40話
当作品はフィクションです。
さて、それからまた少し時間が過ぎて。この日の拓郎が通っている学校には珍客がやってきていた。
「たのもう! この学校の戦闘課に在籍している生徒との勝負を申し込む!」
やってきた短髪黒髪の男性一人、黒髪のショートヘア、栗毛のセミロングの女性二人のうち、男性が大きな声を出して先ほどの宣言を学校の門の前で行っていた。時間帯はちょうど魔法の訓練時間に当たるタイミングであった。なお、補足させてもらうと……戦闘課とはレベル3までの魔法を取り入れた格闘技を行う事を主眼に置いた部署の事である。これは学校によってある、無しが分かれる。
この時代でもボクシングやプロレスを始めとした格闘技は存続しており、一定の人気を保っていた。だが、これらには魔法の使用を禁ずと言うルールが定められていた。それに不満を持った人たちが集まり、レベル3までの魔法に限定して使用を認める新しい格闘技を作り出した。どういうものかと言えば、多分対戦格闘のゲームをやった人なら想像がつくようなものが繰り広げられる。
俗にいう飛び道具を始めとした魔法無しでは不可能な動きなどを可能とした派手なその格闘技は、一定の人気を産み支持を得た。また賞金も多額であり、大人気のファイターならば一つの試合で数千万の収入を得る事も珍しくない。更に基本的なファイトマネーのほかに、試合を見ている人の評価も収入を左右し、魅せる戦いをする、圧倒的な強さを見せつけるなどのインパクトのある試合をすればよりファイトマネーが上積みされる。
そのため、門を叩く人は多いがレベル3魔法までのしっかりとした防御の魔法が扱えないと危険性が高い、狭き門であるという事実がある。しかしその門をくぐり、ファイターとしての人気が得れば一攫千金が可能であるという大人気な職業の一つとなっていた。この日、拓郎の学校にやってきた三名もそのファイターを目指す卵である。
「許可証を提示願えますか?」「こちらに」
とはいえ、そんなファイターの卵が武者修行と称してやたらめったら他の学校に押し入られてはかなわないと判断した政府は、彼等に試験を課してその試験を突破した生徒の身に許可を出す形にした。試験の内容は、相手に必要以上のダメージを与えないような手加減がきちんとできる事、防御の技術が一定水準である事があげられる。今回も学校の警備員が本物であることを確認する。
それらをクリアしたうえで、専用の医療班を同行させることでようやく許可が下りる。彼等もその許可を正式に得た人物なので、警備員たちも確認した後に敷地内への入場を許可する。そうして3人は、今拓郎達が訓練や座学などを行っている場に姿を見せた。
「失礼する、我々は翔峰学園の戦闘課に在籍している者だ。この学園は最近素晴らしい勢いで強さを磨き、レベルを上げていると聞いている。よって、お邪魔させてもらった。戦闘課に在籍している者達よ、我々との練習試合を受けて頂きたい!」
この言葉を聞いて、生徒達はざわめき始めた。無理もない、翔峰学園と言えば戦闘課に力を入れている事で有名なトップクラスの学校。そんな有名な所から、まさかこの学園にやってくる人物がいるとは思わなかったのだ。
「翔峰学園って、まじか?」「だが、あの訓練用の戦闘服は間違いなくあそこの学校だ。俺練習試合を見たことあるもん」「あの3人、すごく強そう。雰囲気からして私達とは違う」
そんな会話が生徒間で交わされているが、ここで3人の前に進み出たのはジャックであった。
「いや、すみませんね。まさか有名な学校からうちにやってくる人が現れるとは思いませんでしたので生徒達も混乱しているようです。さて、練習試合の申し込みとの事でしたが、申し訳ありませんがお受けできません。理由ですが、わが校には戦闘課が存在しておりませんので、貴方がたのお相手が出来る人物がいないと言う事になりますな」
ジャックの言葉に、翔峰学園からやってきた3人は驚きの表情を隠せなかった。全体レベルが急激に上昇しどの学校からもマークされているこの学校にまさか戦闘課が無いとは想定外も良いところであった。普通にやって不通に教えているだけの学校ならないのが当たり前だが、ここまで全体レベルが押し上げられているこの学校に、無いとは予想できなかったのだ。
「まさか、そんな事が。しかし、私達にあなたが嘘を言う理由もないですし、雰囲気からも嘘を言っている感じがしません……信じられません。頭角を見せてきたこの学校にまさか、無いなんて……」
と、翔峰学園のセミロングの女性生徒が3人の気持ちその物を代弁する発言を口にした。が。ここでもう一人の黒髪ショートヘアの女性生徒が訓練を再開した拓郎に目をつけてしまった。
「戦闘課がないのは事実なのでしょう。ですが……やはり人材はいるみたいですね。2人とも、あれを見て」
そこには、20人を同時に相手をして魔法の訓練に励む拓郎の姿があった。一瞬あっけにとられた2人だったが、その目が鋭いものに変わっていくのに時間はかからなかった。
「彼は?」「あー、彼は確かにわが校でも特に腕を上げた生徒の一人ですね。ですが、戦闘課ではありませんよ? 無理強いはしないでいただきたいですな」
ジャックがそう言ってやんわりと引き留めるが、戦ってみたい時気持ちが膨れ上がった3人の気持ちは変えられなかった。ジャックに対して、きちんと段階を踏んで試合を申し込み、断られたら素直に引くと条件を付けた上で彼らは前に進みだす。
訓練が終了し、20人の生徒が降りた後に商学学園の3人は拓郎の前に姿を現した。そして、栗毛のセミロングの女性生徒がさらに一歩前に進み出て拓郎に声をかける。
「始めまして、私達は翔峰学園より許可を得たうえで数々の学園の生徒と練習試合を通して交流を図っている者です。申し遅れましたが、私は立花 明美と申します。先ほど貴方様の訓練風景を見せて頂きましたが──とても素晴らしい。もしあなた様がよろしければ、一つ手合わせをお願いしたいのですが?」
拓郎も、戦闘課の存在や翔峰学園の存在は当然知っていた。そして当然ここでいう手合わせとは魔法を使った格闘技であることも正しく理解していた。ちらりと拓郎は師であるクレアとジェシカを見ると──やっちゃいなさい、大けがはさせない範疇でと言う事を伝える笑みで返された。
「分かりました、遠慮はるばるやってきて何もないでは流石にそちらの沽券にもかかわるでしょうし……戦闘課に属している訳ではありませんが、その申し出をお受けいたします」
拓郎の返事に、明美は笑顔で頷いた。無論、その笑みは肉食獣のそれに属するものであったが。翔峰学園側から戦闘服を借り受けた拓郎は着替え、そして明美と向き合う形となった。当然他の生徒達はそれを周囲から観戦する形となる。
「では、私が審判を務めさせていただきます。科学魔法はレベル3まで、ダウンした相手に対しての追い打ち禁止、3分間の戦闘を4回繰り返し、双方ダウンしなかった場合は引き分けとします。ダウンして10カウント以内に起き上がれなければ負け、よろしいですね?」
審判の言葉に、拓郎と明美は頷いた。双方の合意をもって、練習試合は始まった──そして約一分後、明美は地面に倒れていた。審判の10カウントが行われている。
「明美が……こうもあっさりと!?」「なにが戦闘課じゃない、だ! 明美をこうも容易くダウンさせる奴が、戦闘課じゃなかったらなんなんだ!?」
拓郎と明美が向かい合い、戦いが始まった後……明美は幾つもの属性弾を拓郎に放った。が、拓郎はそれらをすべてを容易く無力化。遠距離戦では分が悪いと考えた明美は距離を一気に詰め、打撃戦へと移行したのだが……残念ながらその格闘速度は、クレアとジェシカの訓練で目が肥えている拓郎からしてみればあまりにも遅かった。
なので数回の攻撃を受け流した後に、拓郎は明美の顎を狙って軽く拳を叩き込んだ。これによって明美の脳は激しく揺さぶられて脳震盪を起こした。そうして立っていられなくなった明美はあっさりとダウン。カウントが進む中必死で立ち上がろうとしているが、無情にも10カウントが過ぎて明美の負けが決まる。結局拓郎は一発のパンチだけで勝ってしまった事となる。
医療班が素早く明美の治療に当たる。脳震盪は頭部にダメージを与えている可能性があるので、しっかりとした回復魔法による治療が行われる。その治療を見て、拓郎はレベル7か8の回復魔法の使い手かな、とあたりをつけた。
「すまない、流石にこれで帰ったらコーチにどやされる。なので申し訳ないがもう一戦お願いしたい、次は俺、七瀬 洋一が相手を務めさせてもらいたい。如何か?」
その光景を見ていた翔峰学園3人の中で唯一の男子生徒が名乗りを上げ、拓郎の前に立った。この申し出を拓郎は受け、試合の準備が始められる。一方で先ほどの戦いの決着を見た生徒達はどよめきが走りっぱなしとなっている。
「一発で、決めちゃったぞ……」「と言うか、パンチだよな? ほとんど見えなかった」「アコに一発撃ち込んだ。でも、早かったから自分も見えたのはたまたまだが」「それで脳震盪を起こしたんだろうね、ダウンして立てなかったし」「あんな訓練をしているだけの力はあるって、改めて見せつけられちまったな」
こんな感じの会話が行われている。一方で負けた明美は先ほどの試合のリプレイを確認していた。もちろん脳震盪はすでに収まっている。
「狙いすました一撃……完全に私のパンチが見切られてる。そして的確に私の顎を左のストレートで捕らえている……有名な学校の戦闘課に属している人にもここまで見事なパンチは受けた事が無い……彼は一体?」
まさか対戦した人物が、魔女二人にスパルタ特訓を受けているなどと想像もできない彼女にとってこの負け方は色々と納得できない感情と理解できない感情を生み出した。そんな彼女の前で、第2試合目が始まろうとしていた。
繰り返します、当作品はフィクションでございます。
現実に同じ名前、かつ同じ名前の学校があったとしても一切関係ございません。
ご理解の程、よろしくお願いいたします。




