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39話

 警察官の一件があって以降、ますます拓郎と魔法の訓練をしたいという生徒の数は増える一方だった。しかし拓郎は一人しかいないので、どうしても全員の願いを叶えるわけにはいかない。すでに同時に相手をする生徒数は20人になっているのだが、とてもじゃないが消化しきれないという状態が生まれている。


 無論、クレアを始めとした魔人、魔女ならば拓郎と同じ……いや上位互換な事は出来る。しかしそうなると今度は座学の手が足りなくなる。座学も当然重要な事を教えているため、こちらの手が足りなくなると問題が多発する事になる。学校の教師ももちろんクレアたちを通じて魔法に関する知識を蓄え直しているのだが、いかんせんまだまだ足りていない所が多いのは仕方がない事だろう。


 そんな自転車操業みたいな状態ではあるが、生徒達の科学魔法における知識や腕はぐんぐん上昇する一方である。3年生の中には諦めていたレベル3へ到達できた人も現れはじめ、到達できた人は涙を流して喜んでいた。時はすでに冷たい風が吹くようになった11月……その受験を間近に控えたこのタイミングで、進学するにせよ就職するにせよ重要視される科学魔法のレベルが3に上がる事は、彼等にとって明るい未来への切符を得た事に他ならない。


 特に上がったのが座学をキチンをこなした上で拓郎とよく相手をしていた人物達に集中していたこともあり、この追い込みに全てを賭けて拓郎との訓練を熱望する3年生の数は増える一方だった。能力的に応募する事に満たない3年生は必至で座学に励み、応募する能力に届くように励み続けた。


 一方で、1年生と2年生は遠慮しろと言う空気も生み出されてきてしまっていた。が、拓郎と訓練をしたいと要望を出す1年生や2年生も当然多かったため、これは3年生の我が儘でしかないと反論が当然のように発生。1、2年生と3年生の間で、休息に険悪な空気が漂うようになってしまっている。


 ただ、それでも直接的な問題が起きないのはクレアたちの影響が大きい。何せ──万が一、魔法でお馬鹿な事をした場合死ぬより辛い罰を与えた上で今後一切何も教えないようにしますと言うクレアの言葉に込められていた殺気は、気絶者が多数出たほどなのだから。夏休み前の校長先生の長ったらしい話で貧血や熱中症にやられるよりも恐ろしい。


 なので、クレア先生に迷惑をかけちゃいけない、それに該当する事はやってはいけないと言う事を、生徒達は頭ではなく生存本能で理解した。理解させられた、と言うべきかもしれない……なので、生徒同士の喧嘩などが発生するような事にはなっていない。そちらはそれで良いのだが……



「つ、疲れた。流石に疲れたな……」「たっくんお疲れ。ますます人気者だねぇ」


 11月の半ば、学校から帰ってきた拓郎は、居間においてあるクッションに腰掛けながらぼやいていた。それを、同じく居間にいたクレアがぼやきに反応した。拓郎がそうぼやくのも無理はない、学年に関係なく話しかけられて魔法に関連する質問や訓練で気をつけるべき部分に対する疑問などがひっきりなしに飛んでくるのだから。


 お陰で授業中の方が体が休まる始末、お昼休みなんて周囲に人が集まってくるのはもはや日常となってしまっていた。流石にこれでは、どんな人でも疲れない訳が無いだろう。とはいっても、特に3年生は残り少ない時間で藁にも縋る気持ちで拓郎の所に来ているのは明白であり、無下に扱う訳にもいかないというのが正直な所であった。


(俺が切っ掛けで、1、2年生と3年生の溝をこれ以上大きくするわけにもいかないもんなぁ)


 拓郎はそう考え、できる限り質問などには答えている。そのうえで、無理をしている人には回復魔法を使って治癒した後、やり過ぎていてかえって意味がない部分を指摘し、レベルダウン現象が起きないように指導するという医者のような行為までしている。なので余計疲労がたまるのだ……魔法の訓練にはなっているのだが。


「教師の皆さんにも魔法に関する知識は広めているのですが……まだまだな所が多いのは仕方がないのでしょうね。私達が指導するようになってから日も浅いですし──それを考えれば、むしろよく勉強している方だと言ってもいい位ですか。ですが、私達抜きで今の生徒の皆さんの質問に応えられるようになるには、あと最低でも1年半はかかりそうですね」


 とジェシカ。彼女の見立てではそんな感じなのだろう。流石にそちらの方面は拓郎は全く分からないので、彼女の言葉を信じるほかない。


「そうなると、まだまだこの状況は続くって事かぁ……」「それは避けられないでしょうね……ですが拓郎さん、いい訓練が出来ている時期であると考えて良いですよ。この調子で行ければ……今年が終わる前に、レベル7に手が届くかもしれませんし」


 拓郎の言葉に、ジェシカがレベル7と言う言葉を持ち出して励ます。が、このジェシカの言葉は決して拓郎を励ますためだけに出た言葉ではない。実際上手く行けばと言う前提がつくが──拓郎の年内レベル7はすでに射程範囲内に入ってきていた。レベル7ともなれば、回復魔法にはさらに磨きがかかり、多くの命をより効率的、効果的に救うことが出来るようになるだろう。


「でも、無理してレベルダウンしたら意味が無いからなぁ。焦って勝手な訓練はしないようにしないとな」「うん、たっくんは分かってるね。夏休みの後半の一件、ちゃんと覚えていてくれたね」


 拓郎の言葉に、クレアがうんうんと頷いていた。無理な訓練をすればどうなるか──それを、拓郎はクラスメイトのレベルゼロ事件で知っている。だからこそ変に焦ってクレアやジェシカに隠れての秘密特訓などは絶対にやらない。ここまで来てもし勝手な訓練が原因のレベルゼロなんて状況を引き起こしたら、悔やんでももう遅い。


「訓練関係はそれでいいとして……他にも問題が起きているんだよなぁ。自分みたいに他の学校の生徒にあれこれちょっかいを出されたって話は、いやでも上がってきているのがどうしてもな」


 と、拓郎は話を切り替えた。それは、先日の拓郎ほどではないにしろ、同じ学校の生徒の一部が他の学校の生徒にあれこれ嫌がらせをされることが増えてきたというこれまたよろしくないニュースであった。


「すでに警察にも言っているし、パトロールもしてくれているんだけどね……カバーしきれない所がどうしても出ちゃうんだよね。暫く制服ではなく私服登校にしてはどうか? と言う話も職員会議で上がってきているよ」


 拓郎の話に、クレアが教職員側の対応を拓郎に伝える。警察側も、先の拓郎の一件があったため素早く動いてくれたのだが、それでも流石に全てを見られるわけではないのでどうしても取りこぼしが出てしまう。それでもかなり抑止力としての仕事はしてくれてはいるのだが。


「こちらからは魔法による攻撃は厳禁、防御のみなら使っていいとは言っていますが……何とかしないと心配ですよね。こちらがどんな対策を取ったとしてもそれを不満としてとんでもない行動に出る人はいますから……そうなる前に沈静化して欲しいのですが」


 ジェシカも心配そうに言葉を発した。現に拓郎は攻撃性の高い魔法による攻撃を受けたのだ。そんな事をする連中は他にもいると考えるのが自然であり、そんな連中に目を付けられたら面倒なことこの上ない。さらに面倒なのは、その手の連中はこちらをすでにロックオンしているのは間違い無いと言える今の状況だ。


「流石にそこまで行くと警察の皆さんの領域だからなぁ。こちらが変に手を出して引っ掻き回したら迷惑をかけるだけか……気持ちは分からなくもないけどさ、だからってこちらに攻撃を仕掛けてくるのは止めて欲しいよなぁ」


 拓郎の言葉に、クレアとジェシカは頷き……更に、クレアとジェシカは別の意味でも頷きあっていた。


(ヤッチャウ?)(OKです、姉さん)


 そしてこの日以降、拓郎が寝静まってから1時間ほど毎日クレアとジェシカは夜の街に出かけるようになった。そこで何をしているのかは……説明の必要はないだろう。1週間もすると拓郎の学校の生徒が徐々に襲われなくなっていったという事実だけがあれば。

ジメジメと暑い!


お陰であまり筆が進みませんでした……

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