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43話

 12月も時が過ぎてゆき、冬休みが直前に迫ってきたある日の夜……拓郎はクレアとジェシカからある話を持ち掛けられていた。


「回復魔法使いとしての出張?」「そう、今のたっくんならよっぽどの難病でない限りは対処できる腕になった。でも、たっくんの回復魔法使いとしての経験はまだまだ浅いわ。だから、冬休みの前半を使って世界を回り、回復が足りていない所へのお手伝いをしようって話なのよ」


 クレア曰く、訓練と実益を兼ねて年末を迎える直前までの間の短い時間ではあるが各国を回り、回復魔法使いとしての活動を行ってみない? と言う事であった。話を受けるなら移動はクレアとジェシカが担当するので問題ない。それ以外の費用は向かう先が持つ&拓郎には正当な給料が支払われると言った事などが告げられる。


「確かに回復魔法をしっかりと使ったのはあのバス事件の時ぐらいだから経験が足りてないというのは分かる。しかし、自分みたいな若い奴がそう言う場所に出向いても嫌な顔をされるだけじゃないか?」


 若いと言う事は経験が足りないと言う事を意味する事が多く、そんな若い奴に自分の体や命を預ける事に対して恐怖心や忌諱感を持つ人間はいてもおかしくない、と言うのが拓郎の意見である。確かに、これは間違った意見ではない。自分の命を預けるなら、経験豊富なベテランの医者に任せた方が安心できるという感情は、誰しも理解できるだろう。


「うーん、その意見も分かるのですが……正直に申し上げると、回復魔法使いの人数そのものが絶対的に世界には足りていないと言う事をまず再認識してください。ですので、たとえ若くてもレベル6の回復魔法使いが来てくれるとなればもろ手を挙げて歓迎してくれるところは数多いのですよ。そしてもし拓郎さんに対して心無い事を言う連中がいるのであれば、姉さんと私で黙らせます」


 と、ジェシカの言葉。ジェシカの言う通り、今の時代になっても医者や回復魔法使いの絶対数は十分とは言えなかった。日本などの一部の国を除き、どこの国でも手が足りず難儀しているというのが実情。なのでここでレベル6の治癒魔法が使いこなせる拓郎が各国を回って治療を施してくれるのであれば、十分な給金を出すからぜひ来てほしいという国は数多い。


「確かに、ニュースでもちょくちょく医者不足、治癒魔法使いの数が一向に増えずに対策を──と言うのは見る。それが世界の実情か……じゃあ、短い間だけでも自分が活動すれば貢献は出来るのかも、な」


 拓郎の言葉に、クレアとジェシカは頷いた。そしてクレアが口を開く。


「むしろ、大きく貢献できるわ。たっくんは自覚が薄いようだけど……レベル6以上の回復魔法使いって本当に少ないのよ。これは魔人、魔女も含めての話よ? 回復魔法使いはそれだけ希少であると言う事を、たっくんはしっかりと認識しなきゃダメ。たった1人で同時に複数の怪我人、病人を治癒できる存在って、本当に一人いるだけで多くの命の明暗を分ける存在なのよ」


 と、クレアが改めて今の拓郎の価値を伝える。クレアとジェシカ、そして秘かに護衛を続けている魔人や魔女がいなかったらと仮定しよう。そうなると拓郎は学生生活を送り切れるかが微妙な所になる。当然誘拐などをされるという意味だ……そう言う犯罪行為を行っても回復魔法使いを欲しがるところは多い。それには当然、犯罪組織も含まれる。


 実際、拓郎の情報をおぼろげながらも掴み、確認して本物であれば実行に移そうとした犯罪組織はすでに7つを数える。が、彼らは全て秘かに拓郎を護衛をしている魔人、魔女の皆さんの手によって末端から頭に至るまでの全ての人員がすでにこの世にいない。そう言った殲滅行為は、魔人、魔女の魔法ならお手の物である。


 だが、それだけの力を持つ魔人、魔女であっても回復魔法の使い手としての能力は残念ながら低い者が圧倒的多数だ。なので、現時点の拓郎は回復魔法に関すること一点だけなら大多数の魔人、魔女より上となる。レベル6の回復魔法使いとは、それだけの価値があるのである。故に国家間でも奪い合いになる事は決して珍しい事ではない。


「自覚が薄かったのは確かにそうかもしれない……その自覚をしっかり持つためにも、そして人助けの為にも鍛えてきた力を使うのは構わない。でも、それ以外の事は本当に全て任せてしまっていいのか? 出入国の手続きだけもかなり手間じゃなかったっけ?」


 拓郎の言葉に、クレアとジェシカは再び頷いた。それぐらいの事は、二人にとっては些事にすらならない。拓郎に良い経験を積ませることが出来るのであれば、積極的に動くのはむしろ喜びですらあった。


「大丈夫、大したことないから。じゃあ、冬休みの前半は各地を巡って今まで磨いてきた魔法の力を存分に振るって大勢の人を治癒して回るたびに出る事で決定するわ。たっくんはそれまでにもう一度レベル6の回復魔法をおさらいしておいてね?」「了解、もう一度念入りに勉強しておくさ」


 そんな話をして、この日は終わった、そして翌日、拓郎は雄一に年末も海外で訓練に行くと伝える。


「マジか、年末も訓練かよ……でもお前の理想を考えればむしろ当然か。俺は応援する事しか出来ねえが、がんばって来いよ」「ああ、極端な成長はしないと思うがそれでもやった方が良い訓練なんでな……詳しい事は言えないが」


 拓郎の言葉を聞いた雄一は、素直に拓郎を応援する。ある意味、拓郎の目的を四六時中近くに居るクレア達を覗いて一番理解しているのはこの雄一かも知れない。


「俺の方はどうなるか分からないなぁ。クレア先生が夏の時と同じく休めと言うならそうするだけだが、訓練をしてもいいというのであれば頑張ってみるつもりではいる。レベル3にはなれたがよ、もうちょっと上を目指したいって欲は消えないからな。ましてや目の前に実践している奴がいるとなればなおさらな」


 雄一の言葉に、拓郎は少しだけ笑った。拓郎としても自分が原因で周囲のレベル上げの熱をあげている事は分かっているし自覚もしている。でも結局はみんなが自分自身で考えて行動しているからこそもたらされた結果であって、自分は焚きつけ役に過ぎないとも思っているのだが。


「どう過ごすにしろ……クレアやジェシカさんの目の届かない場所での無茶な訓練はやらないでくれよ? 雄一のレベルダウンなんて話を年明けに聞きたくないからな」「おうよ、流石にそこは気を付けるぜ。俺も折角上がったレベル3を台無しにしたくはないからな。親も、そこは分かっているさ」


 夏の一件があったため、そんな言葉を雄一に警告として口にした拓郎。その言葉を雄一は素直に受け取って、そんな事になるような事だけはしないと拓郎に伝える。そのタイミングで教師が授業の為に入ってきたため、話はここで終わる事となった。そして数日後、冬休み前の最後のホームルームとなる。


「と言う訳で明日から冬休みだ。まあ夏休みと一緒で馬鹿な真似はするなよ? 馬鹿な真似をすれば、それはどれだけ大勢の人を巻き込んでしまうかを考えてくれ。俺としても自分が受け持った生徒が来年とんでもない姿で現れるなんてのは勘弁願いたいからな」


 担任からの言葉に、生徒全員が素直に頷いた。


「それから、クレア先生からの伝言だ。冬休みに限っては訓練を禁止しないそうだ。ただ無理だけは厳禁、きついと思ったら必ず訓練を止める事。むしろこの冬は高負荷の訓練をするよりも、軽い負荷の訓練を長時間した方がお前たちの科学魔法の成長に良いそうだ。具体例としては小さない光の弾を1時間維持するとかだな。だから訓練所などに行くのはあまりお勧めできないとある」


 クレアの教師としての信頼度は非常に高い為、そのクレアの伝言に対して不満や疑問の声は上がらなかった。あの人がそう言うのなら、それが正しいのだろうという感じであっさりと受け入れられた。


「では、楽しい冬休みを送ってくれ。拓郎だけは大変そうだがな……」


 そんな教師のセリフに、視線が集まる。なので拓郎は口を開く。


「俺はこの冬、クレアとジェシカさんの案内の元で海外に訓練に向かう予定となっている。それを先生も聞いたんでしょうね。なので年末年始は連絡を入れられても応えられない」


 拓郎の発言に、頑張って来いよとか体には気をつけてななどの応援が複数飛ぶ。拓郎はそんな声にお辞儀をして応えた。まあ、声の中にはあんな美人2人と冬休み中もずっと一緒なのは羨ましい、妬ましいみたいな声も少々あったのだがそれらの声を拓郎はスルーした。


「では解散! 来年元気な姿を見せてくれよ!」


 こうして冬休みに入った訳だが、当然のようにクレアとジェシカが外で拓郎を待ち構えていた。そのまま二人に連れられて──拓郎は海外へと飛ぶ。回復魔法使いとしての腕を磨く日々が始まった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >実際、拓郎の情報をおぼろげながらも掴み、確認して本物であれば実行に移そうとした犯罪組織はすでに7つを数える。が、彼らは全て秘かに拓郎を護衛をしている魔人、魔女の皆さんの手によって末端から頭…
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