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86話

 そんな話から少し後、拓郎が在学している学園への入学試験が行われた。その会場となった学園や周辺の会場に立ち込める熱気はもはや殺気と言い換えて良い位のモノが立ち込めていた。もはや隣に座る人間すべてが敵と言わんばかりの状態である……学園生は全員休みとなっていた。


「では、はじめ!」


 そんな言葉と共に開始された試験会場は、もはや試験そのものが親の敵とばかりにとりかかる受験生達の殺気が立ち込め、試験が全て終わってなおその空気は薄れる事は無かった。帰る時ですら互いの顔を見るなり殺気をぶつけ合う始末。この学園に入れれば魔人や魔女の指導が受けられるとあれば無理もないのだが……


 それでも試験が終わればひとまずは一安心──となってくれるはずであった。そう、普通なら。試験が終わった後にやってくる侵入者が後を絶たなかったのである。自分のテスト用紙の手直しに来るならまだかわいい物で、他の人のテスト用紙を意図的に台無しにしようとする不届き者が多いのだから目を覆いたくなる。


 まあ、ジャックとメリーがそれを見越して作っておいた防犯設備にてそれらの悪意は完全に防がれて未遂に終わったのだが。調査も行われ、かなりの人数がこの不正行為によって問答無用で落とされることになった。こんな馬鹿な真似をやらなきゃ合格できていたのに、という人も結構多かった。


 それでも何とか採点も進み──合格者と補欠合格者が決定した。それらの結果はすべて電子メールで一斉に発送された。これによって歓喜の喜びの数十、いや失礼数百倍の悲鳴が響き渡る事となった。狭き門故そうなるのが当然なのだが、それでも一生の岐路で良い方を選ぶ権利が手から逃げて行った時の絶望は理解してあげて欲しい。


 そしてそれから各中学校の卒業式が終わるまでの間、すさまじい空気が吹き荒れた事は言うまでもない。同じ学校からごくわずかの合格者とそうはならなかった者の差は激しく、いじめすら発生した。故に合格者たちは学校に行くのを止めて卒業式まで雲隠れをせざるを得なかったところもあった。当然ながら、いじめなんて物をこの時期にやった奴は相応の結末を迎えたが。


 それらの話、顛末は嫌でも拓郎達の耳にも届く。人のうわさを止められる存在なんてまずいないのである……当然休み時間でも話に上るのはこの一件になりがちであった。


「凄まじい事になってんな……」「死者が出てないだけましってレベルらしいからね」「校長先生がガチで頭を抱える案件がゴロゴロ出てきてるとか噂されてる」「噂で済めばいいけどよ、絶対噂の元となった事実って奴があるんだよな」


 という言葉があちこちで飛び交う。もはや受験戦争ではなく本当の戦争の様な殺し合いが起きそうなレベルでの騒ぎが勃発したため、学園の関係者や生徒達はあれこれと物騒な噂についての話に没頭する事となる。例外は拓郎、クレア、ジェシカ、ジャック、メリーぐらいだろうか。


「皆将来を左右する勝負だからそうなってもおかしくはないって言われてたが、蓋を開けたらシャレにならないレベルだったな」「うちに入れれば将来安泰て言われてるからねぇ。んなわけねーだろと。入学してから必死に努力しないと意味がない」「その努力できる環境が欲しいんだってのは分かるからなー……あんまり言えない」


 受験者に対する同情気味の意見もちらほら出てくる。何度も繰り返すが、科学魔法レベルの高さが将来を決める事に強く関わってくるこの時代において、レベルが上がりやすい指導を受けられるという事は千金以上の価値があるのだ。千金を積んでもそれ以上に儲けられれば勝ちなのだから。


「後さ、やっぱりこの学校の在学生を指導員として招きたいって動きが活発化しているって話もすごく聞くようになっちゃった」「先日の喫茶店で話したこと以上の展開になってきてるよな。俺嫌だよ、最後の一年みっちりとクレア先生、ジェシカ先生、ジャック先生、メリー先生に指導をしてもらいたいし」「誰だってそうだろ、俺だってそうさ」


 また、先日の話に上がってきた一件に対しても話が飛び交っている。この件に関してはもはや噂ではなく真実の話として取り扱われている。まあ実際学園に他の学校から要望がもはや毎日降ってくる雨のように要望が飛んでくるのだから。


 なんでこんなことになるのかと言えば、実際に指導を受けてレベル3に到達した体現者だから。つまりどういう訓練と指導を受ければレベルが上がりやすくなるのかを頭と体の両方で理解できている稀有な存在だから。さらにそれらの積み重ねを受けて日が浅く、記憶も鮮明。だからこそ指導を受けて、その指導を盗みたいというのが他の学校の本音と言える。


 盗むという言葉が入るため嫌悪感を覚える人もいるだろう。しかし、それぐらい必死になっているという事である。他の学校も愚かではない、どう教えれば科学魔法のレベルを上げられるのかの研究は常に行われている。だがそんな研究をしている時にとある学園が突如レベル3以上の生徒を爆発的に増やしたとなれば嫌でも目が向く。


 教えたのが魔人、魔女であるからもちろん最初はそちらをスカウトしようと動いたがけんもほろろに断られた。ならばその指導を受けた生徒達からその教え方、講義の仕方を吸収して自分達の指導方法に取り入れようとする方向に舵を切った。特に注目を集めたのがいち早く直接指導を受ける機会を得た拓郎のクラスメイトであった事は言うまでもない事だろう。


 が、クラスメイト達は逆にいち早く指導を受けた事でその価値を十二分に理解しており、これらの話に対して乗る気配は一切ない。ある程度のお金を得られても、あと1年しかない時間をそちらに振り分けるべきではない。振り分けるだけの価値はないと判断しているからだ。


 こうなると板挟みになるのは学園の校長を始めとした教師陣だ。周囲からは指導を公開しろと迫られ、学園の生徒達からはそんな話を振らないでくれと言われてしまう。これから先、学園の校長はより難しい判断を迫られていく事になる事だけは間違いないだろう。


「それでも、我々は教師だ。生徒を護りつつ、学問を教えて生徒の将来を明るい物にするべき存在だ。皆負担をかけるが、これからも頼む」


 そんな校長の言葉に頷かない教師陣は誰一人としていなかった。そこからいかに生徒を護るか、生徒の要望に応えつつ外からの意見をどう受け流していくかの会議がひっきりなしに行われる事となる。そうして時は過ぎ、春休みを迎える。いよいよ科学魔法レベル上げが出来る最後の1年を迎えるにあたって、拓郎は早速クレアとジェシカの特訓を受けていた。


「あと1年で3レベル上げる、しかも8以上という高い山を上り詰めるには並々ならぬ努力、根気、そして何より諦めない心が重要となるわ。もちろん持っていると信じているけれど……たっくん、登り切る覚悟は?」「ある!」


 こんなやり取りを行った後、夏休みに来たあの場所にて拓郎はクレアとジェシカ二人同時に魔法を交えた戦闘を行っていた。そう、『戦闘』である。今まではまだ『訓練』の範疇であった。だがここから先はまさに人外へと至る道と言い換えても良い。レベル10はそう言う世界なのだ。そんな世界を目指すなら、もはや『訓練』では足りないのである。


「ぐおおおおお……」「もうおしまい?」「何の、まだまだ! まだやれる!」


 すでに拓郎は何度も吐血し、腕や足の骨を折り、地面にその身を叩き伏せられていた。普通の人ならとっくに死んでいる。いや、20回は死んでいるだろう。だが、拓郎ももはや普通の人間ではない。回復魔法で受けた傷を瞬時に治し、何度でも立ち上がってクレアやジェシカに向かっていく。


 そんな修行を拓郎達は春休み中ずっと続けた。何度も何度も傷つき、骨を折られ、内臓を破壊された。それでもなおそれらすべてを己の魔法で治療し、凄まじい痛みにすら耐え、前を向き続けた。魔女2人を相手に下がる事なく諦めることなく歯を食いしばり再び拳を振るい、魔法をもはや考える事なく使って攻撃や防御に用いる。


 もはや周囲から見れば殺し合いその物の戦闘を経た拓郎は、新学期を迎える2日まえにレベル8へと成長していた。そしてこのレベル8という領域は拓郎の資質から考えて成長の限界でもあった。だが、ここから拓郎はあと2つもレベルをあげなければいけない。つまりここからは限界を越えなければ先はない。


「たっくん、まずはお疲れ様。これでたっくんは世界的に見ても稀有なレベル8に到達した人間となりました! まずはそのことを褒めるために拍手!」


 クレアはそう口にした後、ジェシカと一緒に拓郎に対して拍手を行った。しかし、その後厳しい表情になったクレアはこう拓郎に向かって告げた。


「そしてたっくんも分かっているとは思うけど、たっくんの持って生まれた資質ではこのレベル8が限界です。これ以上は普通に鍛えても上がりません。そこでたっくんが身に付けなければならないのは進化能力です! 進化と言っても体が人間じゃない姿になったり大幅に体の色が変わったりとかする訳じゃないよ? 見た目も中身も全部そのままだけど、肉体そのものが進化して、私達魔人や魔女に近づく感じかな」


 拓郎はすかさず「その進化条件は?」とクレアに問いかける。


「進化するには、まずは訓練ね。レベル8のまま諦めず訓練を続けてまずは体を作ります。そして体が出来たら私たち魔人や魔女の血をその中に受け入れるの。輸血とかじゃなくって、たっくんの心臓にこう指を突っ込んで直接血を流すのよ。もちろん普通はそんな事をしたら体がおかしくなって死ぬけどね、ここまで来たたっくんなら、後は体を作れば行ける」


 クレアの言葉を聞いて、己の心臓についつい手を当ててしまう拓郎。そんな拓郎の姿を見てからクレアは話の続きを口にする。


「そして、限界を超えたレベル1つごとに別の魔人、魔女の血を受け入れなければならないの。なのでたっくんはレベル9の時にジェシカの血を、そして10になる時に私の血を受け入れてもらう事になるわ。これを残り1年でやらなければならない。でもこれを乗り越えればたっくんはレベル10の回復魔法使いという人間に進化する事になるわ」


 拓郎が行う修行において最後の道が示された事になる。拓郎は無意識に身震いしていた。クレアがレベル10までの道筋を口にした。それはそこまで行ける可能性が自分にあるのだと明確に言ってくれたという事になる。本来上る事が出来ない領域に手が届くと知った拓郎の感情は想像するに難くないだろう。


「分かった、あと1年全力で挑む。だから、これからもお願いします」


 拓郎はクレアとジェシカに深々と頭を下げた。そしてクレアとジェシカもまた改めて誓った。愛しき人を必ずレベル10の領域まで導こうと。こうして、拓郎にとって高校生活最後の1年が幕を開ける事になった。

まだまだ終わりそうにないなぁ・・・

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