死神の落としもの
最後まで読んでいただければ幸いです。
──まずジコ紹介からどうぞ。
恭一 「いきなり何ですか」
──ジコ紹介です。
恭一 「あ、はぁ。は、羽成恭一です。えっと、好きなものは……」
──ああ、違います違います。『自己』の紹介ではなく『事故』の紹介です。
恭一 「事故?」
──ええ。あなた、もう死んでいるんですからぁ。できるでしょそのくらい。
恭一 「え。今なんて?」
──できるでしょそのくらい、と。
恭一 「いや、もう少し前です」
──もう、死んでいるんでいるんですからぁ……って、気づいてなかったのですか。
恭一 「……はい。というか、本当に死んでいるんですか」
──ええ。本当ですよ。
普通の日常が良かった。
何ひとつ変わらない、そんな日常が……。
1日目。
朝。起床、朝食、歯磨き、通勤、出社。
昼。仕事、昼食、仕事。
夜。残業、帰宅、入浴、夕食、就寝。
いつもと変わらない日常生活。ただ今日は運がいい。豪華な指輪を拾った、なにかよくわからないけど宝石が埋め込まれている。
ダイヤモンド? いや、そんなにはごつごつしてないな。
ルビー……じゃないよな。赤くないし。
もしかしてサファイア……な、わけない。まず青くないし。
じゃあエメラルド? で、あってほしいよ。緑くないよ。
ガーネットかな? どこかで聞いたことあるような。てか、花だろ。
まあ、何でもいいや。
それにしても今日は危なかった、車に轢かれるかと思ったよ。
あれ? 指輪が外れない。
2日目。
朝。
いつも通りの時間に家を出る。
理由があるとすれば、隣に住む女性が可愛いから。もっと正確に説明するなら、お隣さんの家を出る時間がその時間だから。
ぎぃ。
ドアが鳴いた。
どん。
「すみません」
ほら、可愛いだろう。
昼。
仕事、昼食、仕事。
夜。
帰り道。街灯が少ない夜道をひとりで歩く。
カンカンカン。
鉄製の階段を13段上る。
そこで感じたのは異臭。言葉に出来ないけどただ臭いと言える。
「なんだよ……これ」
鼻をつまんで自室へ向かう。近づくほどに異臭がまして悪臭へと変化している。
「まさか……な」
ドアを開けると、想像していたものはなかった。
いや、いなかった。
ブーン。
微かに迷惑な羽音が聞こえる。隣からだ。
「すみませーん。なにか異臭がするんですけど、大丈夫ですかー」
返事はない。
「ドア開けますよー」
返事がないのでノブに手をかける。
ぎぃ。
ドアが鳴く。
臭い。生臭い。血生臭い。
目の前に現れたのは、魂を持たないただの肉塊だった。
足が震える、膝が落ちる、地に手を付く……嘔吐。
3日目。
朝。
昨日のことが頭から離れない。目に焼きつく、とはこのことを言うのか。そう考えながら醤油味のカップラーメンを啜る。
昼。
今日は有給休暇だから家でゴロゴロ。家から出たくなーい。
本当は逃げてるだけなんだけどね……。
いや、なんでもない。
夜。
カップラーメンがなくなった。仕方がないからピザの注文。
ピンポーン。
1180円に対して2000円で支払い。当然、820円のお釣りが来た。
それにしてもコンビニの店員さんからお釣りをもらうときって、手がよく触れるよね。今そんな状態。
いやぁ、チーズってのはよく伸びるよねぇ。
そういえば、今テレビに映ってる人さっきのピザの配達員なんだけど、
……。
近くの踏切で人身事故か……。
4日目。
朝。
今日も有給休暇。もう外に出たくない。だけど、食料ないし腹も減ったからコンビニにでも行こう。
昼。
いらっしゃいませー。
コンビニに来たはいいけど、なにを買うかが問題だよな。
税込110円のおにぎりを3つ、と。これぐらいでいいや。
……また、お釣りがでた。
うぃーん。
どん。
「すみません」
「ちっ」
そんなに怒らなくてもいいのに……。
夜。
どうやら、コンビニで立てこもり事件が起きたらしい。テレビで中継やってるよ。
犯人は無職の男、人質は店員。
あ、銃声が2発。
……。
……もう、いやだ。
5日目。
朝。
いやだ。
昼。
いやだ。いやだ。
夜。
いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。
俺に関わった人が、死んでる。全員死んだ。
もういやだ。誰も殺したくない。
外に出たくない。
このまま……死んでやる。
すべてこの指輪のせいだ……。
6日目。
朝。
やった、指輪がとれた。こんなに嬉しいことはないよ。今日は外食しよう。目一杯食べてやる。
指輪の行方はわからないけど。
昼。
なんか身体が軽く感じる。ストレスがなくなったせいかな。行き違う人と肩が触れても、
「すみません」
と、明るく返すことができる。
笑顔が不自然だったのかな? さっき、ぶつかった人がすごい目でこっちを見ているんだけど。
それにしても今日は暑い。日差しが強いし……。
あれ? 急に日陰ができたぞ。涼しい。
「上、上! 危ないぞ!」
何だよ、上?
視界いっぱいに建設業の鉄骨が映った。
夜。
…………。
恭一 「……」
──思い出しましたか。
恭一 「はい。すべて思い出しました」
──それは良かった。では、最後に一言どうぞ。
恭一 「そうですね……。最後にぶつかった人の指輪に埋め込まれていた宝石、なんなんでしょう」
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