決着 『担当:序編 そのⅢ』
俺達3人の目の前を小柄な少女が駆け抜けて行った、その姿を俺はしっかりと見た。さり際の一瞬の出来事だ、普通なら気にもとめないほどの時間のすれ違いかもしれない...だが...
その少女は涙を浮かべていたのだ...。
「おい!!多々良っち!!無茶だ!!!!いくら強いと言っても数が...」
「ゆいちゃん!!!!だめぇ!!!!!!...っ!!」
見向きすらせずに多々良さんは混沌へと踏み込んだのだ...たった一人で...。あまりにも無謀な行動だ。
それに釣られてどんどん亡者は多々良さんの向かう方へと歩き出して行き、亡者は片手で数える程しかいなくなった。後ろを振り返れば、既に亡くなったであろう4人が静かに横たわっている。複雑な気持ちが俺を支配されてしまい、その場から動けなくなってしまう。
「ぼさっとしないで!!峰島!!こいつらを早く蹴散らしてバイクに乗るわよ!!時間がないのよ!!急いで!!」
彼女の声のおかげで、俺は再び動き出す。
「あ...あぁ!!!!分かった!!!!鈴木!アンタも来るだろ?」
「いや、俺はここを休息の場にするために残るよ。だから待ってる...三人で帰ってきてくれるのを待ってやるZE☆」
ハッキリ言ってしまえば得策ではないが...今は余裕がない。少々リスクは高いがここは鈴木を信じようと考えた。
「わ、わりぃ!じゃあ一旦お別れだ!!死ぬんじゃねぇぞ!!」
パンッ!!っとハイタッチをして俺と鈴羅さんは鉄砲玉の様に飛び出して行ってしまった1人の少女を捜索しに向かうことにした。
その去り際に再び鈴木が声を張り上げた。
「峰島!!これを使え!!!!」
天高く投げ込まれた物は鈴木が使っていた、短めの鉄パイプだった。
「サンキュー!!な鈴木!!」
手を振ると鈴木はノコギリを拾い上げて、手を振り返してきた。
そんな別れも去ることながら大きな門の軽い階段を掛け降りる。回りには死体の山と耐え難い程の匂いが潮の香りといりまじっている。2台のバイクに腰掛けて、二人同時にアクセルを掛ける。
多々良さんに一体何があったのだろうか。
バイクを吹かすエンジン音が此方にまで届いていた、静けさと二人の遺体が転がっている。
「さぁてと...俺も...いつまでも悲しんでる場合じゃないよな...」
昔から特徴がなかった俺はいつしかグラサンを掛けて変なしゃべり方をするようになったのだ。
それもこれも、個性が欲しかったからだ。
だが、少し不安なことがあると俺はいつもの特徴のない自分になってしまう。正直言ってしまえば生きて行ける自信が無いのだ。
ぶっちゃけると仲間がいなくなる悲しみなど最早自分は慣れて来ていたのだ...。
「また、救えなかったのか...俺は...」
横には2つの死体、前にも2つの死体が並んでいる。
「遺体...片付けないとな...」
そう考えてノコギリで辺りの敷地の枝やら木を集めた後に、まずは黒瀬と杉山の供養を開始した。
手に持っていたライターで火をつけてやる。真っ赤に燃え盛る炎は時折にパチパチと音を立てて燃えていく。
瞼を閉じて両手を合わせる。
「Oh...まさに古式ゆかしき面影のある日本の伝統!!合掌デスネ!!」
「誰だ!!」
自分以外は居るはずがない!!咄嗟に声を荒げてノコギリを構えた。
しかし、そこに居たのは生きているはずのない存在だった。
「あぁ~びっくりしてますねぇ~!!いいですねぇ!!!その狂気と絶望を見るかのような目!!まさにスバラシ!!!」
と、にこやかに笑いながら多々良さんと言う方の姉だった人をそのままボスンッ!!と同じ火の中に放り込んだのだ。
「お前!!あれほど血を流してたじゃないか!?なんで?なんで!!生きてんだよ!!ふざけんな!!!」
力のままにノコギリを振り抜くが...彼女の姿は忽然と消える。
そして、突然両膝の力がカックリと落ちる感覚が襲ってきた。それと同時に俺のすぐ真後ろで声がするのだ。髪の毛を少し荒っぽく掴まれる、しかも首筋には恐らくナイフが突き立てられている。
「おまえ、何も知らないのか。感染した者達の存在や私の存在を」
「あぁ!!俺は何も知らない!!アンタは何者で何故あの三人から嫌われてるのかもな!!だが!!お前が敵だってことはハッキリ分かる!!」
「敵?誰が?私が?...本当にそうかしら?こうして今でも生き残っている『人間』の方が敵であって完全なる悪だとしたら?」
背後に居る小柄な存在は摩訶不思議なことを口走っている。
「訳の分からないことを言うんだな、アンタ」
「ニーナ・アリシュレイン...覚えておきなさい」
「んで、なんで生きてるんだよ」
「まず、貴方の名前は?」
どうやら順番に答えないとこちらの質問には反応しないようだ。それに今はあまり変に刺激しない方が良いだろう。
「鈴木小唄だ」
「鈴木...ね。分かったわ、ならば鈴木に更に質問するわ。今、貴方が戦っている者って何なのかしら」
「...?何って、そりゃあゾンビだろ。アンタも含めてな」
俺はニーナと名乗る小柄な少女?の質問に対してそう答えてやる。ネット回線やらスマホなんて物が一般的になり、科学の進歩に踏まえてどんどん便利になっている現代だったこのご時世をぶち壊したのが映画などで登場していた架空の生物、噛まれた人間が蘇り復活し、他の人間どもを喰らっては感染させていく...まさしくゾンビだ。
今、現実に起こっていることと映画での内容にはほぼほぼ変わりなどない、そのままに近いのだ。仲間はどんどん減っていき、気がつけば汚い姿をした化物ばかりが増えた世界だ。結局、どれだけ発達していても突発的なパンデミックや予想外な事件に関してはどうやっても最善の対応などできないのだ。例えそれがどれだけ発展していて、高度な物となっても...だ。
少なくとも俺はそう感じるのだ。
「違うわ、彼らは世界に悪を持ち込む人間を清き存在に変えるために生み出された新たなる人種『亡者』よ」
「は?アンタは本当にイカれてんのか?あんなのが清き存在だと?清きどころか完全に悪だろうが!!めちゃくちゃじゃないか世界の均衡や秩序さえもぶっ壊したじゃないか!!」
「そして、私はそんな清き存在たちの中でも選ばれし特別な存在...それが私よ」
全くもって意味がわからない、何かの宗教団体なのか?
「選ばれし者だって!?おいおい中二要素は勘弁願いたいぜ」
「誓生因子を見事に適合させ、新たなる人種への転生に成功したのが私よ」
どうやら生物兵器の名前は誓生因子と言うらしい。その中でもおおかたの予想をすると抗体を持つ人間が彼女ということだろう、そのお陰によって超人的な能力を手に入れたという感じなのだろうか。
何にせよ突飛な話で馬鹿げていると鼻で笑いたい気分だ。現実が大きく影響していなければ...。
「私はマザーによって劇的なまでの変化を手に入れることができた。今あるこの世界はとても平和に近いと感じないかしら?邪魔な時代遅れの人間はどんどん消されて行き、同じく亡者となった者は平和を乱すものをこちらに迎え入れるために新たな生命を分け与えている」
モノは言いようと言う奴だ。コイツからすればそれが『正義』であり、自分が理想としている『なんちゃって平和』なのだろう。
「いいや、違うな!!新たな生命を分けている?ならば何故、俺達の様な人間がソイツらに噛まれないと行けないんだよ!!それよりもな!!お前らみたいな連中に新たなる人種を生み出す権利なんてないんだよ!!」
人間を玩具か何かと勘違いしているのか?馬鹿げているにも程がある。
「血を流して苦しみながら人種は変わったりしない!!死んでから蘇る?死者を弄ぶのもいい加減にしやがれってんだ!!」
怒りが抑え切れずに声を荒げる。しっかりと安らかに供養してやるのが当たり前だ!!死者を弄ぶ?ふざけるのも大概にしろ!!
「過去の世界は理不尽過ぎたのよ...本当の意味としての希望はあったと胸を張ってアナタは言えるかしら」
「は?」
話が見えてこない、会話が無駄だとさえ感じる、とにかく苦痛だ。
「世界的な規模で差別や殺し合いが今も尚、何故起こっているのか分かるかしら?」
饒舌に語りだすニーナと名乗ってきた女の狂った演説が始まった。
「上下関係や縄張り意識、それに踏まえて貧富の差や人間関係。言葉を覚えて生意気にも成長を果たしてきた猿人の結果は人間だった」
それの何処にも間違いはない、進化を遂げた証だ。
「それが何だと言うんだ!!」
「果たして人間とは本当に良いものなのかしら?秩序を保ち、安定して全ての人間が平和的に暮らせているのかしら?平和?そんなもの人間と言う人種が大半を埋め尽くしていた過去では永遠に訪れることのない言葉だわ。違うかしら?」
「んなもん綺麗事だ。消したからと言ってそれは解決になるのかよ!?」
「取り決められたルールや法律を作ることを考えた、そこまでは良かったわ。でもね、そんな物を破ってでも乱す者は乱すし、奪うものは奪われるのよ。どんなに厳しくした所で失った時点で終わりなのよ」
此方の質問は完全に聞く耳を持たないようだ。
「その後、ソイツが死刑になろうが何をしたって居ないものは居ないのよ。つまり『人間』などと言う存在はもう一度リセットされるべき存在なのよ。私達の様な誓生者や亡者達は冬になれば大地に根を張り、自らの身体を媒体として自然に生えている草や木などの自然物へと回帰していくわ。美しき自然の美が蘇るのよ!!」
「テメーの頭はお花畑かよ!?なぁ!?」
『エコ活動』です。とでも言いたいのか?コイツは...
「自然を穢してきた過ちだらけの存在などに最早この世界で生きる価値など与えるものか!!それでも尚、醜く抗うのであれば私は何度でもお前達の前に現れてやろう。適合を果たしてしまった私には『感染』の力が無いが、その代わりとして私は亡者を使役する力を得たのだ」
全くもって知ったことではない。
「お前たち人間の罪は深く重いものだ、ただ単に私が殺してしまってはツマラナイだろう?完全に絶望し、亡者にして下さいと私に訴えかけてくるまで私はお前たちを何度でも追いかけてやろう」
生きている人間の大半はそれを望まないだろう。もはや口に出すのも馬鹿らしい。
「亡者たちは殺されてしまうとただの死骸となって、個人差はあるけれど土塊となるの、冬になれば起こるであろう転生が行われるまでの役目と言えば歩き回って人間をこちら側にするか、変異を起こして早く転生ができるように準備をするくらいのことだ」
もう、半分以上は話をスルーで聞き流す。
「私達が『転生』を迎えたときにもしも、まだ人間がいればそれもまた面白いのかもネ...フフフ、その頃には地球上の人間の数などほぼほぼ残らないだろうし...。そんな世界で醜く生きながらえようとする人間もまた、見ものなのかもしれないわぁ」
あ~そうですか。どうでもいい、飽きてきた。
「だから私は来るべき時が来るまでお前たちの絶望をどんどん蓄積させてやろう。さぞかし住みにくくなる世界でお前たちはどこまで私の絶望に抗えるのか、それとも折れてしまうのか...実に楽しみで仕方がないわ」
「よくもまぁ、長々と饒舌に語りますね」
呆れて物が言えないとはまさにこのタイミングがベストマッチするだろう。ぴったりすぎて驚くほどだ。
「当たり前よ?こうして全力で抗う者たちの中にとても美味しい副産物まで連れて居たのだから♡」
可愛らしい姿の少女からはありえないほどの不気味で冷血な雰囲気が漂っているのだ。わざとらしく、舌を出してペロリと口からはみ出させて含みのある発言をしてくる。完全に頭のイカれた連中によって、彼女の心は壊されているのだろう。
「まぁ、今回はあの子に意思を吹き込むことができたから私はとーーーーーっても!!満足なのですヨ!」
「あの子?」
「そう、あの子...フフフ...さぞかし今は最高の気分でしょうね。彼女は長い年月を経てようやく彼女にその身を受け継ぐことができたのだから!!ここの土地でしか動けない体というのはさぞかし辛かったはずよ?それがようやく結ばれたのよ」
「まさか!!多々良さんと言う彼女のことか!?」
受け継ぐ?話が全く見えない。
「えぇ、そうよ」
「彼女に何をした!!走り去っていったんだぞ!!」
「なぁーに、単純なことよ?オネェさんに噛まれただけのことよ?あの子が、ね。それが彼女の宿命」
ケロっとした表情でさも当たり前かのように、当然でしょ?と言った風に彼女は切り替えしてくるのだ。
「最初から...いや、お前が計画していたことなのか!!ここまで!!全部ッ!!!!!」
「そうよ、私は彼女を見つけ出すことが目的だったのよ。これによって私達の計画は確実に成就へと導かれるものとなる!!」
「テメェーーーー!!!そこまでして人間を痛めつけるのか!!!」
「当然の報いだ。叫ぶなゲスが!!無様に命乞いの一つでもしやがれゴミが!!無能な人種がでしゃばるな!!!」
獣のような叫び声で眼を剥き出しに見開いて信じられない形相で怒鳴り散らす自分が、そこに居た。
「じきに終わりがやってくる。冬になれば...なりさえすれば!!!!!人間など瞬く間に生きる希望さえ失うのだ!!!!」
「簡単には終わらない!!!人間を舐めるな!!!気取るな!!殺戮者!!お前に後悔はないのか!!」
「アハッ!!実に愉快だ!!だがなぁ人間、奴らが一つになったことはこちらとしての利益となった。役に立つときもあるとは驚きだったわ」
「そうかよ!!だが思い通りになると思うなよ」
「彼女たちはようやく一つになったのだ。多々良一と多々良緒は本当の意味で一緒となるのだ彼女たちの名前の由来通りに、ね」
不意に、拘束されていた体は唐突に開放され瞬く間に、ニーナは既に門の階段付近まで離れていたのだ。
「なっ!?」
「次に出会う時までにお前達は生きているかしら...それとも、全てこちら側へと転生してくれているかもしれないわね。До свидания(さようなら)」
嫌味を吐き捨てて、ニーナは姿をくらまして行った。辺りには肉の焼ける匂いと、それに伴ってパチパチと音を立てながら燃え上がる炎が黙々と煙を天へと伸びていた。
一人だけとなった少年を残して...。
~決着『担当:序編 そのⅢ』~ END To be continued
多々良さん姉妹による戦いに終止符が打たれました。ここでは亡者と言う存在の末路を語っていたりなどするので結構重要な部分となるかもしれません。
それでは皆さん、次のお話でまた会いましょう!!