決着 『担当:序編 そのⅠ』
無事ゴーレムを倒すことに成功し、新たに仲間を増やし6人となったメンバーは一時的にではあるが俺たちは目的地へと到達する。本来、俺達の目的は多々良さんの姉を拝みに来たのだ。
にわかには信じがたい話である、死者が生きている。ともすれば...
「ここで間違いないのか?多々良さん?」
「えぇ、間違いありません...当時のままです」
「でも...変な話よね。何故、現在に至ってもこの家は取り壊されずに残っているのかしら」
多々良さんの過去を聞いた限りでは姉が亡くなったのは小学生の頃であったはずだ。それから考えると確かに取り壊されずに残ってるということは考えにくい。
「あぁ~ここかえな...偉いやばいとこが目的の場所やったんやな...」
「ここ、感染騒動になる前まではお金持ちの方が住んでいたんですよ」
「まぁ、と言っても...金持ちは金持ちでもおやばい金持ちさんやったんやないかってもっぱらの噂になってたんよ」
聞けば聞くほどに只者ではない人物が後に入居者となっていたようだ。
「一体、どのような人物が入居者となっていたのかしら?」
「深くまでは知らんのやけどな、どうやらなんや怪しい粉モンの取引やら色々やってたみたいやで」
「そう...それだけ聞ければ十分だわ」
鈴羅さんは短くそう言って切り返した。どうやら、深く切り込んでも良い物は見い出せないと感じたのだろう、どのみち知っても気分のよい話ではいのは明確だった。
「じゃあ、行くぞ...準備はいいな?」
6人で手を合わせて円になり、重ねあわせた手を高らかに空へ向けて振り上げる。それが全員の決意の合図として階段を駆け上がる。
勢いのままに全速力で上まで到達する。するとその先は少し開けた場所となり、石造りの地面が形成されている。
そして、その先には...真っ白のフード付きコートの様な服を纏った人物が立ち尽くしていた。
しばらくの沈黙の後、唐突に強風が吹き荒れる。
その拍子にフードは大きく靡き、人物の正体が明かされる。美しい雪の様に白く染め上げられた長い白髪が無造作に宙を舞う。そのまま、斜め45度くらいの角度を維持した状態の顔が此方を哀れんでいるのか...はたまた、挑発しているのか...なんともうかがい知れない表情が向けられた。
「あっ......どう...して......生きて...るの.........」
動揺の隠せない震えた声で質問を投げかけた多々良さん
「おねぇ...ちゃん...」
その一言で鈴羅さんと俺自身も凍りつく感覚が襲って来るのだ。
「もう...一体何がどうなってんだよ」
本来ならば、こんな話はオカルトでしかない!!なのに、多々良さんの姉は生きていたのだ。
「まさかとは思っていたのだけれど...ゆいちゃんが認識した時点で...確信となってしまったわ」
「あの~確かにただならぬ雰囲気なのは分かるのですが...一体どういうことでしょうか?」
「姉さんが生きてただけやろ?普通なら感動的シーンやんけ!!」
ことの重大さが分かっていない分、的はずれな回答は仕方がない。
「ノンノン☆多々良ちゅわんはさっき、こうも言ってたZE☆どうして生きてるのってNE☆」
鈴木さんの言葉で二人もおおよその結論が出たのだろう...静かに6人は武器を取りだし、構える。
「つまり...お姉さんはもう...あっち側の人間ってことか...」
「なるほど、あなた方の目的は多々良さんの姉を楽にすることだったのですね。おかしいと感じたんですよ、研修で来たなんて」
「もとより、君達は姉を導く為に来たんだNE☆」
流石、その場しのぎの嘘は一発で見抜かれた...と言った所だろう。
静かにただずんでいた彼女は多々良さんの顔を捉えた瞬間に大きく口を開いて息を吸い込んだ。
「うああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!!!!!!!!憎いニクイにクイ憎いニクイニクイ憎いニクイ憎いにくいにくい憎い!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!憎いニクイにクイニクイ憎い憎いニクイ憎いにくい憎いにくいニクイ憎い!!!!!!!!!!!!!!!!
ああああ!!!!!!
あああああああああああああ!!!!!!!!!!
ああああああああああああ!!!!!!!!!!
あああああ!?!?!?!?
ああ!!!!!!」
腰に装備した美しい程の波紋を描いた刀をむちゃくちゃに振り回し、白い髪を左手でムシリ取る。
ブチブチ!!!!ブチブチ!!
と、力のままに...刀を振り回しながらくるくるくるくるくるくると回転しながら同じことを繰り返す...。
まさに、狂気そのものだ...。人間だとしても完全にイカれた人物だ。
しばらく続いた瞬間にピタリと動きを止める。
大股になり、そこから顔を覗かせる狂気はニッコリと笑顔で語り始める。
「あはあはあはあは!!!!!!あはっ!!わたくしぃ~~↑わ!!ニーナ様のね?使い回しでごさいまぁす!!
あぁ~はぁ~ん!!つ・ま・り!!あ!つまのり!!!!純粋なるげぇーぼくなんだお!!!!!!!!!!!!
あひゃゃゃゃゃゃゃゃ↑!!ほーぅ!!!!
ニーナ様にこ↑こ↓で!!待機と言われて待ってた甲斐がありましたぁ^~ああぁ~^
すばらしぃ!!!!!!ハァー~~~るるるるるるぁああああ~~~~しょーーー!!!!
若き肉に!!たくましい肉!!!!!!おぉん!?!?
いいいいいいいいさいっこう!!!!
あっ!!私はニーナ様の手先でクラスは序を担当しておりますンゴ
その名をファーーーーースト!!!!ごほんごほん!!あっ!!
たたぁらぁ!!!!! いち と あっ!!もうしますん!!
早速快速しんかん先手必勝で!!
あなた方の肉を裂かせてくださぁい!!!!!!!!」
長々と語っていて油断していた瞬間だった...強烈な自己紹介が済んだ途端に、目で捉えきることが素人では不可能な速さで間合いを詰めてきたのだ。やはり、人間の域を越えている。
「しまっ!!!!黒瀬さん!!危な......」
自分が促す時には...最早遅かった...。
銀色に艶かしく輝く刀身は、標的をもう喰らっていた...。
黒瀬さんだった者の頭部が自分の足下に眼孔を見開いたままで転がって来る、いとも容易く命の取引が終了した瞬間だ。
鮮血は飛び散り、辺りには赤黒い雨が降り注ぐ。
出会って1日すら経っていない彼は、瞬く間にピクリとも動かなくなってしまう...。
「うっ...あっ...」
声が出ない...身じろぎさえもできぬままに仲間の命がまたしても奪われた。何1つ最期の言葉も聞いてやることさえ叶わぬままに。
「先輩!!!!しっかりして下さい!!」
その声に我に帰った瞬間に新たな鮮血が最悪を彩る。
杉山さんの足が宙を舞っていた...。
両足が彼方へと飛んだ杉山さんは当然赤を描きながら落ちて行く...
そして、無防備な杉山さんにこれでもかと言わぬばかりに追い打ちをする。頭部が宙を舞い...極めつけには胴体を真っ二つに切り分ける。
切り分けられた胴体からは異臭と共に、内臓を地面にぶちまける...ぶちまけられた内臓は至るところに飛び散り、広がっていった。
「...えっ?」
短い疑問の声が漏れると同時に銀色に煌めく刃が、今度は自分の方へ軌道が向けられていた。
「あっ!!!!!!皆ミンナ、おっそーい」
勢いは肉眼では捉えきれない速さだ。
俺はこのまま、胴体を切られる覚悟をした。
カキィン!!!!!!!!!!!!
そんな覚悟をよそに甲高い金属音が鳴り響く。
「勝手に死なれたら困るでしょうが!!!!!!」
目の前には鈴羅さんがククリを持って、攻撃を防いでくれた。
すぐさま鈴羅さんは体を反転させて後ろに控えていたのであろう多々良さんに交代し、反撃する。
「私は!!変わるんです!!もう、貴女の力にはすがりつかない!!!!そう決めたんだから!!!!!!!!」
多々良さんの叫びと共に、二人の剣舞が放たれる。
花の様に舞い踊る鈴羅さん、風の様に吹き乱れる多々良さん。
これまでに無いほどに、美しく可憐に舞い踊る二人のコンビネーション技は凄まじい手数を誇る。
キィン!!カキィン!!キン!カキィン!!!!カキィン!!キン!
「これで!!ドドメよ!」
「静かに眠ってよ!!お姉ちゃん!!」
息の合った一太刀が......
ギィィィン!!!!!!!!
2つの刃によって綺麗に受けとめられていた。
「えっ?」
「なっ!?」
気がつけばそこには『ヤツ』がいた。
そう、ニーナ・アリシュレインだ。
「хорошо 。また、お会いしましたね」
多々良さんの姉と背中合わせになるような形でニーナが短剣で攻撃を防いでおり、一方はいちと名乗る人物の刀で防がれていた。
「これはこれはどうもご丁寧に」
「また、会いましたね。ニーナさん」
そして、ニーナの登場からしばらくした後に亡者達が群れて来る。
ここにきて眺めるしかできなかった俺と鈴木にも仕事ができた。
「あの二人は任せて、こっちは亡者を殺るぞ!!鈴木!!」
「了解...」
いつものテンションがそこにはなかった、しかし今は構っている暇は無いのだ。なんとしてでも侵入を防いでやらないと行けない。
「では、アナタ...私と共にオドリマショウ!!フフフ...」
「いいわ、この鈴羅楪が相手になるわ!!覚悟なさいロシア被れ!!」
「あっ!!あっ!!ニーナ様との共同殺戮ぅぅ↑!!!!ウレシネウレシネ!!あっははは↑」
「私は、姉を越える!!」
2対2で睨み合いの両者を尻目に、男子組は亡者の群れを階段付近で食い止めることになる。
男子組の戦力は2対十数体となっている...。
「しっかりしろよ...鈴木」
完全に様子のおかしい鈴木にそれとなく声をかけてみたが...
「あぁ、大丈夫だ。心配しなくていい」
なんとも淡白な返答ではあったがまぁ、問題はないのかもしれない。
そんな鈴木は自身の手をスッと背中に回し、ノコギリを掴んで俺の方に優しく差し出してくれた。
「ん、武器がナイフだとやられちゃうから」
言われるがままに、俺はノコギリを受け取る。
「おー...おう、サンキュな」
「俺も...ここでくたばる訳には行かなくなったから」
グラサン男、鈴木からは何故かただならぬオーラと殺気が感じられたので俺はそれ以上、鈴木にかける言葉が見つからなかった。
「じゃあ、行こうか。峰島くん」
「あ、はい。す...鈴木...くん」
何となくだがぎこちない返事になってしまったが、一体自分は彼を呼び捨てでいいのか、かしこまった方がいいのか分からなくなってきた。ただ、彼の雰囲気に一切のおちゃらけた要素は無くなっていた。
「あー...そのまま鈴木でいいから気にしないでいいよ」
そんな俺の戸惑いを見抜いたかのように鈴木は俺に向かってそんな言葉を投げかけてくれた。ぎこちない雰囲気のまま、男子組の2人は亡者を狩るために階段へと向かう。
劣勢の状況下ではあるが、戦闘は静かに開始される。
~決着『担当:序編 そのⅠ』~ END To be continued
ここからはまた、土人形戦の時とは打って変わり、衝撃的な展開が待ち受けているかも知れません。もしかするとそうでないかも知れません。
さてさて、どっちでしょうかねぇ~(ニッコリ)