表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/124

65話

 どんな状況下においても時間は容赦なく過ぎる。が、救いの手が差し伸べられることもまたあるものだ。この学園の置かれている状況を知って、県知事が動き出した。その行動は、一学園に周囲は過剰な迷惑をかけるなという一点に絞られている。この県知事の指示によって警察などもより積極的に動くようになり、強引なスカウトをする悪質な企業にメスが入る結果に繋がっていく。


 これにより、学園は入学希望者に関する問題に集中できるようになった。結果として、教職員の負担はかなり軽減された。この時を振り返った教職員の一人は、まさに地獄でしたねと口にする。だが、それは自分だけではなく校長から我々、さらに生徒の皆さんまで含めて大変だったとんでもない時期でしたと振り返っている。


 なんにせよ、一時期のカオスな状況から徐々に学園は解放されつつあり、生徒達も落ち着きを取り戻しつつあった最中……3年生たちの卒業が間近に迫ってきていた。そんな彼らは文字通りのラストスパートとして、残り少ない訓練の時間に必死になって訓練を受ける。卒業してしまえばこんな訓練はもう受けられない事と、あと残り僅かな時間で魔法レベルの上昇が終わってしまう時期を迎えるからだ。


 特にレベル3になれる素質はあるがまだ手が届いていない3年生の顔は、もはや般若のような感じですらある。残された時間でレベル3に手を届かせるために、あらゆる訓練を積み重ねた。もちろんクレアを始めとした魔女の指導下なので、ぶっ壊れてしまう寸前までの見極めは出来ている。そのぎりぎりまで己を追い込む3年生の姿を見て、当然下級生も奮い立ち訓練により必死になっていく。


 しかし、時間は無常に過ぎる。今日はついに3年生が訓練できる最終日だ。そして、拓郎の前には32人のレベル3目前の3年生が集まっていた。


「さて、改めて言うけれど……今日が私達が貴方達に直接指導できる最終日です。今まで貴方達には限られた時間で出来うるだけの訓練をし、知識を与え、成長できる切っ掛けを与えてきました。だからこそ、今日一日に全てを賭けて挑んでください。貴方達には可能性がある、だからあなたたちの殻は破れる。最後のチャンスを掴めるかは、貴方たち次第です」


 そんなクレアの言葉に、32人の3年生は頷く。


「たっくんを殺すつもりで全力で魔法を振るいなさい。魔力が尽きたと思っても絞り出しなさい。今日1日で限界を超えて殻を破りたいならそれしかありません。安心しなさい……貴方達の全力を受け止めるだけの力はたっくんにはあります。むしろ全力で行かなければ、貴方達が倒されるだけになるでしょう」


 クレアの言葉に従って、前もって話し合っておいた通りに拓郎は32人の3年生に向かって魔法の力による圧をぶつける。その圧を受けた3年生達は後ずさったり表情をこわばらせたりするが──すぐに気合を入れなおして拓郎に向き直った。


「──良い表情ね、今の貴方達なら行けそう。では、始めなさい! 殻を破る最後のチャンスよ!」


 クレアの言葉が終わるや否や、拓郎と3年生の間に無数の魔法が飛び交った。拓郎は昨日のうちにクレアとジェシカから言われていたことを思い出す。



「あの人達には、かなり強めのショックが必要なのよね」「そうですね、実力的にはほぼレベル3なのですが──あと一歩が足りない。これは別に彼らに限った話ではありません。世界中でレベル2と3の壁になるのはまさにそこなのです」


 ならば、どうすれば先輩たちをレベル3に出来るのか? そう拓郎は2人に問いかける。その問いに対して帰ってきた答えは──


「恐怖に圧し潰されそうになりながらも抵抗を諦めない心を持つことが方法の一つね。これは明日たっくんが彼らを徹底的に追い詰める事で圧し潰そうとして。加減は、出来るでしょ?」


 クレアの言葉に拓郎は頷く。明日相対する事になる32人の事は何度も魔法を撃ちあってきたから分かっている。実力の程も……だから向こうが絶望しそうな塩梅は想像がつく。


「もう一つは、最後の最後まで自分の力を絞り出す事でしょうか。これは下手をすると魔法レベルの低下を招きますが──そこらあたりの調整は、私とクレア姉さんでどうにでもなります」


 つまり、恐怖で押しつぶしながらも最後まで戦わせる力加減こそが、明日の拓郎に求められる。かなり難しい注文なのだが、レベル2と3による周囲の反応の違いなんてものは嫌というほど見てきている。だからこそ、先輩たちが気持ちよく卒業できるようにレベル3にしてあげたいという思いは強かった。


「分かった……俺としても先輩達には笑って卒業して欲しいしな……その二人の注文を必ずこなすよ」


 拓郎の言葉に2人の魔女は微笑を浮かべた。そして──今に戻る。



「うおおおおおおお!!」「まだよ、まだ! 私はまだ終わってない!」「諦めてたまるかよ! 最後のチケットを俺は、俺達は必ず掴むんだ! こんな所で折れるかー!」


 拓郎からの魔法の猛攻に、3年生たちは明確に押されていた。一気に押しつぶされるのではなく、じわりじわりと時間をかけて──しかし確実に潰しに来ている事など3年生達全員が理解していた。それでも、お互いに声を張り上げて必死に抵抗を続けている。今日が最後、明日のチャンスはもうないと分かっているからこそ、という部分もあるだろう。


 すでに恥も外聞もない。ただ今目の前にある恐怖の先にあるはずであろうレベル3への切符をその手に掴むため。こうして最後まで訓練に付き合ってくれたクレアたち魔人や教職員、そして拓郎に報いるため。彼ら32人はどれだけ拓郎の魔法から感じる圧が強くなろうとも引かなかった。すでに身にまとっている衣服はボロボロで、何度も転んだ3年生などはよりひどい状況になっている。


 それでも、誰もが引かなかった。だからだろう、切符を手にした者が現れ始めたのは。突如、目委託に魔法の威力が上がった3年生が現れる。言葉にしなくても分かる、レベル3になったのだと。殻を破ったのだと。ならば周囲はどう思うか? 俺も、私も続いて見せると意気を上げる。


 そして切符は徐々に配られる。諦めずに抗い続けた武士(もののふ)としての魂を持つことを証明したことを認めるかのように。だが、最後に一人だけ変わらない3年生が残ってしまった。訓練できる時間も残り5分を切っていた。周囲からもアイツだけは無理なのか? 届かないのか? そう言った空気が最後の一人に向けられてしまう。得てしてそう言った空気、感情は当人へと届いてしまう物である。


「俺は……俺だけはだめなのか?」


 遂に力を使い果たし、周囲の空気に充てられてその3年生は膝を付いてしまう。それとほぼ同時にその頬には悔し涙が流れる。そんな彼の姿を見て、他の31人はかける言葉が見つからなかった。今まで共に必死に訓練してきた事など嫌というほど知っている。サボったりはしていないし、彼だってレベル3になる資格はあると分かっている。


 なのに、彼だけが残り僅かとなってもレベル3への切符がもらえない。これが現実の冷たさなのかと──共に戦っていた3年生達は動きを止め、彼を見つめながら口の中に渋い物を感じていた。だが、拓郎は違った。


「先輩、何をやっている! まだ時間は過ぎていない、訓練は終わっていない! 悔し涙を流す時間なんて貴方にはないはずだろうがっ!」


 拓郎が喝を入れる。拓郎だって、先輩達には笑って卒業して欲しいから今日の一件を引き受けた。なのに、まだ可能性があるのにそれを投げ捨てて膝を付いてしまうなんて事は──許さない。最後まであがき抜いてもらわなきゃ、納得できない。


「先輩がこの日に賭けた最後のチャンスを掴むという意思は、そんな物だったのかよ!」「──そんな、そんな……そんな筈無いだろうがあああああああ!!!!」


 拓郎の勝人長髪が入り混じった言葉に発奮し、もう一度立ち上がったその3年生は先ほどまでの自分を忘れて魔法を放つ。その魔法に対して、拓郎も魔法を放つ事で魔法同士の押し合いが発生した。が、3年生の方にじりじりと魔法のぶつかりあっている地点が進んでいく。それを見て、周囲はダメなのかと悲しさと悔しさが入り混じった感情を持ってしまう。


 が、当の3年生は歯を食いしばった。今まで生きてきた中で一番強く食いしばった。その目には諦めではなく最後までやり遂げるという意思が見えた。


「俺だって……俺だって、俺だって掴みとってやるーっ!」


 そう叫ぶと同時に、彼は本当の意味で自分の全てをぶつけた。ぶつける事に成功した。その結果、彼が今まで破れなかった殻がはじけ飛んだ。一瞬だけだが明確に拓郎側へと魔法を押し返して──それを確認した拓郎は魔法を止めた。押し返した先輩が、立ったまま気絶している事を理解していたから。


「クレア! 先輩は!?」「大丈夫よ、気絶しただけ。本当にぎりぎりだったけどね……彼も滑り込みでレベル3になったわ。これにて、今日の訓練は終了となります! 皆お疲れ様!」


 クレアの言葉に、生徒だけでなく教師たちも沸いた。中には涙を流して喜ぶ教師もいた。こうして、3年生の32人全員が卒業前にレベル3の切符を手にして学園から旅立つことが出来たのである……

ドラゴンズドグマⅡ、自分もプレイしています。


ただ、ネットの情報はシャットアウトしてのんびりやっています。そうしないともったいないから。

は矢と期するより世界を見て回りたいゲームですからね。戦闘はシーフが楽しすぎる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ