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84話

 翌日の日曜日、拓郎は普段と変わらない感じで起床した。昨日は余計な闖入者こそいたが、基本的には美味しい料理を味わい普段感じる事が出来ない場の空気というものにも触れられたのは良かったと拓郎は思っている。そのまま着替えて朝食を家族と一緒に取った後、さてこの後どうしようかと考える事に。


(今日は訓練は休んでおきなさいって言われているからなぁ。クレアの指導は守らないと)


 訓練という選択肢は、昨日就寝前にクレアによって潰されている。しかし遊びに行くにしても、1人では何となく物足りない。雄一を誘ってみようかとも思ったが、例の迷惑な配信者のせいで嫌な記憶がよみがえってきたため却下した。


(かといって、二度寝する気にもならないしなぁ。宿題とかもないし、本当にどうしようか)


 こんなやることが見つからない休日なんて何時ぶりだ、と拓郎は思う。クレアと関わったあの日から今日ここまで毎日がとても騒がしかった気がする。まあ、その分得られたものは破格であり、夢で逢った回復魔法使いとしての道を確実に進めている。クレアと出会えなかったら、こんな力を得る事は出来なかっただろう。その点は嘘偽りなく感謝している。


(クレアと出会ってまだ1年も経っていないんだよな。10年ぐらい一緒にいる気がするのに)


 それだけ濃密な時間を過ごしたという事であるが。一般人では一生かけても過ごす事が出来ない特殊過ぎる時間を過ごした自覚は、流石に拓郎も持っている。お陰で他のクラスからあれこれ突き上げられた事もあったが……結果としては学園全体にいい結果をもたらしている。そんな事を考えていると、突如拓郎のスマホから着信を知らせる音が鳴った。


「もしもし?」「拓郎、今時間はあるか? あるならちょっと指定した喫茶店に来れないか?」


 声の主は雄一だった。やる事も特になかった拓郎は二つ返事で了解し、両親やクレアたちにここに行ってくると告げてから家を出た。そして喫茶店につくと、そこにはクラスメイトのほとんどがいた。まるでクラスメイトだけで喫茶店を借り切っているかのような感じである。


「来てみたが、これは何の騒ぎだ? クラスメイトがほとんど集まっているじゃないか」


 来ていないのはクラスメイト3名と担任ぐらいなものである。雄一はそんな拓郎の言葉に返答せず、まずは座れとカウンター席を指さす。拓郎は首を傾げながらもとりあえず座って腰を落ち着けた。すでに注文をされていたらしく、すぐさま拓郎の前にミルクティーが置かれる。なので拓郎はゆっくりと口を付ける。


「で、もう一回聞くけどこれは何の騒ぎだ? ここまでクラスメイトが学校以外で揃うってのは普通じゃないぞ?」


 拓郎の言う通り、例えば文化祭だとかそう言った大きな行事がある訳でもないのにここまでクラスメイトが一堂に揃うのはそうそうないだろう。その拓郎の言葉に返答したのは雄一ではなく、クラスメイトの女子生徒だった。


「うん、まあ普通じゃないよね。でも、ちょっと集まって欲しかったんだ。耳に入れておきたい情報があってさ。うちらのクラス、とんでもない事になるかもしれないの」


 とんでもない事? それはちょっと嫌な香りがするな。と言った空気の中、そのクラスメイト曰く──3年になったら、このクラスは1年の指導を任される可能性があるとの事。ちょっとまて、俺達だって学生だぞ? なのに指導!? という声がいくつも上がる。女子生徒もこの反応は当然予想済みであり、本人もそう思うとの事。でも──


「このクラスはクレア先生、ジェシカ先生に一番学んでいるクラスっていうのもまた事実なのよねぇ。なので、復習も兼ねて1年生の指導を頼むのはどうだろうって話が持ち上がってるのよ。正直、私がこの情報を耳にしたのは偶然なんだけど」


 この一言に、クラスメイト達はそりゃそうだけどさ、確かにそうなんだけど、みたいな感じの言葉を発しながらうーんと皆で唸る事になってしまった。


「これを3年生になってから聞いたら、混乱必死じゃない? だからもしかしたらありうるかも、という事で集まってもらったの。こういう情報はやっぱり直接お互いの顔を見ながら話す方がいいと思ったし」


 この言葉を聞いて、突然集まってくれと声をかけられたクラスメイト達は皆頷いた。


「確かにこんな話を3年になった日に聞いたら混乱するよ」「正直、たとえガセだったとしてもこうやって事前に聞ければ心構えって奴は出来るし」「しかし、そもそもなんでこんな話が持ち上がってるんだよ?」「ちょっと学園が何を考えているのか分からないな」


 なんて会話も行われる。この会話そのものが、このクラスの総意だろう。正直なんで1年の面倒を見なきゃならんのだ、と。いや、面倒を見るのが嫌という訳ではないが、いくらクレアやジェシカの指導によって科学魔法のレベルを上げているとは言え学生に振るには重すぎるのではないか? という疑問だ。


「拓郎君はまあある程度できそうだけど」「でも、そうなったら拓郎の負担がえげつない事にならね? すでに数十人を相手に魔法で組手やっているような物だったじゃないか」「ただあれを経験すると、本当に魔法レベルが伸びるのよ。後は何が良くて何がダメかが感覚的に掴みやすくって……事実、学年クラス関係なくあれをやった後はみんな伸びてるから」


 という言葉も飛び交う。この会話は拓郎が心の中で思っている事をほぼ代弁した形だろう。人数を増やすのは構わないが、自分一人で回せるかどうかは微妙な所だ。正直順番待ちの番号が伸びるばっかりになっている。


「拓郎はこの件についてなんか知っているか?」「いや、正直に言うが初耳だ。クレアやジェシカさんからもこういう話は聞いていない。もし完全に確定していたら絶対に話が来ると思うから、まだ話し合いの最中なんだと思うな」


 クラスメイトに話を振られたので拓郎は正直に答える。拓郎の返答を聞いて、学園側もかなり悩んでいるんだろうみたいな話もちらほらささやかれる。そしてクラスメイトの1人が発言した、そもそもなんでこんな話が持ち上がってるんだ、と。その言葉に返答を返したのは──喫茶店に入ってきた担任であった。


「呼ばれたから来たぞ、そしてその答えは俺が教えよう。来年の入学希望者の倍率だが、1000倍を超えた。それだけの新入生が来るとなると、俺達教師陣だけでは追い付かない可能性が出てきているからだ」


 担任曰く、この異常事態に備えるべく様々な事を考え、会議で対策を練っているがどうしても手が足らなくなる可能性が否定できない。そこで、申し訳ないがこのクラスに手伝ってもらいたいという案が浮上してきたのだという。それをたまたまこのクラスの女子生徒の一人が聞いてしまったのがこの日の集合する発端となっている。


「正直このクラスは、下手なコーチよりも様々な面で科学魔法を理解しているし、相応の力を身に着けている。ほとんどがレベル3、中には4もいて、拓郎はすでに7に到達したのだったか? とにかく高い科学魔法レベルを備えている。科学魔法に限っては、このクラスは間違いなく一般的な学生のレベルじゃない。これはここだけの話だが、ぜひこちらに数か月来て指導をして欲しいという話すら他の学校から提案が来るほどだ」


 教師の話を聞いて、お互いの顔を見合わせるクラスメイト。想定以上に話が大きくなっている事実を理解し、驚きを隠せない。


「それだけクレア先生とジェシカ先生に学生というタイミングで鍛えてもらえたことは幸運だと理解してくれ。そして申し訳ないが、この話は7割ほど成立しそうな感じになっている。もちろん内申には大きく加点されるが、相当忙しくなるだろうな──正直に言えば、すまないと謝りたいってのが本音だ」


 担任の絞り出すような声に、クラスメイト達の間でざわめきが起きる。もしかしたらという事で集めらた切っ掛けの話が、高確率でそうなると知ってしまった。更に他の学校に下手したら派遣されるかもしれないというのは、完全に想定外。これで騒ぐなというのは無理があるだろう。


「先生、ここだけの話でいいので……その、他の学校に来て欲しいって要請があったって事ですが、どれぐらいの学校から来てるんですか? 名前は上げなくていいので、数だけで」「──3桁だ。更に言うなら、全国からだ。もし応えたら、ほとんど転勤に近い形になるぞ」


 学生なのに転勤。ほとんどパワーワードに近い言葉が担任から出た事で互いの顔を見合わせるクラスメイト達。この日の話はまだまだ終わりそうになかった……

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― 新着の感想 ―
[一言] うわぁ~、もう10年越しですか。 アースさんの活躍に惹かれてコチラも総理も拝見させて頂いて・・・。 長い。 1話からさいどくさせていただきます!
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