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55話

 それから数日後。教室の話題の中心は親の反応がメインとなっていた。親にせっつかれていた者、逆に休むべき時は休む方が良いと理解した親を持つ者共に。


「いや、ほんとに傑作だったぜ。顎が外れてるんじゃね? ってぐらいに口をあんぐりと開けてる両親を見て気分爽快だったわ。冬休み中俺を見るたび魔法の訓練をしろと、クレア先生から貰ったプリントの内容を無視して煩かったからなー」


 なんて声が昼飯を食べている拓郎、雄一、珠美の耳に届く。


「うちはしっかり休んどけって感じだったから、魔法訓練の成果報告の為にやってみたな。まあ、反応は似てたよ。え? どうして? なんでそんなすごい事をサラッとやってるの? みたいな感じだった」


 という声もまた聞こえてくる。まあ、共通点は親を驚かせたという点だろうか……


「いろいろとまあ、家庭にもよるけど親を納得させる事は出来ているみたいでよかったな」


 なんて事を雄一が口にした。なお雄一の家はレベル3になっている事もあり、むしろ最低限の勉強以外は積極的に休めという側であった。雄一の家はすでに学園の魔法訓練に関して全幅の信頼を置いており、指示された内容に素直に従う考えとなっている。


「俺の方は──言うまでもないよな」


 拓郎の言葉に、雄一も珠美も苦笑い。クレアとジェシカが近くに居るのだから、問題が起きるはずがない。そして自然と拓郎と雄一の視線がこの手の話を一切していない珠美に向いたのだが、ここで珠美が普段は見せないちょっと鬱な表情を浮かべた。


「私の方は──うん、私は正直どうでもいい扱いをされてるから問題は一切なかったよ」


 この珠美の声は小さかった。だが、近くに居た拓郎と雄一だけではなく何人ものクラスメイトの耳にはしっかりと届いてしまった。瞬間、先ほどまでにぎやかだったクラスの雰囲気が変わった。一言でいえば怒り。チリチリとした雰囲気が漂い始める。珠美も当然その雰囲気を感じ取っている。故に、普通の音量で彼女は続きを話す。


「別に虐待とか受けているって訳じゃないよ? ただ、私には妹がいてね。その子は中学2年生なんだけどすでにレベル4に到達しているのよ。親は妹の方にばっかり集中しているから、私に事は放置気味になるってだけ」


 と珠美は言う。だが、それでもクラスメイトの怒りは収まりを見せない。放置もまた、一種の虐待であるからだ。


「一応言っておくけど……衣食住、どれをとっても十分な元を親は私に提供してくれているよ? ただ魔法の才が高い妹の方に夢中なだけだし。そうだねー……うん、なら拓郎君と雄一君にうちに来てもらおうかな。で、実際に部屋とかを見てもらう。それを見れば虐待などは受けていないって分かってもらえるはずだしね」


 この珠美の発言に驚いたのは拓郎と雄一だ。クラスメイトの家に、特に女子の家に男子を二人も入れるのか!? という所だ。


「あのー、珠美さんや? そう言うのは同姓のクラスメイトを誘うもんじゃないですか? 異性を入れるっていうのは色々と噂が立つモノじゃないですか?」


 驚きのあまり、普段とは全く違う変な口調で珠美に反論をしたのは雄一だ。拓郎の方は珠美の発言にあっけにとられて固まっていた。


「あはははは、そんなことする二人じゃないでしょ。それに、拓郎君が来るとなれば……クレア先生、ジェシカ先生も一緒に来てくれる可能性があるからね」


 確かに女性生徒の家に行くと拓郎が口にすれば、クレアとジェシカは敏感に反応するだろう。同行を申し込んでくる可能性は十分にある。むしろ同行しない可能性はかなり低いだろう。


「ああ、なるほどな……それにクレア先生やジェシカ先生も行くなら変な事は許すわけないよな」「そんな答えがあっさり出る時点でかなり俺達毒されてるよな」「でも、私達は何の疑問も抱かず納得できちゃうのよね……良い事なのか悪い事なのか悩み処ね」


 珠美の発言を聞いて、クラスメイト達は思い思いの感想を口にする。それと同時にクラスに漂っていた怒りの感情はかなり和らいでいた。


「話を戻すけど、私はそれでもいいと思ってるの。親の視点から考えても自分の子供が中学1年でレベル3になって、2年でレベル4になった。それは将来に大きく期待しちゃうでしょ? もしかしたら6とか7とかまで上がってくれるんじゃないかって。だから勉強も食事も最優先にして、より魔法の訓練に時間を割けるように環境を整える。それは、決しておかしい事じゃない」


 珠美の言葉を、誰もが黙って聞く。確かに珠美の言う通り、そう言う思考になっていくのも無理はないからだ。自分達より年下なのにそれだけの魔法の伸びを見せれば、高レベルに到達する機体はものすごく高まる。


「一方で私はまあ、並だったからね。極端に悪い訳でもなく、良い訳でもない。だから親の期待が妹に向くのは自然な事だって事はもうずっと前から理解してる。まあ、まさかここに来てクレア先生、ジェシカ先生、そしてジャック先生とメリー先生のお陰でずっと上がらなかった魔法のレベルと技術が上がるなんて予想してなかったけど」


 珠美は笑いながらそんな事を言う。だがその声と表情にはどこか痛々しい所がある様に見える。クラスメイト達は無言でその認識を同じくしていた。


「でも、レベルは上がったけど3だし……妹に期待をかけている親にこれを告げて家の中に要らない混乱を招きたくないし。だから私の家族は私の魔法レベルは2のままという認識だよ、それで私は良いって思ってる」


 珠美の考えも分からなくはないが……それでもこう、胸にチクチクとする納得できない苛立ちに近いものを感じると言うのが正直な感想だなと拓郎は胸の内で思っていた。そして、それはクラスメイトも大差ないだろう、とも。


「──うーん、俺は一度珠美の家を見てきた方が良いって思えてきた。クレア先生、ジェシカ先生も当然連れて行った方がいいだろうな」「うん、ちょっと心配になってきた。拓郎君と雄一君、悪いけどお願いできる? あんまり大勢で押し掛けるような事じゃないし……」


 心配になってしまったが故に、こんな言葉がクラスメイトから上がってくるのも無理はない。なので拓郎と雄一は頷いた。


「分かったぜ、クラスメイトを代表して珠美の家の様子を伺ってくる。もちろん見た事はプライベートな事を覗いて報告する。珠美もそれでいいか?」「構わないよ、むしろクラスメイトが納得してくれるならそれでいいし……ただ雄一君、妹に喧嘩を吹っ掛けないでね?」「んなことするか!」


 なんてやり取りをする雄一と珠美。だが、拓郎の耳には雄一のつぶやきが届いていた。それは(向こうから吹っ掛けてきた場合は別だがな)という物であった。拓郎は事が大きくならないように気を付けなければと気を引き締まる。


「で、いつ頃ならいいんだ?」「明後日の土曜日はどう? クレア先生たちの都合がつかないなら別の日にすればいいし」


 じゃあ聞いてみると拓郎はスマホを起動してクレアとジェシカに確認を取る。二人ともその日は問題ないと言う事で珠美の家に行く日にちが決定。クラスメイトにしっかり見てきてくれと何度も頼まれつつ……当日を迎えた。

今日も無事更新できた。スランプ抜けてきたかなー?

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― 新着の感想 ―
[一言] これは、逆に妹さんが教育虐待されてそう
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