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52話

 それから正月~三が日は実に穏やかな時間が流れて行った。のんびりテレビを見る、ゲームを楽しむ、散歩をすると言った感じで血なまぐさい事は一切起こらず。そして1月4日。


「お正月も終わったし、そろそろ普段の生活に戻らないとね。たっくんは学校から出た課題の進み具合はどう?」「問題なし。8日からの3学期が始まる2日前には終わる。まあ量も大してないし、軽い復習をするぐらいの量だからなぁ」


 冬休みに多少の課題が出ていたのだが、クレアからの問いかけに応えた拓郎の言う通り大した量ではない。最悪最終日に頑張ればそれだけで済む量でしかないので、冬休み前半に海外にて回復魔法使いとしての経験を積むために動いた拓郎であっても問題なく終わらせられる。


「そっか、ならいいのよ。流石にやらずに提出できませんなんて事になったら格好付かないから」「クレアに恥をかかせるような真似はしないぞ、それに課題をやらないのは自分の為にもならないしな」


 クレアの安堵した声に、拓郎はそう返答した。クレアも教員として動いているので指導する立場にある。その立場に居ながら問題点が多いような気がするが、そこはまあ魔女だからで目をつぶるほかない。とはいえ、もう身内としてしか考えられないクレアとジェシカに3学期開始早々から恥をかかせたくはないというのが、拓郎の正直な感情だ。


「うれしいこと言ってくれるじゃない。何かごほーびをあげたい気持ちになってきたわ」「その気持ちだけでいい……正直、俺はもう山ほど貰ってるからな。回復魔法使いとしてここまで成長できたのは、間違いなくクレアのお陰だからな。夢がこうして実現できるなんて、去年のクレアと出会う前までは夢物語に近い夢だった。それが今は実現可能な所まで来ている。それだけで、十分すぎるご褒美なんだよ」


 拓郎はここで、クレアに対する感謝を素直に口にした。この言葉通り、クレアとあの日出会わなかった場合にここまで自分が成長できたかと問われれば首を振るしかない。無論出会う前からも訓練には積極的に励んではいた。だがそれでも、ここまで成長できたかと自分で分析すれば……99.9%の確率で成長できなかったと拓郎は考える。


 あの日の出会い一つでここまで人生が変わるとは思わなかったが──今はあの出会いに素直に感謝しているのが拓郎の正直な思いだ。もしあそこで出会っていなかったら……自分は10月のバスの事故から立ち直れなかったかもしれない。あの日の誓いを再び果たせず、己の無力さにどれだけ嘆板だろうか……


「そう? ならそう言う事にしておきましょうか。でもあと一年時間があるから……訓練はやっていくわよ?」「もちろん、それはお願いしたい。レベル10は流石に無理でも……行ける所までは行きたい。レベルが上がり、技術が上がればそれだけ回復魔法使いとして多くの命を救いあげられる。自分は、そうありたい」


 クレアは拓郎の返答に笑みを浮かべた。その笑みはとても魅力的で、拓郎を赤面させた。そんな拓郎の行動に、クレアは追撃をかけようとするが──そこに待ったが入る。


「姉さん、あんまり拓郎さんを困らせないで上げてください。やり過ぎると離れて行っちゃいますよ? はい、みかんを持ってきたので食べましょうか」


 止めたのはジェシカであった。小ぶりな器にいくつかのみかんを入れて持ってきたのだ。置かれたみかんに、拓郎はさっそく手を伸ばす。内心の鼓動の速さを押さえるかのように。


「それで拓郎さん、今のうちに聞いておきたいのですが。もし、もし行けるのであればレベル10を目指す気持ちはありますか?」


 ジェシカの問いかけに、みかんの皮をむきながら……少し考えた後に拓郎は頷いた。でも、正直いくらクレアとジェシカの指導があると言ってもレベル10は無理だろうと言うのが正直な感想である。レベル9と10の間は、それ以下のレベルとの差とは50倍ほど開きがあるとされている。故に魔人、魔女の場所に限りなく近いとされるレベル10の領域は、はるかに遠い世界なのである。


 それは十分に分かっている、拓郎に限らずこの時代に生きる人なら皆。でも……拓郎は口にした。


「行けるなら、たどり着きたい。可能性がゼロでないのなら、その境地に。でも、ただたどり着くだけではダメだ。中身がスカスカのレベル10ならば、中身がぎっしり詰まったレベル9の方が良い」


 拓郎の返答に、クレアとジェシカは内心でニマァとちょっとひとさまにはお見せできない笑みを浮かべた。その内心で浮かべた笑みの口元には少々よだれもついていらっしゃったりする。それでいて表面上は全く見せていないのだから、非常にタチが悪い。そしてこの瞬間、クレア&ジェシカがひそかに作り上げていた拓郎レベル10到達作戦は本格始動したのである。


 当然拓郎はそんな作戦が動き出したことなど全く知らない。知らない方が良い……特に目の前の大人二人の心の内が、とてもお見せできない状況になっている事は知らない方が良い。世の中大半そんな物? ごもっともではあるが……何でもかんでも知ればいいという物でもないのだ。そう言う事にしておいて欲しい。


「なら、今後の予定は大雑把に伝えておこうかな? たっくん、まずは1月7日までは一切魔法を使わず休息に当ててね。それから3学期はみっちりと基礎を練りに練り上げてレベル7に到達を目指すわ。そして3年生になったら夏休み前にレベル8、2学期前にレベル9、残りの時間で10を目指してもらうわ」


 クレアの発言に、拓郎は息をのんだ。かなりのぺースでレベルを上げていく事になる。それはすなわち、それだけ濃密かつ厳しい訓練をすることを示唆している。故に、高校生最後の一年は今まで以上の濃密な物になるだろうとも。しかし、拓郎にとっても望む所ではある。


「わかった、細かい指導はその都度してくれるんだろうから、今はそういうペース配分でレベル10を目指すんだな、位の認識でいる」


 魔法関連の指導内容に関して、拓郎はクレアとジェシカを全面的に信じている。なのでその細かい所を今聞くと言う事はしない。恐らく今聞いても覚えきれないだろうと言う考えもあるのだが。


「もちろん、これは本当に全てが上手く言った上での話だから。それにレベル10を目指すと言う事で絶対10になれという事でもないからね? こんな話をあげておいてなんだけど、レベル10になると言うのは本人の努力、指導者の腕、相当な運がかみ合った上で、100に1つぐらいの物だから。もちろん、その1を出せるように指導はするんだけど」


 クレアの言葉に、拓郎も表情を引き締めて頷く。こんな会話が行われつつ、冬休みは過ぎていった。そして3学期が始まる……

話がちょっと短いです、ごめんなさい。

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