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89話

 そしてソフィアとの手合わせはあっさりと終ってしまった。ソフィアが放ってきた一般の人なら即死するレベルの電撃魔法を拓郎が受け止め、そのまま返したことにソフィアは驚愕。驚愕しているうちに魔法が着弾し、ソフィアは感電し、そして失神。言うまでもなく拓郎の勝利である。拓郎はため息を一つついてから、訓練へと戻っていった。


 そして五分後、失神していたソフィアは少し離れて場所で目を覚ました。移動させたのはジェシカであり、訓練の邪魔とならないようにしただけの話である。


『私は……確か……』『5分も失神していたら、実戦では生きていませんよ』


 ソフィアが母国のフランス語で状況を確認すべく呟いた事に気が付いたジェシカが、離れた場所からソフィアにだけ聞こえるように声を届けていた。


『そんなに長時間、私は失神をしていたのですか』『ええ、信じられないのであれば時計を見ればわかる事でしょう』


 ソフィアが訓練場に取り付けられている時計を見ると、確かに五分以上の時間が過ぎていた。そのことにソフィアは愕然とする。


『確かに、私は5分弱、気絶していたようです……私の自慢の雷魔法を受け止められて、しかも返された事もまた事実という事ですか──』『あそこまで殺気立った魔法を放っておいて、その程度で済まされた事に感謝しなさい。殺されていてもおかしくはないのですから』


 ソフィアが現実を再認識した所に、更なる事実をジェシカは淡々と述べる。ソフィアの電撃魔法が放たれたのが、魔人、魔女と拓郎を除いた誰かにであったら、ジェシカは即座に止めていただろう。それぐらい危険性の高い殺傷能力の高い魔法であったからだ。じゃあそんな魔法を返されたジェシカが5分弱の気絶で済んだのはなぜか? 答えは拓郎が返すときに加減をしたからである。


『──認めるしかありませんわね、彼は私の魔法ですらそつなく対処するだけの力を持っている。放たれた魔法を完ぺきに対処したうえで返す事が出来ると言う時点で、私のはるか上に行っている』『それだけの努力と訓練。そしてなにより痛みを経験してきたのですよ、彼は』


 ソフィアが拓郎を認める発言に、ジェシカはそう付け加えた。それだけの訓練を課してきた自覚はある。さらに自分だけではなく姉と慕うクレアが行ってきた訓練はまさに過酷な物が多かった。しかしそれらを拓郎は乗り越え、回復魔法使いとして己を高め続けている。そのことをジェシカは高く評価しているのだ。


『さて、それはそうと気になる発言をしましたね? 噂とは何でしょうか?』『日本にあるこの学園に一人の天才が頭角を現してきた。その力の伸びは魔人、魔女にすら届く勢いである。その男には観察するだけの価値があると言った話ですわ。男、とぼかしていましたが間違いなく拓郎さんの事でしょう』


 ジェシカが拓郎と試合をする前に呟いた噂の内容を耳にしたジェシカは僅かに顔をしかめた。以前に情報操作を行い拓郎の事を隠したのだが、効果が切れてしまった事を理解したからだ。残り1年、拓郎にはとにかく訓練に励んでもらいたいのに横槍を入れるような連中が押し寄せてくるのは避けたい。そうジェシカが考えた所に別方面から思念が飛んできた。


【この一件に関しては、こちらが情報操作を再び試みます。こちらとしても護衛対象である拓郎さんに纏わりついてくる人間が増えるのは良しとしません】


 拓郎を護衛している魔人、魔女の一人からの念話にジェシカは頷いた。そしてすぐさまお願いいたしますと返答。念話を送ってきた魔女からは、今すぐに動きますと言う返答が返ってきた後に念話が切れる。


(あと1年、覚悟を決めて挑む拓郎さんの邪魔は絶対にさせません。邪魔する者は例え国家権力と言えども消し飛ばしましょう)



 ジェシカがそんな物騒すぎる考えを頭の中で巡らしている一方で、拓郎は大勢の生徒達が降らせてくる魔法に対処しながら反撃を行う訓練を行っていた。もちろん万が一の事態が起きないように備えとしてクレアが付き添っている。


「皆、もっとしっかりと魔法を放ちなさい! 教えた魔法の精密な操作を忘れた気の抜けた魔法は、いくら撃ったところで訓練にはならないわよ!」「「「「はい、クレア先生!!」」」」


 そしてクレアは拓郎を取り囲んでいる生徒達に檄を飛ばす。魔法を放ち続けて疲労がたまり、魔法の精密な操作を放棄してただ放っただけの気の抜けた魔法が見えるようになって来たからこその行動だった。気の抜けたただ放たれただけな魔法は、威力もないし射程も短く、そして何より訓練にならない。


 そんな行為をクレアは許さない。自分に学びを求めたのだから、そんな怠惰な真似は容赦なく諫める。そう言うやり方をしてきたからこそ生徒達の科学魔法のレベルは上がり、知識が深まって魔法に対する能力が高まっているのである。レベルだけしか取り柄のない魔法使いとはこの時点で雲泥の差が生まれている。


「たっくん! 気が抜けた魔法を放った人にはちょっと強めの反撃をしなさい! 私が許す!」「了解、そう言う訳だからここからはしっかり魔法を放たないと痛い目を見るぞ! 例えるなら脛に鉄の棒で軽く叩きつけられたような痛みってぐらいかな?」


 拓郎の言葉を聞いた生徒達の表情が固まった。言うまでもなく脛にそんな事をされたら痛いどころの話ではない。あの武蔵坊弁慶ですら泣き所と言われる個所なのだから。そして誰もかれもが表情を変える。


「ふざけんなー! そんな痛みを喰らってたまるかー!」「ぶっ殺す勢いでやらねえとこっちが死ぬような痛みを喰らうぞ!?」「全員気合入れなおせ―! 死にたくなかったら気合入れろー!」「痛みは男女平等よ! 私達もより気合入れて魔法を撃つわよー!」「拓郎君のどS! 特殊癖者! ヘンタイ!」「珠美、後で覚えてろよ!?」


 もはや悲鳴なのか怒号なのか分からぬ言葉が飛び交い、更に珠美の言葉に拓郎が反応し、明確に精度が上がった魔法が飛び交い始める。全員疲れがたまっていようがお構いなしである。一般の人が見たらどう見ても殺し合いにしか見えないレベルだが、この状況を見てクレアは一人満足そうにうなずいていた。



『す、すごい光景ですわね』『これぐらいのやり取りは、この学園においては日常ですよ。これぐらい精度を高めて行かないとレベルだけで中身がスカスカの魔法使いになってしまいますからね。貴女もそんな情けない人は多く見てきたでしょう?』


 目の前のやり取りにあっけにとられつつも何とか口を開いたソフィアに対し、ジェシカはそう声をかけていた。ジェシカはすでにソフィアの事をしっかりと思い出していた。過去、フランスに出向いた時に発生したトラブル。その時に救助した人の中にソフィアがいた。狙われたのはソフィア一家であったが、全員無事に助け出され、犯人は全員捕縛されている。


 その時にジェシカはソフィアになつかれ、ジェシカが多少面倒を見て、魔法も教えていた。しかしジェシカの滞在期間が終わると、ソフィアはついていきたいとジェシカにすがってきた。しかし連れていく訳にもいかないジェシカは置手紙だけを残してひっそりと自国に帰った。それ以来文通だけは時々していたが、まさか日本に来るとは思っていなかった。


 それでも来てしまった以上は、面倒をしっかり見ようとジェシカは思っている。もちろん、拓郎との仲を邪魔はさせないという条件がつくが。


『そのお言葉に関しては、反論できませんわね──レベルを上げる事だけに躍起になって、中身がない者など履いて捨てるほどにいますわ』『そうでしょう、私もそう思います。ですがここでは私達が教えているのですから、そんな事にならないようにこうして厳しく指導しています』


 ソフィアはジェシカからの言葉を聞きながら、拓郎を中心とした訓練を見学し続ける。あれこれ声こそ飛び交ってはいるが、生徒1人1人の魔法の扱いはレベルだけの愚か者とは比べ物にならない。だからこそこの学園が魔法に関するレベル全体の異常な伸びを示したデータに納得した。むしろこれで伸びないなんて嘘でしかないだろうとまで思うに至った。


『これからの1年が楽しみになってまいりました。私とて魔法の高みを目指すもの。必死で切磋琢磨出来る場があるという事は何よりの喜びですもの』『期待してしますよ、あなたの努力に見合うだけの結果が出るようにこちらも指導します。励みなさい』


 こうして、ソフィアという転校生を迎えてますます騒がしくなりそうな学園生活となって行く。

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