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四季録  作者: 文 詩月
3/4

秋の王と醜き世界

 


 これは、とある王国の物語。


 その国では四季ごとに、四人の王が治めていた。

 

 春の女王は誕生をもたらし、すべての命は夏に盛り、秋には溢れんばかりに実を結ぶ。

 そして、その全てが、冬の王の訪れとともに無に帰るのだ。



 さて、これは 秋の王の統治下のこと。

 秋の王はいつものように、夏の王のあとを引き継ぎ、王座に座した。


 しかし、それから一つの時が流れた頃、秋の王は愕然とした。


 いつもは彩り溢れ、美しく実を結んでいるはずの世界が、今年は全く違っていたのだ。


 毎年、紅に燃え黄に輝く木々の葉は、老いた色に染まり、皺を刻んでいる。

 いつも、まるまると熟す果実は、やせ細り不揃いに実を結ぶ。

 秋になると聞こえてくる吟遊詩人の歌声も、悲しみに満ちている。


 美しさに足りないこの世界を見た秋の王は、嘆き悲しみ憤慨した。


 なぜならば、彼は完全なる美しさをこよなく愛し、常ならば自身の統治の下、美しい世界に陶酔しているはずだからである。


 秋の王は、怒り狂いながら王座を降り、眠りに就いている冬の王のもとへ駆けていった。

 そして、冬の王を叩き起すと、まくし立てるように彼に言った。



「冬の王よ! 早く王座についてくれ!

 大地は醜く、唄は暗い。私はもう、こんな世界はうんざりだ!

 早くお前が王座に座し、この醜い命をすべて終わらしてくれ!」


 

 冬の王は体を起こして、秋の王を宥めた。



「秋の王よ、落ち着きたまえ。

 そなたには、まだ二つの時が残っている。

 その全てを終えた後、私が治めることにしよう」

 


 しかし、秋の王はますます声を荒げ、言い募る。



「いや、冬の王よ! 私はもう たくさんなのだ!

 こんな醜い命に価値はない。残っている二つの時など、全部お前にくれてやる。

 早くこの統治を代わってくれ!」



 冬の王は、彼の言葉に大きく息を吐くと、もう一度、宥めるように静かに言った。



「秋の王よ。私はそなたが美を何よりも愛することを知っている。

 そして、不完全をひどく嫌うことも。


 ・・・だが、もう一度、この世界をご覧なさい。

 果たしてそれは、本当に醜いだろうか?


 例えば、あの木々の葉は、悟りを開いた老齢の賢者と似ている。

 あんなにも知恵を感じる色をした木の葉と出会ったのは初めてだ。

 そして、この不揃いな果実たちは口にすると非常に甘い。

 暗い唄が嫌ならば、そなたがこの世を照らす唄をうたえばいい。


 確かに今、この世界は完全には程遠いだろう。


 だが、少し視点を変えるだけで、魅惑的なものに変わる。

 私としては、この全てを今終わらすのは、どうしても惜しいのだ。


 秋の王よ、どうか思い直して欲しい。この全ての命には価値がある。

 

 …そなたもそう思ってはくれないだろうか?」



 秋の王は、冬の王の言葉を最後まで聞いていた。

 そして、冬の王に言葉を返すことはなかった。


 秋の王は、踵を返すと王座に戻り、腰を下ろす。

 もう、その瞳に、怒りの色は浮かんでいない。


 そうして、彼はもう一度、この世界に目を落とす。

 深い色をした木々や、多様性に富んだ果実に、ゆっくりと目を移していく。



 物思いにふける彼の上に、美しい風が吹き抜けた――――




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