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41話

 そうして始まった2試合目だったが……結果はまたしても一発KOと言う結果になった。拓郎が狙ったのはまたしてもアゴ。今度は踏み込んでのショートアッパーのようにかち上げたのだ……洋一は全く対応できずにもろに食らい、そして崩れ落ちた。テンカウントなど必要ない……そう思わせるだけの決まり方だった。


 審判は即座に試合を停止。洋一への治療を要請した。治療班も文字通りに飛び出し、大慌てで洋一への治療を行った。拓郎の放ったショートアッパーは十分に加減されていたとはいえ、洋一の顎の骨にひびを入れてしまっていた。クレアとジェシカは拓郎にちょっとやりすぎ! と反省を促す視線を送っていた。


「洋一まで、一発……明美、見えた?」「こうして離れた場所で見ていたから……でも、あの感じだと洋一は何を喰らったかすら多分分かってないと思うわ。あの僅かに斜めに踏み込んで、相手の視界から一瞬消えるように見せながら間合いを詰めてアッパーを一発。もしあそこに立っていたのが私でも、同じように貰っていたと思うわ……」


 黒髪のショートヘアの翔峰学園の生徒、橘香澄の質問に、明美は自分の判断を香澄に伝えた。自分でも初見であったなら見切る事は出来ず、洋一のようにアッパーカットを喰らって崩れ落ちていた自分が見えたからである。明美の背中には、冷や汗が多数流れ落ちている。


「戦闘課じゃない、とは言っていたけれどどう考えても相当な訓練を受けているわ、彼。しかも、私達のコーチやOBよりもはるかに強い人からの……」「そうね、全く持って同意するわ。あの体捌き、動き、あれは相当しごかれてないとできないもの……でも、私だけ挑まないと言う訳にはいかないわ……行ってくる」


 明美の言葉に香澄はそう返答し、拓郎の元へと移動する。その合間に、拓郎はクレアから新しいお題を出されていた。それは3人目は魔法だけで勝ちなさいという物。格闘戦ありでは3人目も同じ結果にしかならないだろうと判断したクレアが、拓郎に制限をつける事にしたのだ。無論そんな事を、香澄が知るよしもないのだが。


 そして始まった3戦目。香澄は何としても格闘による一撃KOを避けるべく、精神を集中させて完全に防御態勢から入った。それを見た拓郎は、手の中で炸裂する氷の魔法弾を生成し香澄へと放つ。魔法が飛んできたことにより、香澄は当然防御魔法を展開し魔法に備える。が。


「く……!? 私の魔法防御の壁があっさりと砕かれた!」


 香澄の言葉通り、カム見の魔法防御の壁は拓郎が放った炸裂弾によってあっさりと瓦解し消失した。それでも大半の炸裂した弾丸は防げていたのだが残った一部の魔法が香澄に向かって飛んで来る。香澄はそれらをすべて手に展開した小型魔法壁によって受け流して対処した。だが、自分の魔法の壁を容易く破るだけの火力を持っている事を知った香澄は反撃に出る。


 地面を殴りつけ、そこから土魔法による地面上を走る亀裂を発生させる。それだけでなく亀裂の間には電撃が走っており、亀裂を飛び越えようとすれば亀裂の中を走っている電撃が急上昇して相手を捉える事でダメージを与え、受け止めようとすれば土の衝撃と電撃の両方をのダメージを受けると言った香澄の得意とする主力合成魔法の一つであった。


 これに対し拓郎は、半球型の魔法障壁を展開。地面を走ってくる土の軌道そのものを逸らす事で対処した。これを見た香澄は驚愕の表情を浮かべる。地面を這って進んでくる関係上その前進する軌道はしっかりとしており、宙を飛んでくる魔法と比べるとその軌道をそらすというのは難易度が高くなっている。それもあって、香澄の主力でもあったのだ。それをそらされた事は、香澄にとって衝撃的すぎた。


(そ、んな!? コーチにだって、多少逸らされるぐらいで命中させることはできたのに……それを完璧に、完全に逸らされた!? 彼は一体、どんな訓練を誰に受けたというの!?)


 その衝撃で、香澄の動きが一瞬だが明確に止まってしまった。それを拓郎が逃す理由はない。動きの泊まった香澄のやや上空に電撃を生成し、威力こそ弱いが落雷を落とす。これを香澄はもろに受けてしまった。全身が痺れ、立っていることが出来ずにダウンする香澄。すかさず審判がカウントを始める。


「ワン! ツー! スリー!」


 香澄はカウントされている声を聞き取る事は出来ているが、体の痺れが抜けておらず立ち上がることが出来ない。そのまま無情にもカウントは進み、結局香澄は立ち上がることが出来ずにテンカウントを取られて負けとなった。


「完敗ね」「ああ、完敗だ……結局俺達は、アイツに対して汗の一つも流させる事すら出来なかった。帰ったら報告した後にトレーニングのやり直しだ、それこそ1からな……」


 香澄の負ける姿を見て、明美のつぶやきに洋一も同意した。その後、3人は拓郎に対してお辞儀と戦闘課でないにもかかわらず相手をしてくれたことに対する感謝を伝えてから静かに立ち去って行った。そして3人が立ち去った後に拓郎が感じた物とは……


(動けた、実にいい感じに。今までの訓練がしっかりと血と肉になっている事が感じられる。あの3人の動きは決して遅くはない。でも、その動きがはっきりと見えた。流れを掴めた。そして狙い通りに狙った場所への一撃が入れられた。魔法の展開も早くなった、3人目の女性の僅かな硬直に叩き込めた……)


 有名な学園の戦闘課に属する生徒との戦いを経て、拓郎は少し自信をつけた。が、それが慢心に繋がる事はない。何せ上には上がいるとばかりに、全く超えられる気がしない魔女2人が自分のそばにいるのだから。


「はい、それでは訓練を再開しましょう。みんな配置について」「え!? あの先生、お言葉ですが拓郎は今さっき戦ったばかりですよ? 今日はもう休ませても……」「大丈夫、むしろ今は訓練をもっとしたい気分だから問題ないよ」


 クレアの言葉に、ある生徒が拓郎を気遣って異を唱えるが、拓郎は大丈夫だという意思を伝えた。拓郎が良いっていうなら、とその声をあげた生徒は意見を引っ込めたが、拓郎はその生徒に「ありがとう」と口にして感謝を伝えた。そこからは平常通りの訓練が再開され、そして時間が車で特に問題なく済んだ。


 その日のお昼休み、拓郎のそばには大勢のクラスメイトが集まっていた。言うまでもなく、翔峰学園の生徒と戦った感想を聞くためだ。


「じゃあ、弱い訳ではないと?」「もちろん。一瞬でも気を抜けば間違いなくこっちの体や頭部に拳が叩き込まれただろうね。あくまで今回はちゃんと見えたってだけ……それに戦闘課じゃない、と言う事が向こうの側にとってちょっとした油断に繋がったのかもしれない」


 特に翔峰学園の3人に関してどう感じたかと言う質問は多かった。強さ、早さなどを体感した拓郎の話を皆が聞きたがった。


「そうだよな、あくまで拓郎だから対処できたわけであって、俺だったら間違いなく何もできず負けてただろうしな。それにやっぱり戦闘課じゃないって点も、向こうが困惑した可能性はやっぱりあるよな」「あくまで横から見ていたから見えたって所は多かっただけだね。実際に相対したら、俺も一方的にやられるだけで終わりそう」


 そして話をしていくうちに大体上記2名のような感想でまとまった。決して彼らが弱かったのではなく、今回は拓郎がうまく対処できただけな上に戦闘課ではないから向こうも油断などが多少生まれていたのだろうと。その一方で帰った翔峰学園3名はコーチに全てを報告していた。


「そうか……まさかあの学園には戦闘課が無かったとは。これはこちらの手落ちだ、むしろお前達に済まなかったと言わなければならん。しかし、この男……なぜこれだけの腕を持ちながら戦闘課に進まないのだ? うちに来るとなれば、好待遇で迎えてもいい位だぞ」


 報告を聞き、戦闘時の映像も確認したコーチは拓郎に対してその力を大いに認めていた。なぜこれだけやれるのに戦闘課ではないのかと首を捻りつつ。


「なんにせよ、戦闘課が無いのに相手をしてもらった事に関しては感謝をせねばならんな……そして、この学校には2度と武者修行に向かわせるような事は出来ん、と言う事でもあるか……」


 コーチの心境としては、戦った拓郎には定期的にうちの生徒と戦ってもらいたいというのが本音であった。しかし、戦闘課がない学校にこれ以上行く訳にもいかない……無論けじめとして、戦闘課がないにもかかわらず生徒を送ってしまった点に関しては正式な謝罪をしなければならないが、それが終わってしまえば完全に縁は切れてしまう。


(それにしても惜しいな。何とか、彼とうちの生徒を再戦させる機会を作る方法はない物か……)


 報告に来た3名を解散させた後も、コーチはそればかりを考えていた。彼と戦えば、うちの生徒はもっと伸びるだろうという算段がある故に。

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