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67話

 そして、3年生は卒業の日を迎える。小学校、中学校ならば卒業式に在校生も参加する事も多くあるだろうが、高校ともなれば学校によると言った所だろう。さて、この拓郎の学校は3年生の卒業式に在校生が参加する事は基本的にない。基本的に、と記載したのは理由があり、この学園では卒業していく3年生が在校生を招く形を取っているから。


 自分が卒業していくところを見てもらいたい在校生を卒業生1人につき1人だけ選ぶことが出来て、その招かれた在校生はその日の授業を免除されて参加するか断るかを選ぶことが出来る。あくまで招かれて、という形を取っており強制ではない事を念押しさせていただく。さて、そして今回は──圧倒的多数の3年生が1人の在校生を指名した。言うまでもなく、拓郎である。


 無理もない、拓郎が切っ掛けでクレアとジェシカ、更にジャックとメリーが学園に来なければ、レベル1か良くても2で終わっていたのだから……特に最後の訓練の日に拓郎とともに訓練しレベル3の壁に手を届かせた32人は是非拓郎に卒業するところを見届けてもらいたいと熱望していた。


 それを察した拓郎は3年生の要望に応え、一人だけの在校生見送り人として今この場にいる。見た目はアウェーではあるが……3年生からは感謝の感情が飛んできているのが分かっているので息苦しさはない。そして卒業証書授与を始めとして卒業式のスケジュールはスムーズに進み、後僅かとなった。ここで3年生の1人である女性生徒が壇上に上がる。


「本日は無事、卒業の日を迎えることが出来ました。今まで先生方のご指導ご鞭撻があったからこそ今日という日をこうして迎えることが出来たと思っております。さて、先生方への感謝の気持ちがあるのは事実ではありますが──本日は一人だけ、我々が多大にお世話になった鈴木拓郎さんにも来ていただいております。拓郎さんには呼び出しに応じて頂いたことをここで改めて感謝の意を伝えます」


 突然自分の名前を出されたので、拓郎は立ち上がって3年生全員に向ける気持ちを込めながら頭を下げた。


「特に、32人の同級生からはレベル3へ手を届かせてくれたことに関する感謝を絶対に伝えてくれと強く念押しされておりますので、それも併せてお伝えしておきます。本当に、拓郎さんがいなければ私達の大半はレベル1のまま卒業する事になったでしょう。ですが今の私達は大半がレベル3、中には4、5のまで手を届かせた者すらいます。これも、拓郎さんがいなければ叶わぬ事だった事でしょう」


 彼女の言う通り、数名ではあるがレベル5まで到達した卒業生が存在する。そこまでの伸びしろがあったとしても、やはり適切な指導と訓練を受けられなければ伸びない事の方が普通であり……そこまで手を届かせた彼らの人生は明るいものとなるだろう。だからこそ、拓郎に感謝の念が強まるのである。


「では、全員起立! 拓郎さんへ向かって、礼! 本当にありがとうございました!」「「「「「「ありがとうございました!!」」」」」」


 卒業生全員が、拓郎に向かって一斉に頭を下げた。拓郎も頭を下げ返した。これで卒業式のスケジュールは終了となる筈だったのだが……ここで拓郎にとって予定外の一言が校長先生から飛んできた。


「では、鈴木拓郎君。申し訳ないが壇上に上がって卒業生たちに何か一言伝えてくれないだろうか? 卒業生たちも皆、それをきっと望んでいるはずだからな」


 と言う事で、突然拓郎は卒業生たちの為にスピーチをする羽目になってしまったのだ。校長先生の言葉だけでなく、卒業生の皆様一同からも期待の感情を向けられてしまっては──引く事など出来ようはずもなかった。なので大人しく壇上に上がる拓郎。十数秒ほど考えてから口を開く。


「まずは卒業生の先輩の皆様方、卒業おめでとうございます。ここから先、進学なさるのか就職なさるのかは分かりませんが、皆様の未来に幸せな明日が待っている事を祈っております。さて、先ほども伝えられましたことですが……私としてはあまりそこまで感謝していただくのは少々恐縮していると言った所でして……」


 話の風向きがちょっとおかしい? みたいな空気が卒業式会場に流れるが流石に声をあげる人はいない。


「先輩方とともに訓練をすることで、私もまた己を鍛えることが出来ました。つまり、互いにとって益が出ている訳です。ですから、あまり先輩方も気負わないでいただきたいのです。そして何より、私はただのきっかけに過ぎないともお伝えしておきます」


 拓郎の言葉を、静かに聞いている卒業生&教職員の方々。そんな中で拓郎はスピーチを続ける。


「いくら魔法をうまく教えられる教師がいても、訓練できる環境が整っていても、結局は本人の努力が必要なのです。そして今日卒業していく先輩の皆様方はその努力を怠らなかった! 時には血を流し、涙を流し、くやしさと憤りを必死に飲み込んで訓練に参加していらっしゃいました! だからこそ、多くの先輩達がレベル3に到達できたのだと私は思っています」


 拓郎の言う通り、どんなに環境が良くても本人が努力しないのであれば何も為せない。これは魔法に限った話ではない、勉強にしても運動にしても仕事にしても本人が努力し己を磨き続けていかなかったら何もかも進まずに終わってしまう。当たり前と言われれば当たり前の話なのだが。その当たり前こそが何より難しいのだ。


「ですから、胸を張って卒業してください。先輩たちが身につけた魔法レベル3、4、5という数字は私が引き上げたのではありません。先輩達が残り少ない時間に全てを賭けて必死に努力をし、血を吐きながらも立ち上がって、最後まで諦めなかった結果そのものなのですから。そして、そんな努力をしたという経験はきっと、今後の先輩達の前に立ちふさがるであろう困難を乗り越えたりぶっ壊したりするときに役に立つと思います」


 拓郎は、10月から卒業直前というわずかな時間でここまで己を鍛え上げた先輩達ならば、大抵の困難に立ち向かっていけると思っている。お互い真剣に魔法を撃ちあい、必死になってお互いを切磋琢磨した間柄だからこそ信じられるのだ。


「私からは以上です。先輩達の明日に、幸あらんことを!」


 という言葉で閉め、拓郎は頭を下げた。卒業生並びに教師達は拍手を。そしてクレアは秘かに魔法を使ってこの一連の流れをしっかりと記録媒体に残していた。ジェシカはそれに気がついてはいるが、周囲に配慮しているので何も言わない。そして卒業生達は一団となって学園の門へと向かう。門を出たらもう、この学園に戻ってくる事はまずない。


 拓郎も先輩達に同行する。門までの道は短いが、その短い時間に多数の先輩達から話しかけられた。門の外には先輩達の保護者が待機しており、この日を記録に残すために様々な記録媒体を手に待ち構えていた。だが、それだけにとどまらず……一緒についてきた拓郎の事も捕まえたのである。


「最後に、息子との記念撮影をお願いします!」「こちらも!」「娘の一生の恩人の事を記録しておきたいので!」


 そう、自分の息子や娘と共に記念撮影をして欲しいと拓郎に頼み込んできたのである。無理もない話であるが……相当時間がかかりそうだな、と拓郎が覚悟を決めようとした所で校長先生から制止される。


「保護者の皆様のお気持ちは理解しておりますが、彼もさすがにそこまで撮影されるとなれば大変です。ですので各クラスごとの合同撮影とさせてください。ご理解のほど、よろしくお願いいたします」


 という校長先生の言葉のお陰で、拓郎が写真撮影に付き合わされる時間はかなり短縮される事となった。それでも大勢の保護者足しが写真を撮りまくるので非常に大変な時間となったが。それらもようやく終わり……最後の記念と言う事で卒業生と教師、そして招かれた在校生だけによる会食が行われる。


 地元のホテルに移動し、予約を入れておいたバイキング形式で昼食となった。ここで使える3時間が、学園性として最後の時間となる。お互いに別れを惜しむ者、逆にせいせいするぜといがみ合う者など様々ではあるが最後の時間を楽しんでいる事だけは間違いない。そして拓郎は──先輩達よりもその保護者達に囲まれていた。


「本当にうちの子を育ててくださいまして──」「いえ、先輩の努力の結果です。私は切っ掛けにすぎず──」「いやいや、その切っ掛けというモノが非常に難しいのですよ。切っ掛け一つで人生は大きく変わるところがありますから」「それはある程度理解しておりますが──」


 あらゆる方向から(流石に上と下はないが)声をかけられ食事もままならない状態である。とはいえ、保護者の気持ちも理解できるため対応していく拓郎。そんな拓郎を見かねてか、先輩達も自分の親たちにあんまり拓郎を困らせないでやってくれと引きはがしにかかる。そしてようやく落ち着いて食事ができる所歌になった。


「ふう……」「ふふ、たっくんおつかれさま」


 そのタイミングを見計らって、クレアが声をかけてきた。


「確かにたっくんは切っ掛けに過ぎないかもしれないけど……たっくんがやった事はあの卒業生たちに大きく影響を与えているわ。だから、たっくんも胸を張ってね? もちろんそれが慢心になってはいけないけれど……卒業生たちが胸を張って自慢の後輩だと言えるぐらいの人物にならないと、ね?」


 クレアの言葉に拓郎は頷きながら胸に言葉を刻んだ。こうして卒業生を見送り──拓郎もまた、魔法レベルを上げるために残されている時間は残り1年となる事を改めて痛感した……。

時期的には遅くなっちゃいましたね……

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