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66話

 その翌日。拓郎は先日最後のレベル3になることが出来た先輩から呼び出しを受けていた。何を言われるのか……そして何をするのか。その内容によっては止めに入ろうと拓郎のクラスメイト達と3年生の方も2人の後をひそかにつけていた。拓郎は気が付いていたが、あえて気にしない方向で考えていた。


「で、先輩。話があるとの事でしたが」


 場所は学園の端、基本的に人があまり来ない場所だ。内緒の話をするのにはもってこいの場所ではあるが、一方で恐喝するにも都合の良い場所でもある。もしどちらかがとんでもない行動に出た事をを確認出来たら即座に飛び出す──拓郎のクラスメイトと一緒に後をつけてきた3年生達はお互いの意思を確認し終えた後に頷きあって、2人の様子をうかがっている。


「ああ、なに、そんなに長い時間はとらせねえよ。昨日の件についてちょっとだけ、な」


 拓郎にとっても、付いてきた面々にとっても予想通りの言葉を3年生は口にした。どうか面倒事は起きないでくれ、と付いてきた誰もが願い──よりいつでも飛び出せるような体勢に入っていく。


「昨日は申し訳ありませんでした。先輩に対して使う言葉遣いじゃなかったですから」


 拓郎がそう謝罪を口にして頭を下げると、3年生は「違う、違うんだ」と声を発した。それから数秒の沈黙。拓郎は3年生が喋りだすのを待ち、そして3年生が意を決したように口を再び開いた。


「そうじゃない、謝罪をさせたかったんじゃないんだ。むしろ、謝罪をしなきゃいけないのは俺の方なんだ──後輩にあんな言葉を言わせてしまった事を謝りたかったんだ。でもほら、大勢の人がいる所で言うのはちょっと、な?」


 3年生の言葉に拓郎は同意した。確かに大勢の人の目と耳がある場所で謝罪をするというのは色々と感情的にレベルが高い行為だ。社会人となれば、自分のミスで周囲に迷惑をかけたりした場合はもちろん大勢の前で謝罪をしなければならない事もあるが今回はそう言った話ではない。


 そして、この様子ならとりあえず一触即発になるような事態は迎えないだろうと付いてきた側も少し緊張を緩めた。だが、完全に緊張を解いたわけではない。何が切っ掛けで揉め事が発生するか分からないからだ。


「あの後、家に帰ってレベル3になった事を両親にも伝えて……その後、自分自身がすげえ情けなくなったんだ。最後のチャンスだって分かってたはずなのに勝手に諦めかけて、後輩にあんなことを言われなかったら奮い立つ事が出来なかった自分自分が恥ずかしくなった。あそこであんな風に言ってもらえなかったら、俺はレベル2のまま一生を過ごしたんだって事も改めて感じた」


 ここで3年生は拓郎に向かって深く頭を下げた。


「ありがとう、あそこでお前が焚きつけてくれたから。お前があそこで諦めるなってメッセージをくれたから俺はレベル3になれた。言うまでもない事だが、レベル2と3の壁は厚い。待遇も就職も……ありとあらゆる面でな。俺はお前に大きな借りが出来たんだ……だからよ、大した力にはなれないかも知れねえが、何かあったら呼んでくれ。俺の両親も事の顛末は知ってるからよ」


 頭をあげた3年生は、一つのメモを拓郎に手渡した。そこには3年生の自宅の電話番号とスマホの電話番号が書かれていた。


「親も本当に感謝してる。繰り返しになるがレベル3になれたかなれないかで今の時代は運命が変わっちまうからな。親からも迷惑と手間をかけさせたんだから絶対謝罪と感謝の言葉を伝えろと念押しされててな。俺もまあ、そのつもりだったが……こういった物は心の中で思っているだけじゃ意味がない。キチンと言葉にしてこそ意味があるってモンだしな」


 この3年生の言う通り、感謝という者は言葉や行動で表さなければならない。心の中でそう思っていた、なんてのは全く意味がない。人にお世話になっておきながら、感謝の意を伝えられない人は──まあ、碌な人生にならない事の方が多いだろう。


「それを伝えたくてこんな場所まで連れてきちまった。済まなかったな……でも、今日伝えないとチャンスが今後ないかも知れなくてな」「卒業間近ですからね、そこあたりは察せますよ」


 卒業が近くなればどうしてもあれやこれやとバタバタするものだ。その結果後でもいいかな? と思った事が結局できずじまいになった経験をお持ちの方はそこそこいらっしゃるのではないだろうか?


「あと、本当出来ればいいんだが俺の両親にもあってくれると助かる。人生の恩人に感謝の一つも出来ないんじゃ親として失格だって叫ぶぐらいでな……」


 3年生は苦笑するが、この時代の親の考え方としては非常識ではない。自分の子供の魔法レベルを3にしてくれたというのはそれだけ重い事であり……拓郎に限った話ではなく、訓練所のトレーナーなどもレベル3まで預かった子を鍛え上げると親からの感謝と所属している企業からも金一封が出るぐらいなのだ。とにかく魔法レベルレベル3というのはこの時代におけるステータスその物なのである。


「じゃ、そろそろ行く。お前は……多分だがレベル10を目指すんだろ? そうじゃなきゃあんな滅茶苦茶な訓練を受け続けるはずがない。頑張れよ、きっとお前なら行ける」「ありがとうございます、その期待に応えたいですね」


 最後にそんなやり取りの後に握手を交わし、双方ともにこの場から立ち去った。そして──様子を見守っていた拓郎のクラスメイトや3年生達も安どの表情を浮かべていた。


「物騒な話にならなくてよかった」「全く持ってその通りだ。卒業間近にやらかして人生台無しとかを見逃したら、流石にクラスメイトとして目覚めが悪いからな」「真っ当な話で良かったよ……最悪の場合も考えたからなぁ」


 拓郎のクラスメイトも3年生側も拓郎が魔法を用いた戦いで負けるとは思っていない。ただ……そう言った事で魔法を使ったとなればただでは済まない。以前に拓郎に絡んだ連中のように魔法を封印される可能性も十分にある。魔法とは便利で強力な物だからこそ、その使い手には相応の心構えを要求される。


 故に、魔法を使った犯罪に属する事に関しては歳に関係なく裁きを受ける。命まではとらないが魔法を封印されるというのはよくある刑罰の一つであり……そこから先の人生は、ろくでもない事にしかならない。わけあって魔法が使えなくなってしまったレベルゼロの人とは違って、罪を犯して魔法を封印された以上、世間の風当たりは非常に強くなる。


 ある意味これは見せしめの側面もある。魔法が使えて当たり前の時代で魔法を用いた犯罪を行って封印されたラこういう事になるんだぞ、という。この行為に対して時々人権団体を名乗る怪しげな集団が不当だと声を上げるが──魔法の有用性と危険性故に厳しくせざるを得ない事に対する理解がないと言われ、さらにはそもそも犯罪をやらなきゃそんな事にはなっていないと反論を受けるだけだ。


 だからこそ、拓郎のクラスメイトと3年生はそのような事にならないようにしたかったがためについてきた。そしてそうならなかった事にほっとしているのである。何も知らない人間が犯罪をやったのなら罰するべきと言えるが、同じ学校である程度顔を知っている人物がそう言う事をやらかす雰囲気があるのに虫をするのは流石に……という考え方だ。


 まあ、この学園の生徒は、お人よしが多いと言う事なのだろう。だから本当に辛いならば助け舟も出すし協力もするという感じの善性が多め。まあ、その、あまり言いたくないのだがその真逆な場所も少々ある。


「なんにせよ、これで心配事もなくなった。俺達も安心して卒業できる」「ホント、拓郎さんにはお世話になってしまったわ。彼じゃなくても、拓郎さんがいなかったらレベル3にはなれていなかった人は多いし」「まあ、クレア先生やジェシカ先生が現れたのも元をたどれば拓郎が原因ですからね」


 拓郎の後をついてきていたクラスメイトと3年生達はその後終始和やかに話を交わしながら解散した。結果としてみれば、特に大きな問題もない普段の一日であった。当事者からしてみれば決してそんな事はないのだが、大ごとにならなかったと言う事だけで十分だったようである。

心臓を取られた世界の旅は一応の結末を迎えました。

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