マフラーと交換
「ちょっと待ってよ。歩くの早いって」
「別についてこいなんて言ってないんだが」
「ちょっと待ってって。どうせ同じとこ行くんだし、いいじゃない」
「別に居るのは構わない。が、なんで俺がお前のペースに合わせなきゃいけないんだよ」
と、言って後藤くんはスタスタと歩いて行ってしまった。
「ちょっと。待ってよ」
「お前を待ってたら学校に遅刻するだろ?」
後藤のくせに何よ、その言い方。
「なんで遅刻になるのよ。まだ時間はあるじゃない」
「俺は忙しいんだよ。朝からいろいろやらなきゃならないことがあるんだ」
「なによ?」
「なっ、なんで教えなきゃいけないんだよ。だ、だから俺は急いでるんだよ」
なんでこんなに動揺したんだろ?まぁどうでもいいか。今はそれよりこの状況をどうするか、ね。
「とりあえずあたしも今日はいろいろあるから……………でもそれにはあんたもいなきゃいけないのよ」
「どうせ、また公園の掃除だろ?お前が趣味でしている。そして、なぜか俺が強制的に手伝わせられる訳だ」
ズバリ全て言い当てられてしまった。なにくそ、後藤のくせに。
「だって今は秋でしょ。だからこの落ち葉を奇麗に掃除して、一カ所に集めて昨日実家のおじいちゃんに貰った芋を焼こうと思って。食欲の秋って言うし、やっぱ秋と言えば焼き芋でしょ。どうせなら後藤くん誘って、落ち葉拾い任せよー。どうせ暇でしょアイツ。ま、苗字が前木の私にとって、後藤なんて後ろっぽい名前の奴なんだから、私に従えばいいのよ………なんて思ってないわよ別に」
「なにわざわざご丁寧に人の悪口大声で喋ってんの」
あっ、いけない。つい思ったことを全部口に出しちゃうクセが。
あっ、このままじゃ、可愛い女子高生が一人で寂しく焼きイモする図が完成しちゃう。ダメ、私みたいな可愛い女の子が一人で焼き芋とか。
「べ、別に………後藤くんなんて居なくてもいいんだけどさ、どうせ暇でしょ?だから、仕方なく誘ってあげているんだから、大人しく誘いに乗りなさいよ」
逃がさないようにと首を絞めてやろうと飛びついた私を、ひょいっと後藤くんは避けてしまった。
あれ、いつもならこれで私がブイブイ言わせて後藤くんは渋りながらも「わかった」って言ってくれるのに……………。
「いや、悪いんだけど今日はちょっと付き合えないんだよ」
「なんでよ」
「ちょっとな。言っただろ放課後に用があるって」
「放課後っては言ってないじゃない。朝ってしか言ってないわよ」
と、言っている間に学校に着いてしまった。後藤くん何があるんだろう?
「悪いけど用あるからゴメンな。じゃーな。」
そう言って後藤くんはちょっと気まずそうに走って行ってしまった。
ねぇ、それってそんなに大事なことなの……………。
放課後、学校が終わっても後藤くんは現れなかった。『オカシイ』。おかしいよ。
いつも一緒にいて、一緒に遊んで、一緒に……………。
一人ぼっちで枯葉を集めて、火をつけて、アルミホイルに包んだイモをパチパチと音がする火の中に埋めた。
ゆれる橙色の火は沈んでいきそうな夕陽とよく似ていて、なんだかセンチメンタルな気分になった。
膝を抱えて座り込んで、組んだ腕に首をうずめる。マフラーは去年買った奴をどこかにやってしまって最近首元が寒い。
「なんであたしみたいな可愛い子が一人で焼き芋しなきゃなんないのよ。なんでこんな惨めな気分で焼き芋しなきゃなんないのよ」
あー、なんかすごい腹立ってきた。すごいイライラしてきたぁー。
「後藤のバカやろーーーーーーーーーーーー!!!」
「ぐわっ!!!」
あくびの両様で大きく伸ばした腕が何かに当たった。
うしろを振り返ると後藤くんはが大の字になって寝ていた。
「そんなに眠いなら家で寝れば?」
「はぁ?ったく………アゴにモロ入ったよ」
後藤くんはアゴをさすりながら、制服に着いた土を払いながら立ち上がった。
「自業自得よ。あたしの誘いを断るからそうなるのよ」
「そうゆうこと言うか?ったく、これを見てから言えよ」
そっぽを向いていたのに、その視線の中に紙袋を突きだされた。
「なに?これ」
「開けてみないとわかんないだろ?苦労したのにアッパーかよ」
ゴチャゴチャうるさい後藤はシカトしておいて私はその紙袋を受け取って中を覗いた。
「なっ、なによこれ」
「お前、去年買ったマフラー無くしたって言ってただろ?だからちょっと手芸部のやつに教えてもらって作ったんだよ。
かっ、勘違いすんなよ。べっ、別に意味とかないからな。お前今月誕生日だろ?いや、でも………こっ、これ誕生日プレゼントとかそんな……うわっ」
紙袋から取り出した下手なマフラーを握って、慌てている後藤くんをおもいっきり殴った。
「えっ、なんで俺殴られ……………」
「はい」
まだ、痛がっている後藤くんに焼き芋を差し出す。
「あんただけなんだから。こうやって焼き芋とかしてあげるの」
「バーカ、俺だってこんまワガママお前じゃなかったら付き合ってやんねぇよ」
まだ夕陽は沈んでいない。これで私の顔が赤いのは誤魔化せるはず。でも、後藤くんが赤いのが私には分かるから……………。
「交換ね。マフラーと焼き芋」
「だな。俺もそのために作ったんだし」
背後で焚き火の破裂音が響いた。私は座っている後藤くんに手を貸してやる。彼の手はとても暖かかった。