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47話

 拓郎達3人が日本に帰ってきたのは12月28日の午後3時ごろであった。拓郎の親も仕事納めを迎えた後だったため、家で拓郎を出迎えた。拓郎達が一回部屋に戻って荷物を下ろし、リビングにて一息ついてから拓郎の父親が口を開く。


「どうだった、海外修学旅行は?」


 拓郎の両親には、そう言う説明がされていた。何せ自分の子供が危険性の高い所に行くなんて事になれば反対されるのは目に見えているからだ。更にクレアとジェシカの実力も知らない(クレアの催眠による影響である)こともあり、正直に話せば許可が下りない事は目に見えて明らかな事である。


「うーん……うん、正直に言えばまだまだ勉強と訓練を頑張らなければいけないって痛感させられたと言うのが正直な所かな。今の俺の知識と腕じゃ、この先はたぶんない。もっと魔法の腕を磨いて、そしてそれを支える下地となる勉強をもっと頑張らなきゃいけない。それが正直感想だった」


 拓郎は正直に、自分が今回の回復魔法使いとして活動したことによる感想を両親に対して言葉にした。これは嘘偽りない拓郎の本音であり、今回は何とか無事に治療が出来たが──もっと難解な病気やけが人がいた場合はある程度の治療までしか出来なかったことをその身で感じていた。


「そうか、それを感じ取れたのであれば修学旅行を認めた甲斐があったというもんだ。良いか拓郎? 確かにお前は回復魔法を中心にクレアさんやジェシカさんの訓練を経て強くなったし、勉学にも励んだ。だが、どんなことにも終わりって奴はない。ひとつ学べばふたつ、ふたつ学べばそれ以上に分からないこと、知らなければいけない事って奴は次から次へと出てくる」


 拓郎の父親の言葉に、拓郎は静かに頷きながら話を聞く。


「全てを学びきるなんて事は確かにできない。だが、それでも学ぶことを止めてはいけない。止めた瞬間、お前の成長はそこで止まってしまうからだ。知らないと言う事は恥ずかしい事じゃない。分からない、と言う事も情けない事じゃない。だが、それをそのままにしておくと……不思議とここ一番でその知らない、分からないと放置していた事が必要となったりするんだ」


 苦虫をかみつぶすような表情を浮かべながら、拓郎の父親は話を続ける。それにより、拓郎は自分の父親が話している内容は父親が自分で経験したことを話していると察した。


「そうなったその瞬間、最高にみじめになるぞ……何せそれを放っておいた責任はどこにある? と問いかければすべて自分自身が学ぶべき時間に学ばなかったからだという事実だけを容赦なく自分が自分につきつけてくるからだ。逃げ場もなく、ただただ現実に打ちのめされるからな……だが、拓郎にはその心配はなさそうだな。自分自身でこれから先も積極的に学ばなければならないと言う事に気が付けたんだからな」


 一転して明るい表情になる拓郎の父親。自分の息子は自分と同じような失敗をする心配はまずないと安堵したその表情に、拓郎は父親が自分自身を心配し、そして期待しているのだと感じることが出来た。だからこそ──


「ああ、もっと学ぶよ。クレアやジェシカさんだけじゃなく、いろんな人といろんな本、そしてそれ以外の事からも」


 拓郎の言葉に、父親は満足そうにうなずいた。そこからは疲れているだろうし、難しい話はおしまいにして夕飯までのんびりしていなさいと拓郎の父親は拓郎に告げてリビングから出て行った。自分がいてはあまり休めないだろうと気を使った事は明白である。それに拓郎は甘え、夕飯を迎えるまでの時間はのんびりとした時間を過ごした。


 そして夕食、全員が一つのテーブルを囲んでゆっくりと食事を取る。拓郎にとっても数日ぶりの慣れ親しんだ味に、ほっとした気分になる。やはり、いつもの味という物は人を落ち着かせるものなのだと拓郎は改めて痛感していた。


「──それにしても、拓郎は顔つきが変わったわね。なんというか、そう、そうね。精悍になったって感じかしら。これは冬休みが終わったらクラスメイトから何があった? って聞かれることになりそうね」


 その夕食の最中、拓郎の母親がそんな事を口にした。その言葉に、拓郎は首を傾げる。


「そうかな? 自分じゃそんな気は全くしないんだけど」


 拓郎は自分の顔がそう変わった様な認識は一切ないので、母親からの言葉にそう返す。だが、母親は微笑みながらそんな事は無いと穏やかに反論した。


「どうやら、クレアちゃんとジェシカさんの2人と一緒に行った修学旅行は、貴方を精神的に成長させたみたいね。貴方が進みたい道は相談も受けてきたから知っているけれど……この様子ならば、その進路を外れて別の道に進む事はなさそうね」


 母親の見立てに、この場にいる拓郎以外の全員が頷いた。


「貴方が進む道は一般の人は決して通らない道。苦しい事も悲しい事も、間違いなく他の人達と比べればあまりにも多いでしょう。でも、それから逃げずに進み続ける貴方を私は貴方の親として、そして一人の人間として応援します。でもね、辛くて悲しい事があった時は決して一人で抱え込んではだめ。クレアちゃんでもジェシカさんでももちろんお父さんでもいい。人を頼りなさい」


 拓郎の母親の言葉に、皆が食事の手を止めている。


「人を頼り、そして頼られる。その繰り返しが絆を深めるの。だから、苦しみを吐露せずに歩き続ける事こそが誇り高い道なんて事だけは考えないで頂戴。その道を歩けば、貴方が必ずどこかで壊れてしまうわ。壊れるのは体か、心か、魂か、もしくはそれら全てかは分からないけれど。人は一人で全ての苦痛や嘆きを封じ込め続けられるほど強くないわ。でも、人の苦しみや悲しみを聞いてその嘆きを共有できる強さも持っているわ。それだけは忘れないで頂戴ね」


 普段はこんなことを一切話さない母親の姿に拓郎は驚いていたが、その内容はきちんと胸に刻む。今までも、そしてこれからも自分が強くなるためには周囲の協力は必要不可欠だと言う事は拓郎も分かっている。自分一人で強くなれるなんてのは物語の中だけだ。そんな物語の主人公となるような英雄の如き力は己にはない。


 それをちゃんと理解し、頼るべきところは頼り学ぶべきところはきちんと学ぶ。そうでなければ父親が話してくれたようなみじめな自分に苦しみ、そして自分自身に責められることになりかねない。ましてや、自分が目指す道は回復魔法使いとしての生き方……己の未熟は救いを求める人を救えない事に直結する。


(やらなければいけない事、そして進べき道の先でなりたい自分となる事に必要な事を学べた気がする。今回の訓練と、話を忘れないようにしよう。普段こんな話をしない親がここまで踏み込んできたんだ、それを忘れるような真似は出来ない)


 そう話を自分の中で纏めた拓郎はゆっくりと一度だけ頷いた。その姿を見た母親は「難しい話をしてしまってごめんなさいね、食事を続けましょ」と普段の空気に戻った。その後はたわいない雑談を交えながら夕食は終わった。


 食事を終えて風呂に入り、それから1時間もすると、拓郎は眠気に襲われ始めた。だが、食事を取ってから3時間は起きていた方が良いと聞いている為何とか眠気をこらえつつも3時間が経過するまで堪えた。3時間過ぎたとたんにすぐさま寝間着に着替えて拓郎は眠った。


いくらクレアとジェシカがいても、どんなに豪華であっても自分のベッドに勝る安心感はない。こうして、拓郎の訓練の旅は無事に終わった。

かなり真面目に降った話になってしまった気がする。

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