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85話

 話をしている担任の顔色はあまり良くない。担任にとっても、今の状況は想定外にも程があるという事を嫌でも理解させられるぐらいにひどい顔色であった。


「先生の顔色からして、本当の事って事だよな」「あの顔色の悪さが演技って事は絶対にないだろ」「なんか、知らないうちにとんでもない事になってる……」「世間的に、レベル3が自分の学校から出る可能性って10%もないって言われているんだっけ?」


 そして生徒達はその担任の表情からも色々と察した。学生だって馬鹿じゃない、ある程度の情報は自力で集めるしそこから分析もできる。それでも、それ以上の状況になってしまっているというのは間違いなくクラスメイト全体の認識だろう。拓郎を覗いて、だが。


「後な、やっぱりクレア先生とジェシカ先生、更にジャック先生とメリー先生を引き抜こうとしている学校も多数だ。学校で魔法を教えてくれる魔人、魔女なんて稀有過ぎてもはやいかに奪い取るかの争いになってきている始末だ──正直、腹痛がきつい」


 そう口にすると、担任はカフェオレを口にした。この言葉を聞いて、クラスメイトの視線は拓郎に集まった。拓郎はクラスメイトが何を言いたいのかを察し、口を開く。


「他の学校に行くとか、そう言った話は一切出ていないぞ。その手の話に乗るとなれば、必ず教えてくれるはずだからな……とにかく、現時点ではそう言った話はないよ」


 拓郎の言葉に、クラスメイト達は安堵した。まだまだ鍛えて欲しいのに、鍛えてくれる本人が居なくなってしまったら困ってしまう。もちろん今までの教えを基に訓練をすることはできるが、やはり効率は落ちるだろう。制限時間が迫って生きている以上、急速に当てなければいけない時間以外は無駄にしたくないというのがクラスメイトの総意である。


「それにしても出張かぁ、この場合って扱いはどうなるんだ? 単位は出るって話だけど、それだけなのかな?」「アルバイト? 就労? って面での報酬は出ないのかな? 単位が出るってだけじゃ絶対誰も行かないでしょ。行っている間クレア先生たちに鍛えてもらう事が出来ないって事だもんね」


 そして話は、もし他の学校に出向くとなった場合の一件についての話に移っていた。行きたくはないが、断り切れない可能性もある。ならば前もって認識をしておいた方がいいだろうという流れである。これらの質問に担任が答える。


「来年度の新学期が始まり次第、お前達は全員18歳とみなされる。つまり大人扱いだな。故に大人に出張に行ってもらうのだから金銭面の報酬はもちろん出る。金額は相談次第だが、安くはないはずだ。何せどの学校も今求めている科学魔法のハイレベルな講師を呼ぶんだから、報酬をケチれば次はない。そんな愚かな判断をする学校は無いだろうよ」


 担任の言葉に、クラスメイト達はうーん、とうなる。お金が出るのは魅力的だ。しかし、そのお金を得る時間でクレアたちに学ぶ、鍛えてもらう事で将来持った稼ぐことができる可能性を捨てられるか? という事を天秤にかけているのだ。もう何をやっても上がらない、限界を迎えているというのであればそう言う事をしても良いだろうが、そんな事を言われている人物はまだいない。


「どう思う?」「そりゃ給料が出るってのは良いけどさ、クレア先生やジェシカ先生の教えを受けられないとなるだろ? 釣り合うかね?」「結局のところそこなんだよな。正直まだまだ教えてほしいし鍛えて欲しい。それに加えて、拓郎との実戦も出来なくなるからフラストレーションが半端じゃない事になりそう」


 やいのやいの反しあうクラスメイト達を見て、担任はまあそうなるよなという表情を浮かべつつ今度はミルクティーを口にしている。なお、担任の顔色はかなり改善した。見るに見かねた拓郎が回復魔法をかけて担任の疲労と苦痛を取り除いたからである。


「お前も大変だな……向上心の高さは褒められるべき事だし、先ほどの回復魔法も見事だった。今すぐ現場に出ても働けるんじゃないか?」「実は、去年の年末に経験済みです……」


 回復魔法を受けた担任が拓郎に小声で礼と話を振ってみたら拓郎から想定外の言葉が飛んできて、担任は無意識に拓郎の表情を二度見した。しかし、拓郎の表情は何の変りもない。つまり、事実をただ淡々と口にしただけ。高校生がひそかに回復魔法使いとしての現場を経験していたなんて事を吐締めて知ったため、教師は狼狽した。


「もちろんクレアとジェシカさんの付き添いの元ですけどね。でも回復魔法は自分一人で行い、患者を治療しました」「正直に言おう、驚いたどころの話じゃないぞ。どこに行っても引く手あまたな人材じゃないか……飛び級で卒業するか?」


 飛び級という言葉が出るくらい、教師は拓郎をとんでもない人物を見ている感覚となっていた。回復魔法を身に着ける事と、現場に行って治療するという事は全くの別物である。去年の10月の事後の時は巻き込まれた形であり、現場に無理やりぶち込まれた形だ。だが、明確に患者の元に回復魔法使いとして出向くとなれば期待が大きくかけられる分失敗した時の反動はすさまじいものとなる。


 なのに、目の前の男子生徒はそう言う困難をすでに経験したという。経験したという言葉だけなので、成功したという事なのだろうと担任は判断する。現場で期待を一身に受ける回復魔法使いに求められる強靭な精神、他者を救うという事に全力で当たれる慈愛の心、現場のトラブルに対処できる判断力をすでに彼は持っているという事になる事も理解した。


「──正直、今すぐにでも世界を飛び回る事になるレベルだ。だが、まだまだ鍛えるんだろう?」「ええ、行ける所まではいきたいです。レベルが上がれば、それだけ回復魔法はより難易度の高い病気やケガに対処できるようになります。目指すはレベル10。魔人、魔女以外で人が届きうる限界地点まで行きたい」


 拓郎ははっきりとレベル10を目指すと宣言。本来では絶対に拓郎の資質ではたどり着けない領域だが──それを越えていく覚悟はすでに拓郎の中にあった。だから最後の1年を死に物狂いで訓練に当て、レベル10を目指す。それはすでに拓郎にとって当たり前の目標となっていた。そして、この拓郎の言葉を聞いていたのは担任だけではなく──


「拓郎ならきっと行ける、俺達は全力で応援するしサポートが必要なら犯罪以外ならできる限り協力するぜ?」「そんな事言いつつ、一緒に鍛えてレベル5を目指すために利用するって考えもあるのはバレバレだぞ」「まあ、拓郎は出張なんて行ってる暇はないよね。残り一年でとにかく訓練しなきゃいけないだろうし」「でも来て欲しい生徒のトップは間違いなく拓郎なんだろうけどな」


 と、クラスメイトの話が拓郎の事に代わっていく。


「まあ教わるならレベルの高い人が良いよな……正直今はそこらのトレーナーに学ぶ気になれん」「拓郎君はレベルだけじゃなく、クレア先生やジェシカ先生から色々科学魔法の事を学んでるから感覚的な事だけじゃなく座学系統の指導もできるんだよね」「間違いなく拓郎が養成所開いたら絶対応募枠が瞬殺で埋まると思う」


 とまあ、好き放題に拓郎の事を言い始めるクラスメイト。拓郎も悪口ではないので少々苦笑いしながらも口を挟まずにいる。


「後、あの組手は実にいよな。あれを一回でも経験すると次が待ち遠しくなる」「でもあれって、拓郎の科学魔法関連の調整とコントロールがあってこその方法だよな。あんなこと出来る教師見た来ないし」「むしろ教師も混ざってくるよな? レベルは上がらなくてもコントロールや調整の訓練にすごくいいとか言いながら」


 実際拓郎はクレアたちから嫌らしく攻めなさいと指示を受けているので、真正面からの打ち合いではなく魔法の軌跡を曲げるだけでなく離れた場所から魔法を発動し上下左右からの同時攻撃も行っている。最初は対処できなかった生徒達も今はかなり対応してきているので全体的なレベルの底上げにつながっている。


「他の学校にあれを見られたら、やばいよね?」「間違いなくやばいだろうぜ、絶対俺達にもやらせろって言って来るのが目に浮かぶ」「そうなったら拓郎の出張待ったなしじゃん。在学中だけは何としても護らねば」「俺達が出来なくなるもんな……」


 などと会話が繰り広げられ、最終的に出張は出来る限りなしでという結論がクラスメイトの間で出た。担任もこの結論は予想していたので、あれこれ言う事は無かった。正直そんな事を学生にさせたくないというのが担任の本心であった事もある。学生の本分は勉学であり、それを妨げるような出来事は出来る限り寄せ付けたくない。そんな意思疎通をしてこの日は解散となった。

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