表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/124

48話

 翌日29日の正午ごろ、拓郎のスマホにメッセージが飛んできた。送ってきたのは雄一で、午後少しだけ遊べないか? と言う問いかけだった。拓郎は親に確認を取ってから話を受け、昼食後に家を出た。指定された先は夏休みにレベルゼロ問題が起きた際に使った喫茶店である。


(雄一はどこだ?)


 喫茶店についた拓郎が周囲を見渡すと、拓郎に気が付いた雄一が手をあげて軽くこっちに来いのジェスチャーをする。店員さんに断りを入れてから雄一と同じテーブルにつく。紅茶を頼んでから、拓郎は一息ついた。


「で、雄一。遊ぶと言っても何をやるんだ?」「たまにはアミューズメントパークにでも行こうぜ? 俺達は、今年訓練訓練の毎日で全然行ってなかっただろ? だから年末ぐらいは行っても良いだろって感じで誘ったんだ。まあ、その訓練はきつかったが見返りも多かったけどよ」


 雄一の言葉を聞いて、拓郎はそれもいいかもなと考える。クレアからもしばらくは訓練を完全に休んで体を休めておきなさいと言われているし、久しく行ってないので久々に行ってみたいと言う感情も沸いてくる。やってきた紅茶をそっと口に付けつつ、拓郎は雄一の話に乗る事にする。


「そうだな、訓練も休めって言われているし良いぞ。たまにはそういう所で遊ぶのも良いよな」「んじゃ決まりだな。こっちも年内はもう休んでおけって親に言われててな……そう言われるだけの結果を出したからこそなんだろうけどな」


 雄一の親も、しばらくは子供に訓練をさせない事を選択していた。事実雄一もレベル3に到達しており、後は真っ当な生き方さえしていれば食うに困る事はまずない未来を手に入れている。その力を手にするために必死に訓練を重ねてきたのももちろん知っているし、やるべきことはやっているのだから、休むべき時、遊ぶべき時はしっかりと楽にさせるべきだと彼の両親は判断したのだ。


 街で一番デカいアミューズメントパークにやってきた2人は、様々なゲームに手を出した。久々に遊ぶと言う事もあってイージーなミスも多数あったが、十分に楽しむことが出来た。ボウリング場も併設している施設だったので、そちらも2ゲームほど遊んだ。そうしていれば時間はあっという間に過ぎる。


「もう4時か……早いな」「そうだな、久々にこうやって目いっぱい遊んだせいか時間があっという間に過ぎたなぁ。あと少しだけ遊んだら今日は帰っておくか」


 あまり遅くまで遊んでしまうと、面倒な小言が飛んできかねない。だから後30分ほどで今日は引き上げようと2人は決め、適当な対戦ゲームにクレジットを投入、さあ遊ぼうとした時だった。よろしくない声が聞こえてきたのは。


「さあ皆さん、今日は○○街にあるアミューズメントパークにやってきました。どんな間抜けな面をした連中が遊んでいるのか、これから見ていこうと思いまーす!」


 その声に雄一は頭を抱えた。なぜなら、その声の主に心当たりがあったからだ。俗にいう迷惑系配信者と呼ばれる人種で、人の迷惑顧みず自分の配信の為ならば犯罪すれすれグレーゾーンも平気で行う連中である。雄一が知っていたのは動画サイトで誤クリックによる動画視聴でその声を聴いたからであった。なお拓郎は全く知らない。


 対戦を始めようと向かい合っている筐体の片側からやってきた雄一は、拓郎に素早く耳打ちした。早く帰ろうぜと。その理由も当然伝える。拓郎も配信者の事は知らなくても迷惑系配信者と言う連中の存在自体は知っている為同意して対戦台から立ち上がり、配信者が入ってきた出入り口とは別の出入り口に向かう。だが──その配信者は拓郎と雄一に目をつけてしまった。


「おっと、丁度いい間抜けな顔した男性二人組がいますよ? 早速話を聞いてみましょうか。やあ、君達は学生? この年末に二人でいるって事はそう言う関係?」


 ──配慮も何もなく、撮影機材を拓郎と雄一に向け、へらへらしながら話を振ってくる男性配信者。その髪の毛はロン毛に雑な金髪に染めた髪の毛と言うあまりにもお近づきになりたくない人物像で、拓郎も唯一も顔を背けていた。


「ごめんね、デートの邪魔をしちゃってさあ? でもちょっとだけでいいから話に付き合ってくんないかなあ?」


 勝手に話を盛り、勝手な言い分を続ける配信者。機材を持っている配信者の協力者もニタニタと嫌らしい笑みを浮かべており、どう見てもまともな人種ではないと自分達から言っている様な物である。周囲の人たちは遠巻きにしながらも同情するかのような表情を浮かべていた。だが、一切相手にせず出て行こうとする拓郎と雄一の姿を見てむっとしたのか、配信者はついに拓郎の肩を掴んで振り向かせようとした。


「ねえ、ちょっとだけでいいからさ……何こいつ、びくともしねえ!?」


 だが、全く振り向かせることが出来ない配信者がへらへら顔を引っ込めて真顔になる。その直後、拓郎がその配信者の手を振り払った。そのまま店の外に出るがコケにされたと判断した配信者集団は拓郎達を走って追いかけ、遂には取り囲んだ。


「はい、追いついたよー? じゃあ自己紹介と行こうか、熱々カップルさん?」


 絶対にお前たちは逃がさない、と言う圧を込めて拓郎と雄一に迫る配信者。だが、拓郎はもちろん雄一も平然としていた。理由はシンプルで、クレアやジェシカの訓練に比べればこの程度の圧など、鼻息一つで飛ぶ程度の物しかなかったからだ。だが、こうも纏わりつかれては流石に拓郎も雄一も苛立ちを覚えている。そして雄一がつい口を滑らせた。


「その前に、そちらの自己紹介が間違っているんじゃないかって言わせてもらえないか? 配信者じゃなくて大勢で少数を取り囲んで人を笑いものにしようとする犯罪者だって自己紹介するのが正しいんじゃねえの?」


 この雄一の発言に、この迷惑系配信者を厄介人物と見ている人達からは『よく言った!』『その通りだ!』『取り囲んでこうやって圧を掛けている時点で恐喝じゃん、早く警察は取り締まれよ!』と言った感じの言葉が飛び出していた。更に騒ぎを聞きつけて、アミューズメントパークに努めている警備員の方々もやってきていた。


「何事ですか!?」「あ、ちょっと配信しているだけです。問題はないです」「大勢に詰め寄られて恐喝されているんで、警察を呼んでください」


 警備員の声に、配信者と雄一の声がほぼ同時に発せられる。なお黙っている拓郎だが、いくつかの妨害に特化した非殺傷魔法をいつでも発動させられるように構えている。さて、雄一の恐喝、それから警察を呼んでくれの言葉に対し、配信者とその協力者たちはいっせいに睨みつけて『お前空気読めよ』と言う圧を掛けるが、雄一には通じない。


「配信者何て言っていますが、こうして大勢で取り囲んで帰ろうとしている此方を邪魔している時点で問題ですよね? 騒乱罪に当たると思うので、警察の方を呼んでください」


 もう一度雄一がそう口にした事で、警備員の一人が警察に通報。配信者たちは逃げようとしたのだが──静かに拓郎が発動した妨害魔法によって脚が動かないようにされていた。警察官がやってきたタイミングで魔法を解いたが、流石に逃げ出せるタイミングは逸していた。そもそも配信をしている以上、インターネット上に証拠がばっちりと残るのだが。


「──と言う訳です」


 やってきた警察に、拓郎と雄一が状況を説明する。配信者側は話を聞きたかっただけであり、決して取り囲んでもいないし恐喝に当たる行為もしていないと反論した。だが現時点で拓郎と雄一を取り囲んだ状態であり説得力は欠片も存在しない。


「さらにこちらを勝手にカップル扱いしたり、デートの最中というレッテルをはったり……とても話を聞きたかっただけとは言えません」「ちょ、お前らいい加減な事ばかり言ってんじゃねえぞ? 殺すぞ!」


 拓郎の言葉に、素が出る配信者。が、警察官がいる前で「殺すぞ!」は流石にないだろうと内心でため息をつく拓郎と雄一、そして警備員の皆さん。当然配信者はもっと詳しい話を伺いたいので同行していただきますと、警察官に連れられて行った。


「どっと疲れたな……」「全くだ……気楽に遊んで帰るだけだったんだがなぁ。最後に全てを台無しにされちまったぜ……」


 深いため息を今度は内心ではなく実際につく拓郎と雄一。そして二人は別れて帰宅したのだが──話はここで終わらなかったのである。警察から解放された配信者たちが拓郎と雄一に対して逆恨みをしたのである。そのため彼らは拓郎と雄一の自宅を特定して突撃してやろうという計画をぶち上げた。


 ──だが、その計画が実行に移されることはなかった。より厳密にいえば実行はされたがその直後に阻止されたと言うべきだろう。拓郎の周囲を変につつけば、クレアとジェシカが何をやらかすか分からない……


 そうならない為に、問題を根っこから排除すべく動いた者達が多数いた。その者達を前に、一配信者にすぎない集団は抵抗のてすら出来はしなかった。


 こうしてその配信者の配信はこの日を境にぷっつりと行われなくなる。それに対してあれこれ意見が飛び交ったが──結局それも長続きせず、話題に上がらなくなっていった。こうして、拓郎を害そうとした配信者は世界から忘れ去られた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ