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63話

 開けて翌日。授業開始前に緊急で全校集会を開くという校長先生からの通達が入る。何事だと皆が思ったが、とりあえず指示に従い全生徒、ならびに全教員がグラウンドに集まった。


「あーあー、マイクテス。よし……授業を始める前に緊急の全校集会を開いたことに関しては申し訳ないと思う。しかし、皆に伝えておかねばならない事が発生してしまったが故、仕方がなかった。長々と前振りを続けても仕方が無いからな、さっそく本題に入ろう。集会を開いた理由だが、近頃周辺企業から突如名刺を渡されたという訴えを出してくる生徒が明確に増えつつある件についてだ」


 校長先生の言葉に、大半の生徒がざわめいた。一部の生徒は少しだけ表情を歪めた。


「優秀な人材は早く抑えておきたい、という企業からの働きかけなんだろうが……もしそのやり取りから就職などを決められてしまうと、もし後からとんでもない不利な条件などを持ち出されてきても、こちらがそれらの行動に気が付けなくなる可能性が高まってしまう。名刺を受け取るのも出来れば控えてもらいたい……残念ながら、全ての企業が善良とは限らない」


 悪事、とまではいかないまでも社員を規定ぎりぎりまでこき使って利益を上げるという会社は残念ながらいつの時代にも存在している。繁忙期などでやむなく一時的にならまだいいのだが、それが常態化しているところもまた存在する。ましてや優秀な魔法の使い手なら、仕事など山ほどあるし、その手の仕事をこなせば当然高い利益が出せる。


 だからこそ、急成長した生徒を早めに捕まえておきたいという企業は幾つもある。いくら魔法が一般的になったと言っても、優秀な使い手は希少だ。皆がパソコンやスマホを使えるようになっても、機械の性能を十全に引き出して仕事に出来る物が要るかいないかの差、と言い換えることが出来る。使える事と、仕事に出来る事は全くの別の話。


「なので、単独での登下校は出来る限り辞めてもらいたい。特に帰りの時が問題だな……なので、安全性を高めるために今日からいくつかの大きな目的地となる場所、および駅までの学園専用のバス定期便を出す事になった。かかる費用に関しては学園側が持つ。生徒の皆さんは遠慮なく使用してもらいたい」


 校長先生の話に、また生徒達がざわめく。バスの管理、維持などにかなりのお金がかかることが予想されるが、校長先生はお金を取らないと宣言した。学園は大丈夫なのか? と不安に感じる生徒も出る。しかし、確かに企業が突然就職を希望してきて、サインを急がせるような事をしてきたとしたらかなり怖いというのもまた事実である。


「企業までそんなことしてくんのかよ……」「なんというか、色々周囲の動きが去年までと比べて変わり過ぎて気持ち悪い……」「去年はこんなこと全然なかったのに」


 生徒達の間からそんな言葉のやり取りが行われる。校長先生も不安になる気持ちはわかるため、生徒同士の話を止めようとはせず少しだけ待つことにした。自然と会話が静まってきた頃合いを見計らって、再び校長先生は口を開く。


「不安もあるだろう、それは無理もない。こちらとしても企業までもがこのような動きをしてくるとはと頭が痛いというのが正直なところだ。特に、業績があまりよろしくないという噂がある企業のいくつかは強引な手段に出るかもしれないという話を警察の方々方もうかがっている。そんな愚か者達から生徒の皆さんを護る為だ。面倒とは思うだろうが、理解して貰いたい」


 校長先生の言葉からは、誰が聞いても申し訳なさが漂っている事を感じ取れる声色だ。そんな声を出されては、生徒側も理解を示すほかない。実際校長先生の表情をよく見ればかなり疲れているのが見て取れる。バス送迎をするために徹夜であれこれ走り回ったのだろう、と予想する事は決して難くない。


「──まあ、校長先生のせいじゃないよな」「校長先生も被害者だよね、これ?」「業績悪い所って……あそこら辺か? なんにせよあっちにはしばらく行かねえほうがよさそうだな」


 生徒達も校長先生に同情的な反応を示す。実際、校長先生も要らぬ仕事を増やされた被害者である。そんな校長先生に腹を立てる生徒や教師陣は一人もいなかった。


「話は以上だ。いつも通りの授業に移って欲しい」


 この校長先生の言葉を最後に、緊急の全校集会は終了した。そしてその日の昼休み。



「まじか、お前もかよ」「この様子だと結構声をかけられてる人はいるな」「そりゃ校長先生があんな行動にでるよ。俺が校長先生の立場だったら怖くてしょうがない」


 クラスメイトの話の中心はやはり今日の朝の校長先生の話だった。クラスメイトでも企業の人から名刺と共に声をかけられたと言う事を告白する人がぽつぽつと居たのでさらに話は盛り上がる事に。それと同時に、校長先生がバス送迎を行うことを急いだ理由もまた皆が痛感していた。


「やっぱり優秀な魔法使い、特にレベル3以上の人が欲しいってのはずっと変わってないって事だな」「名刺渡された人って全員レベル3到達者だもんな。企業からすればガチで欲しいんだろう。でもなぁ……」


 なんて話で盛り上がっていると、自然とクラスメイトの視線は拓郎に向く。向けられることを予想するまでもなかった拓郎は口を開く。


「自分も声をかけられたよ。会社名は伏せるが、日本トップクラスの会社だったな……断ったらすぐに引き下がってくれたが、そうじゃなかったら……面倒極まりなかったな」


 拓郎の発言に、あーやっぱりなーとか拓郎が目を付けられないわけがないよななどの話がクラスメイト間で飛び交った。


「断ったらすぐ引いてくれる人ばかりならいいんだが、今日の校長先生の話からそうじゃない連中も一定数はいるって事だからなぁ……企業連中のスカウトがある程度収まるまでは帰る時のバスは必須だろ。あー、当分帰る時に軽くハンバーガーを食ってから帰るとかもやれなくなるのか」


 雄一の言葉に、あちこちから出来ないよなーとか晩飯まで持たねえよーと主に男子生徒の嘆きの声がこだまする。食べ盛りの彼等にとって、これはかなり苦しいだろう。


「テリヤキとか、そう言うのが食えないな」「というかあと二日後に新商品が出るんじゃなかったっけ?」「そう言うのが全部お預けなんだよなー……ポテチとかじゃ満たされない時があるし、かなり辛いなぁ」


 なんてやり取りをしている内に昼休みは終了する。その後午後の授業は滞りなく進み、下校となる訳だが……学園の前には複数のバスが待機していた。バス下校初日と言う事で、教師陣が何人もここに居る。


「各バスはそれぞれ別方向に出ますので、自分の帰り道に近い所を通るバスに乗ってくださーい! バスは複数抑えてありますので、すぐに次のバスが来ます! 無理にぎゅうぎゅう詰めになるまで乗らなくて大丈夫ですからねー!」


 新しい事を導入した初日は、どんなことでも混乱が起きるしスムーズには進まないもの。それでも皆が協力し合って、出来るだけスムーズにバスに乗れるように動いた。その甲斐あって、大きなトラブルの発生を回避した。これがいつまで続くのか、それともずっと終わらないのか。それはまだだれにも分からないのであった。

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