秋の王と醜き世界
これは、とある王国の物語。
その国では四季ごとに、四人の王が治めていた。
春の女王は誕生をもたらし、すべての命は夏に盛り、秋には溢れんばかりに実を結ぶ。
そして、その全てが、冬の王の訪れとともに無に帰るのだ。
さて、これは 秋の王の統治下のこと。
秋の王はいつものように、夏の王のあとを引き継ぎ、王座に座した。
しかし、それから一つの時が流れた頃、秋の王は愕然とした。
いつもは彩り溢れ、美しく実を結んでいるはずの世界が、今年は全く違っていたのだ。
毎年、紅に燃え黄に輝く木々の葉は、老いた色に染まり、皺を刻んでいる。
いつも、まるまると熟す果実は、やせ細り不揃いに実を結ぶ。
秋になると聞こえてくる吟遊詩人の歌声も、悲しみに満ちている。
美しさに足りないこの世界を見た秋の王は、嘆き悲しみ憤慨した。
なぜならば、彼は完全なる美しさをこよなく愛し、常ならば自身の統治の下、美しい世界に陶酔しているはずだからである。
秋の王は、怒り狂いながら王座を降り、眠りに就いている冬の王のもとへ駆けていった。
そして、冬の王を叩き起すと、まくし立てるように彼に言った。
「冬の王よ! 早く王座についてくれ!
大地は醜く、唄は暗い。私はもう、こんな世界はうんざりだ!
早くお前が王座に座し、この醜い命をすべて終わらしてくれ!」
冬の王は体を起こして、秋の王を宥めた。
「秋の王よ、落ち着きたまえ。
そなたには、まだ二つの時が残っている。
その全てを終えた後、私が治めることにしよう」
しかし、秋の王はますます声を荒げ、言い募る。
「いや、冬の王よ! 私はもう たくさんなのだ!
こんな醜い命に価値はない。残っている二つの時など、全部お前にくれてやる。
早くこの統治を代わってくれ!」
冬の王は、彼の言葉に大きく息を吐くと、もう一度、宥めるように静かに言った。
「秋の王よ。私はそなたが美を何よりも愛することを知っている。
そして、不完全をひどく嫌うことも。
・・・だが、もう一度、この世界をご覧なさい。
果たしてそれは、本当に醜いだろうか?
例えば、あの木々の葉は、悟りを開いた老齢の賢者と似ている。
あんなにも知恵を感じる色をした木の葉と出会ったのは初めてだ。
そして、この不揃いな果実たちは口にすると非常に甘い。
暗い唄が嫌ならば、そなたがこの世を照らす唄をうたえばいい。
確かに今、この世界は完全には程遠いだろう。
だが、少し視点を変えるだけで、魅惑的なものに変わる。
私としては、この全てを今終わらすのは、どうしても惜しいのだ。
秋の王よ、どうか思い直して欲しい。この全ての命には価値がある。
…そなたもそう思ってはくれないだろうか?」
秋の王は、冬の王の言葉を最後まで聞いていた。
そして、冬の王に言葉を返すことはなかった。
秋の王は、踵を返すと王座に戻り、腰を下ろす。
もう、その瞳に、怒りの色は浮かんでいない。
そうして、彼はもう一度、この世界に目を落とす。
深い色をした木々や、多様性に富んだ果実に、ゆっくりと目を移していく。
物思いにふける彼の上に、美しい風が吹き抜けた――――