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91話

 それから数日が過ぎ、新入生が入ってきた。新入生ももちろんすぐに魔法の訓練に加わったのだが、在校生から言われてもらえば──誰も彼もが目を露骨にぎらつかせているのが異様に見えるという事だろう。


「やる気があるのはわかるが、なんというか食いつかんとする殺気交じりにも感じるな」「何が何でも成功してやる! っていう気迫が溢れているのはいいが、その一方で周囲を蹴落としてやるという感じが出ているな」


 拓郎と雄一はそんな新入生の姿を見て、そのような感想を口にした。向上心があるのはいいが、だからと言って周囲を蹴散らしてしまおうという考えは好ましくないだろう。


「中にはクレア先生とジェシカ先生を見て、別の意味でやる気を出している子もいるみたいね。うーん、もう二人とも拓郎君のものなのに」


 なんて発言をしたのは珠美である。事実新入生の中にはクレアやジェシカの存在に見惚れている人間が複数いる。どうしてもその美貌に蔵りとやられてしまう人間が出てくるのは仕方がないことではあるが──絶対に届かない存在なのにと珠美は内心で新入生に合掌をしてい

た。


『さて、今日からは新入生を加えての訓練となります。ですが新入生はしばらく座学を中心にやってもらいます。座学をしながら上級生の訓練風景を見て、様々なことを学んで──』「すみません、ちょっといいですか!?」


 なんとクレアの挨拶を途中で遮った新入生の男子が現れた。何やってんだあのバカは!? と二年三年生達は思ったが誰も口を開かない。下手なことを言えば、クレアから遠慮のないお仕置き魔法が吹っ飛んでくるからだ。ゆえに沈黙は金とばかりに口を固く閉ざしている。


『どうぞ』「お言葉ではありますが、我々は化学魔法に関する座学など今までみっちりとやってきています。ゆえに、ひたすら実践で腕を磨きたいと思っています。一つでも多くのレベルを上げ、将来を明るいものにしたいのです」


 やや機嫌を悪くしたクレアの事などつゆ知らず……実戦で鍛えろと言い出した新入生の一人の発言に、ほかの新入生も声こそ出さなかったが頷いたりして同意する様子を見せていた。その行為が己を地獄に叩き込む一方通行の道へひた走らせるだけだというのに。


『なるほど、言いたい事は分かったわ。たっくん、お願いね』


 話を振られた拓郎はため息をついた。クレアは隠しもせずにジェスチャーで殺していいよという意味を込めた首を掻っ切ってやるポーズを決めているし、新入生は新入生で望むところだとばかりに意気を上げている。これは一度痛い思いをしないとだめだろうと判断するしかなかった。なので拓郎はいつもの場所へと移動してから口を開く。


「では新入生の皆さんは、一定の距離を置いて私を取り囲むように移動してください。合図の後に私に向かって魔法を放ち、私を倒してください。それが最初の実践です。なお、私も反撃はしますのでしっかりと防御なり回避行動なりを行ってください」


 新入生達はいきり立ってしまった。俺たち全員を、たった一人で相手をするのだという。流石にそれはなめすぎだろうと。俺たちは小学校からずっと科学魔法の訓練に重きを置いて生きてきた。そんな俺たちをここまでコケにするのか。そういう感情で一致団結してしまったのである。


「おい、さすがに一時休戦だ。まずはあの調子に乗っている上級生を叩き潰す」「流石に我慢できないよな、魔法を撃ってこい、倒してみろといったのはあっちだしな」「半ごろしぐらいにすれば身の程を知るんじゃないかしら?」


 ──どこの裏社会の人ですか? みたいな物騒な言葉とともに新入生は拓郎の周囲に陣取った。彼らにとってこの学園に入り、レベルを上げて卒業して輝かしい未来を過ごすというものは予定調和であり、有名になる前のこの学園の科学魔法の授業に関連したデータも持っていたため、魔人、魔女以外には敬意のかけらも持っていなかった。


 彼ら、彼女らは己こそが強者であり、上級生など大したことのないただの幸運に恩恵を受けているだけの凡人であると無意識に思い込んでいた所があった。そんな空気の中、たった一人で相手をするといってきた上級生の姿は滑稽にしか見えなかったのである。本当に滑稽なのはどちらなのか、という事には一切気が付いていない。


「配置につきましたね、では5秒後に開始となります。準備をしてください」


 そうして始まった新入生にとっての初実践。それは1分未満で終わった。いうまでもなく、新入生が全滅という形である。もう少し詳しく説明しよう──拓郎は最初の30秒間は反撃せず、受けに徹した。そして理解した、新入生の放つ魔法の練りが甘すぎることに。レベルは高いのかもしれないが、魔法に重みがない。見た目だけは派手だが、あまりに軽い。


(レベルだけ、の典型例か。これなら、うちのクラスメイトならだれでも負けないだろうな)


 拓郎のクラスは早くからクレアとジェシカの指導を受けてきたため、しっかりと魔法を制御して放つ。ゆえにレベル1の魔法であったとしても今の新入生の放ってくる魔法より数段重く、そして早い。そして防御は厚く、柔軟である。そちらを確かめるべく、拓郎は反撃を最終減の威力に抑えて放つが──分厚いだけの新入生が張る魔法の障壁など簡単に抜くことができてしまった。


(防御も話にならない、と。威力を目いっぱい抑えてこれじゃな……しかも回避運動を始めるタイミングは遅い。速度だって目いっぱい落としているのにな、対応が全く追いつかないと。この程度の腕で、よくもまああんなことを言えたものだ)


 新入生の攻撃と防御のレベルを把握した拓郎は、あっさりと新入生全員を黙らせた。実際に殲滅にかかった時間は25秒にも見たない。様子見の30秒を加えても55秒。一方的な虐殺──殺してはいないか。まあとにかく一方的な展開で終わったのである。


「どちらが調子に乗っているか、これで分かったか? 先生の言うことは素直に聞いておく方が良いぞ」


 拓郎はそう口にした後に圧を強める。拓郎一人に打ちのめされた衝撃を受けた後にこの圧は新入生たちのおごり高ぶった心を砕いた。新入生は仲良く失神し、拓郎が適当に端っこに移動させてから普段の訓練が始まった。



「う、うう、あれ? 俺は何を……」「ゆ、夢? 寝ていたのか?」「一人に大勢で魔法を放って負けるなんてこと、ありえな──」「ようやく目を覚ましましたね、ひよっ子さん達」


 意識を取り戻した新入生たちに声をかけたのは魔人のメリー。


「まさか初日からあんな愚かな行動をとるとは思いませんでしたが、まあ痛い目にあっておくのも経験でしょう。貴方たちは20分ほど気絶していましたよ。いい加減に起きなさい」


 静かではあるがこれまた強者が放つ圧を感じ取った新入生たちは慌てて立ち上がってくる。それを確認してからメリーは話を続ける。


「貴方たちは負けました。1分かからずに全滅しました。正直、あなた達は慢心が過ぎます。ですがこれで感じたでしょう、貴方達は弱いという事が。レベルだけは上げたのかもしれませんが、中身がスカスカです。今のままではただレベルだけが高い空っぽ魔法使いになるだけでしょうね」


 メリーのこの言葉にはさすがにムッと来たのだろう。一人の女子生徒がすかさず反論する。


「私達は今まで必死に科学魔法の訓練を行い、己を磨いてきました。空っぽ魔法使いと言われる言われはありません!」


 しかし、メリーはこの言葉に首を振る。


「取り消すつもりはありませんよ。事実、あなた達が彼に放った魔法はレベル1の障壁を突破する事が出来ず、レベル1の攻撃魔法を受け止めることができなかった。レベルの高い魔法を使うことにばかり夢中になって、基礎ができていない空っぽ魔法使いであるということは、あなた達自身が証明してしまったことに気が付いていないのですか?」


 メリーの発言に、新入生たちは絶句した。レベル1の障壁を自分たちは破れず、レベル1の魔法に全滅させられた? そんな筈は……そう考えたが、ここで新入生達の頭に浮かんできたのは上級生と取り囲んで魔法を放った時の記憶。確かに上級性は薄い膜のような障壁しか張っておらず、撃たれた魔法もレベル1レベルの小さな弾しか飛んできていなかった事を思い出したのだ。


「う……」「そう言われれば、そんな感じだった……?」「確かに、レベル2以上の魔法は飛んでこなかった、ような」


 新入生の間から、そんな言葉が漏れ始める。その様子を確認したメリーが言葉を発する。


「さて、ついてきなさい。初日の座学は、あなた達の放つ魔法と上級生の放つ魔法の質の違いについてです」


 こうして、やっと新入生の座学が始まった。

年内更新回数はあと2回ぐらいでしょうか。

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