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56話

「いらっしゃーい」「お邪魔します」


 そして当日。午前10時半ごろに拓郎、雄一、クレア、ジェシカの4名は珠美の家へとお邪魔していた。家はそこそこ大きく、一定の財力がある事が伺えた。


「ささ、あがって。親も妹もいないから気楽にしてくれていいよー」


 珠美の案内の元、4人はリビングへと通される。そして温かいお茶が用意されていた。お茶で軽く体を温めた後に、珠美が口を開く。


「で、どうする? 早速私の部屋でも見てみる?」「それなんだが……珠美、やっぱり同世代の男が女性の部屋を見る物じゃないと思うんだ……だから、クレア先生とジェシカ先生に見てもらう事にしたんだ」


 珠美の言葉に雄一がそう返答する。これは来る前に4人で話し合って決めていた事であった。


「先生が部屋に来るのかー、なんだかちょっと緊張しちゃうなー」


 などと言いつつ、とても緊張しているとは思えない声色の珠美。彼女の部屋は2階にあるとの事で、珠美が先導する形でクレアとジェシカが2階へと上がっていった。そして残された拓郎と唯一。


「なあ、どう見る?」「家の中を見る限り、荒れた様子はないな。珠美の部屋がある2階へと続いている階段一つとってもきちんと掃除もされているようだし……いじめなんかは多分だがないと思う。いじめなんかがあると、どこかに繕いきれない部分があるもんだが、そういう物は見当たらない。後は珠美の部屋次第だが」


 雄一の言葉に、周囲を見渡した拓郎はそう返した。事実、陰湿な空気みたいなものも感じ取れていないので、珠美が理不尽に虐げられているというイメージは沸いてこないのだ。


「そうか、その点は俺も同意だな。どうしてもいじめとかがあると陰湿な部分がどっかに出てくるもんな。そう言うのは俺が見てもないと思う」


 拓郎の言葉に雄一も同意した。そうなると後は珠美の部屋次第だが──ややあって、珠美、クレア、ジェシカが階段を使って2階から降りてきた。3人とも、表情にこれと言った陰りはない。


「どうでした?」「うん、変な嫌がらせみたいなものは一切なかったわね」「ええ、珠美さんが家庭内において変に差別を受けているという可能性はまずない、と結論を出しても問題はないでしょう」


 雄一の言葉に、クレア、そしてジェシカが調べてみた結果を口にする。2人が調べてそう言う結論に達したのであれば問題はないか、と拓郎と雄一は内心で安心する。


「じゃあ、月曜日に問題はなかったとクラスメイトに教えればいいか……所で珠美、ご両親と妹さんは俺達が来るから出かけているのか?」「ううん、そう言う訳じゃないよ? 毎週土曜日は午前9時半には家を出て帰ってくるのは午後8時ぐらいってのが当たり前のことになってるから。ここに行っているのよ」


 拓郎の言葉に、珠美は1枚のチラシを取り出しながら返答を返す。珠美のチラシには、有名な科学魔法の訓練施設の案内が乗っていた。複数の高レベル魔法使いを生み出してきたそこは、教える内容のレベルが高く、それに比例して授業料もまた高い。ただし本人の才があればその才能を掘り起こす手腕は一流と言われていて信頼性が高い場所だった。


「一度見学させてもらった事もあるの。どういう事をやってるんだろーって……そうしたら、妹は本当にお昼休憩以外はひたすら訓練訓練、そして座学。凄い大変な事を泣き言を言わずにやってたのよ……そんなのを見ちゃったら、応援する以外の気持ちが沸かなくなっちゃってね。だから親の行動も私は一切とがめないって訳」


 なんて事を口にしながら、話せる範囲で自分の妹がどんな訓練を受けて必死にそれに喰らいついていくかの姿を見たのかを珠美は4人に説明した。それを聞いた4面は、珠美が親に文句を言わない理由を十分に理解した。だが──


「うーん。ジェシカ、どう思う?」「そうですね……珠美さんの話とこちらの今までの経験などを含めて話すと……ちょっと粗が目立つ育ち方になりそうですね」


 と、魔女の2人がそんな言葉を口にした。当然学生組3人はそんな魔女2人の言葉に驚きの表情を浮かべる。


「クレア先生的は、何か引っかかるんですか?」「そうね……確かに訓練内容は良いし、座学も大事だから大元としては間違っていないの。ただね……今君達にやらせているような基礎的な訓練、下積みをその教育機関はあまり重視していないような感じを受けるのよ」


 以前魔人の先生であるジャックが口にしていたが、魔法レベルが高くても基礎を疎かにしていると下位の魔法攻撃を上位の防御呪文で守っても容易く貫かれることになりかねない──という事実がある。クレアとジェシカはそこに引っかかりを覚えたのである。


「あく場で珠美さんの見学の時の話とこちら側の経験に基づいた予測なので正しいとは言い切れないのですが……レベルを上げる事に重きを置きすぎているような感じなのです。もちろんレベルを上げる事は大切ですが……レベルだけでもいけないと言う事を、珠美さんは分かっているはずです」


 そりゃまあ、魔人、魔女の先生というぶっとんだ方々に教えてもらっているんだからそれはもう嫌って程に……と珠美が思っている事が明白な表情を浮かべる。この点については雄一はもちろん、拓郎はひたすら叩き込まれているのだから反論しる理由がない。と、そんなジェシカに続いて先ほどからあらぬ方向を向いていたクレアが口を開く。


「で、ちょっと今軽ーくこの教育機関の事を調べてみたけど……うーん、やっぱりちょっとレベル上げに偏重気味なのよね。レベルが上がるってのが手っ取り早い成果なのは反論しないけど、もう少し基礎も磨かせておかないと感じな時に魔法の出力不足で困った事になりそうだーって気がするのよね」


 なんて事をクレアが口にしたものだから、学生3人組は驚きを隠せない。妙な方向を向いているのはその為だったのか、という所ではなくこの短時間にそこまで調べることが出来るの!? という点についてである。


「正直ここの機関でレベル5になっても……うん、多分今の珠美ちゃんの方が強いんじゃないかな?」「私も同意します。訓練内容は決して悪くありませんし、座学も良いでしょう。後はもう少し基礎を磨く方向性にもっていけば全体的にもう1ランクぐらいは格が上がると思うのですが」


 触らぬ神に祟りなし、の精神でどうやって二人がそんな結論を出すに至ったのかを聞くほど学生3人組は愚かではない。魔人や魔女っていうのはこういう存在なのだ……普段は穏やかであっても一度動き出すと一瞬でこうなる。だからこそ人々は内心で魔人、魔女を恐れる。


「じゃあ、そこでの訓練は無意味ではないがもうちょっと改善すべき、って感じか?」「あくまで私達の一方的な見立てだけどね。向こうも改善しようとしている可能性はあるし、あくまで現段階の知りうる範囲での情報からの結論かな」


 拓郎の確認にクレアがそう返す。このやり取りを通じて、一番微妙な表情を浮かべているのは珠美である。自分の妹が必死になって頑張っている内容を知っているだけに、魔女2人からこう言われてしまうと何とも……な感じとなるのは仕方がないだろう。


「そう言う訳だから珠美ちゃん、貴方は妹さんと別段もめていない様だから良いけど……万が一妹さんと模擬戦なんて話を持ちかけられたら絶対断りなさい。恐らく今の珠美ちゃんだとレベルが一つ上の妹さん相手でもあっさり勝ってしまうわ。そうなったら面倒な事になるのは確実ね」


 クレアの忠告に対して、珠美は素直に頷いた。クレアの言葉は今日手にした情報からの推測ではあるがほぼ100%そうなるだろうと確信を持った上での発言だ。そして、珠美としても信用できる魔女先生であるクレアの言葉を疑う理由は一切ない。


「こう考えると、魔人、魔女から直接学べるか否かは天と地の差を生み出すな」「どうあがいても、魔人、魔女の皆さんと比べるとどんな指導者も魔法に関しては劣っちゃうからなぁ……」


 ここまでの話を聞いた雄一の言葉に拓郎の本音が漏れる。念を押しておくが、珠美の妹が通っている魔法訓練の期間の質が悪い訳ではない。むしろかなりいい。それでも魔人、魔女の直接指導と比べるとどうしても……と言う事である。

最近パルワールドが面白いって記事をちらほら見かけるんですが……

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