく冷静だことー」
そして1人この喧騒と罵声の中でも冷静な態度の女子が此方へと目を合わせて駆けてくる。
「ごめんなさい、峰島君と如月君今の放送は真実かしら?」
至って冷静かつ、淡白な態度で彼女は問うてくる。
「あぁ、確かに被害が拡大はしているけれど……言うなればゾンビみたいな――」
「つか、ゾンビその物みたいなー……」
「なるほど、つまりは……」
三人の間に沈黙がしばらく流れ、 そして誰からともなく告げるのだ。
そう、これはきっと――。
「「「生物兵器感染」」」
「と、とりあえず鈴羅さんは僕たち三人が生きるにはどうすればいいかな?」
整った顔立ちの彼女は長い黒髪を耳に掛け、そのまま顎へと手を置きしばらく思考を巡らせていた。
真夏の日差しを全く浴びていないのか? と、疑問に感じるほどに透き通った真っ白な彼女の素肌は、彼女の存在自体をより一層儚い人物に仕上げている。
そっと触れれば壊れてしまいそうな、そんな危うさもある。
「ん〜、無闇に外へ出ないことが重要ではあり、はずれでもあるこの状況……」
大人っぽい雰囲気の中に見え隠れする、あどけない表情はまさに世の男性を一発でノックアウトできるだろう。
更に、芸術的にまで手入れに抜け目がない腰の位置にまで達する長い黒髪は毛先まで余念がなく美を保っている。何処を取っても満点に近い美少女だ。
キツい性格を除けば……だが。
「校内トップの頭脳を持つ貴方からどのような行動をすれば良いか教えてくださいっす! 鈴羅楪さま〜!」
と、峰島は若い人なら使うであろう間違った敬語モドキの言葉と気持ち悪さを兼ね備えて鈴羅さんに媚を売る。
「そうね、 そこの峰島君には一回痛い目を見てもらうとしてやはり考えるなら」
峰島と僕は固唾を飲んで彼女の指示を待った。
「取り敢えずは、学校を脱出するわよ。こんな所に居ても食料はおろか、生存率まで確実に下がって行くだけよ」
「で、でもどうやってこの場所から逃げる? 外の方が更に酷い有り様だぜ?無策とはいかないだろ?」
彼女は更に考え込み――やがて一つの答えを導き出す。
「あら、貴方達は忘れたのかしら? 安全な場所ならもうあるわ。私の屋敷は大豪邸の要塞の様な建物よ」
くるりと体を翻し長い黒髪を靡かせながら彼女は告げる。
「放送の状況が本当なら直ぐにでも迎えが来るわ、何と言っても私は親にとって大事な大事な娘ですもの」
と、悪戯っぽく笑うのだ。
「なら、それを信用するとして問題は……」
「送迎車は正門に必ず来るわ、毎回の送り迎えであの場所に止めるように言ってあるから」
鈴羅さんの情報に狂いはなく信じる以外に打開策はなし、ましてや立ち向かうなどもってのほかだ。
「いやぁまぁ、忘れてるわけは無いけど……なんつーか本当にすげーよな鈴羅嬢は」
「目標地点は決まったけど問題は、どのような作戦で正門まで行くか……それを考えなければ動くにも動けない」
しばらく沈黙が時を支配したが鈴羅が口を開いた。
「だとしても、標的の情報が少な過ぎるわね。何回か遭遇するとは思うけど軽い実験をしながら結果を元に正門まで行きましょう」
どこまでも冷静かつ、的確な思考回路で物事を判断し、素早く結論を導き出す。
しかし、いくら正門に迎えが来ると言えど、爆心地に向かうと同義である。
「と言いますと?」
峰島が恐る恐る問うていた。
答えは分かりきっていることなのだが――。
「まずは、視覚と聴覚と嗅覚の有無の実験よ」
彼女の語りが終わると同時に不気味な声が複数迫って来ていた。
空気は一瞬にして凍え死に、うなり声だけが此方に近づいてくる。
「も、もう来ちまったぞ!!ど、どうすんだよ」
幸い後ろ側のドアには鍵がかかっているが……次の途端!!
けたたましく後ろ側のドアを叩く音が教室に響き渡り、窓ガラスや扉のガラスを叩き割る。
「ヒィッ!」
情けない声を出す峰島を尻目に、その様子を見る為にもう一方のドアから鈴羅と共にソイツの姿を視認する。
彼女も一際冷静な人物でしっかりと状況を理解することを優先し、行動をしている。
流石、天才と言われるだけのことはある。
「ん、どうやらあの様子をみる限り視覚はほぼゼロね。ぶつかる物全てを獲物として認識しているわね」
「うへぇ……グロすぎて見てらんねぇよ」
「しょうもない理由で現実から目を逸しちゃいけないよ? 峰島」
そんな峰島の感想も去ることながら、彼女は分析を開始している。
「更に加えれば聴覚はあるみたいだね、後ろにいる三体も音に釣られて寄って来ている」
ニヤリと鈴羅に笑みがこぼれたのが伺えた、すかさず鈴羅は奴らの足元に掃除用具として使うチリトリを放り投げる。
奴らは音に反応しドアに攻撃をしていたソイツにたちまち群がり、つかみかかり肉を引き裂き食らい付き始める。
「おーけ、 これだけ分かれば充分よ後は窓から堂々逃げられるわ」
「なっ!? ま、窓からいくんっすか!」
確かにここは三階程度の高さではあるが……窓から降りるには、と考え込みそうになったがすぐに自身の中で答えは見つかった。
降りる途中には幾つも足掛かりとなる部分があり、それが手助けとなり直進距離の最短ルートで正門へと行けるのだ。
「よし、峰島窓から降りるよ!」
わざとらしく元気に問いかければ必ず峰島はそれに応える筈だ。
「お、 おうよ何処までもついてくぜお二人さんに」
と、グッと此方に向かって親指を立てる。
なるほど、理解はしていないが分かった振りをしているご様子だ。
その間にも鈴羅は防犯ブザーをかき集め、脱出の準備は完了に向かいつつあった。
以前、学校の先生が無駄に溜め込んでいた防犯ブザーはここでようやく、活躍するとは……本来は人を遠ざける道具が寄せる道具に早変わりすると言うのも中々に滑稽だと感じる。
人生で初めて防犯ブザーが有り難いものだと感じれたとてもとても貴重な経験だった、こう言うと間違いなく失礼な発言に該当するであろうが……。
と、 そこで峰島が報告をする。
「オッケーだ、鈴羅嬢のごっつい送迎車を視認! いつでも行けるぜ!」
それを合図に窓から一斉に降り立ち、鈴羅に渡された防犯ブザーを正門から奴らがいなくなるように明後日の方向に三人が投げ込む。
位置も場所も全員がほぼ狙い通り。直ぐ様奴らは音に反応し互いに屍同士でどんちゃん騒ぎをしている。
この隙を逃さず一気にグラウンドに降り、正門に見える護送車に全速力で乗り込む。
「はぁ……はぁ、さ、流石につかれたわ」
「いやー……一時はどうなるか焦ったぜ~まじで」
「取り敢えず一段落つきましたね」
鈴羅嬢の合図と共に送迎車が出発しようとした時だ。
真っ直ぐ此方に向かって走ってくる少女がいた。しかし、その後ろには5体の屍が金魚のフンの様に追いかけて来ていた。
「あの子、助けてあげたいけど何か手立てはある?」
鈴羅は唇を噛みしめ、目を瞑り。ぼそりと儚げに呟く。
「私達には奴らに対抗する武器は無いわ……彼女は見捨てるしか――」
苦渋の選択をせざるを得なかった……。
だが、次の瞬間峰島が意外な言葉を言い放つ。
「いんや、お二人さん"彼女"は我がパーティーに必須の主戦力になりますぜ連れていこう!」
「無茶よ! 小柄な女の子に対抗する術はないわ」
「少しだけ様子を見てみよう。それから判断しよう」
「見てれば分かりますよ、彼女の実力」
と、峰島は自信ありげに言葉を紡ぐしたり顔には余裕すら伺える。そして、峰島の言葉が真実になるのだ。
小柄な彼女はくるりと反転し、姿勢を低く保ち腰にある武器を振り抜く!
その一閃は奴ら5体をまとめて吹き飛ばすのだ。
「なるほどね」
「間違いなく彼女は必須の人材な訳だ」
「な? 言ったろ!」
満面の笑みを浮かべた峰島が彼女に向けて手を差し伸べる。
「さぁ、早く! 乗り込め!」
そんな必死の掛け声も虚しく等の彼女は――
「チッ、邪魔な屍どもが……お前達の戯れもここまでだ」
誰にも聞こえないであろう距離でそう、囁いていたのだった。
木刀を腰に戻し、申し訳無さそうな表情の少女が最後の乗組員として、乗車を果たしたのだった。
「あ、あの……あのとっても助かりました……です」
顔を紅潮させながらもじもじと破壊力抜群の仕草で僕達三人にお礼を言った。きっと峰島はこの一撃に耐えられないだろう。
それを合図にと、送迎車は動き出す。鈴羅邸へと向けて……。
こうして、新たな仲間を引き連れ見事学校からの脱出に成功を果たした。
~集いし仲間は、要塞を目指す~ END To be continued




