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椋露路朱寧の推理録  作者: 雪車
彷徨うリヴォルヴァ
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その4

 渡瀬知奈未はJR渋谷駅の改札を抜け、人混みに紛れるようにして目的の場所へ向かっていた。神経質なほど人目を気にしているため逆に目立っているくらいだ。


 並べられた数字の中から探していたものを見つけると、ポケットから鍵を取り出した。再度首を巡らせて周囲を確認すると、緊張した手で鍵穴に差し込んでロッカーの扉を開ける。


 その中には白い布で包まれた物体が一つ置かれていた。


 震える手でそれを掴んで鞄にしまうと、通ったばかりの改札を急ぎ足で引き返した。


 「逃すな! 確保しろ!」

 改札口に男の怒鳴り声が響いた。


 渡瀬知奈未はびくりと身を震わすと、振り返って自分に走り寄る男達の姿を見た。


 次の瞬間には、鞄を放り出して彼女は駆け出した。もはや人目は気にしていない。人混みをかき分け、呆気にとられているカップルを突き飛ばして階段を一段跳ばしで駆け上がった。


 「なんで……なんで……なんで……」

 うわ言のように繰り返しながら、必死の形相で逃げる。後ろを振り返ると、男が階段を登り切ったところだった。完全に捕捉されている。


 「危ない!」


 渡瀬知奈未は窮屈なホームから降りて、線路の上を走っていた。息も絶え絶えで今にも倒れそうだった。


 彼女は後ろを振り返った。男は追ってこない。諦めたのか、ホームから彼女を見下ろしている。何か叫んでいる様子だったが、彼女の耳には届かない。酷く不吉な金属音にかき消されていた。


 突然視界が光で覆われた。一瞬、男の形相もホームで電車を待つ人々の顔も見えなくなった。


 勝ち誇ったような笑い声が、彼女の口から漏れた。


 その頃、メリーヴェール探偵事務所では依頼人である花門莉紗と小林秋彦刑事が椋露路からの呼び出しを受けて、紅茶の入ったティーカップを前に腰を下ろしていた。


 「平山美佐子を殺す動機と、佐野隆雄弁護士のアリバイはどうだった?」

 椋露路はいつになく引き締まった面持ちでソファに腰掛けていた。緊張しているのか、そわそわと咥えたミニパイプを揺らしている。


 「平山美佐子に殺すほどの恨みを持つ人物は見当たらなかった。会社にとって彼女は目の上のたんこぶだったようだけど、殺すほどのものじゃないだろう。それと、彼女が死んで得をする人物だけど……これもいない。彼女自身に大した資産はないし、資産家の平山源蔵の相続人になる可能性があったのは一人娘の平山美佐子だけだった。彼女が死んでほかの誰かが遺産を相続するということもない」


 小林刑事の言葉に椋露路は顔をしかめた。

 「それは妙だね。そうだとしたら平山美佐子は殺される理由がないことになるよ。佐野弁護士との関係はどうだった?」


 「佐野隆雄弁護士は平山源蔵が大株主になっている会社の顧問を務めていて、その関係で取締役となっている平山美佐子と連絡を取っていたようだよ。それと、平山源蔵は現在七一歳で認知症になっていて、佐野弁護士が彼の成年後見人になっている」


 それを聞くと、椋露路はパイプを片手にゆらゆらと煙を揺らした。

 「なるほど、佐野弁護士のアリバイはどうだった?」


 「平山美佐子が殺された時間、佐野弁護士は被害者本人と電話をしていたそうなんだが、事務所にいたようで事務員からの証言も取れている。供述に不審な点もなかったよ。それと、前の二件についてもアリバイを調べたけど、一件目については夜遅くまで顧問先で会議があったようで、犯行時刻には飲み屋にいた。二件目については弁護士会の研修に参加していたようだが、こちらは裏が取れていない。佐野弁護士には二件目の犯行は可能だったかもしれないが、一件目と三件目は無理だっただろう」


 「ううん、ありがとう」

 椋露路は小林刑事の報告を聞くと満足そうに頷いた。


 「それと、朱寧さんに頼まれたとおり渡瀬知奈未には監視を付けてある。動きがあれば連絡が来るよ。しかし、どうして彼女を?」


 「僕の推理では、近いうちに彼女が人を殺すからさ」


 小林秋彦は驚きの表情を浮かべ、椋露路を見た。

 「彼女が……?」


 「兄は、無事なんでしょうか」

 莉紗は依頼に来た時と比べて言葉少なく、塞ぎがちな様子だった。顔色は依然として優れない。


 「お兄さんを自殺にみせかけて罪を着せるつもりだとしたら、四人殺してからだ。まだ大丈夫だよ」


 椋露路の励ましもあまり効果があったようには見えず、莉紗は両手を膝上に揃えて肩を震わせた。

 「なぜ兄がこんな目に」


 「お兄さんは……」

 着信音が椋露路の言葉を遮った。携帯電話を取り出して応答する小林刑事を椋露路はじっと見つめる。彼の顔には落胆の表情が浮かんでいる。


 「どうしたんだい、まさか取り逃がしたとか」

 小林刑事が乱暴に通話を切ると、椋露路が尋ねた。


 「そのまさかだよ。きわどいところを線路からホームに飛び乗って、電車から降りた乗客に紛れて姿を消したらしい。一応、渡瀬知奈未が放り出した鞄の中から布でくるまれた拳銃が見つかった。例によって携帯の履歴は消されていたが、住所が書かれたメモがあった」


 椋露路はため息をついた。

 「それは殺す予定だった相手の住所だろう、すぐにその住所へ警官を回して住人に話を聞くべきだね」


 小林刑事は頷いた。


 「さてさて、困ったことになった」

 椋露路はそう呟いて、睡魔と奮闘中のメリーヴェールをちらりと見た。


 ※


 渡瀬知奈未の死体が発見されたのは二日後だった。


 ホテルの一室で毒を飲んで、椅子に座ったままドレッサーの前に突っ伏していた。その傍らには自身の一連の犯行を認める自筆の遺書があった。それと一緒に花門和十の監禁場所と思われる場所を示した地図が置かれていた。


 椋露路はひどく陰気な風体でパトカーの後部座席に腰掛けていた。


 「朱寧、まるであなたが犯罪者みたいだよ」

 メリーヴェールの言葉に、助手席に座った小林刑事は地雷を踏んだかのように身を縮めた。


 椋露路は言い返す気力も湧かない様子で、苦しそうに首を動かした。


 「みすみす犯人を死なせるなんて、無能もいいところ、探偵失格」


 「うぅ……」 


 「面倒くさがりなくせに見栄っぱりなんだから、私が普段どれだけ苦労しているか。とにかく、依頼人の兄を死なせるわけにはいかない、しっかりしろ、馬鹿」

 椋露路の喘ぎに構わずメリーヴェールは容赦なく言葉を浴びせる。


 「ま、まあ、渡瀬知奈未を逃したのはこっちの不手際だし、朱寧さんのせいでは……」

 小林刑事がおそるおそる椋露路の顔を伺うと、しかし、彼女も幾分気を取り直した様子で、先ほどまでは焦点の定まっていなかった瞳で景色を眺めていた。


 「メル、もふもふさせて」


 びくり、とメリーヴェールは身を震わせた。

 「や、やだ」


 椋露路が不気味な笑みを浮かべながらメリーヴェールを強引に抱き寄せて、暴虐を尽くしている様を、小林刑事は黙ってバックミラー越しに眺めた。


 「到着しました」

 運転手の警察官が事務的な口調で告げ、車を停めた。


 二時間近く山道を走っていただろうか、渡瀬知奈未の遺した地図に記されていた場所に着いたようだ。そこには人里離れた山中に不釣り合いなコンクリート造りの建物がぽつりと建っていた。 


 「ふう、さてさて」

 涙目になったメリーヴェールを車内に残して外に出ると、椋露路はいつもの調子で建物を観察した。窓はなく、壁は塗装もされておらず少し大きめの頑丈な倉庫といったものだった。金属製の扉が一つ、石段の上に付けられている。


 「鍵がかかってる、参ったな。壊して入ろうにも骨が折れるというか、無理だなこれは、頑丈すぎる」

 小林刑事が金属製の扉を叩いてぼやいた。


 「ん、開いたよ」

 椋露路がそんな小林刑事を横へやって、あっさりと鍵を開けた。


 建物の中にはその外見と同じで必要最小限のものしかなかった。隅に無骨なベッドが一つ、反対側にむき出しの便器、天井に電球がぶら下がっている。その狭い空間の中央に男がしゃがんで本を読んでいたが、椋露路の姿を見ると突然立ち上がって襲いかかった。


 「わわっ」

 椋露路は後ろへ退ろうとしたが、驚いて足がもつれ、その場に尻もちを着いた。小林刑事がその頭上を跳び越えて立ちはだかった。


 花門和十は構わずに、彼の顔面めがけて殴りかかった。


 小林刑事は冷静に拳を避けると、伸びきった花門和十の右腕を肩で担ぐようにして身体を入れ、袖口を両手で掴んだ。


 次の瞬間、男の身体が宙に投げ出された。鈍い音とともに花門和十が仰向けに倒れる。一本背負いだ。


 「いてて……びっくりした」

 尻もちを着いた椋露路に小林刑事が手を伸ばして、引き起こした。


 「あ、ありがとう。意外とやるんだね、君」 

 恥ずかしそうに椋露路がお礼を言うと、何故か小林刑事も照れたように口を濁した。 


 花門和十はコンクリートの床に転がって、苦痛に顔を歪めている。


 「ちょうどいい、この野蛮な男に手錠を掛けたまえ」


 冗談だと思ったのか、小林刑事は彼女の言葉に笑い声を返した。


 「本気だよ、この男は今回の事件の犯人だ」


 「なんだって。一体どういう……」


 椋露路は怪訝そうな表情を浮かべる小林刑事の懐から手錠を取ると、不慣れな手つきで花門和十の両手を繋いだ。


 「一人目の被害者、匂坂直行を殺したのはこの男だ」


 花門和十は椋露路の言葉を聞き、悔しそうに顔を歪めた。


 「ロシアンルーレットという、弾を一発だけ込めた回転式拳銃リヴォルヴァを自分のこめかみに当てて、順番に引き金を引いていく死のゲームがあるだろう? 今回彼らはそれをしていたのさ。といっても、実際に犯行に使われたのは消音に向かない回転式拳銃ではないけれど」


 「彼ら?」

 小林秋彦は状況が飲み込めない様子で、開け放された扉の前に立って彼女の話を聞いている。


 「犯人たちさ、今回の事件を計画した犯人は全員で四人だ。自殺に見せかけて殺された渡瀬知奈未に、この男」

 椋露路はすっかり大人しくなった花門和十を指さした。


 「佐野隆雄弁護士、そしてもう一人は渡瀬知奈未が殺す予定だった者に恨みを持つ、銃の扱いに慣れた人物さ。佐野弁護士に監視をつけてもらっているのはそのためだ」

 椋露路が視線をやると、小林刑事はわからないといったふうに首を振った。


 「一つ目の事件、犯人は花門和十だ。被害者のアパート付近をうろついているところを目撃されているし、妹の莉紗さんの証言も合わせて考えれば間違いないだろう。この男が身につけている服は犯行当時に着ていた物に違いない、調べれば犯行の証拠が見つかるはずだ。


 「二つ目の事件、犯人は佐野弁護士だろう。花門和十の指紋の付いたボールペンが残されているが、それは置き手紙と併せて花門和十に連続殺人の罪を着せるためのフェイク。花門和十と被害者の越野司は顔見知りなんだ、配達員の変装なんかしたって直ぐにばれる。横恋慕をして恨みを買った相手が変装をして押しかけてきたら、あんなふうにすんなり殺されたりはしないさ。


 「三つ目の事件、犯人は銃の扱いに慣れた人物だ。暗闇の中で一発で致命傷を追わせるなんて芸当、一般人にはできない。誰なのかは四件目の被害者に恨みを持つ人物を絞り込めばじきにわかるはずだ。


 「未遂に終わった四つ目の事件、渡瀬知奈未が犯人になる予定だった。ところが犯行前に見つかってしまい、犯人たちは予定を変更した……いや、もともと途中で犯行が発覚したら変更する計画だったんだろう。罪を背負って自殺する役が花門和十から渡瀬知奈未になった」


 その言葉を聞いても、花門和十は観念したようにじっとして動かなかった。椋露路は解説を続ける。


 「犯人たちはそれぞれ恨みを持つ相手を、一つずつ後ろにずらして順番に殺していったのさ。頭のいかれた同一犯の仕業に見せかけてね。そうすることで完璧なアリバイを作ることができ、動機があっても犯行は不可能と判断されることになる。


 「すべての殺人が終わったあとで、犯人の一人がすべての罪を背負って自殺する。正真正銘紛れもない自筆の遺書を残してね。それによってほかの三人は罪を免れる事ができる。ロシアンルーレットといったのはそういう意味だ」


 椋露路の話に静かに耳を傾けていた小林刑事は、ここで言葉を挟んだ。

 「そのはずれを引き、生贄になるはずだったのが花門和十」


 「そう。ただし初めは、はずれを引いたことが本人にわからないように工夫したはずだ。全ての罪を背負うことになったあとで殺人をする気にはならないだろう。僕の予想では、殺人をする順番をくじで決めて、一番を引いたものを生贄にしたんだ。そうすることで翻意の可能性を潰せるし、指紋の付いたボールペンのような証拠を残すこともできる。全ての犯行後に生贄を決めるのでは、証拠を残しようがないからね」


 「犯行声明が一件目ではなく、二件目の犯行時に残されたのはそういうわけか」


 椋露路は頷いた。

 「犯行声明には捜査を誘導する効果があった。事実警察は花門和十を指名手配して、彼を犯人と見て誤った方向に捜査を進めていたからね。


 「この計画の肝は、生贄となる犯人の自筆の遺書だった。計画を立てた段階で予め犯人全員に用意させたんだろう。具体的な計画を立てて、メンバーを募ったのは佐野隆雄弁護士だと僕は考えているよ」


 「なぜ佐野弁護士だと? そういえば、三件目の被害者の平山美佐子だけは、殺される理由が見つからなかったな……順番からいって佐野弁護士のターゲットは彼女だ」


 「うん、動機はちゃんとあったのさ。ただし、前の二人とは違って金だけどね」


 得心がいかないといった様子の小林刑事を見てから、椋露路は話を続けた。

 「佐野弁護士は資産家である平山源蔵の後見人をやっていた。後見人ということは資産を管理できる。家庭裁判所のチェックはあるが、年に一回だし、書類を偽造して辻褄を合わせれば誤魔化せないことはない。おおかた使い込みでもしたんだろう。ところが、被後見人平山源蔵が死んで相続が発生すれば使い込みがばれてしまう」


 「だから平山美佐子を殺したのか。平山源蔵に兄弟はいないし、一人娘がいなくなれば相続人はいなくなる」


 「そういうこと、これが今回の事件の全貌さ。佐野弁護士ともう一人の犯人を捕まえて、家宅捜索でもすれば何かしら証拠も出るだろうさ」


 説明を終えて、椋露路はあくびをした。

 「そろそろ帰ろうか、メルも退屈してるだろうし」


 小林刑事が花門和十を立たせ、椋露路に続いて建物を出た。椋露路はパイプを咥えてマッチを擦った。


 「その男と同じ席に座るのはどうもな。トランクに詰めるのは駄目かい?」

 先ほど尻もちを着かされたのを根に持っているのか、椋露路がそんなことをいいながらパトカーに歩み寄った。


 車内にメリーヴェールの姿がないのを見て、首を傾げる。


 「メルは退屈してお散歩に行ったようだよ。あれ、運転手もいないね」

 椋露路は振り返ると、驚きの表情を浮かべた。小林秋彦はそれを見て眉を寄せる。


 「どうしたんです……」


 「動くな、クソッタレども」

 椋露路の視線の先、小林刑事の背後から、獣の唸り声のような狂気に充ちた声が響いた。


 運転手がメリーヴェールを抱き上げて――そのこめかみに拳銃を突き当てて、目を血走らせて立っていた。


 「まったく、クソッタレの探偵が、何もかもむちゃくちゃにしやがって。俺はもう終わりだ。いや……ここでその探偵を殺して、小林刑事を殺して、ここにいる奴全員殺せば……」


 「そんなことをしたってすぐにばれる、馬鹿なことはよせ」

 手負いの獣をなだめるように、椋露路はつとめて冷静に穏やかな口調で語りかけた。


 「その人を離せ!」


 「よすんだ、小林刑事。刺激するな、銃を捨てるんだ」 

 懐から拳銃を抜き、犯人に向けようとする小林刑事に椋露路は告げた。小林刑事は歯ぎしりをして一瞬考えたが、おとなしく言葉に従った。


 「さあ、メルを離すんだ。ここで逃げたって僕たちは君を追わない。だから、その子は解放してくれ」


 椋露路の態度に犯人は戸惑いを見せた。しかし、依然として銃口はメリーヴェールに向けられている。彼女は怯えて、助けを求めるように椋露路に視線を向けている。


 「大丈夫だ、メル、僕の命に代えても、君は助ける」


 突然、犯人は拳銃を持つ手に力を込め、メリーヴェールの額に擦りつけた。メリーヴェールは痛みに顔を歪める。


 「信じられるか! 俺を追わないだと? お前らには車がある……いや、俺が使えば……ダメだ! どうせすぐに応援を呼ぶに決まってる」


 「携帯は捨てる! ほら……」

 椋露路はゆっくりと鞄を肩から外し、犯人に向かって放り投げた。小林刑事もそれに続いて無線機、携帯電話を投げた。


 犯人は尋常じゃなく興奮して、十メートル以上離れた椋露路にまで荒々しい息遣いが聞こえてくる。


 「もし、服の下にほかに無線機を隠してると思うなら、裸になる」

 椋露路の言葉に、犯人は理解できないといった様子で眉を寄せた。


 「あ、朱寧さん……?」


 「君は見るな。じっと前を向いていろ」

 椋露路は小林刑事を一喝し、深呼吸をして、両手を背中に回した。


 「う、動くんじゃねえ!」

 犯人は銃口をメリーヴェールから椋露路に移し、叫んだ。


 「服を脱ぐだけだ」

 椋露路は微かに笑みを見せると、背中のリボンを解いた。ドレスがふわりと膨らむ。


 犯人はわけがわからないといったふうに小林刑事を見た。小林秋彦も同様に、理解不能の様子で、椋露路の命令どおり前を向いている。


 椋露路が肩紐を外すと、ドレスがばさりと地面に落ちた。と同時に、椋露路は太ももにベルトで止めてあった小型拳銃を抜くと、電光石火で引き金を引いた。


 パン――という小さな炸裂音のあと、男のうめき声がこだました。


 犯人の手から拳銃が落ちるのと同時に、止まっていた時間が動き出したかのように、小林秋彦は跳び出した。


 出血した手を地面に伸ばした犯人よりも早く、小林秋彦は跳躍し、仰向けに倒れこんで拳銃を確保した。


 犯人が舌打ちして顔を上げると、真っ白な太ももが容赦なく、彼の顎にめり込んだ。


 犯人は勢い良く仰向けに倒れ、後頭部を強く打った。その視界には青空と、下着姿の美しい探偵が、悪夢のように脳裏に焼き付いた。





挿絵(By みてみん)

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