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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

大国様シリーズ

大国様が本気で義父を攻略するようです

作者: 八島えく

注意・このお話は、男性同士の恋愛表現が含まれておりますので、閲覧の際はご注意ください、

 貴方の御霊は、とても清らかです。

 どんな美しい女神も、貴方の前では霞んでしまいます。

 雄々しくも繊細で、勇敢でありながらどこか臆病な貴方が、たまらなくいとおしい。

 

 だから、全力で、小細工なしで、貴方を奪いに行きます。


 ねえ、お義父さん。



 ~大国様が本気で義父を攻略するようです~



 この日本はだいたい適当で、おおらかで、細かいことは気にしない。俺はそういう風土が気に入っている。

 だが、今はその風土を恨めしいとさえ感じてしまう。


 いくら適当だからって、おおらかだからって、細かいことは気にしないからって…………。

 

 義理の息子に求愛されるのも許されてたまるか!!



 ――武速須左之男尊(たけはやすさのおのみこと)、それが俺の名前である。

 日本の天上――高天原を統べる天照大神の弟で、遠い昔はやんちゃしていたのが俺である。

 黄泉にいる母上に会いたいとごねたら親父に切れられ、姉には高天原を侵略する気だと勘違いされ、地上である中つ国で怪物を倒して晴れて嫁を貰い、須賀でのんびり暮らしていたら娘を取られた。


 その娘――スセリ姫を取ったのは、あのクソガキ……国つ神をまとめる大将、大国主である。


 娘を取られたのは腹立たしいことこの上ないが、娘は幸せそうに暮らしているようだし、奴も家族の面倒をきちんと見ているから、そのことはもう不問にしてやらんでもない。


 問題なのは……その義理の息子が、俺(つまり義父)に対して好意を抱いているというところだ。

 それを告げられたのは数月前。

 共に酒を飲み交わして夜を過ごした翌日、二人して朝の支度をしていた際、大国は俺にこう告げた。


「お義父さん、私と子作りしてください!!」


 その時の俺の心情、推して知るべし。



 出雲の社。義理の息子、大国の屋敷である。

 相変わらず騒々しい。多すぎる子供達がわいわいと遊んでいるのが原因だろう。この騒がしさは、別に嫌いじゃない。

 その子供たちの面倒を見ているのは、大国の長男、木俣(きまた)である。比較的大きい子供たちも、率先して木俣の手伝いをしているようだった。

 

 肝心の大国は、子供たちを木俣に任せっきりで、朝っぱらから嫁を囲んで酒だ。こんなダメ親に似ず、木俣は立派に育ったもんだ。


 俺と嫁のクシナダは、本来は出雲の社ではない別の場所に屋敷を構えて暮らしていた。

 だが、その屋敷が何者かに焼かれ、俺も火傷を負ったため(今はもう治ってるけど)、大国の屋敷に療養も兼ねて住まわせてもらっている。

 屋敷も元に戻ってるし、いつまでもここに厄介になってるわけにはいかないんだけど、居心地がなかなかよくて、ずっと居候してしまっている。


 出て行こうとすると、大国がとたんに反対するのだ。スセリも、もっと長くいて欲しいと甘えるものだから、俺も決意を揺るがしてしまってずるずるとここにいる。


 俺は木俣を手伝い、子供たちの世話をしている。生まれたばかりの赤ん坊もいれば、木俣より少し若いくらいの子もいる(木俣は人間換算で二十代くらい)。屋敷の中にある広い一室で、子供たちはチャンバラごっこをさせたり寝付かせたり、将棋をさしたり書見したりしている。

 嫁のクシナダは、屋敷の家事をこなしている。

「スサノオ様」

 木俣が俺を呼ぶ。

「どうした」

「いえ、いつもありがとうございます。貴方がこちらへいらしてから、子供たちも皆楽しそうで……」

「別に、大したことはしてない。住まわせてもらってんだから、これくらいはさせてくれ」

「……はい」

「おまえも、少しは休んだ方がいい。生まれてこの方、ずっと子守りだろ? 遊びたい盛りも過ぎちまって……。女神の一柱くらいひっかけてもよさそうなもんなのに」

 そういうと、木俣は急に顔を真っ赤にして慌てふためいた。気になる女神でもいるんだろうか。

「いえ、私は、その……いいんです! それよりスサノオ様、火傷の具合はいかがですか?」

「あん? もうすっかり治ったよ。本当ならいつでもあちらに戻ったっていいんだけどな」

「そんな……。よろしければ、ずっとここにいてください。スサノオ様とクシナダ様がおられるだけで、子供達は喜んでますし、父も奥様方も歓迎してくださってるんですよ。ですから……」

 木俣がしゅんと肩を落とす。孫(厳密には違う気もするけど)にそう言われたら、ここに留まるしかない。

「わかったよ。そんなしんみりするな。ここは居心地がよくて御霊が休まるからなあ」

 そういうと、木俣の顔がぱっと明るくなった。


「おや、木俣」


 別の一室で嫁を囲んで酒を飲んでいた大国が、ひとりでここにやってきた。

「あ、父上……」

「おはようございます、お義父さん。今日も麗しいですね」

「おはよう大国、息子を前にして義父を軟派か」

「いえ、私のことはお気になさらず……」

「ほら、息子もそう言っておりますし」

「そういう問題じゃねえ……」

 俺は頭を抱える。ずっとこれだ。こっちの屋敷に厄介になって、いろいろあってから、ずっとこうして大国に求愛されている。

 木俣は気を使って「こんな騒々しい場所ではなんですから」と、俺と大国を別室へ案内してくれた。


 通された一室は、大国の寝室だった。大国は近くの女神に、お茶をと頼んだ。


 木俣の気遣いはありがたい。……が、大国とふたりっきりってのはどうも落ち着かない。何をされるかわかったもんじゃないからだ。


 きちんと片付いた一室に、羽織が数枚放り投げられている。どうぞ、と座布団を差し出された。俺はそれに遠慮がちに座り、女神が持ってきてくれた茶をすする。

 大国は俺に向かうようにして正座する。茶を飲む動作ひとつにしても優雅で絵になる。それがなんとなく気に喰わん。

「先ほど、木俣と何かを話されていたようですね」

 唐突にそんなことを聞いてくる。

「話? ああ……何だっけ」

「元のお屋敷に戻るとか。そのお話は本当ですか?」

「木俣に泣きつかれたよ。もっといてくれってさ」

「そうでしたか。それはそれは……。もし出ていくということでお話が進んでいたのなら……」

「何だよ」

「お義父さんの足腰を立たなくさせてました」

「待て!」

 足腰って……その、あれだろ? あれこれする気だろ……?

「ふ、くく……。お義父さんはかわいらしいですね。少し床の話をしただけでそんなに顔を真っ赤にして」

 大国に言われて自分の顔をぺたっと触ってみる。なんだか熱い。湯呑に浮かんだ自分の顔を覗いてみたら、何となく赤かった。

「お前……そういう実力行使はしないんじゃなかったのか?」

「もちろん。今のは冗談ですよ、お義父さん」

 大国は余裕の表情で茶を飲む。この余裕が俺には腹立たしい。俺が振り回されてるみたいで気に入らねえ。天下のスサノオ様が、こんな奴ただの女たらしに振り回されるなんて。


「お義父さんとお義母さんが遠慮することはないのですよ。むしろ屋敷のお手伝いをしていただいて、此方側が頭を下げるくらいです。何なら、私と子作りする決意ができるまででも構いませんし」

「何さらっと俺が落ちる前提で話してやがんだ! だいたい、男神どうしじゃ子が成る訳ないだろうが!」

「おや、試してみる価値はあると思いますよ? われわれ八百万の神は何でもありが特徴ですから」

 ねえ、と大国が迫って来る。律儀に正座していたせいで俺の足は痺れている。緊急回避ができない。こいつ図ったか!?

 大国の端整な顔が、目と鼻の先に迫って来る。やばい、まずい。逃げられない。心臓がどきどきしている。熱かった顔が、もっと熱くなった。

「ねえ、お義父さん? 試してみましょうか」

「や……」

 大国の手が、頬を撫でる。妖艶な微笑が、関係を迫って来る。

 蜘蛛の糸にでも絡めとられたように、体が動かない。

 もう少しで鼻先が触れそうだ。うわまずい。雰囲気に呑まれた。動け、動け、俺! 足を痺れさせてる場合じゃねえだろ。


「……ぷ」

「あ?」

「ふ、くくくく、あっはははははは!」


 大国が、急に顔を緩ませて、腹を抱えて大笑いした。

「あはは……やはりお義父さんはこの手の話には純粋ですね。知識が無いわけでもないのに」

「な……っ!? てめえ……からかったのか!?」

「いえね、お義父さんの反応が面白くてつい……。これは失礼いたしました」

 

 …………やられた。

 全身の力が抜けた。心臓はまだどきどきしてる。


「だーいーこーくー……!」

 恨めしそうに渾身の睨みをきかせたが、大国は「おや、怖い」とだけ言って肩をすくめるだけだ。

「ふふ、お義父さんはからかいがいのある方だ。……でもご安心を。同意を得ず、ことには及びませんので」

 大国は言って聞かせるように、俺に諭した。

「そこはきっちりしてんのな」

「申したではありませんか。小細工なしで、全力で貴方を手に入れると」

 大国は優しく微笑んで、俺にそう言った。

「お前……」

「お義父さん、私は本気ですよ」


 急に、大国の声色が低くなる。


「私を救ってくださったあの時から、私は……」



 遠い昔、大国は祟りを起こした。

 いや、八百万の神々なら祟りを起こすなんて簡単なことだけど、起こしたのが大国となると話は別である。

 曲がりなりにも、大国は国つ神をまとめるボスだ。相当の修羅場を潜り抜けてきた多くの経験もあり、物の怪や穢れを片手で祓うくらいに協力な呪力を持っている。俺の姉や、武神である建御雷の兄貴でさえ、大国と正面切って戦うことは避けたいとさえこぼすほどの、強力な神なのだ。


 そんな神が起こす祟りとすれば……日本中を巻き込んだって不思議じゃない。

 祟りは、疫病という形で広まった。

 子供も大人も関係ない。大国の瘴気に当てられた人間は、皆疫病に苦しんだ。

 最初は発熱、次は体中に青紫の斑点が浮かび上がる。呼吸も満足にできなくなり、ゆっくりと苦しんで死んでいく。

 

 祟りの根源である大国の周りには、近寄れない瘴気が立ち込めていた。穢れにまみれ、異形がぼこぼこ生まれて、神々でさえ近寄ることは難しい。一歩間違えれば、大国は祟り神になる危険性があった。

 姉や黄泉の神々でさえ、大国を止められないということで、祟りの阻止が難航した。


 そんな中、俺は見ていられなくなって、大国の傍に近寄った。

 腐敗した土にぺたんと座り込んだその神は、かつての美しい男神は、醜い祟り神に成りかけていた。

 眼が赤黒く染まり、黒髪が毒々しい紫に変色して、肌がびきびきと剥がれて、鱗のような何かが見え隠れしていた。

 

「大国」


 美しかった男神が、こんなにも醜く成り果ててしまうとは。


「お義父、さん」

「祟りを止めろ。人間のためにも、お前のためにも」


 大国の顔に、俺は自分の血をこすりつけた。そうすると、血のついた部分がじょじょに浄化されていった。

 穢れには穢れを。血は穢れ。穢れや悪にさらされてきた俺は、そういった負のものにはめっぽう強い。そんな俺の血であれば、穢れも浄化することはできるだろうと、祈る様に試した。

 大国を失いたくなかったから。


「辛かったな」

 浄化されていく頬を、俺は撫でてやる。ぼろぼろと涙をこぼしていく大国が、安らかに微笑んで、俺の手を掴んだ。



 そんなことがきっかけだったらしい、大国はそれからずっと、俺に恋い焦がれていたという。焦がれられたこっちはたまったもんじゃない。恥ずかしくて。

 その後、俺は大国に色々とされたらしい。覚えていないのは、記憶が飛んでいるから。

 だけど、大国の気持ちを無下にするのは嫌だった。だから俺は言ったのだ。


『変化球じゃなく直球でぶつかってきたら、ちょっとは揺らいでやるかもな』


 大国はその言葉をずっと守り、俺に求愛している……ということである。


「直球でなければ揺らぐ可能性もありませんし、変化球で行っても鈍感のお義父さんにはきっと気づかれないでしょうし、何より……小手先勝負なしで、貴方の心を奪いたいのですよ」

「……そうかい。おまえにも、矜持があるんだな」

「ええ、ありますよ。いつか、揺るがして差し上げます、貴方の心をね」

「……はっ、そりゃ楽しみだ」

 俺は笑って茶をすする。

 まあ、こんだけ誠実に約束(というより俺のぼやきでしかないんだけど)を守る程度には成長したんだ。もしその時が来たら……子作りを試してみるのも悪くはないかもしれない。


「ですから」

 大国が言葉をつづけた。

「直球勝負ということで、ここはひとつ、お義父さんの魅力をひとつひとつ語っていこうかと思います」

「なんでだよ!」

「いえ、ほら……お義父さんはご自分の良い所をまるで自覚されていないのがもったいないと歯痒く感じていましてね。……お義父さんがご自分の長所に気付くと同時に、褒め言葉で相手を落とす、一石二鳥ではありませんか」

「やめろ! 恥ずかしさに死ぬ!」

「大丈夫ですよ、神はこの程度で死にはしませんから」


 大国はとびっきりの、女神を落とすあの完璧な微笑で、俺に笑いかけた。


 その後、俺は夕餉だと嫁に呼ばれるまで、彼奴に褒め言葉で攻撃され続けることとなる。当然恥ずかしさが込み上げてきて、しまいには耳をふさいで「あーあーあー! 聞こえない聞こえない!」と逃げた。その逃げも、「お義父さん、私が直球でぶつかりに来ているのに逃げるのですか?」と両手を捕まえられて、結局延々褒められることとなるのである。


 ちくしょう。こんな軟派野郎。娘を取られた上に俺まで貞操の危機だ。

 こんな奴に、簡単に揺らいでやるもんか!!

コメディちっくに何か書きたいなあ、と思ってできた産物です。タイトルはやる夫スレのタイトルのようにしてみたくなり、ものの2秒で決定しました。コメディ時々シリアス、でもやっぱりコメディな感じで、大国様とスサノオ様のわちゃわちゃした関係を書けて満足です。

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