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その7

あんまり投稿がないのも寂しいのでちょこっとだけ。

「案外寝れる物なんだなぁ……てっきり眠れず徹夜になるかと思ったのに」


 ちゅんちゅんと雀の鳴く声が外から聞こえてくる……かなりぐっすりと眠っていたようだ。変な所で案外図太かった自分の神経に感謝する拓郎。拓郎の左側に寝ていたはずのクレアの姿はすでになかった。おそらく朝ごはんを作りに台所へと行っているのだろう……そのとき拓郎の右側から『んっ……』と女性の吐息が聞こえてきた。


(そういえば右側にはジェシカさんが寝てい……おわあ!?)


 何とか大きな声を出す事を我慢できた拓郎。大きな声を出しそうになった理由は、しっかりと意識が覚醒してきた卓郎の体にジェシカがぴっとりとしがみ付いていたためである。拓郎の右腕に両手を使って抱きつき、拓郎の右足には両足を絡めているというくっつきっぷり。拓郎でなくてもびっくりするだろう。


 だが、その寝顔は安らかといえる物とは言えず……まるで幼子が置いて行かないで、私を一人にしないでとすがり付く様な寂しさを漂わせていた。卓郎はそのジェシカの表情を見て、昨日のクレアから聞いた話を思い出す。


(苦しんだ上に孤立して、人のぬくもりをあまり知らないままにきてしまった反動なのかね)


 そう思うと、先ほどまでのどぎまぎする心境はどこかへと吹き飛び、しがみついているジェシカがまるで妹のように思えてくる。夢の中でも孤立していそうなジェシカの寂しそうなその寝顔がせめて少しでも和らぐようにと、卓郎は無意識の内に左手でジェシカの頭を優しく撫でていた。


「いい雰囲気のところ申し訳ないんだけど、そろそろご飯が出来るから起きてくれないかな~?」


 今度こそ拓郎は『うわあっ!?』と声を上げてしまった。声が聞こえてきた方を見ると、ピンクの生地にひよこが3匹ほどプリントされているエプロンをつけたクレアが立っていた。


「いや、休みの日ならそのままほほえましく見守るつもりだったんだけど、今日は平日だもんね。たっくんも遅刻はしたくないでしょ? ほ~ら、ジェシカちゃんも起きる。起きないとたっくんとふたりでおっぱいもみもみしちゃうぞ~?」


 さらっとセクハラ発言をかましたクレアに拓郎はすかさず突っ込みをいれる。


「まてまて! 俺はそんなことしないぞ!?」


 その拓郎の反論を聞いたクレアは、にまっと笑う。


「そうだよね、右腕に押し付けられちゃってたモンね、十分ジェシカちゃんのおっぱいを堪能したのかな~?」


 それは忘れていたかったのに! と思いつつも、その感触を思い出してしまって赤面する拓郎。そんな拓郎を見たクレアがさらに一言。


「なんなら、今から少しの時間私の胸も触ってみる? たっくんならいつでもOKだよ?」


 こんな事を言い出したクレアに拓郎はでこぴんを一発入れる。


「着替えるからでていってくれよ! あと、ジェシカさんも連れて行ってくれ!」


 クレアも『二度寝はしないでね~』と拓郎に言い残して、寝ぼけたままのジェシカをつれて部屋の外へ出て行き、ドアを閉じた。拓郎はため息をつきつつも、急いで制服に着替える。時計はAMの7時24分朝ごはんをしっかりとって学校へ行くには結構ギリギリな時間だ。学校は8時30分から始まるが、8時15分までに校門を通過していないと遅刻者になってしまう。遅刻のペナルティは結構重いので、それは回避したい。


 着替えが終わって台所へと向かう拓郎。そこではすでに両親が朝ごはんを食べていた。


「おはよう」


 両親に挨拶する拓郎。


「おう、おはよう」


「拓郎、おはよう。クレアちゃんが朝ごはんとお弁当を作ってくれたわよ。これが拓郎の分だって」


 挨拶を返してくれる父親と、お弁当を指差す母親。念のためにお弁当の蓋を開けて中身を確認する拓郎だが……。


(よかった、今日のは普通だ)


 ほっと胸をなでおろす。ハートマークなども一切ない、ごく普通のお弁当だ。確実に蓋を閉めなおす。


「今日はハートマークなしだったのかなぁ? 拓郎?」


 母親の一言に、つい咳き込んでしまう拓郎。


「ちょ、何で母さんがそれを知ってるんだよ!?」


 つい反射的に母親へ質問をぶつけてしまう拓郎であったが……。


「発案してクレアちゃんに教えたのは、私だからよ?」


 原因はアンタなのかよっ!! ついジロリと母親を恨みがましく見つめる拓郎。そんな拓郎の肩を軽く叩いたのは父親だった。


「分かる、分かるぞ拓郎。実は父さんも……以前母さんにやられたことがあるんだ」


 その父親からの言葉を聞いて、自然に握手を交わす拓郎と父親。親子の絆とは別の絆が出来上がった瞬間であった。弁当の一件で酷い目にあった同士として……。


(拓郎、同士としての話がまだある)


 急にひそひそと小さい声で話しかけてくる父親を怪訝な目で見る拓郎。


(どうしたのさ、父さん)


 そのひそひそ声に合わせ、拓郎も小さな声で父親に言葉を返す。


(弁当での攻撃は一度では終わらない、油断をするともっと強烈なのが仕込まれるからな。いいな、今後も油断をしちゃ駄目だぞ)


 先人からのなんともありがたいお言葉である。拓郎は黙って頷いた。その後もう一度母親を見るとニヤニヤと笑っている。話の内容は分かっている……いくら策を講じても無駄よと宣言するかのような笑みだった。


 やがて父親と母親は食事を先に終わらせ、『先に行くからな、後は頼むぞ』と言い残して仕事に向かう。拓郎もその後に手早く朝の食事を済ませて、作ってもらった弁当をかばんに入れて家を出る準備を整える。


「あ、たっくん。これはお昼に飲んでね、スープだから」


 と、小さめの魔法瓶をクレアから手渡される。今日は何のスープを仕込んだのやら。


「それじゃいってきまーす」


 拓郎の挨拶に、


「いってらっしゃーい、気をつけてね~」


 と、クレアの返答が聞こえる。そういえばクレアがあの日自分の前に現れる前まではいつも最後の鍵締め役で、いってきますの声なんか上げた事もなかったっけな……ふとそんな事を考えながら、拓郎は学校へと向かう。

今年のウェハース更新はおそらくこれが最後になりそうです。

もっと長い文章を書きたいんですが、おっさん関連で時間がっ!

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