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42話

 12月を迎え、薄っすらとではあるが雪が降る日も出て来るようになった。それでも訓練はいつも通りに行われる……寒さは、各個人が科学魔法で火を出すなり風を用いて冷気を避けるなどの手段で対応している。


 これもまた、科学魔法の訓練の一環なのである。もちろん極端な冷え込みには教師側も対応するが、そうでない日は出来るだけ自分で対処できるようになってもらう事が重要とされている。


 そして12月の初週の半ば、拓郎は訓練時間の後半に久々にクレアを相手にした訓練を行っていた。今までの時間でどれだけ科学魔法の質と量、どちらもしっかりと拓郎が磨けたのかの確認も兼ねている。そして訓練の最中、クレアは心の中で拓郎に称賛を送っていた。


(うんうん、真面目にかつ真剣に今まで私やジェシカが出したお題に取り組んできたことが分かるわ。夏と今ではもう別人ね……魔法の練りこみ、発動速度、安定性、そして強度がどれもこれも格段に成長している。あの一件で既にレベル7に近いレベル6だったけれど年内にレベル7になれる可能性がとても高くなってきているわね……レベル6の時のような事が無ければ、だけれど)


 クレアの唯一の懸念は、拓郎がレベル6になった時の過程にあった。本人が明確な無理をしなければならない状況に追い込まれ、そしてかなり無茶な賭けをしなければレベルが上がらないなんて事にならなければいいがと言う話である。


 そもそもプロモーションなんてものは、一生に1回成功すれば御の字のような物なのだ。それを2度3度とやらなければならないとなったら、あまりにも成長難易度が高すぎる。


(確かに切っ掛けが必要ではあると言ったけれど、あそこまで極端な切っ掛けが必要だと言う訳じゃないはずなのに……たっくんの道のりは、他の人よりも厳しいのかもね。でも、その分他の人より強くなれる。魔法だけじゃなく心も)


 あの日の理不尽を乗り越えた拓郎は、一皮も二皮も向けたとクレアは感じていた。回復術師としてのあるべき精神という物が身についた事と、様々な覚悟が決まった一人の漢の顔になった。内心であの時は隠していたが、拓郎の『漢』となった顔と雰囲気に心を射抜かれたとクレアは感じたものだ。つまり、簡単に言えば惚れ直したという話である。


(そして今日まで、あの時のたっくんが揺らぐことなく自己鍛錬を重ね、今こうして私との厳しい訓練にここまでついてくるようになった。うーん、たまんない……たっくんが大人だったら問答無用で押し倒してあれやらこれやら出来るのに!)


 などと、訓練をしながらも頭の中が色々18禁な世界に染まっているなどと拓郎は知る由もないし、知らない方が幸せである。クレアはクレアで、そんな思考をしながらも訓練そのものは拓郎が対処できるぎりぎりを見極めての厳しい攻めを継続している。そんな二人を当然他の生徒と教師は感心しながら様々な事を学ぶ。


「なるほど、あのような対処法が」「先生、あれってどう考えても避けられないコースだったよね? なのになんで拓郎は回避できたんだ?」「あれは、本当に目を凝らさないと見えない薄い魔法の障壁によるものだな。それで魔法の向きを変えて回避できる形にもっていったんだ。訓練ではなかなか見られるような物じゃないんだが、あの2人の訓練では当たり前にみられるな。貴重な経験だから、しっかり見ておくんだぞ」


 クレアとジェシカ、そしてジャックとメリーの指導によって教師陣の魔法に対する知識も蓄えられた結果、生徒達から飛ぶ質問にもかなり対応できるようになっていた。実戦は魔人や魔女である彼ら、彼女らに任せてどういった事をしたのかの説明、そして原理などの返答が出来るようになっていた。そう、教師陣側も明確にレベルアップしていた。


 教師陣のレベルアップは知識だけではない──魔法の腕も上がっていた。放課後などに秘かに訓練を行い、それをジャックやメリーに見て貰っていたのだ。確かに教師陣はすでに一定の年齢の為訓練をしても科学魔法のレベルは上がらない。が、科学魔法で重要なのはレベルだけではない事はすでに教師陣もクレアやジェシカが拓郎に行う訓練を通じてよく理解していた。


 なので、その鍛えれば意味がある部分を教師陣達は積極的に鍛錬を積んだのだ。鍛錬を積む事で、生徒にどうすればいいかと聞かれた時に教えやすくもなる。やはり経験は力となるのだ。そして生徒はより成長する。そしてその生徒の成長を見て負けてはいられないと教師側も発奮して己を磨く。この循環で、拓郎の学校の科学魔法レベルは短期間で大幅に伸びたのである。


 無論、他の学校が言う講師として動いてくれる魔人、魔女の存在は大きい。だが、そんな存在がいても肝心の教師、生徒側が怠け者であれば大した変化は起きない。こうまで変わったのは、生徒も教師もやる気があったからという所が一番正しいだろう。より良く、より強くなろうと行動できるからこそ、今があるのである。


「はい、そこまでです! お疲れさまでした」


 横で見ていたジェシカが訓練終了の合図を送り、言葉に従って拓郎もクレアも動きを止めた。そして拓郎がクレアに向かって一礼。それと同時に周囲からもため息をつくような音がいくつもした。直撃すれば即死しかねない魔法が無数に飛び交い、それをお互いが無力化していく緊張感あふれる訓練だったからこそ、終了したことによる解放感もまた強かった。


「レベル6って、やっぱりすげえな……」「そんな人の魔法をこうしてじっくり見られるってまずないよね」「俺も行きたいな……6は無理でもその一つ下の5まで行きたいって欲がやっぱり出てきた」「お前まだレベル2だろ? でも、この学校の環境なら行けなくもないって思えてくるよな」「実際レベル3の人がこの一年未満で一気に増えたもんね。行ける所まで行ってみたいって欲はやっぱり出てくるよ」


 そんな生徒達に対して、ジャックが軽く手を打って黙らせる。


「はい、そこまでです。向上心があるのは実に素晴らしい事ですし、我々としても君達が成長するためには応援、指導を頑張る事はお約束します。ですが、レベルだけに捕らわれるのは非常に危険です。先ほどの拓郎さんの訓練でも、普通のレベル6ではクレア先生のあの魔法を防ぐことはできません。では拓郎さんがなぜ防げるか、と言う事ですが」


 ここでいったん言葉を区切って、ジャックは生徒達を軽く見渡す。そして生徒達が聞く体勢に入った事を確認してから話を続ける。


「拓郎さんはしっかりと科学魔法に必要な要素を磨いているからにほかなりません。魔法の発動速度もそうですし、魔法の質を上げるための魔力の練りこみもそうです。当然安定性が無ければ魔法が暴発して自分が大けがを負う可能性がありますし、障壁には強度が無ければ容易く壊されてしまいます。レベルは大事ですが、これらの訓練をしていないとレベルだけのへっぽこ魔法使いになってしまうんですよ。実際、これが世の中では実に多い」


 ジャックに言葉に、なるほど、とかそうなんだ、みたいで相槌を打つかのように頷いたりしている生徒はかなり多い。その様子を見ながら、ジャック話を続ける。


「極端なたとえになりますが、そう言うレベルだけの魔法使いに拓郎さんをぶつけるとします。そうなると拓郎さんのレベル1の魔法に、レベルだけの魔法使いが全力で張ったレベル5の魔法障壁は耐えられません。まさに紙を錐で貫く感じでしょうか? それぐらいあっさりと抜かれてしまうでしょうね……」


 ジャックの容赦ないたとえに、生徒達からもそれは……と苦渋の表情を浮かべる者が多数出る。レベル差がそれだけあるのに、自分の事を護れないどころか意味をなさないってのはあんまりだろうと。


「なので、レベルも大事ですがそう言った科学魔法の基礎の方が実はかなり大事だったりします。レベルはついで、と考えてもいい位です。あ、ですがこの学校の皆様は大丈夫ですよ? ちゃんとそう言った基礎がふんだんに練りこまれた授業と訓練内容になっていますからね。ですが、それに甘んじず訓練はしっかりと積み重ねなければいけませんが」


 このジャックの言葉に、大勢の生徒が安堵の息を吐く。レベルだけのへっぽこ魔法使いには今の所なっていないと言う事を魔人であるジャックが保証してくれたからである。やはり魔人、魔女から魔法に関して認めてもらえるというのは安心感が違う。


「レベルを上げたいと君達の歳の頃は強く思うのは分かりますが、レベルだけだけに夢中になって基礎を疎かにはしてはいけないという念押しでした。実際、今レベル1や2の人で焦っている人は多いかと思いますが、並のレベル3や4の人であれば君達の方が強い。言うまでもなく、必要な基礎の訓練をちゃんとやっているからです。だから、レベルが上がらなくても落ち込まないでください。君達はこの数か月でちゃんと成長していますよ。魔人である私が保証します」


 ジャックの言葉に、生徒たちは皆「「「「「「はい!」」」」」」と元気良く返答を返した。繰り返すが、魔人や魔女が魔法で認めてくれるというのは大きい安心感があるのである。


「ですが、だからと言って無謀な事や悪事を働かないように。クレア先生からも聞いていると思いますが──そんな事を万が一すれば私達がどうするか、分かりますね?」


 ジャックの最後に口にした警告にも、生徒達は再び「「「「「「はい!」」」」」」としっかり返事を返していた。そして、この日の訓練は終了となった。



「まあ実際、この学校でアホな事をやろうって奴はいないよな」


 訓練が終わって昼休み、拓郎と一緒に食事を取っている雄一が口を開いた。


「そうよね、正直そんな事をしたらどんな結末を迎えるか……ホラーよりも恐ろしい事になりそうだし」


 と、この発言は珠美だ。ぶっちゃければホラーなんか鼻で笑えるぐらいの惨状にはなるのだが……そう言う馬鹿がこの学園には幸い今の所いないので、それを生徒が見る事も知る事もない。


「まあ、本当にやらんでくれよってのが正直なところだ。本気で何がどうなるか分からないからな……」


 そしてやや疲れた表情で口を開くのが拓郎だ。拓郎は……全てではないとはいえ他の生徒よりもクレア、そしてジェシカの実力を知っている。そんな2人が、遠慮なしお仕置きをするとなればどれだけトラウマとして残り続けて夜が眠れなくなるだけの状況が生み出されるか、なんて想像したくないものを想像してしまう。そしてその自分が行った想像なんて生温いものでしかない事もまた、拓郎は知っている。


「在学生は大丈夫だろ……ただ、来年が怖いな」「そうね、新入生がバカをやらかさないかはちょっとわからないもんね」


 と、雄一と珠美が自分の意見を口にする。この2人の予想が当たるか否かは、まだ当然ながら不明である……

湿気が多い暑さに、作者もまいっております。


今年もきついですよねぇ……しかもすでに災害も多いですし……

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