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71話

 走って相手に近づく拓郎に対して、当然相手からは幾つもの攻撃魔法が飛んでくる。が、拓郎はクレアに言われた通り防御は最小限に抑えて回避を主体にしながらも確実に距離を詰めていく。それに焦った男子生徒がより魔法を連射と言うよりは狙いを大雑把にして乱射と言う感じでさらに激しく撃ちまくる。しかし、それでも拓郎の前進速度はたいして落ちない。


「こいつ、こいつ!? これだけ撃ってるのになぜ近づけるんだよ!!」


 焦りから、狙いなどお構いなしで滅茶苦茶に魔法を乱射すれば当然ガス欠は早まる。それを拓郎が逃す理由はない。乱射が弱まったその瞬間を狙って、狙いすましたレベル2の光魔法を男子生徒の左肩を貫く。一瞬の輝きと共に、男子生徒の肩を焼いて痛みを訴えさせる。


「ぐあっ!?」


 焦りで拓郎の動きが見えなかった──と言うよりは自分で魔法を乱射する事でブラインドを作ってしまっていた男子生徒は、突如やってきた肩の痛みに声を上げてしまう。それと同時に魔法の乱射も止まってしまった。そこに近寄ってきた拓郎からのショートアッパーが再び突き刺さる。これによって、男子生徒の意識は刈り取られる事となった。


「そこまで!」


 審判役のジャックも即座に試合を終わらせた。拓郎のショートアッパーを貰った男子生徒が失神したことを感じ取ったからだ。これ以上続行すれば大怪我では済まない。もっとも、確実に失神させたと確信していた拓郎はこれ以上の追撃を入れるつもりなど毛頭なかったが。担架で運ばれていく男子生徒に一礼しつつ、最初の開始位置まで戻っていく。


 この結果に翔峰学園の生徒達はざわめく。先鋒を務めた彼は、決して弱くない。むしろこの選抜メンバーに入った面子は誰も学園でも上位に入る実力の持ち主だ。そんな彼が、一発も攻撃を当てる事が出来ずに敗退した。最後は彼らしくない魔法の乱射と言う行動に出たとはいえ、あれだけ撃った魔法が全て防がれるか回避された。


 更には受けた攻撃もわずかに3発だけ。ショートアッパーが2発に練り上げられて細いレーザーのように見えた光魔法、それだけ。それだけで倒されてしまった。その事実にざわめく生徒達に翔峰学園のコーチが生徒達に近寄って「注目!」と声を発した。


「これで分かったか? 俺が口を酸っぱくして忠告をしたというのに、あいつは話半分で聞いていたからああなった。彼は実力の恐らく1割も出していないぞ? もう一度心を引き締めろ! それが出来なければ一瞬で負けるだけだ!」


 コーチの言葉と、そして何より目の前で見た拓郎の強さを実感した生徒達は一切反論せずに「「「はい!」」」とだけ返答。そして次鋒の男子生徒が拓郎の前に立つ。


「済まなかった、あいつはどうしてもお調子者的な頃があってな……後で俺達とコーチから厳しく言っておくから、勘弁してくれないか」「ええ、構いません」


 戦闘開始前にその様な事を言われた拓郎は、素直にその言葉を受け入れた。別段気にしてもいないのだが、向こうの言葉に合わせた方が早く済むと思ったからだ。拓郎の返答に対戦相手の男子生徒は「ありがとう、そう言ってもらえるのは助かる」と口にした後に頭を軽く下げてきた。


「では、お互い準備に入ってください。ルールに変更はありません。双方、よろしいか?」


 ジャックの言葉に、拓郎も対戦相手の男子生徒もたがいに頷く。そこから軽くお互いに体の柔軟を行ってから構えをとった。それを見たジャックは準備が整ったものとみて試合を開始させた。開始宣言直後は大きな動きはなかった。拓郎も対戦相手の男子生徒もじりじりと距離を詰めていくに留まる。


 お互いの蹴りが届く間合いの一歩前で、二人とも示し合わせたかのように足を止める。そこから数秒ほど、お互いの体を僅かに動かす動きによるフェイント合戦が行われた。こう動いたからこのような動きをしてくる──と先読みが得意な人を引っ掛けて、引っかかったらその動きに対するカウンターを取るというやり方だ。


 が、お互いに引っかかる事は無かった。なのでここからは流石にぶつかり合いとなる。ただし、今回は拳や蹴りではなく魔法の打ち合いとなったが。今回の対戦相手である男子生徒は主に氷と風を中心に電撃が少々と言う塩梅。それらの攻撃に拓郎はすべて同じ属性をもって相殺していく。


 相殺される事十数回、流石にこのままでは埒が明かないとばかりに、肉体強化魔法をかけた状態で、男子生徒が拓郎に向かって間合いを詰めてからローキックで蹴りかかった。


 拓郎はこのローキックを少しだけ後ろに下がって回避し、踏み込みながら反撃のミドルキックを放つ。このミドルキックは男子生徒の手によるガードで防がれる。いや、防ぎはしたが男子生徒は僅かながら体勢を崩される。そこにもう一発拓郎のミドルキックが飛ぶ。これに耐える事が出来そうにないと判断した男子生徒は自分から飛び、意図的に吹き飛ばされる事でダメージを抑えた。当然受け身はしっかりと取っている。


「──っ、なんて重い蹴りだ……」


 立ち上がった男子生徒はそう一言呟いた。もちろん訓練や大会などで何度も蹴りは受けてきた。しかし、同年代との勝負でここまで重い蹴りを浴びせられた経験はかなり少ない。特に一発目はしっかりガードしたにもかかわらず体制を崩されて、そこから更に追撃のミドルキックは受けを早々に諦めて飛ぶことでダメージを抑えると言う手段を取らざるを得なかったのである。


(先鋒のあいつの負けっぷり、そしてコーチの激で気合も入れなおしたし心も引き締めなおした。油断はしていない、だってのにこれか)


 ガードした腕からは痛みがじわりじわりとやってきている。最大限に軽減してこれならば、直撃を貰った場合……先鋒を務めたあいつと同じことになる。むしろそれ以上の事になりかねない。その考えにたどり着いた男子生徒は内心で身震いする。


 無論それを表にはださない。出したことが切っ掛けで対戦相手に流れを持っていかれてしまい、巻き返せなかった苦い思い出が彼にはある。


(だが、魔法の打ち合いはもっとダメだ。軽くやり合っただけで分かった、俺の魔法では絶対に勝てない。こちらの魔法と同じ魔法で全て相殺してきたからな……ああも完全にきれいに相殺したという事は、こちらの威力をすべて見切ったうえで同じ威力の魔法をぶつけなければ不可能だ。それを可能にするだけの技術が相手にはある。だから俺の生きる道は……肉体強化をしてからの近接戦闘一択だ)


 そう覚悟を決めた男子生徒は、再び強化魔法を己の体にかけて拓郎に向かって飛び込む。今度は蹴りなどを用いず、体全身で突撃して相手を崩し、そこから掴みかかる事を目的とした動きだ。当然掴んだ後は全力で相手を叩きつける。投げの一撃性の重さは己の体がよく知っているからこその選択だった。


 しかし、その突撃を拓郎は軽く手を添えて力の動きをずらす事であっさりと回避してしまう。そして後ろを取った拓郎はその背中に向かって左手で正拳突きを叩き込んだ。


 もちろん拓郎の全力ではなく加減した一撃だが──突撃してきた男子生徒の勢いもあって、軽くはじけたような音の直後に男子生徒は派手に吹っ飛んだ。そのまま地面に伏した事でダウンと審判役のジャックは判断した。


「ダウン、カウントを取ります!」


 拓郎は距離を取り、相手が立ち上がってくるという予想の元に構えを崩さない。ダウンした男子生徒は──背中の痛みを必死で堪えつつ、ゆっくりと立ち上がってきた。だが、ダメージはかなり重い事をその表情が何よりも如実に語っていた。それでも、彼はギブアップをせずに拓郎に向かって向き直る。こんな事で終わってたまるか、という意地を見せていた。拓郎は、それに応える事にする。

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