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四季録  作者: 文 詩月
2/4

夏の王と悦びの宴

 これは、とある王国の物語。


 その国を治める四人の王には、それぞれ三つの時が与えられていた。

 四人の王が交代に王座に座する時、世界の様子はめまぐるしく変わる。


 それゆえ、春の女王は誕生の女神、夏の王は繁栄の父、秋の王は実りの長、そして冬の王は死の魔王と呼ばれていた。


 さて、その中でも特に、夏の王は快いこと、心の悦びを愛していた。


 しかし、夏の王が治めるある時のこと、太陽は激しく燃え盛り、世界はあまりの暑さに疲れ果て、王は悦びをなくしていた。


 そこで、夏の王はあくる日、大規模な宴を開くことにした。


 様々な場所から人を集め、その中で王座につく自分の心を最も悦ばせた者に、より豊かな繁栄と富を与えるという布告を出した。

 多くの者は、その旨に心躍らせ、ぜひその宴に参加し褒美をもらおうと躍起になった。



 そして ついに、その宴の日がやってきた。


 その日も相変わらずの猛暑で、王の額には汗が光っている。

 そんな王の傍らでは、一人の少年がクバの葉で作った扇で、王に風を送っていた。


 宴の幕が明けると同時に、多くの者たちが王の前に出て、彼の心を悦ばせようとした。


 吟遊詩人は 王を讃える唄を唄い、踊り子は 煌びやかな舞を披露し、大道芸人は 滑稽な仕草で笑いを誘う。


 宴は大いに盛り上がり、あちらこちらで笑い声や手を叩く音が響き渡る。

 王もそんな様子を心から楽しみ、時には自らおどけた洒落を言い、人々を楽しませた。



 さて、宴が始まってから四刻半が過ぎた頃、陽はすっかり傾き、宴も終わりを迎えようとしていた。

 すっかり悦びで満たされた王は、そのことに気づき、はて どうしたものか と、頭を抱えた。


 王の前で行なわれた出し物は、どれも面白く、その中で一番を決めるのは非常に難しい。


 王は悩んだ。宴は少しずつ賑やかさをなくし、誰もが期待の目で王をみつめる。


 困り果てた王は、ふと 爽やかな風を感じた。

 その源を探るよう頭を上げると、そこには一心不乱に自分を扇ぎ続ける少年の姿。


 思い返してみると、この宴の間中ずっと王は心地好い風を感じていた。

 そのことに気づいた王は、立ち上がり大きな声で皆に呼びかける。



「快き我が民よ。今、私の言葉に耳を傾けたまえ。

 今日この日、開かれた宴は、私の心を非常に悦ばせるものであった。

 そして今、その中で特に、私の心を悦ばせた者を、ここに発表しよう」



 王のその言葉に、人々は固唾を飲んだ。

 そんな中、変わらずに王を扇ぎ続ける少年に、王は優しく呼びかけると、驚く彼を自分の横に立たせる。


 そして、彼に向かって手を差し出し、揺るぎない声で言った。



「見なさい! この少年こそが、私の心を最も悦ばせた者だ!


 彼は四刻半もの間、ただ一度として休むことなく、私に快い風を送り続けてくれた。


 彼がいたからこそ、私は暑さに気を取られることなく、この宴を楽しむことができた。


 それゆえに今、私は他の誰でもなくこの小さな男子に、繁栄と尽きることのない富を与えることにしよう!」



 会場からは、割れんばかりの拍手と指を鳴らす音、大きな歓声がわき起こる。

 驚き戸惑う少年の肩に王はその右手を置くと、「少年よ、私はお前に感謝しよう。お前の忠実さが、私の心を悦ばせた」と、彼に微笑み祝福した。



 その後、クバの葉でできた扇が、縁起物として巷で大流行したのは、これとはまた、別のこと。


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